2007年6月10日 (日)

『監督・ばんざい!』この映画を見て!

第161回『監督・ばんざい!』
Kanntokubannzai  今回紹介する作品は北野武監督が恋愛映画、ホラー映画、人情ドラマ、SF映画と様々なジャンルを網羅したウルトラ・バラエティ・ムービー『監督・ばんざい!』です。
 前作『TAKESHIS'』で芸能界で成功した自らの内面をシニカルに描いた北野武。本作はその延長線上にある作品であり、前作を拡大発展したような内容となっています。

 脱暴力映画を宣言した監督が何とかヒット作品を作ろうと、さまざまなジャンルの映画に取り組み苦悩する姿を描く本作品。映画の前半は6つのジャンルのショートムービーが登場します。
 最初に北野監督お得意の暴力映画が登場。北野作品ではお馴染みのメンバーが登場して迫力ある芝居を見せてくれます。
 続いて登場するのが恋愛映画『追憶の扉』。監督は観客の涙を誘う作品を作ろうと悪戦奮闘します。記憶をなくした男と彼を支える女性の話や盲目の画家と彼を支える女性の話し、お嬢様に恋するお抱え運転手など、いかにも日本人が好きそうなベタな設定ばかりですが、シナリオや設定の破綻からあえなく挫折します。
 3つ目に登場するのが小津作品をパロディにした『定年』というタイトルの作品。定年を迎えた男性と妻のやり取りを描くというストーリーですが、今の観客にゆっくりとしたペースで展開でされる人情ドラマなど誰も見ないだろうという理由で敢え無くボツになります。この作品は小津作品に雰囲気は似ていますが、小津作品の特長であるローアングルな構図や長回しなどは使われていません。そこに北野監督の単なる模倣にはしないこだわりを感じました。このシークエンスでは松坂慶子や木村佳乃など北野作品らしくない役者が出演しており印象的でした。
 4つ目に登場するのが昭和30年代を舞台にした『コールタールの力道山』というタイトルの作品。『ALWAYS 三丁目の夕陽』など近年流行している昭和30年代を舞台にしたノスタルジックな映画。そんな映画に昭和30年代に幼少期を過ごした北野監督も挑戦するのですが、単なるノスタルジー漂う作品に終わらないところが面白いところです。昭和30年代の下町の貧困層の生活の厳しさを生々しく描き出します。また人間の良い面だけでなく愚かな面やずる賢い面もきちんと描いているところも好感が持てました。個人的にはこのエピソードを独立させて長編映画として見せて欲しいと思ってしまいました。このシークエンスでは
 この後もジャパニーズホラーのブームに便乗してホラー映画を撮ろうとしたり、忍者を主人公にした時代劇を撮ろうとしたりするのですが、どれも上手くいきません。
 そして、最後には隕石が地球に墜落するSF映画『約束の日』を撮ろうとするのですが、ここから話しの展開は大きく脱線していきます。

 映画の前半は北野監督の現在の日本映画に対する痛烈な皮肉が感じられました。北野監督は現在の日本映画の現状に苦言を呈するような発言を本作品の完成披露試写会でもしています。発言の内容は以下の通りです。
 「ここんとこ病気みたいに、感動します、泣けますって、そういうバカみたいな映画ばっかり。そういう時代になっちゃった。」(5月25日、完成披露試写会にて)
 
 映画の後半は前半と打って変わって、北野監督がかつて制作したお笑い映画『みんな~やってるか!』のような下らないギャグ満載のはちゃめちゃな展開になっていきます。財界の大物とその秘書に詐欺師の母娘が近づこうとする話なのですが、格闘家が経営?するラーメン屋が出てきたり、おかしな発明家が絡んくるなど不条理な世界が展開されていきます。後半の展開は好きな人はとても楽しめますが、嫌いな人や合わない人にとっては苦痛かつ退屈に感じるかと思います。私はこういうシュールな展開が好きなので笑って楽しめましたが、ダメな人は生理的にダメでしょうね。
 私が後半部分で特に印象的だったのが江守徹と井手らっきょの登場と農村のシーンです。江守徹は財界の大物を演じているのですが、そのぶっ飛んだ演技は笑わずにはいられません。あんな大物俳優がこんな役をよく引き受けたものだと思います。また変な発明家を演じる井出らっきょも、普段の芸風そのままに登場して、しょうもないギャグを次から次へと連発して見る者を不条理ギャグワールドに引き込みます。
 また北野扮する秘書の田舎である農村のシーンはつげ義春のマンガを彷彿させるようなノスタルジックかつシュールな展開となっており味わい深いものがありました。
 あと言い忘れましたが、詐欺師親子に扮する岸本加世子と鈴木杏の演技も面白かったです。特に鈴木杏が常に片手に持つアヒルパペットは個人的に笑いのツボでした。

映画のラストは構築したもの全てが破壊されて終わります。その破壊の潔さは見ていて清清しいほどです。
 この作品は監督が映画界で築き上げてきたものの破壊であり、新しい映画に向かうための地ならしだと思います。監督もこの映画に関して以下のようなコメントをしています。「総ざらえしたかな。キャンバスを白く塗り直して、これから新しい絵が描けるっていうかね。実は3部作の真ん中のつもり。前の『TAKESHIS’』で役者やタレント、これは監督を見直して自己批判してる。3作目では映画を壊す。頭を使う映画をやってみたいと思って」
 
 私はこの映画の後、一体北野武監督がどのような映画を撮るのか楽しみでなりません。

製作年度 2007年
製作国・地域 日本
上映時間 104分
監督 北野武 
脚本 北野武 
音楽 池辺晋一郎 
出演 ビートたけし 、江守徹 、岸本加世子 、鈴木杏 、吉行和子 、宝田明 、藤田弓子 、内田有紀 、木村佳乃 、松坂慶子 、大杉漣 、寺島進 、六平直政 、渡辺哲 、井手らっきょ 、モロ師岡 、菅田俊 、石橋保 、蝶野正洋 、天山広吉 

| | コメント (0) | トラックバック (9)

2007年2月 8日 (木)

北野武新作『監督・ばんざい!』について

 昨日、北野武の新作映画『監督・ばんざい!』の6月公開が発表されました。2年ぶり13作品目となる今回の作品『監督・ばんざい!』は小津安二郎監督風、ラブストーリー、昭和30年代の郷愁感、ホラー、忍者時代劇、SF等さまざまなジャンルの映画を取り込んだお笑い映画ということです。
 ストーリーは今分かっている範囲では、北野武扮する映画監督が新作の構想を練る苦悩から始まり、さまざまなジャンルの新作を映画化するも途中で頓挫し、ラストは予想外のオチが待っているとの事です。
 キャストも江守徹、松坂慶子、岸本加世子、吉行和子、宝田明、藤田弓子、内田有紀、木村佳乃、鈴木杏と大変豪華であり、北野映画でどのような演技をするのか大変興味深いです。
 また、さまざまなジャンルの作品が劇中映画として登場するそうですが、SFやホラーなどの作品をどのように北野監督が仕上げているのか今から楽しみです。
 
 前作『TAKESHIS’』で今までの作品の総括を行った北野監督がどのような新境地を見せるのか、公開が待ち遠しいです。

| | コメント (1) | トラックバック (2)

2006年8月12日 (土)

『TAKESHIS'』この映画を見て!

第94回『TAKESHIS'』北野武特集7
Takeshis  今回紹介する映画は昨年の秋に公開された北野武監督の最新作『TAKESHIS'』です。この映画は誰が見ても楽しめた前作の『座頭市』と打って変わって、難解で見る人を選ぶ作品に仕上がっています。
私は昨年公開されたと同時に北野武が大好きな職場の先輩と一緒に見に行ったのですが、北野ワールド全開の展開に2人とも大変はまったものでした。この映画は北野武=ビートたけしという人間をどれだけ知っているかどうかで、かなり印象が変わってきます。この映画は北野監督の内面や自伝的要素がストーリーからキャスティングそして映像に至るまで大きく反映されています。この映画はストーリーだけを追っても何の意味もなく退屈なだけです。この映画は北野武が日々感じているものを体感する映画であり、北野武=ビートたけしという人間を知るための作品です。だから北野武に興味がない人や彼の経歴をしらない人がみるとイマイチ意味が分からなかったり、面白くなかったりすると思います。
 芸能界の大スターとして多忙でリッチな生活を送っているビートたけしと、ビートたけしとそっくりなしがないコンビニ店員・北野。彼らがテレビ局で出会うところから話しは始まります。夢とも現実とも区別がつかない世界の中を彷徨う北野武=ビートたけしの姿を時系列を無視した醒めることのない夢のような展開で描き出していきます。
この映画はテレビや映画で成功した北野武=ビートたけしという存在に対する、本人なりの今までの人生の総括であり、成功したが故に持つ自己への破壊願望を投影した映画です。
 この映画は主役の北野武だけでなく、登場するほとんどの役者が何役もこなします。この映画は繰り返し同じ人を登場させることで、夢を見ているような感覚を演出すると同時に、独特な反復のリズムを映画につけようとしたのだと思います。特に岸本加世子は何回も役を変えては登場して、主人公の足を引っ張り続けるのですが、その姿は見ていてとてもイライラさせられます。きっと岸本加世子は北野武が頭が上がらない本妻や母親というような女性に対する思いが描かれているのだろうなと思いました。
 あとこの作品では美輪明宏さんを始め、タップダンサー、女形の子役など様々な芸をもった人が出てきて、芸を披露します。これらの芸人の登場シーンは北野監督の芸と芸術に対するリスペクトが伝わってきました。特にタップは実際に武自身が何年も習っており、将来的にはワンマンショーも開きたいと思っているそうです。その熱い思いがこの映画にも投影されています。
 北野作品では過激な暴力描写が有名ですが、今回も数多くの暴力描写があります。ただ他の北野作品と違って、この映画の暴力シーンは生々しさに欠けており、とても軽い感じがしました。この映画では銃撃シーンが数多くあるのですが、ラストの浜辺での撃ち合いのシーンは見ていて、なぜか痛烈なもの悲しさを感じてしまい、泣いてしまいました。ストーリー的には全く意味のない銃撃シーンでありながら、ものすごく美しく撮影されており、そのあまりの美しさが人生や死というものに対する虚しさというものを感じさせてしまい、胸にくるものがありました。
また北野監督らしく色彩にもこだわっており、この映画は赤と青を基調にした色彩がとても美しく目を引きました。古びたアパートの枠が赤や青で塗られているシーン、ピンク色のタクシー、沖縄の青い海、コンビニの緑とピンクの服。これらは映画の持つ非現実的な雰囲気をみごとに演出していました。
 この映画は意味を求める映画でなく、北野武を体感する映画です。それ故に、北野武に興味がない人にはこの映画はお奨めできません。しかし、北野武や彼の映画が好きな人ならぜひこの映画を見てください。

製作年度 2005年
製作国・地域 日本
上映時間 107分
監督 北野武 
脚本 北野武 
音楽 NAGI 
出演 ビートたけし 、京野ことみ 、岸本加世子 、大杉漣 、寺島進  、美輪明宏、六平直政、ビートきよし、津田寛治、石橋 保、國本鍾建、上田耕一、高木淳也、芦川 誠、松村邦洋、内山信二、武重 勉、木村彰吾、ゾマホン

| | コメント (0) | トラックバック (5)

2006年8月 5日 (土)

『座頭市』この映画を見て!

第89回『座頭市』北野武特集6
Zatouiti  今回紹介する映画は北野武監督初の時代劇であり、第60回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞を取った『座頭市』です。『座頭市』は勝新太郎の当たり役でかつて何本も映画化された日本を代表する時代劇です。その座頭市をビートたけしの恩人である浅草ロック座のオーナー・齋藤智恵子さんが、たけし主演で映画化したいと希望し、企画を持ち込んだそうです。北野監督は勝新とはまったく違う座頭市になっても構わないという了承を得て主演・脚本・監督を引き受けたそうです。
 ストーリー:「ある宿場町に現れた、金髪頭に朱塗りの杖を持った盲目の按摩・座頭の市。そこで知り合った野菜売りのおうめから、町民を苦しめるヤクザ・銀蔵一家の悪行の数々を聞かされる。銀蔵一家には凄腕の人斬り・服部源之助が用心棒としてついており恐れられていた。その頃、美しい旅芸人の姉妹が過去に殺された両親の復讐のために宿場町に現れる。座頭市はふとしたことから旅芸人の姉妹の復讐に手を貸すことになる。」 
 この映画のストーリー自体は特に目新しいものはなく、時代劇でよく見られる勧善懲悪モノのストーリーです。悪党に苦しめられる農民や両親の敵討ちを目指す旅芸人、病気の妻を抱えた浪人と出てくる人物やストーリーの展開は時代劇では古典的なものです。北野監督はそんな古典的なストーリーに独自のアレンジをいくつも加えて、ユニークかつ多くの人が楽しめるエンターテイメント作品に仕上げてくれました。
 この映画の大きな見所は北野武扮する座頭市の殺陣シーンとラストのタップシーンの二つです。
 まず殺陣シーンですが、とにかく目にも止まらぬ速さで次々と人が斬られていきます。その圧倒的なスピード感は今までの時代劇の殺陣シーンにはないものがあります。また座頭市が圧倒的に強く、あっけなく敵がバタバタ倒れていく姿は見ていて爽快なものがありました。ただ残念な点もあり、切った後の血しぶきや剣自体をCGで表現しているところがあり、見ていて違和感を感じました。
 次に北野監督が時代劇を撮るときに是非入れたかったと言うお祭りのシーン。賛否両論ありましたが、私は見ていて心地よく面白い表現であったと思います。(ただ少し長すぎましたが・・・)この映画は全体的にリズム感をとても大切にしており、農民が畑を耕すシーンや家を建てるシーン、雨が降るシーンなども音楽と効果音を合わせるなどユニークな表現をしていました。タップダンスはその集大成だと思います。
 この映画は時代劇としてのリアリティといったものはあまり気にせず、北野監督のイメージが優先された作りになっています。登場人物は現代語でしゃべりますし、座頭市は金髪ですし、農民の衣装はカラフルですし、ラストはタップダンスですしね。私は時代劇らしくない感覚で時代劇を語ろうとした北野監督の試みをとても気に入ってます。
 ただこの映画で残念だったのは、すこし中盤が長く感じてしまったのと、ガナルカナル・タカのギャグシーンがしつこく感じてしまいました。出来ればもう少しコンパクトにして1時間30分くらいにしたら、もっとよい作品になったと思います。
 この映画はストーリーの面白さというより、座頭市のかっこよさと、リズム感のよさを楽しむ映画です。他の北野作品にはないエンターテイメント性溢れる作品なので、誰が見ても楽しめると思います。(ただし血が苦手な人はお奨めしませんが・・・)

製作年度 2003年
製作国・地域 日本
上映時間 115分
監督 北野武 
原作 子母沢寛 
脚本 北野武 
音楽 鈴木慶一 
出演 ビートたけし 、浅野忠信 、夏川結衣 、大楠道代 、橘大五郎、 岸部一徳、 石倉三郎、柄本明、ガナルカナル・タカ、橘大五郎、大家由祐子

| | コメント (5) | トラックバック (5)

2006年8月 2日 (水)

『キッズリターン』この映画を見て!

第87回『キッズリターン』北野武特集5
Kids_return  今回紹介する映画は青春映画の傑作であり、北野武監督の代表作でもある『キッズリターン』です。この映画は北野武がバイク事故で生死の淵をさまよった後に制作された映画で、北野監督の今までの映画とは作風が少し違います。北野監督の作品というと死と暴力の匂いが立ち込めた映画が多く、主人公が死んでいく作品がほとんどです。しかし、この映画は主人公が最後まで生き残ります。それも、生きることに対して何とも積極的な終わり方であり、生きることに対する肯定観に満ちています。これは他の北野作品では見られないものであり、監督の事故による影響が大きく反映されています。
 ストーリー:「シンジとマサルは落ちこぼれの高校生。授業をサボり、いつもぶらぶらしていた。先生からは落ちこぼれと馬鹿にされ、カツアゲばかりしていた。そんなある日、マサルは以前カツアゲした高校生の友人のボクサーにぼこぼこにされる。それ以来マサルはケンカに強くなろうとシンジを誘ってボクシングジムに入る。マサルほど乗り気でなかったシンジだが、ジムで認められたのはシンジの方であった。マサルはショックを受け、ジムを飛び出して、ヤクザの世界へと足を踏み入れる。それぞれの世界でめきめきと頭角を現すシンジとマサル。しかし、彼らは大人社会の醜さと彼ら自身の未熟さを思い知ることになる・・・」
 私は始めてこの映画を見たとき、心がヒリヒリする感じを覚えました。落ちこぼれの2人が何とか這いあがろうとしながら、結局上手くいかない姿は見ていて、とても切ないものがありました。
 この映画が秀逸なところは普通の青春映画にはない主人公たちの挫折していく姿が描かれるところにあると思います。背伸びして大人の世界に足を踏み入れていこうとする2人の足を引っ張る大人の世界の醜さや厳しさ。この映画は社会の醜さや厳しさがリアルに描かれているので、主人公たちが転落していく姿がとても生々しく、胸に迫るものがあります。特にシンジの足を引っ張るモロ師岡演じる林という中年ボクサーの姿は挫折した人間の悲哀と愚かさが見事に表現されていました。
 この映画は主人公2人の話とは別にサイドストーリーで漫才師を目指す2人組みの高校生や喫茶店の娘に恋する高校生の話も描かれています。漫才師を目指す2人組みは最初は馬鹿にされるものの、こつこつ努力して成功するという結末は主人公2人の結末と相反しており、とても印象に残りました。この漫才師のストーリーは北野監督の自伝的な要素も含まれているのでしょう。
 喫茶店の娘に恋する高校生はまじめに努力して結婚までするものの、結局うまくいかないという結末で、一番見ていて、切なくやるせない気持ちになりました。
 自分の人生を切り開こうとしながら、社会の壁や己の未熟さから挫折していく人たちの姿が描かれており、切なさと哀しみに満ちた作品ではありますが、映画のラストはとても清清しく希望に満ち溢れています。挫折した2人が自転車に乗りながら会話するラストシーン。「もう俺たち終わりかな・・・」というシンジの言葉に、マサルが最後に言う言葉はとても力強く、生きることへのポジティブさに満ち溢れています。私はこのラストのマサルの言葉を聞きたいがために何回もこの映画を見直すほどです。(どんな言葉かは是非実際に映画を見て確認してください。)
 
 もちろん、この映画は北野作品としての魅力にも満ち溢れています。キタノブルーといわれる北野監督ならではの青みがかった映像はとても印象的ですし、久石譲の手がける音楽もいつもながら素晴らしい仕上がりになっています。特に今回の音楽は若者の持つエネルギーや生きることの切なさや悲しみ、そして生きることへのポジティブさに満ち溢れており、映像とマッチした音楽となっています。個人的には北野作品の中でこの映画の音楽が一番好きです。
 さらに北野監督の演出も冴え渡っており、若い時に誰しもが感じる焦りや不安、孤独、愚かさを見事に映像で表現しています。特にオープニングとエンディングの校庭でぐるぐる回る自転車のショットは、主人公2人の複雑な感情を見事に表現していたと思います。
 この映画はある意味とても冷徹で残酷な青春映画です。しかし、それでいてとても温かみがあり、北野作品の中でも一番誰しもが共感しやすく、感動できる作品だと思います。私としてはぜひ多くの人にこの映画を見てもらい、最後のセリフを聞いて欲しいです。

製作年度 1996年
製作国・地域 日本
上映時間 108分
監督 北野武 
脚本 北野武 
音楽 久石譲 
出演 金子賢 、安藤政信 、森本レオ 、山谷初男 、柏谷享助  、モロ師岡、寺島進、石橋凌、丘みつ子

| | コメント (2) | トラックバック (7)

2006年2月25日 (土)

『JOE HISAISHI MEETS KITANO FILMS』

お気に入りのCD.NO6 『JOE HISAISHI MEETS KITANO FILMS』 久石譲
joe_meet_takesi  今回紹介するCDは 北野武が監督した映画に使用された久石譲のサントラ曲を集めたベストアルバムです。 久石譲は宮崎駿映画の全音楽を担当していることで有名な映画音楽家です。宮崎駿の映画において久石譲の音楽はとてもはまっており、毎回印象的な曲を提供していますが、北野武の映画でも『あの夏、一番静かな海。』から『ドールズ』までの7作品で音楽を手がけています。
 北野作品においても、彼の音楽は映像にとてもはまっており、印象的な曲を数々提供しています。北野監督は削ぎ落としを意識して、映画を作っているようで、音楽家にも同じことを要求するそうです。そんな監督の要求に応えて作られた曲の数々は、北野監督の作り出す映像の力をさらにもう一段高いところまで引き上げます。
 北野作品はセリフが少なく、静かな場面が多いです。彼は映像で全てを語ろうとする監督です。そんな彼の作品において、音楽は単なる添え物でなく、重要な役割を持っています。
 まず久石譲の音楽は北野監督の映像の雰囲気や魅力をより前面に押し出します。『あの夏、一番静かな海』でラストに流れる「
Silent Love」は恋人たちの思い出シーンを一気に盛り上げますし、『ソナチネ』の印象的なミニマムミュージックによるメインテーマは美しくもどこか狂気じみていて、映像が持つ美しさや狂気をさらに増幅させます。
 また音楽がセリフで語られない主人公たちの感情や映画が語ろうとするテーマを観客に伝えてきます。HANA-BI』の哀切と感傷漂う曲が主人公の哀しみを表現し、『キッズ・リターン』の青春のほろ苦さと躍動感を表現した曲は主人公の若者たちの行き場のないエネルギーや苛立ちを伝えてきます。また『菊次郎の夏』の爽やかでノスタルジックな曲は夏休みの思い出というテーマをずばり曲で語っています。
 映画を見た人はこのアルバムを聴くと、映像が頭に浮かんでくると思います。そして、また映画が見たくなると思います。
 また映画を見ていなくても、聴いていて楽しめるアルバムです。久石譲の繊細で美しいメロディーライン、ピアノやストリングス・シンセを多用した音の心地よさ。このアルバムはヒーリングミュージックとしても満足のいくものです。
 北野映画ファンもヒーリングミュージックファンも買って損はしないアルバムとなっています。ぜひ聴いてみてください!

1.INTRO-Office KITANO Sound Logo(original)
2.Summer(菊次郎の夏)
3.The Rain(菊次郎の夏)
4.Drifter…in Lax(BROTHER)
5.Raging men(BROTHER)
6.Ballade(BROTHER)
7.BROTHER(BROTHER)
8.Silent Love(Main Theme)(あの夏,いちばん静かな海。)
9.Clifside Waltz 3(あの夏,いちばん静かな海。)
10.Bus Stop(あの夏,いちばん静かな海。)
11.Sonatine 1~act of violence(Sonatine)
12.Play on the sands(Sonatine)
13.KIDS RETURN(KIDS RETURN)
14.NO WAY OUT(KIDS RETURN)
15.Thank You,…for Everything(HANA-BI)
16.HANA-BI(HANA-BI)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

『ドールズ』この映画を見て!

第52回『ドールズ』 北野武特集4
見所:「美しい日本の四季の風景。斬新な衣裳デザイン。純粋で残酷な愛の物語。」
Dolls [ドールズ]
 今回紹介する『ドールズ』は、北野武監督が描く究極の愛の形を描いた映画です。近松門左衛門の『冥途の飛脚』の主人公、梅川と忠兵衛をモチーフにした構成で作られており、残酷で純粋な愛の物語が展開していきます。
 この映画はまた映像もいつものキタノブルーと呼ばれる青が基調のモノトーンの映像から、赤や黄など色彩豊かで幻想的な映像が展開されます。特にこの映画では日本の四季をとても綺麗に撮影しており、観客はその美しさに息を呑むと思います。衣装も『BROTHER』かファッション界の鬼才、山本耀司が斬新なデザイン・色遣いの衣裳を提供して、観客を魅了します。そして音楽は久石譲。繊細に研ぎ澄まされた最小限の音楽が、幻想的な映像をさらに際だたせます。
 ストーリーは3つの話しから構成されています。どの話しもどこか非現実的で幻想的でおとぎ話のようです。その反面、とても生々しく残酷でもあり、愛ゆえの孤独や哀しみが痛切に伝わってくる話しでもあります。
 ストーリー:「1本の赤い紐に結ばれ、あてもなくさまよう男と女がいた。女は男に振られて気が狂い、病院に入院していた。男は全てを捨てて彼女を連れ出し、当てもない旅に出ていた。迫り来る死期を悟った老境のヤクザと彼を長年待ち続ける女。女は若いときに男と出会い、弁当を食べてもらっていた。しかし、突然姿を消した男。女は弁当を持って男が来るのをずっと待っていた。事故で人気の絶頂から転落したアイドルと、そんな彼女を慕い続ける孤独な青年。青年は転落したアイドルへの愛ゆえに狂気に走る。
 北野監督は「愛とは主観的であり、暴力的なものである」という価値観の基、この映画を作ったそうです。それ故に描かれる登場人物たちの行動はどれも他人から見れば理解しがいものです。自分の人生も全て相手の為に投げ出そうとする登場人物たち。その姿は狂気としか言いようがありません。愛するが故に常軌を逸した行動をとる主人公たちの姿を通して、純粋な愛の本質を描きます。この映画が非現実的でおとぎ話のような作りになっているのは、愛とは主観的な思いこみであり、純粋であればあろうとするほど、現実から逸脱してしまうという愛の本質を伝えるためです。この映画は好きな人とくっつく、くっつかないなどの決して甘いラブストーリーではありません。とても辛口で残酷で、それでいて究極の愛の形を描いています。
 この映画は北野映画らしく、たくさんの死が扱われます。この映画で描かれる死は愛の成就です。純粋に愛しすぎた故に現実から逸脱した彼らが、その愛を全うしようと思うと、もはや死という永遠に時の止まった世界に身を置くしかないという哀しみが描かれます。そういう意味でこの映画における死はある意味ハッピーエンドです。死によって彼らは永遠に愛の中に身を置くことが出来るのですから・・。
 美しく幻想的な映像と音楽の中で展開される残酷なほど美しい愛の姿。ぜひ見てみてください!

製作年度 2002年
製作国・地域 日本
上映時間 113分
監督 北野武 
脚本 北野武 
音楽 久石譲 
出演 菅野美穂 、西島秀俊 、三橋達也 、松原智恵子 、深田恭子 

| | コメント (0) | トラックバック (4)

『HANA-BI』この映画を見て!

第51回『HANA-BI』 北野武特集3
見所:「キタノブルーの美しい画像、久石譲の哀しく美しい音楽、孤独な男の美学」
HANA-BI
 今回紹介する映画『HANA-BI』は北野映画の集大成です。キタノブルーと言われる青が際だった画像、孤独な主人公、死と愛に満ちたストーリー、久石譲の叙情的な音楽と北野映画ならではの魅力が詰まっています。それでいて、今までの北野映画にはないウエットさや愛が描かれています。この映画は海外でも高く評価され、ヴェネチア映画祭でも金獅子賞を獲得しました。また日本でも金獅子賞受賞ということで、一気に北野映画に注目が集まり始めました、
 私は『ソナチネ』の次にこの映画が好きなのですが、いつもラストシーンを見るたびに涙が出ます。浜辺で寄り添う夫婦、久石譲の哀切極まる音楽、そして妻のセリフ。とても静かなシーンなのですが、行き場のなくなった2人の孤独や哀しみ、そして愛が描かれ、激しく感情が揺さぶられます。このラストシーンが見たいが為に、何回もDVDで鑑賞しています。
 ストーリー:「刑事として寡黙に働く西。彼は子どもを突然失い、妻も不治の病に侵されていた。同情した仲間の好意で張り込み捜査の合間を縫って見舞いにいく。だが、発砲事件が発生。快く送り出してくれた部下・西が下半身不随の身になってしまう。その後、追いつめた犯人によって部下の田中も殉職してしまう。そして西は激情のあまり犯人を殺して警察を辞めてしまう。その後、自分のせいで人生を狂わしてしまった部下やその家族に償いをしていく。しかし、その金を工面するためにヤクザに借金を重ね、やがて首が回らない状況へと陥っていく…。そして西は残された時間の少ない妻と旅に出る。
 この映画は北野映画らしく死の匂いが立ちこめると同時に、生き残った者がどう残された時間を過ごしていくかというテーマを扱っています。次々と仲間や家族を失い、孤独になっていく主人公が自分に残された役割は何かを考え、自分のせいで犠牲になった者たちの為に償いをしていきます。主人公の不器用で誠実な人柄は見ていてとても切なくなります。
 またこの映画で描かれる夫婦の愛も奥ゆかしく、とても美しいです。ほとんど言葉を交わさない2人であるのですが、何気ない仕草や表情が夫婦の人生や愛を描き出し、胸にぐっと来ます。北野監督は映像でストーリーや感情を語っていく姿勢を常に取っています。彼にとって映像が言葉そのものなんでしょう。彼の映画では暴力シーンがとても多いですが、それは孤独で不器用なな主人公にとっての言葉であり、感情表現なのかもしれません。彼の映画では言葉はほとんど削ぎ落とされます。しかし、時折、はっとする言葉が挿入され、観客に印象づけます。この映画のラスト、妻が言う二言の何気ない言葉。今まで映像によって積み重ねられた2人の姿を見てきた者には、その何気ない言葉に涙せずにはいられません。
 この映画で特に印象的なのが音楽です。北野監督とは4度目のコンビになる久石譲が手がけているのですが、冷たく淡々とした映像やストーリーに感情を付けています。ストリングス中心の繊細で叙情的な音楽は、この映画が持つ哀切や孤独、愛情といったものを雄弁に物語っています。特にラストシーンは久石譲のあのメロディーが映像をぐっと盛り上げて、観客の涙を誘います。2人のコラボレーションの真骨頂がここに見られます。
 また北野武監督自ら描いた挿入画もとても印象的です。色鮮やかでありながら、どこか寂しさを感じさせる彼の絵はこの映画の雰囲気によくあっています。
 この映画は暴力と死に満ちていながら、暖かさと優しさを感じる映画です。ラストシーンは涙なしでは見られないと思います。あとエンドロールの後にも印象的なシーンがあるのでお見逃しなく!泣ける北野映画が見たいという方はぜひ『HANA-BI』をご覧ください!

製作年度 1997年
製作国・地域 日本
上映時間 118分
監督 北野武   
脚本 北野武 
音楽 久石譲 
出演 ビートたけし 、岸本加世子 、大杉漣 、寺島進 、白竜 

| | コメント (0) | トラックバック (3)

2006年2月24日 (金)

『ソナチネ』この映画を見て!

第50回『ソナチネ』 北野武特集2
見所:「沖縄の海辺で戯れるヤクザたちのはかない姿、狂気と死の匂いが漂う映像と音楽」
sonatine  今回紹介する映画『ソナチネ』は北野監督作品の中でも評価・人気共に非常に高い作品です。本作は公開当時の日本ではあまり注目されませんでしたが、イギリスで大反響を呼び、ヨーロッパで北野映画ブームを生むことになりました。
 私も北野監督の作品の中で一番好きな作品は『ソナチネ』です。DVDを購入しては、半年に1回は見直しています。この映画の魅力は語ると尽きることがないのですが、静かさの中に狂気と死の匂いが漂う映像と音楽にあります。ストーリー自体はとてもシンプルで、ヤクザが抗争に巻き込まれて、破滅していく姿を描いています。ただその描き方が北野監督らしく、静かにユーモアを交えながら、淡々と無常観を感じさせる演出となっており、普通のヤクザ映画とはひと味違う作りになっています。
 ストーリー:「組長から沖縄の中松組への加勢を頼まれ、手下を引き連れて現地へ赴いた。しかし、東京から助っ人が来たということで、かえって相手の組を刺激することになってしまい、状況は悪化する。かろうじて生き延びた村川らは、沖縄の人気のない海辺の家に実を隠す。しかし殺し屋が送り込まれ、手下を失う村川。そして、彼はついに破滅への道と向かうことになる。
 北野監督の映画はどれも死の匂いが漂いますが、この映画は特に死の匂いが濃厚です。映画の冒頭から「あんまり死ぬことを怖がっていると死にたくなるんだよ」というセリフが出てきます。このセリフは今回の映画のテーマを見事に表現しています。この映画は淡々とした日常の中での死の突発性や不条理を描きます。死は日常のすぐ側に横たわっていることをこの映画は浮き彫りにします。その死の描き方はある意味、とても怖いものを感じます。
 また、この映画は北野作品の中でも暴力描写が過激です。その描き方はどこまでもリアルで痛みを感じるものです。日常の中で突然降りかかる暴力。ある時は暴力を振るい、ある時は暴力を振るわれる中で見えてくる日常の中の非日常。人間の闇、支配欲、死への恐怖と誘惑。彼の描く暴力は観客の抑圧されたエネルギーを発散させる目的で描かれているのでなく、あくまで非日常へ観客を誘うために描かれます。
 この映画はストーリーそのものを楽しむというより、映像と音楽のコラージュを楽しむ映画です。沖縄の青い海辺で無邪気に戯れるヤクザたちの姿、そこに流れる久石譲の静かでありながら、どこか狂気を秘めた反復音楽。それは観客を静かなる死と狂気の世界に導きます。
 この映画は何の意味もない映画です。あらゆる意味は否定され、不条理さと狂気だけが残る映画です。
 誰でも見て楽しめる映画ではありませんが、はまると何度でも楽しめる映画です。

製作年度 1993年
製作国・地域 日本
上映時間 93分
監督 北野武 
脚本 北野武
編集 北野武
音楽 久石譲
出演 ビートたけし 、国舞亜矢 、渡辺哲 、勝村政信 、寺島進 

| | コメント (0) | トラックバック (2)

『あの夏、一番静かな海。』この映画を見て!

第49回『あの夏、一番静かな海。』 北野武特集1
見所:「どこまでも静かなラブストーリー、どこまでも青く美しい海、波の音と久石譲による音楽の心地よさ」
a_scene_at_the_sea  今回紹介する映画は、北野武が始めて手がけたラブストーリーです。この映画は有名な映画評論家・淀川長治さんが「一番の傑作」と賞賛した作品です。この映画からキタノブルーといわれる映像、極端に少ないセリフ、間を大切にした編集など、北野武の映画スタイルが確立され始めます。またこの作品から久石譲が音楽を担当し始め、彼の作品で次々と印象に残る音楽を発表していきます。
 ストーリー:「主人公は聴覚障害者のカップル。ごみ収集車のアルバイトをする茂は、ごみ集積所で偶然サーフィンボードを拾ったことをきっかけに、サーフィンを始める。彼の練習する砂浜には、彼を見守る聴覚障害者のガールフレンド貴子の姿があった。茂は毎日練習を重ねて、サーフィン大会に出場するほどに上達する。
 最初、この映画を見たときは、映像・ストーリーとも徹底的に無駄なものが削ぎ落とされた演出に驚きました。この映画は最初から最後まで全て静かに進んでいきます。聞こえてくるのは波の音と久石譲の静かな音楽だけ。この静けさに最初は戸惑いますが、慣れてくるととても心地よく映像に集中できます。セリフも主人公のカップルは聾唖者なので一切なく、サーフィンに打ち込み始めた彼氏とそんな彼を浜辺でじっと見つめる彼女の姿が淡々と描かれていきます。その代わりに、主人公たちの仕草や表情がセリフの代わりになり、2人の感情や関係を伝えてきます。その繊細な表現はセリフでは伝えられない微妙な心の動きを感じることが出来ます。
 このどこまでも静かな映画は、久石譲の音楽がとても重要な役割を担っており、削ぎ落とされた映像・ストーリーに情感を与えてくれます。どこまでも透明で美しい反復音楽の調べは聞いていて心地よく、画面やストーリーの静けさを際だたせます。そしてラストシーンでメインテーマの音楽が流れた時はパブロフの条件反射のように涙が出てきます。
 この映画、北野監督らしい、コメディシーンがあります。主人公の何気ない失敗、周囲の者たちの滑稽な姿。静かな場面が続くこの映画の中で、くすっと観客を笑わかせる場面は、心を和ませてくれます。
 私はこの映画を見て、サイレント時代のチャップリンの映画に似ているなと思いました。全てを主人公の仕草や表情、周囲の状況で伝えようとするサイレント時代の映画。『あの夏、一番静かな海』の演出はサイレント映画の演出に似ており、観客をくすっと笑わかせながら、ドラマが展開していく手法はチャップリンの映画に似ていると思います。
 また私がこの映画の好きなところの一つとして、聾唖者という障害を持つ人を主人公にしながら、そのことを強調することなく、さりげなく描いているところがあります。普通の映画だと障害を持っている人を主人公にすると、その障害に焦点を当てて映画を撮るのですが、この映画は主人公の一つの属性としてしか扱いません。映画に出てくる周囲の人物たちも主人公たちの障害を特に気にすることなく接しています。このようにごく自然に障害を持った人の日常を描いた映画は少ないと思います。
 映画のラストはとても切ない終わり方をします。北野監督らしい終わり方であるのですが、人生の不条理さを見事に語っています。映画のラスト5分は映像の切なさに久石譲の音楽の効果も相まって、とても感情を揺さぶられます。私はいつもラストシーンを見るたびに自然に涙がこみ上げてきます。
 この映画はどこまでも静かで、どこまでも美しい映画です。ぜひ、この心地よい静けさに浸ってみてください。

製作年度 1991年
製作国・地域 日本
上映時間 101分
監督 北野武 
脚本 北野武 
音楽 久石譲 
出演 真木蔵人 、大島弘子 、河原さぶ 、藤原稔三 、寺島進 

 

| | コメント (0) | トラックバック (6)

2006年2月23日 (木)

「北野武」私の愛する映画監督4

第4回「北野武」
TAKESHIS' 今回紹介する映画監督は日本映画を代表する監督となった北野武です。私は『HANA-BI』が一番最初に見た北野監督作品でした。この映画は私にとって、北野監督の力量を見せつけられた作品でした。アウトローな男の美学を感じさせるストーリー、突発的に起こるバイオレンスのリアルな迫力、北野監督の独特な映像美や編集、久石譲の情感たっぷりの音楽。この監督の才能に惚れ込み、過去に撮った作品をDVDで片っ端から見ていきました。
 北野武の映画の魅力は人によっていろいろあると思うのですが、私は次の5つだと思います。
①独特な映像美
 彼の映画はストーリーを楽しむというより、彼の生み出した映像を楽しむという要素が強いです。どの作品もストーリー自体は大して意味がなく(良い意味で)、ストーリーを下に監督がイメージした映像の一瞬の美しさや面白さを味わうことの方に意味があります。彼の作り出す映像はどこまでも意味を否定し、夢のような感触を持っています。彼にとってストーリーよりもどんな映像をとるかに関心があるのでしょう。
 彼の映像はとてもクール(かっこよく、そして冷たい)です。彼独特の青が強調された画面は「キタノブルー」と言われ、世界中の映画人を虜にしました。私も彼の青みがかった画面がとても好きです。彼は青を再生の色として捉えているようです。もしそうだとしたら、いつも主人公たちの追いつめられた生き方を描いていますが、青みがかった画面に主人公たちの人生の再生を託しているのかもしれません。ちなみに『HANAーBI』や『ソナチネ』がキタノブルーを一番堪能できる映画です。ここ最近は青以外にも赤や黄などのカラフルな色彩を強調した画作りをしており、『ドールズ』や『TAKESHIS’』など最近の作品を見ると今までの「キタノブルー」とは違う画が見られます。

②間を大切にした編集
 彼の映画の編集は独特です。間を大切にした編集というか、主人公たちの何かしらのドラマが起こる前後の静かな様子もじっくりと見せてくれます。この前後の様子を見せることで、北野映画独特の静けさが生まれ、観客に不思議な余韻を与えてくれます。
 また主人公たちのストーリーの途中に脈略もない断片的な話し(ギャグシーンが多いです)がよく挿入されます。主人公たちのドラマを追っていた観客は、途中で急に関係ない話しが入ってくることで、戸惑いつつも、そこでニヤリと笑ってしまいます。
 
③死と暴力というテーマ
 彼の映画は常に死の匂いが漂います。主人公たちはどこか死にあこがれ、破滅に向かいます。彼の映画には生きることの無常観を感じてしまいます。「この世は一瞬の夢のようなもの」であると彼の映画は観客に語りかけてきます。彼にとって映画を撮るということはどこか自分の死と向き合い、生きている自分を再確認する行為なのでしょう。
 また彼の映画には暴力的な描写が多いです。静けさを突然打ち破る暴力、そしてまた静けさ。彼の描く暴力はどこまでも冷たく、無機質です。彼が描く暴力とはどこもまでも突発的で不条理なものです。それは死の突発性や不条理さであり、生きることの無常さや不条理さでもあります。
 
④芸人ビートたけしとのギャップ
 彼の映画の特徴としてテレビで見るタレントとしてのビートたけしとのギャップがあります。変なかぶり物をまとって、饒舌にしゃべりまくり、おどけて人を笑わせるビートたけし。どこまでも無口で、クールで、死と暴力を描く北野武。このギャップそのものが面白く、ビートたけし=北野武はどういう人間で何を考えているのか観客に興味を抱かせます。

⑤北野武のプライベートな側面が反映された内容
 彼の映画はプライベートな側面がいろいろな所に反映されています。例えば、バイク事故後に撮られた『キッズ・リータン』に込められた北野武の思い。それは事故で死の淵を漂いながらも、生き残ってしまった彼の思いがとても反映されています。また最新作『TAKESHIS’』にはビートたけしと北野武という二つの顔を持つ彼の人生観が投影されています。
 また映画の随所に彼のプライベートな趣味が反映されています。HANABIや菊次郎の夏に挿入される絵も自分で描いていますし、ここ最近の映画に登場するタップダンスのシーンも彼自身が最近タップを習っているおり、それが映画の中に反映されているそうです。
 さらに役者もたけし軍団や彼がお世話になった人の息子を起用するなど、身内を大切にしています。
 
 彼の映画は独特なスタイルを持っており、好きな人と嫌いな人に分かれるかもしれません。しかし彼の映画は一度はまると癖になり、何度でも見たくなります。もしこれから北野映画を見てみようという人がいるなら、私は『キッズ・リターン』から入ることをお奨めします。この映画はキタノブルーな映像を楽しめると同時に、ストーリーもほろ苦い青春を描き感動的です。ぜひ見てみてください。
武がたけしを殺す理由

ちなみに北野武監督が好きな人にお奨めする本が『武がたけしを殺す理由』です。この本は1991年から2003年の12年間にわたって行われた映画監督・北野武に対するインタビューをまとめており、彼がどういう思いで映画を撮っているのかよく分かります。絶対お買い得な本です。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4860520262/qid=1140685827/sr=1-3/ref=sr_1_10_3/250-2216638-9096228

*北野武監督作品
TAKESHIS’(2004)
座頭市(2003)
Dolls(2002)
BROTHER(2000)
菊次郎の夏(1999)
HANA-BI(1998)
キッズ・リターン(1996)
みんな~やってるか!(1995)
ソナチネ(1993)
あの夏、いちばん静かな海。(1991)
3-4x10月(1990)
その男、凶暴につき(1989)

| | コメント (2) | トラックバック (1)