アクション映画

『トゥルー・ロマンス』この映画を見て!

第311回『トゥルー・ロマンス』
Photo_3  今回紹介する作品はクエンティン・タランティーノ脚本、トニー・スコット監督によるバイオレンスアクション映画の傑作『トゥルー・ロマンス』です。
 本作品は脇役が大変豪華で、デニス・ホッパー、ヴァル・キルマー、ゲイリー・オールドマン、ブラッド・ピット、クリストファー・ウォーケン、サミュエル・L・ジャクソンと錚々たる顔ぶれが出演しています。

ストーリー:「ビデオショップに働く映画オタクの青年クラレンスは、誕生日に店長が紹介したコールガール・アラバマと出会う。互いに一目ぼれした二人は即座に結婚。アバラマは元ヒモの男に会いに行き殺されかけるが逆に男を殺害。逃げる際に衣装ケースと思って奪ってきたカバンには大量のコカインが入っていた。」

 私は高校生のときに本作品を劇場で見たのですが、激しいバイオレンス描写と純度100パーセントのラブストーリーとの絶妙なブレンドが大変印象に残りました。
 特に私が印象に残ったシーンはデニス・ホッパー演ずる主人公の父とクリストファー・ウォーケン演ずる主人公を追うギャングが対峙するシーン。短いシーンではありますが、2人の会話は緊張感が漲っており見ていて手に汗握ります。
 他にもゲイリー・オールドマンの常軌を逸した演技やダメ男を嬉しそうに演じるブラッド・ピット、ヒロインがぼこぼこに拷問されながら反撃するシーンなど見所は随所にあります。

 本作品はタランティーノの初脚本だそうで、彼の趣味嗜好や恋愛に対する妄想が詰め込まれた内容となっています。ストーリー展開は特にひねりもなく王道の展開ですが、タランティーノだけあって随所に過激な暴力シーンがあり、登場人物の台詞や言い回しも独特で印象に残ります。

 トニー・スコット監督の演出もテンポ良くタランティーノの脚本の持つ魅力を引き出すことに成功していると思います。タランティーノ自身が監督していたら良くも悪くも更に濃い作品になっていたと思うのですが、ハリウッドの職人気質の監督であるトニー・スコットが手がけたことにより万人受けしやすいテイストになったと思います。  

 ラストはタランティーノの脚本では主人公の2人は死ぬ予定だったそうですが、監督が2人をどうしても生き残らせたいと熱望してハッピーエンドに変更したそうです。ここは賛否両論分かれるところだと思いますが、個人的にはハッピーエンドになって良かったかなと思います。

上映時間 121分
製作国    アメリカ
製作年度 1993年
監督:トニー・スコット   
脚本:クエンティン・タランティーノ   
撮影:ジェフリー・L・キンボール   
音楽:ハンス・ジマー   
出演:クリスチャン・スレイター   
   パトリシア・アークエット   
   デニス・ホッパー   
   ヴァル・キルマー   
   ゲイリー・オールドマン   
   ブラッド・ピット   
   クリストファー・ウォーケン   
   サミュエル・L・ジャクソン   
   マイケル・ラパポート   
   ブロンソン・ピンチョット   

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『アンストッパブル』この映画を見て!

第310回『アンストッパブル』
Photo_2  今回紹介する作品はアメリカで実際に起きた貨物列車の暴走事故をもとに製作されたパニックアクション映画『アンストッパブル』です。
 トニー・スコット監督とデンゼル・ワシントンが『サブウェイ123 激突』に続いてタッグを組み、『スタートレック』で主演を務めたクリス・パインも参加。 暴走した列車を如何に止めるかにのみ焦点を当てた直球勝負の作品に仕上げています。

ストーリー:「ペンシルベニア州にある操車場で39両編成の貨物列車777号が運転士のミスによって無人のまま暴走を始めた。この列車には危険な化学物質とディーゼル燃料を積んでおり、暴走を止めなければ1時間40分後に人口密集地帯で脱線転覆する事態に陥る。鉄道会社は様々な手を使って列車を止めようとするが失敗。そんな中、貨物列車1206号を運転した勤続28年のベテラン機関士フランクと職務経験4ヶ月の新米車掌ウィルが777号を止めるべく立ち上がる。」

 年末年始ということもあり数多くの大作や話題作が公開されていますが、個人的には一番面白い作品でした。今どき珍しいくらいシンプルかつテンポの良いパニックアクション映画です。実話でもあり結末は列車が止まるのは分かっているにも関わらず、見せ方が上手いこともあり、最後まで手に汗握って見ることができました。

 本作品は始まって15分も経たない内に列車が暴走。その後は暴走する列車の脅威と何とか列車を止めようとする主人公たちの奮闘が描かれます。
 主人公2人の私生活のドラマも時折描かれますが、無駄に長くなく映画の程良いアクセントになっています。
 暴走する列車の描き方も重量感があり、全てのものを蹴散らし突っ走る姿は巨大なモンスターのようで迫力満点です。

 ここ最近パニック映画はスケールが大きい割りにストーリーが大味でイマイチなものが多かったのですが、本作品は小粒ながら満足感が高いです。

上映時間 99分
製作国    アメリカ
製作年度 2010年
監督:トニー・スコット   
脚本:マーク・ボンバック   
撮影:ベン・セレシン   
プロダクションデザイン:クリス・シーガーズ   
衣装デザイン:ペニー・ローズ   
編集:クリス・レベンゾン   
   ロバート・ダフィ   
音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ   
出演:    デンゼル・ワシントン   
    クリス・パイン   
    ロザリオ・ドーソン   
    イーサン・サプリー   
    ケヴィン・ダン   
    ケヴィン・コリガン   
    ケヴィン・チャップマン   
    リュー・テンプル   
    T・J・ミラー   
    ジェシー・シュラム   
    デヴィッド・ウォーショフスキー   
    アンディ・アンバーガー   
    エリザベス・マシス   
    ディラン・ブルース

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『バトル・ロワイアル』この映画を見て!

第308回『バトル・ロワイアル』
Photo  今回紹介する作品は中学生同士が殺しあうという過激なストーリーが話題になったバイオレンスアクション映画『バトル・ロワイアル』です。
 公開にあたって青少年への悪影響を与えるのではと国会でも議論になり、15歳未満は劇場で鑑賞できないR15指定となったこともマスコミで大きく取り上げられました。

ストーリー:「不況によるによる失業者たちの増加や多発する少年犯罪で荒廃した近未来の日本。
大人たちが自信を取り戻すために新世紀教育改革法・通称(BR法)が可決。その法律の内容は全国の中学3年生の中から無作為に選ばれた1クラスを最後の1人になるまで殺し合わせるという残酷なものだった。
 そして、城岩学園中学校3年B組が今回選ばれ、生徒42人が無人島に拉致され、最後の一人になるまで3日間殺しあうことになる。」

 私は公開当時に劇場まで見に行ったのですが、ストーリーや演出は突っ込みどころもありますが、テンポの良さと派手なアクションは見応えがあり、最後まで楽しんで鑑賞できました。

 本作品は深作欣二監督の実質的な遺作ですが、監督当時すでに70歳と高齢ながら演出はとてもエネルギッシュでケレン味があります。私が一番印象に残ったエピソードは灯台での殺し合いのシーン。仲の良かった友達同士が一人の死をきっかけに疑心暗鬼になり全員死んでいく様は見ていて非常に哀しかったです。
 本作品は残酷な殺し合いの中に中学生たちの青春模様や深作監督の閉塞社会で生きる若者たちへの熱いメッセージが込められていて、後味はとても爽やかです。
 ただ、所々リアリティにかけていて興ざめだったり、台詞や演出が臭すぎて見ていて恥ずかしくなる場面がいくつかありました。 

 役者の演技も主役である藤原竜也や前田亜季よりも、脇役の栗山千明や柴咲コウそして安藤政信の方がインパクトがありました。主役の2人は必死に逃げ惑うだけですが、脇役たちは己のために積極的に闘おうとするので、見ていてギラギラしていて痛快です。
 あと、学校の教師役を演じた北野武の演技も他の役者を圧倒する存在感があり、本作品の完成度を上げています。

 翌年に追加シーンを入れた特別篇も公開されています。クラスメートがバスケットをしているシーンや柴崎コウ演ずる光子の小さい頃のおぞましいエピソードなどが追加されています。光子のエピソードはよかったのですが、ラストにダラダラ続く追加カットは蛇足だったような気がします。

 本作品は賛否両論ありますが、バイオレンス青春映画として見るとなかなか面白いです。

上映時間 114分
製作国    日本
製作年度 2000年
監督:深作欣二   
原作:高見広春『バトル・ロワイアル』(太田出版刊)
脚本: 深作健太   
撮影:柳島克己   
美術:部谷京子   
編集:阿部浩英   
音楽:天野正道   
録音:安藤邦男   
出演:   藤原竜也   
    前田亜季   
    山本太郎   
    栗山千明   
    塚本高史   
    高岡蒼佑   
    石川絵里   
    神谷涼   
    柴咲コウ   
    安藤政信   
    日下慎   
    松沢蓮   
    宮村優子   
    美波   
    山村美智子   
    谷口高史   
    深浦加奈子   
    岩村愛   
    竜川剛   
    中井出健   
    ビートたけし   
     前田愛   

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『大地震』映画鑑賞日記

Photo 1970年代にハリウッドでブームになったパニック映画の代表的作品の一つである『大地震』。公開当時は地震を疑似体験するために開発された音響効果「センサラウンド」が大変話題になりました。また、出演者もチャールトン・ヘストン、エヴァ・ガードナー、ジョージ・ケネディと豪華な顔ぶれです。
 私はパニック映画が昔から好きでよく見ていて、本作品も小学校の頃に見たのですが、『ポセイドン・アドベンチャー』や『タワーリング・インフェルノ』と比べると印象が薄いです。

 最近久しぶりにDVDを借りて見返したのですが、今見ても地震のシーンはそれなりに迫力がありました。まだ、CGもない時代にミニチュアやセットや合成技術を駆使して、地震やダムの決壊による洪水で市街地が崩壊する様を克明に描こうとしています。

 ただ、肝心のストーリーがイマイチでした。脚本は『ゴッドファーザー』の原作者のマリオ・プーゾが手がけているのですが、主人公と妻と愛人との間で繰り広げられるメロドラマのパートがチープな上に退屈です。
 個人的にはメインのストーリーよりも州兵が混乱のの中で嫌いな人間を射殺したり、好きな女性を襲おうとするシーンの方がインパクトがありました。
 本作品は高層ビルや船という限定された空間でなく、街全体と舞台が大きくなったために、ストーリーも拡散してしまい登場人物たちへの感情移入しにくかったです。

上映時間 122分
製作国    アメリカ
製作年度 1974年
監督:マーク・ロブソン   
脚本:マリオ・プーゾ   
    ジョージ・フォックス   
撮影:フィリップ・H・ラスロップ   
特殊効果:アルバート・ホイットロック   
音楽:ジョン・ウィリアムズ   
出演:チャールトン・ヘストン   
      エヴァ・ガードナー   
      ジュヌヴィエーヴ・ビジョルド   
      ジョージ・ケネディ   
      リチャード・ラウンドトゥリー   
      ローン・グリーン   
      バリー・サリヴァン   
      マージョー・ゴートナー   
      ロイド・ノーラン   
      ヴィクトリア・プリンシパル   
      モニカ・ルイス   
      ペドロ・アルメンダリス・Jr   
      タイガー・ウィリアムズ

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『ポルノ時代劇 忘八武士道』この映画を見て!

第307回『ポルノ時代劇 忘八武士道』
Photo  今回紹介する作品は小池一雄・小島剛夕の同名原作をを日本映画の鬼才・石井輝男監督が完全映画化した『ポルノ時代劇 忘八武士道』です。

ストーリー:「“人斬り死能"と恐れられている明日死能は役人に追われていたが、吉原遊廓の忘八者に命を助けられる。“忘八者"とは、「孝、悌、忠、信、礼、義、廉、恥」を全て捨てた無法者で、人にして人に非ず、人たる姿を忘れた鬼畜外道の集りであった。明日は忘八者の仲間入りを勧められる。吉原の総名主・大門四郎兵衛に気に入れられた明日は客分として扱われる。
 この頃の江戸は湯女や茶屋女などの幕府非公認の性風俗が流行し、幕府の公認を受けている吉原は経営を圧迫されていた。それらをつぶす機会を狙っていた大門は明日を利用して湯女や茶屋女を潰す行動に出るのだが・・・」

 本作品は35年以上前の作品でありますが、今見ても強烈なインパクトがあります。長髪の丹波哲郎の切れのある殺陣、次々と登場する全裸の女性、そして激しく噴出す血と飛んでいく首や腕。エログロ・バイオレンスのオンパレードで一瞬たりとも目が離せません。

 ストーリーは荒唐無稽ではありますが、吉原などのセットは凝っていますし、江戸時代の性風俗の丁寧に描写していますし、時代劇に欠かせない立ち回りは迫力満点ですし、見ていて飽きません。
 登場する役者の演技やメイクも大変濃く、小池監督の演出もサイケでケレン味に溢れており、見る者を独特の世界に引きずり込んでくれます。

 私が一番印象に残ったシーンは主人公を助けるための女性たちが着物を着て火の中に飛び込み転げまわって消火活動をして、鎮火後に火照った体を冷やすために着物を脱いで素っ裸で水浴びをするところです。そのぶっ飛んだ演出とサービス満点の映像に見ていてお腹がいっぱいになります。

 また、『ウルトラセブン』のアンヌ隊員役で人気のある女優・ひし美ゆり子が惜しげもなく裸体を披露しており、ストーリーとは無関係な白人女性に対する拷問シーンを迫力満点に演じています。

 ラストのアヘンで意識が朦朧とした主人公が雪の降る中で彼を捕らえようとする幕府の人間たちを斬りまくるシーンは日本映画史に残るほどスプラッターな立ち回りが繰り広げられます。血が飛び、腕や首が水平に飛んでいく演出は残酷さを超えたカタルシスがあります。

 本作品はR18指定であり、18歳以下の方は見られませんが、カルト映画好きなら一度は見て損はないと思います。

上映時間 81分
製作国    日本
製作年度 1973年
監督:    石井輝男   
原作:    小島剛夕   
    小池一雄   
脚本:    佐治乾   
撮影:    鈴木重平   
美術:    吉村晟   
編集:    市田勇   
音楽:    鏑木創   
出演:    丹波哲郎   
    伊吹吾郎   
    遠藤辰雄   
    内田良平   
    久野四郎   
    深江章喜   
    ひし美ゆり子   
    相川圭子   
    池島ルリ子   
    一の瀬レナ   
    佐藤京一   
    原田君事   
    小林千枝   
    北川マキ   
    笹木俊志   

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『SPACE BATTLESHIP ヤマト』映画鑑賞日記

Space_battleship  日本アニメの名作「宇宙戦艦ヤマト」を実写映画化した『SPACE BATTLESHIP ヤマト』。監督にVFXでは定評のある「ALWAYS 三丁目の夕日」の山崎貴、主題歌にスティーヴン・タイラー、そして主演にSMAPの木村拓哉という豪華スタッフ・キャストで製作された本作品。私は公開前から壮大かつ長大な物語をどう実写化して映画としてまとめるのか非常に興味がありました。今まで日本のアニメを実写化して成功した作品はほとんどないと言っても過言ではない中、今回の『ヤマト』も失敗に終わるのではと見るまで思っていました。実際、私の周りでも別に劇場で見なくても良いかなと言う意見が大半でした。
 ただ、邦画が本格的なSF映画を手がけたということもあり出来が気になって、先週の土曜日に劇場まで足を運んで見てきました。
 感想としては脚本とキムタクの演技はイマイチでしたが、映像に関しては予算の少ない邦画にしてはなかなかの完成度だったと思います。(ただ、映像もハリウッド映画に比べるとリアリティ度はどうしても下がりますが。)

 ストーリーは基本は「宇宙戦艦ヤマト劇場版」で、クライマックスは「さらば宇宙戦艦ヤマト」のエピソードを強引に足した感じです。長大な物語を2時間ちょっとにいろいろなエピソードを詰め込み強引にまとめていることもあり、登場人物たちのドラマが表面的なものになってしまっています。その為、後半の登場人物たちが次々死んでいくシーンもいまいち胸に迫ってくるものがありません。
反面、古代と森雪のベタな恋愛模様がダラダラと描かれ、地球の存亡という緊張感溢れるはずのストーリーが弛緩しています。
 また、船内での主人公たちが交わす会話は見ている側が恥ずかしくなるほどチープで古臭いです。

 古代を演ずるキムタクの演技は普段テレビドラマで見せるいつもの演技と変わらず、本作品にはあっていないような気がしました。

 演出に関してはハリウッドのSF映画を彷彿させるシーンが数多く、もう少しオリジナリティを出した方が良かったのではと思いました。ラストにスティーヴン・タイラーの主題歌がかかるのも『アルマゲドン』のパクリっぽくて嫌でした。
 また、ヤマト艦内や荒廃した地球のセットもこじんまりとしてとしてリアリティにかけていたような気がします。もう少しお金をかけてセットを作りこんで欲しかったです。
 あと、地球を離れて、14万8千光年という長い旅をしているにも関わらず、その時間経過や苦労があまり描かれていないため、感動が薄れてしまっているような気がしました。

 いろいろ不満ばかり書きましたが、日本のSF映画としてはかなり頑張っていると思います。個人的に良いと思った点は宮川奏さんの有名なBGMがかかるカットとアナライザーの予想外の活躍。この2つに関しては燃えました。

上映時間 138分
製作国    日本
製作年度 2010年
監督:山崎貴   
原作:西崎義展   
脚本:佐藤嗣麻子   
撮影:柴崎幸三   
美術:上條安里   
編集:宮島竜治   
音楽:佐藤直紀   
音響効果:柴崎憲治   
主題歌:スティーヴン・タイラー『LOVE LIVES』
VFX:山崎貴   
照明:吉角荘介   
出演:    木村拓哉
    黒木メイサ   
    柳葉敏郎   
    緒形直人   
    西田敏行   
    高島礼子   
    堤真一   
    橋爪功   
    池内博之   
    マイコ   
    矢柴俊博   
    波岡一喜   
    三浦貴大   
    斎藤工   
    山崎努

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『十三人の刺客』(1963年版)この映画を見て!

第306回『十三人の刺客』(1963年版)
1963  今回紹介する作品は三池崇史監督によってリメイクされ現在公開中の『十三人の刺客』のオリジナル版です。
 東映の時代劇に集団抗争時代劇というジャンルを確立させた作品であり、それまでの勧善懲悪の時代劇から脱却してリアリズムを重視した作風となっています。

 私は三池監督のリメイク版を見た後にオリジナル版をDVDで見たのですが、役者の演技という点ではオリジナル版の方が圧倒的な勝ちでした。特に片岡千恵蔵の凛とした佇まいは見ていて惚れ惚れします。また、脇を固める嵐寛寿郎や月形龍之介もさすが当時の時代劇の大スターだけあって演技に貫禄があります。
 ただ、アクションシーンの派手さと悪役のインパクトという点ではリメイク版の方が個人的には勝っていたと思います。

 ストーリーは将軍の弟で明石藩主である暴君を抹殺するべく、十三人の刺客の宿場町で明石藩の侍たちと死闘を繰り広げるという単純明快なものです。
 映画の前半はアクションシーンはほとんどないにも関わらず、暴君の極悪非道さや敵味方の駆け引きが緊張感たっぷりに描かれており、見る者を画面に釘付けにします。
 そして、後半の30分以上続く、混沌とした戦闘シーン。敵味方それぞれ己の役目を果たそうとぶつかり合う姿は大変迫力があります。また、敵味方いつ斬られるか分からない恐怖の中で必死に戦いながらも倒れていく姿は見ていて爽快さよりも悲壮感が強いです。特に剣豪役の西村晃の無様な死に方は強烈なインパクトがありました。

 本作品は『七人の侍』と比較されがちですが、個人的にはサム・ペキンパー監督の『ワイルドバンチ』に近い印象を持ちました。己を信じて捨て身で戦う男たちのカッコ良さと空しさが非常に印象に残る作品です。 

上映時間 125分
製作国    日本
製作年度 1963年
監督:工藤栄一   
脚本:池上金男   
撮影:鈴木重平   
美術:井川徳道   
編集:宮本信太郎   
音楽:伊福部昭   
出演:片岡千恵蔵   
   里見浩太郎   
   内田良平
   西村晃   
   丹波哲郎   
   嵐寛寿郎   
   月形龍之介   
   丘さとみ   
   三島ゆり子   
   藤純子   
   河原崎長一郎   
   水島道太郎   
   加賀邦男   
   沢村精四郎   
   阿部九州男   
   山城新伍   
   原田甲子郎   
   春日俊二   
   明石潮   
   片岡栄二郎   
   北龍二   
   香川良介   
   菅貫太郎   
   和崎俊哉   
   水野浩   
   小田部通麿   
   堀正夫   
   高松錦之助   
   汐路章   

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『十三人の刺客』(2010年版)この映画を観て!

第303回『十三人の刺客』(2010年版)
Photo  今回紹介する作品は1963年に工藤栄一監督が片岡千恵蔵を主演に製作した傑作時代劇を『ヤッターマン』の三池崇史監督が豪華キャストでリメイクした『十三人の刺客』です。

ストーリー:「時は江戸時代末期、明石藩江戸家老間宮図書が将軍・家慶の弟で明石藩主・松平斉韶の暴君ぶりを訴え自決する。松平斉韶は老中への就任も決まっている男だが、その極悪非道かつ無慈悲な振る舞いは目に余るものがあった。幕府の存亡に危機感を募らせる老中の土井利位は御目付役の島田新左衛門に斉韶の暗殺命令を下す。松平斉韶の極悪非道ぶりに怒り心頭の島田新左衛門は暗殺のための計画を練る。そして、腕に覚えある侍たちを集め、参勤交代で帰る途中の斉韶一行を中山道の落合宿で討つ作戦を立てる。」

 日本ホラー映画の傑作『オーディション』の脚本家・天願大介と監督・三池崇史がコンビを組んだ作品ということもあり劇場に足を運んで鑑賞しました。前半は松平斉韶のこれでもかという極悪非道ぶりに、後半は13人対200人の激しい立ち回りに目が釘付けになり、2時間半近い上映時間があっという間でした。ここまで派手で面白い時代劇は久しくなかったので大変満足しました。

 まず、私が度肝を抜いたのは稲垣吾郎演ずる暴君の常軌を逸した振る舞いの数々です。子どもを矢で射殺すわ、娘の両腕両足を切断するわの鬼畜ぶりで、近年の邦画で一番インパクトのある悪役だといっても過言でありません。前半で敵の非道さをしっかり見せつけることで、主人公たちの暗殺作戦に観客も感情移入することができたと思います。

 また、十三人の刺客たちの人間ドラマにも敢えて触れず、ひたすら目的を達成しようとする主人公たちと何とかそれを阻止しようとする鬼頭半兵衛の姿だけに絞ったところも緊張感があって良かったと思います。(逆にそれが物足りないという人もいるかと思いますが)

 後半は約50分間延々と戦闘シーンが続くのですが、血と泥にまみれながら侍たちが刀で殺しあう姿は見ている側もヘトヘトになるほどです。

 三池監督の演出はリアリズムとケレン味に溢れており見応えがあります。落合宿のセットも生活の息吹が感じられるほど凝っていますし、室内や夜など暗い場面も変に明るくせず暗く撮影しているところもリアリティを感じました。

 役者に関して言うと、役所広司や市村正親の演技が素晴らしいのはもちろんの事ですが、予想以上に稲垣吾郎のクールな顔立ちに狂気を秘めた演技がインパクトがありました。国民的アイドルであるSMAPのメンバーがこんな悪役を演じられるとは正直驚きました。ある意味、助演男優賞ものです。
 また、松方弘樹もさすが時代劇出身だけあって、殺陣の切れが他の役者とは違います。彼の殺陣がスクリーンで見られるだけでも本作品は価値があります。
 ただ、伊勢谷友介演じる山の民に関しては賛否両論あるかと思いますが、個人的には三池さんらしいキャラクター造形で好感が持てました。劇場でも彼が登場するシーンでは笑いが起こっており、一服の清涼剤としての役割を見事に果たしていたと思います。ただラストでの登場に関してはあまりにも非現実的で違和感ありました。

 本作品は久しぶりに邦画が本気を出して製作した娯楽時代劇です。ぜひ大画面で見ることをお薦めします。
 ちなみに三池監督は3Dで小林正樹監督の『切腹』もリメイクすることになったそうで、そちらも大変楽しみです。

上映時間 141分
製作国    日本
製作年度 2010年
監督:    三池崇史   
原作:    池宮彰一郎   
脚本:    天願大介   
撮影:    北信康   
美術:    林田裕至   
編集:    山下健治   
音楽:    遠藤浩二   
出演:    役所広司   
    山田孝之   
    伊勢谷友介   
    沢村一樹   
    古田新太   
    高岡蒼甫   
    六角精児   
    波岡一喜   
    石垣佑磨   
    近藤公園   
    窪田正孝   
    伊原剛志   
    松方弘樹   
    吹石一恵   
    谷村美月   
    斎藤工   
    阿部進之介   
    内野聖陽   
    光石研   
    岸部一徳   
    平幹二朗   
    松本幸四郎   
    稲垣吾郎   
    市村正親

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『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』映画鑑賞日記

Photo  前作『レインボーブリッジを封鎖せよ!』から7年ぶりに製作された『踊る大捜査線』の続編『ヤツらを解放せよ!』。前作は日本国内で173.5億円という大ヒットを収め邦画歴代興行収入1位の記録を保持。今回も初日2日間で興収約9.7億円、動員は約70万人で週末興行ランキングで第1位を記録しています。

 本作品は前作までのレギュラー陣に加え、小栗旬、伊藤淳史、内田有紀が参加。(但しドラマシリーズから参加していた柏木雪乃役の水野美紀は事務所とのトラブルで残念ながら出演していません。)新湾岸警察署開所式までの3日間に署内で起こる8つの事件に係長に昇進した青島刑事を始めとする仲間たちの活躍を描いていきます。今回の作品は今までの集大成であると同時に、これまでのテーマを再設定し直した「新・踊る大捜査線 第1話」のような位置づけとして製作されています。

 私は踊る大捜査戦のファンである友人と劇場に足を運んだのですが、2時間半という長丁場飽きることなく見ることはできましたが、シナリオや演出の切れが悪く映画としての完成度は低いといわざる得ません。踊るファンの友人も本作品はイマイチとの評価でした。
 7年というブランクは少し間が空きすぎたと思いますし、いかりや長介が本シリーズにとって如何に大きな存在だったかを改めて痛感させられました。ストーリーは和久さんの甥が登場したり、青島が過去に捕らえた犯人たちが再登場したりとファンサービス満載でありますが、肝心のストーリーの骨格が脆すぎです。新湾岸警察署のセキュリティがリアリティなさすぎますし、青島刑事に難病の疑いがあるという設定も活かしきれていませんし、あの犯人が仕掛けた事件自体がいくらなんでも無理がありすぎます。前作までにあったスタイリッシュなオープニング映像もなく、定番の音楽もなかなかかからず、青島と室井の共演シーンもほとんどなく、終始ドタバタした展開の消化不良な作品でした。毎回ある名セリフも今回に関しては上滑りだったような気がします。部活でなく、公権力の組織ですからね、仲間でなく部下としてきちんと見て育てていかないといけないのではと思いました。

 小栗旬が演じていた所轄と本庁の間を調整する鳥飼管理補佐官はとても興味深い役柄で、もっと話しに絡んできたら面白くなったような気がします。

 本作品は劇場でわざわざ見なくても、テレビやDVDで十分な気がしました。  

上映時間 141分
製作国    日本
製作年度 2010年
監督:本広克行   
脚本:君塚良一   
撮影:川越一成   
美術監督:梅田正則   
編集:田口拓也   
音楽:菅野祐悟   
音響効果:大河原将   
美術デザイン:あべ木陽次   
出演:    織田裕二
    深津絵里   
    ユースケ・サンタマリア   
    伊藤淳史   
    内田有紀   
    小泉孝太郎   
    北村総一朗   
    小野武彦   
    斉藤暁   
    佐戸井けん太   
    小林すすむ   
    甲本雅裕   
    遠山俊也   
    川野直輝   
    滝藤賢一   
    寺島進   
    松重豊
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『老人Z』この映画を見て!

第300回『老人Z』
Z  今回紹介する作品は高齢者の介護問題をテーマにしたシニカルなSFアニメ『老人Z』です。『AKIRA』の大友克洋が原作と脚本を手がけ、最新のコンピューターを搭載した高齢者の介護ベッドが暴走するというストーリーをブラックユーモアとアクション満載で描いていきます。
 キャラクター原案は漫画家・イラストレーターの江口 寿史が担当。監督は『BLOOD THE LAST VAMPIRE』の北久保弘之が手がけています。

ストーリー:「看護学校に通うハルコは高沢老人の自宅での介護をボランティアで行っていたが、ある日突然高沢老人は厚生省の開発した介護ロボット「Z-001号機」のモニターに選ばれて連れ去られてしまう。見舞いに行った先でチューブだらけになった高沢の姿を見てショックをうけるハルコ。そんな頃、ネットワークを通して高沢老人から助けて欲しいとSOSのメッセージが入る。ハルコは友だちと共に助け出そうとするが失敗。そんな頃、「Z-001号機」が高沢老人の意識とリンクして、病院から抜け出し暴走を始める。」

 本作品は約20年くらい前の作品でありますが今見ても色褪せてなく大変面白いです。ストーリーは高齢者の介護問題を題材にしていますが、コミカルにテンポ良く描いているので、スカッと笑ってみることが出来ます。
 介護ロボットが暴走してからの怒涛の展開は一瞬たりとも目を離すことが出来ません。クライマックスは『AKIRA』を彷彿させるような描写があり見応えがありました。

 あと『2001年宇宙の旅』にオマージュを捧げたネタや描写があるところも個人的にはツボでした。

 80分と短い作品でありますが、中身が濃く大変面白いです。ぜひ一度ご覧ください。

上映時間 80分
製作国    日本
製作年度 1991年
監督:    北久保弘之   
原作:    大友克洋   
脚本:    大友克洋   
キャラクター原案:江口寿史   
作画監督:飯田史雄   
美術監督:佐々木洋   
音楽:板倉文,小川美潮   
声の出演:松村彦次郎   
     横山智佐   
     小川真司   
     近石真介   
     辻谷耕史   
     佐藤智恵   
     松本梨香   
     槐柳二

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