ミュージカル映画

『マンマ・ミーア!』映画鑑賞日記

Photo  ABBAのヒットナンバーで構成され世界中でロングランとなったミュージカルを映画化した『マンマ・ミーア!』。私はミュージカル映画が大好きなので、今回も有名なミュージカルの映画化ということで楽しみに劇場に足を運びました。日本では劇団四季が本作品の舞台を手がけているのですが、私は見たことはなく、今回が始めての鑑賞でした。

 本作品を鑑賞した感想ですが、ABBAの歌とギリシャの島の美しい風景描写はとても良かったのですが、メリル・ストリープを除いて出演者の歌唱力やダンスが個人的にもう一つ物足りませんでした。
 特にピアース・ブロスナンの歌唱力は微妙で、正直ミスキャストだと思いました。

 ストーリーに関してはABBAの歌を基にして話しが展開するので、所々唐突で強引と思うところもあります。
 しかし、本作品は明るく軽快な雰囲気を楽しむ作品なので特に気にはなりませんでした。
 結婚式で今だ会ったことない父とバージンロードを歩くことを夢見て、父と思われる3人の母の元恋人を呼ぶという話しですが、ラストは私が想像していた結末と違っていたので少し驚きました。
 

 演出に関しては舞台版も手がけた人が担当しているようですが、映画としての見せ方が地味で雑な気がしました。ギリシアロケは開放感があって良かったと思うのですが、室内のシーンやミュージカルシーンの見せ方がイマイチでした。

 本作品はミュージカル映画史に残る傑作とまでは言えませんが、見ていて楽しい気分になれますし、ABBAのファンならノリのりで見ることができるでしょう!
 

上映時間 108分
製作国 イギリス/アメリカ
製作年度 2008年
監督: フィリダ・ロイド 
脚本: キャサリン・ジョンソン 
撮影: ハリス・ザンバーラウコス 
プロダクションデザイン: マリア・ジャーコヴィク 
衣装デザイン: アン・ロス 
編集: レスリー・ウォーカー 
振付: アンソニー・ヴァン・ラースト 
音楽: ベニー・アンダーソン 
ビョルン・ウルヴァース 
音楽監督: マーティン・ロウ 
音楽監修: ベッキー・ベンサム 
出演:
メリル・ストリープ
ジュリー・ウォルターズ
ステラン・スカルスガルド
コリン・ファース
ドミニク・クーパー
ピアース・ブロスナン
アマンダ・セイフライド
クリスティーン・バランスキー




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『ロッキーホラーショー』この映画を見て!

第179回『ロッキーホラーショー』
Photo  今回紹介する作品は全世界でカルト的人気を持つホラーコメディミュージカル『ロッキーホラーショー』です。
 本作品は1973年にイギリスでロック・ミュージカルとして公演されて人気を博し、舞台にも関わっていたジム・シャーマンの手によって映画化されました。公開当初は奇抜な内容についていけない批評家や観客が多かったようですが、一部の人たちの間では人気が広まるようになりました。そして、上映中に画面に向かって突っ込みを入れたり、スクリーン前で踊ったり、コスプレして鑑賞する熱狂的なファンが現れるようになります。現在では観客が参加できるミュージカル映画として人気が定着しています。

ストーリー:「ブラッドとジャネットは、婚約したことを恩師に報告すべく車を走らせていた。しかし、途中雷雨で道に迷った挙句タイヤがパンクする。助けを求めようとした2人は古城へとたどりつく。その城の主はフランクン・フルター。トランスセクシャル星からやってきた変態科学博士だった。博士は長年の夢だった人造人間ロッキーを開発し、お披露目のパーティを行っていた。」

 本作品のストーリーは下品かつ悪趣味な内容で、お子様や頭の固い人には全くお奨めできません。しかし、常識に縛られた世界にうんざりしている人やエログロナンセンスな世界が好きな人にはお奨めです。変な登場人物たちが織り成すエロスと狂気が渦巻くシュールな世界は一度はまると何度でも見返したくなる魅力があります。
 
 本作品の最大の見所は何といってもティム・カリー演じるフランクン・フルター博士!ゴスロリなファッションで登場する彼の姿は強烈で、一度見ると脳裏に焼きついて離れません。
 また今や演技派の女優として活躍しているスーザン・サランドンも初々しくキュートな演技と歌声は見る者を楽しませてくれます。彼女演じるジャネットが発情して歌う「タチャ・タチャ・タッチ・ミー」のシーンは個人的に大好きなシーンです。

もちろんR・オブライエンの作詞・作曲によるミュージカルナンバーも大変素晴らしく、ロックからソウルまでうまく取り入れた名曲ぞろいです。特にお勧めのナンバーは「タイムワープ」と「サイエンス・フィクション/2本立て」です。

 本作品は好き嫌いが分かれるとは思いますが、映画好きなら一度は見てみる価値があります。

製作年度 1975年
製作国・地域 イギリス
上映時間 99分
監督 ジム・シャーマン 
原作 リチャード・オブライエン 
脚本 ジム・シャーマン 、リチャード・オブライエン 
音楽 リチャード・ハートレイ 
出演 ティム・カリー 、バリー・ボストウィック 、スーザン・サランドン 、リチャード・オブライエン 、ジョナサン・アダムス 、ミート・ローフ 、チャールズ・グレイ 、パトリシア・クイン 

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『ドリームガールズ』この映画を見て!

第147回『ドリームガールズ』
Dream_girls  今回紹介する映画は先日行われた第79回アカデミー賞で映画初出演となるジェニファー・ハドソンが最優秀助演女優賞に輝いた『ドリームガールズ』です。
 『ドリームガールズ』は1981年にブロードウェイで初公演され大ヒットを飛ばし、翌年のトニー賞で6部門を受賞した伝説のミュージカルです。ストーリーはシュープリームスとダイアナ・ロスの実話を基にしており、仲の良い友人3人で作った黒人コーラスグループの栄光と挫折、そして再生までを60年代のアフリカ系アメリカ人の音楽の歴史と共に描いていきます。
 監督はアカデミー作品賞を受賞したミュージカル映画『シカゴ』の脚本家ビル・コンドンが担当。彼は今回監督だけなく脚本も手がけており、華やかなショービジネス界で生きる人間たちの夢や苦悩そして哀しみといったものをエンターテイメントとして見事に描いています。
 出演者も大変豪華で、主人公ディーナ役にグラミー賞歌手ビヨンセ、脇役の男性陣にジェイミー・フォックス 、エディ・マーフィ 、ダニー・グローヴァーといった芸達者の役者が出演しています。
 そして、今回の映画で何といっても光り輝いていたのがアカデミー賞で最優秀助演女優賞に輝いたジェニファー・ハドソン!。新人とは思えない演技力と歌唱力があり、映画を見ている間は主演のビヨンセより彼女の存在感に目が釘付けになってしまいます。私は途中までこの映画の主演はジェニファー・ハドソンかと思ってしまったほどでした。
 もちろんビヨンセやジェイミー・フォックスも素晴らしい演技を見せてくれますし、エディ・マーフィはここ最近の映画で最高の演技を見せてくれます。
 
 ストーリーはショービジネス界の裏側の嫉妬や裏切りといったドロドロした世界で何とか生き残っていこうとする人間たちの奮闘が描かれていきます。また大ヒットを目指せば目指すほど自分たちが求めていた音楽と離れたものになっていく矛盾や葛藤が描かれていきます。白人中心のアメリカ社会の中で黒人たちが何とか這いあがろうと、自分たちの音楽を白人に売り込んでいく中で自分たちの音楽の文化や魂が変質し失われていく悲しみ。ただこの映画で売り上げばかりにこだわるプロデューサー・カーティスが悪い奴かといえば、そういう訳でもなく、彼は彼なりに自分の理想とする大衆が望む音楽を追求していただけですしね。また彼のような.プロデューサーがいたおかげで、無名の歌手たちが注目を浴びるわけですしね。ショービジネスの世界でアートとエンターテイメントの狭間で上手く生きていくことの葛藤や難しさというものが見ていて伝わってきました。

 もちろんミュージカル映画であるので、歌の素晴らしさは折り紙つきです。R&Bの魅力が余すところなく詰め込まれています。特に私の好きな歌は『family』です。私はなぜアカデミー賞で歌曲賞をこの映画が取れなかったのか未だ持って不思議です。

 ミュージカル好きな人はもちろんの事、そうでない人もきっと満足できる映画だと思います。ぜひ良い音響の映画館でこの映画を堪能してください。歌の持つ力に感動すると思います。 

製作年度 2006年 
製作国・地域 アメリカ
上映時間 130分
監督 ビル・コンドン 
製作総指揮 パトリシア・ウィッチャー 
原作 トム・アイン 
脚本 ビル・コンドン 
音楽 ヘンリー・クリーガー 
出演 ジェイミー・フォックス 、ビヨンセ・ノウルズ 、エディ・マーフィ 、ジェニファー・ハドソン 、アニカ・ノニ・ローズ 、ダニー・グローヴァー 、キース・ロビンソン

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『コーラスライン』この映画を見て!

第129回『コーラスライン』
A_chorus_line  今回紹介する映画はブロードウェイの劇場を舞台にコーラスラインのオーディションに参加する若いダンサー達の姿を描いたミュージカル『コーラスライン』です。この映画は元々ブロードウェイの舞台として制作された作品で、マイケル・ベネット原案・振付・演出により1975年に初演されました。舞台版は大変高い評価と人気を得て、ブロードウェイで6136回という上演記録を残しました。この記録は『キャッツ』に続いて史上2番目のロングラン記録を保っています。日本でも1979年から劇団四季が上演をしており、大変高い人気を得ています。
 このミュージカルの大きな特長は劇場のステージという限定された場所で物語が進行する所と舞台を支える無名のバックダンサーたちにスポットを当てた所にあります。ブロードウェイのオーディションの厳しさや様々な人生を辿ってきたダンサーたちの舞台にかける情熱を余すことなく描いたストーリーは今までのミュージカルにはない現実感があります。夢や愛を振りまくミュージカルの舞台裏の厳しい現実。しかし、それでも舞台の魅力に取り憑かれ必死に夢を追う若者たち。その懸命な姿は見る者に深い感動を与えます。
  
 映画版コーラスラインは舞台版を忠実に再現した作品となっており、舞台版と同じく劇場のステージという限定された場所で物語が展開していきます。バックダンサーたちのオーディションを描く作品と言うことでセットや衣装もとても地味です。出演している役者もマイケル・ダグラスを除いて特に有名な役者は出てきません。演出もオーソドックスで、変にカメラワークを凝ったりすることなく、ひたすら若者たちの踊る姿を真正面から撮っています。
 映画の作り自体は特に凝ったところはないのですが、それが逆に舞台を観ているような感覚にさせてくれます。またダンスシーンの迫力は観る者を圧倒します。この映画を観ると踊ることの楽しさや面白さが伝わってきます。
 
 私が特に好きなナンバーは映画の中盤に出てくる『サプライズ・サプライズ』と誰もが知っている名曲『ワン』の2つです。
 『サプライズ・サプライズ』は黒人ダンサー・リチーの踊りに目を奪われます。そのキレとスピードと柔軟性はすごいの一言です。
 ラストに披露される『ワン』はこの映画を知らない人でもどこかで聞いたことがあるほど有名な曲です。その華やかな美しさは過酷な舞台裏のダンサーたちの情熱によって支えられているのかと思うと胸が熱くなります。
 
またマイノリティを中心に据えたストーリーもとても印象に残りました。中国系アメリカ人・プエルトリコ人・ユダヤ人など様々な人種やゲイなど社会の中で抑圧されてきた人たちが、実力さえあれば認められるショービジネス界で生きていこうとする姿はアメリカの内情を見事に描いています。

 この作品はミュージカルが苦手な人でも違和感なく見られる作品だと思います。他のミュジカル映画にはない奥の深いストーリーとダンサーたちの華麗な動きを是非見てみてください! 

製作年度 1985年 
製作国・地域 アメリカ
上映時間 118分
監督 リチャード・アッテンボロー 
脚本 アーノルド・シュルマン 
音楽 マーヴィン・ハムリッシュ 
出演 マイケル・ダグラス 、アリソン・リード 、マイケル・ブレビンズ 、テレンス・マン 、グレッグ・バージ 、ジャスティン・ロス 、キャメロン・イングリッシュ 、ブレイン・サヴェージ 、ヴィッキー・フレデリック 、オードリー・ランダース 、ジャネット・ジョーンズ 、ミシェル・ジョンソン 、カンディ・アレクサンダー 

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『嫌われ松子の一生』この映画を見て!

第70回『嫌われ松子の一生』
Memory_of_matuko  今回紹介する映画は現在劇場で公開され話題の『嫌われ松子の一生』です。この映画は中谷美紀の体当たりとも言える熱演と『下妻物語』の監督・中島哲也のキッチュでポップな演出が大きな見所となっています。
 ストーリー:「昭和22年・福岡県大野島生まれの川尻松子は、お姫様みたいに幸せな人生に憧れていた。しかし、20代で教師をクビになり、そこから人生は暗転直下、壮絶な不幸の連続にまみれた波乱万丈の人生を送ることになる。ろくでもない男たちと付き合い、風俗嬢になり、ヒモを殺害して刑務所へ送られ、やくざと恋に落ちる松子。幸せを求めながらどんどん泥沼にはまる松子の人生を明るくポジティブに、時に切なく描く。」
 私は最初はあまり興味がなかったのですが、見てきた人の周囲の評判が良く、どんな映画か気になり、先日見てきました。この映画の感想を一言で言うなら、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のストーリーと『ムーランルージュ』の映像や演出を足して2で割ったような感じの印象を私は受けました。(この2作を見たことがある人は分かると思います。)
 終始テンションの高い演出と役者の演技に、カラフルでポップな映像、ミュージカルシーンの音楽の面白さに圧倒されました。暗く救いのない主人公の人生を、どこまで明るくポジティブに捉えていく監督の手腕は素晴らしく、見終わった後、主人公の不器用な生き方にどこか清清しいものさえ感じました。特にミュージカルシーンの演出やセンスのよさは今までの日本映画では見られなかったほど、出来のよいものでした。あと個人的に、監督の片平なぎさを出したお遊びのシーンや時折挟まれるブラックユーモアな演出がツボにはまって笑ってしまいました。ただ後半ストーリーの流れや演出が少しもたつき、テンポが悪くなったのが個人的に残念でした。後20分くらい後半が短ければ、より傑作になったと思います。
 この映画の主人公・松子を演じた中谷美紀は体当たりの熱演をしています。不器用で愚かだけど、妙にポジティブな女性という難しい役どころを演じきったものです。ここまで幅広い演技が出来るとは思っていなかったので、正直びっくりしました。ただ如何にも「私がんばって演技していますよ」という印象も時折受けることがありました。また脇を固める役者もとても豪華で、見ていて楽しめました。とくに宮藤官九朗と黒沢あすかの演技がとても印象的でした。また思わぬ役どころで出る片平なぎさの姿には笑ってしまいました。
 この映画の主人公・松子の人生は一見すると不幸で救いようのない人生に思えますが、私はけっして彼女の人生は不幸なだけで意味がないものではなかったのだろうなと思います。本当に自分のことを気にしてくれる友人や愛人とも出会えましたし、彼女の人生に共感してくれる甥も現れました。この映画は絶望を描きながら、常に希望も描いています。どん底まで落ちていき、もうだめだと何度も思いながらも、希望を求めて生き延びていこうとする松子の姿に人間の生への欲求というものを感じました。人間の愚かさや醜さ、たくましさに切なさと言ったものをデフォルメした形で見事に描いていると思います。
 私はこの映画は今年の邦画ベスト3に入るほどの力作だと思っています。まだ見ていない人はぜひ劇場で見ることをお奨めします!

製作年度 2006年
製作国・地域 日本
上映時間 130分
監督 中島哲也 
原作 山田宗樹 
脚本 中島哲也 
音楽 ガブリエル・ロベルト 、渋谷毅 
出演 中谷美紀 、瑛太 、伊勢谷友介 、香川照之 、市川実日子、黒沢あすか、柄本明、AI、劇団ひとり、ゴリ、宮藤官九朗、片平なぎさ、土屋アンナ

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『ファントム・オブ・パラダイス』この映画を見て!

第66回『ファントム・オブパラダイス』
ファントム・オブ・パラダイス

 今回紹介する映画は『オペラ座の怪人』をモチーフに制作されたロックミュージカルホラー映画『ファントム・オブ・パラダイス』です。この映画は30年以上前の作品ですが、未だに根強い人気を誇っています。
 私はこの映画のタイトルだけは以前から知っていたのですが、つい最近1000円でDVDが発売さていれたので、どんな作品かと購入して鑑賞しました。見終わった後の感想ですが、非常にぶっ飛んだ映画だなあという印象を受けました。この映画に熱狂的なファンがいるのもうなずける内容と雰囲気を持っています。70年代の映画ですが今見ても、とても斬新で面白い作品です。私は異様な雰囲気を持った映像と切なく残酷なストーリー、そして耳に残るロックミュージックに圧倒されました。
 ストーリー:「ソングライターのリーチは「ファウスト」をモチーフにした組曲“ポップ・カンタータ”を、ロックミュージックのプロデューサーであるスワンに盗まれてしまう。リーチはスワンの手により無実の罪で刑務所に送り込まれていたが、復讐をするために脱走する。しかし、レコードのプレス機に頭を挟まれてしまい、リーチはマスクをした怪人となってしまう。そして、彼はスワンの夢の音楽宮殿パラダイス劇場を徘徊するようになる。そこで彼は以前スワンの屋敷であった無名のシンガー・フェニックスに出会い、恋をする。彼は彼女のために歌を作り提供しようと、スワンと契約を交わす。しかし、リーチはまともスワンにだまされ、悲劇が訪れる。
 この映画のストーリーはどこまでも残酷で救いようがなく、どこまでも切なく悲しいです。音楽業界のどろどろした内幕を描きながら、主人公の一途な愛の悲劇を描きます。ラストは救いようのない結末でありますが、主人公の報われない愛に切なさで胸がいっぱいになります。
 また出てくるキャラクターがとても強烈です。主人公のリーチは言うに及ばず、音楽プロデューサー・スワンの映画版ルパン三世「ルパンvs複製人間」のマモーのような見た目(きっとルパンがこの映画を見てパロッたのでしょうが・・)、、おかまのロックシンガー・ビーフとまともではない人たちが次から次へと出てきます。
 映像も凝ったカメラワークで有名なブライアン・デ・パルマらしく、印象に残るカメラワークがこの映画でも随所に見られます。特に分割画面はデパルマらしい映像表現でした。またヒッチコックを敬愛するデパルマだけに、途中でヒッチコックの『サイコ』のパロディーシーンも出てきます。また編集もテンポがよく、話しがスピーディーに進み、無駄なシーンが一切ありません。
 音楽も印象に残るナンバーが多いのですが、エンディングの曲が特に最高です!このような歌詞の歌で締めくくるなんて、そのセンスのよさに脱帽です。この歌で映画が引き締まっています。ちなみに音楽はこの映画でスワンを演じたポール・ウィリアムスが担当しています。クレイジーでパンクな曲からバラード調の曲まで、彼の音楽がこの映画の大きな魅力となっています。私はよく知らなかったのですが、彼はカーペンターの曲などを手がけ、70年代を代表する作曲家だそうです。
 この映画は『オペラ座の怪人』が好きな人、ミュージカル映画が好きな人は見て損はしないと思います。ぜひご覧になって、主人公の悲劇の恋に涙を流してください。 

製作年度 1974年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 94分
監督 ブライアン・デ・パルマ 
脚本 ブライアン・デ・パルマ 
音楽 ジョージ・アリソン・ティプトン 、ポール・ウィリアムズ 
出演 ポール・ウィリアムズ 、ウィリアム・フィンレイ 、ジェシカ・ハーパー 、ジョージ・メモリー 、ゲリット・グレアム 

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『ムーラン・ルージュ』この映画を見て!

第64回『ムーラン・ルージュ』
moulin_rouge 今回紹介する映画は私の大好きなミュージカル映画『ムーラン・ルージュ』です。私はミュージカル映画は大好きで昔からよく見ていたものでした。しかし、ここ最近はこれと言ったミュージカル映画があまり制作されていなかったので、『ムーラン・ルージュ』を見たときは久しぶりの本格ミュージカル映画に興奮したものでした。
 この映画を最初に見たときは、色彩豊かで幻想的な映像美と既成曲を大胆に取り入れた音楽の美しさと躍動感、そしてバス・ラーマン監督のパワフルさと繊細さを兼ね備えた演出に圧倒されました。ここまでポップでキッチュなミュージカル映画はなかなかないと思います。
 ストーリー:「19世紀末のパリの夜を象徴するナイトクラブ“ムーラン・ルージュ”。愛を求める貧乏作家クリスチャンは、ある夜ムーラン・ルージュで高級娼婦サティーンに出会う。サティーンはムーラン・ルージュを抜け出し、本格的な役者になることを憧れていた。恋に落ちる二人。しかしクラブはそのころ経営困難で、支配人のジグラーはウースター公爵にサティーンを紹介して、クラブの経営支援をしてもらおうと考えていた。公爵はサティーンを自分の女とすることを引き換えにクラブのショーの出資を引き受ける。公爵の目を気にしながらも、愛を深める2人。しかし、そんな彼らに悲劇が訪れる・・。」
 ストーリーはとてもシンプルな悲劇のラブストーリーです。ある意味とてもべたな話なのですが、そんな話を色彩豊かで絢爛豪華な映像と20世紀を代表するポップナンバーを使用した音楽が最高に盛り上げてくれます。
 まず映像ですが、華麗な美術や衣装は見る者をうっとりさせますし、大胆なカメラーワークや短いカット割りは躍動感を映像に与えています。またミュージカルシーンでのCGを多用した幻想的な映像表現は見ていてとても楽しいです。
 音楽もエルトン・ジョンやマドンナ、デビット・ボーイなどの有名なポップスナンバーからの引用が多いのですが、ストーリーにとてもぴったりはまっています。セリフで言われると気恥ずかしくなるような愛の言葉も歌を通して伝えられるとすっと胸に入ってきます。これは音楽のなせる力だと思います。出演している役者たちの歌い方がとても上手なのも大きな驚きです。特にユアン・マクレガーの歌声は最高です!
 この映画は映像も音楽もポップで美しく、見ていて楽しく、それでいて後半はウルッときます。ミュージカル好きな人もそうでない人もとても楽しめると思いますので、ぜひ見てみてください!
制作年度 2001年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 128分
監督 バズ・ラーマン 
脚本 バズ・ラーマン 、クレイグ・ピアース 
音楽 クレイグ・アームストロング 、マリウス・デ・ヴリーズ 、スティーヴ・ヒッチコック 
出演 ニコール・キッドマン 、ユアン・マクレガー 、ジョン・レグイザモ 、ジム・ブロードベント 、リチャード・ロクスバーグ 

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『サウンド・オブ・ミュージック』この映画を見て!

第35回『サウンド・オブ・ミュージック』
こんな人にお奨め!「ミュージカル映画大好きな人、音楽を愛する人、明るい気持ちになりたい人」
サウンド・オブ・ミュージック プレミアム・エディション 今回紹介する映画は映画史においても燦然と輝きつづける名作『サウンド・オブ・ミュージック』の紹介です。この映画の一番の魅力は名ナンバー揃いの「歌」です。「サウンド・オブ・ミュージック」「ドレミの歌」「エーデルワイス」「私のお気に入り」と誰もが一度は聞いたこと、又は歌ったことある曲が使われています。その為、ミュージカルはちょっと苦手な人でも、この映画はすんなり見られると思います。この映画で使われている歌は聴いていて、どれも楽しく美しい曲ばかりです。この映画を見終わると「歌」がもつ魅力や力というものがとてもよく分かります。
 私がこの映画を始めてみたのは小学生の時で、私の母がミュージカル好きだったので、一緒に見た記憶があります。子どもながらに、映画で流れる歌に感動し、はらはらどきどきのストーリーに夢中になったのを覚えています。
 ストーリー:「修道女見習いのマリアは、修道院では問題児だった。そこで院長は、マリアをトラップ大佐の家に送りこむ。そこには母のいない7人のひねくれた子供たちがいた。家庭教師として7人の子どもたちの面倒を見るマリア。トラップ家に受け入れられたマリアは、やがて大佐への恋心に気づく。そしてマリアは大佐と結婚する。しかし、第2次大戦が始まり、大佐はナチに追われる身となる。」
 この映画のストーリーはマリア・フォン・トラップによって書かれた自叙伝「トラップ・ファミリー合唱団物語」の前編を基に作られています。戦争の影がちらつくオーストリアを舞台に、ドラマチックなストーリーが展開されるのですが、映画は前半と後半で色合いがだいぶ違っています。前半はマリアと子どもたちの友情やマリアと大佐の恋などが描かれ、見ていて楽しいのです。しかし、後半は戦争の影が色濃くなり、ナチの支配下のオーストリアから脱出しようとする一家の姿を描き、とてもスリリングな展開になります。
 私がこの映画で一番印象的なのは映画のクライマックス、音楽祭に一家が出場するシーンです。ナチの支配が進み、祖国が失われようとしている今、大佐が祖国への愛を込めて「エーデルワイス」を歌うシーンは胸にぐっと来るものがありました。このシーンでこの映画は単なるミュージカル映画にはない深いメッセージをもつ映画になったと思います。
 この映画は歌・ストーリー以外にも見所は満載です。オープニングのアルプスからザルツブルクまでの空中撮影の雄大さ、後半のスリリングな脱出劇の展開などは映画ならではの醍醐味を味わえます。またキャスティングもとても素晴らしく、マリアを演じたジュリー・アンドリュース始め、大佐役のクリストファー・プラマーや子役の演技もとても上手です。
 この映画は3時間と長い映画でありますが、歌の素晴らしさとストーリーの面白さで飽きることなく見させてくれます。ぜひこの映画史に残る名作を皆さんも見てみてください。

製作年度 1964年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 174分
監督 ロバート・ワイズ 
脚本 アーネスト・レーマン 
音楽 アーウィン・コスタル 、リチャード・ロジャース 、オスカー・ハマースタイン二世 
出演 ジュリー・アンドリュース 、クリストファー・プラマー 、エリノア・パーカー 、リチャード・ヘイドン 、ペギー・ウッド 

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この映画を見て!「プリシラ」

第11回「プリシラ」

プリシラ

見所:ドラッグクィーンの生き様と華麗な衣装

この映画は私にとって、栄養ドリンクのような存在で、疲れたときや落ち込んだときによく見ています。この映画、3人のドラッグクィーン(女装のゲイ)がショーに参加するためにオーストラリアの広大な砂漠の中をバスで旅するというシンプルなお話です。

ドラッグクィーンって何?という人のために少し解説します。ドラッグクィーンとは華美な女装をした男性同性愛者のことです。期限は1700年頃までにさかのぼります。当時は西洋では女性が舞台に上がることが許されなかったために、男性が女性の役を演じていました。(日本の歌舞伎の女形みたいなものです。)そんな彼らが身につけていたドレスが裾の長いドレスだったそうです。そんな服を着る役者もDrags(引きずる)role(役)と呼ばれ、そこからDragと呼ばれるようになったそうです。そんな彼らが20世紀にはいるとフロアショーなどに出るようになり、1920年代のドイツでのパーティで今日知られている派手な服を着た人たちが現れ、1930年代のパリの夜の街に入り込んでいったそうです。1960年代からはミュージックシーンでも見られるようになったそうです。

ストーリー:「派手で華美な女装をして、アバやビレッジピープルなどの歌を口パクで歌うショーをしている3人のドラッグクィーン。彼らはオーストラリアの砂漠の中にあるリゾートホテルでのショーに参加するために中古バスを借りて、旅に出る。個性の強い3人は旅の途中で喧嘩をしたり、田舎町で偏見や差別にあったり、道中で出会った男性と恋に落ちたりと波乱万丈の珍道中。そんな笑いあり、涙ありのストーリーの中で浮かび上がる、ドラッグクィーンとして生きる苦悩やつらさ、そしてドラッグクィーンとしての夢や誇り。差別や偏見に傷つきながらも、めげることなく自分らしく生きていこうとする彼ら3人の姿を描く。」

この映画の見所は、衣装です。次から次に出てくる華麗で派手な衣装にみんな目を奪われると思います。(アカデミー賞衣装デザイン賞受賞)どこまでも広がる青空と砂漠と彼らの派手な衣装のコントラストはとても美しいです。

また映画の中で流れる曲は70年代のディスコクラッシックと呼ばれるような曲が多く選ばれており、どれも名ナンバーで素晴らしいです。映画の中で流れるこれらの曲を聴くだけで、元気になれます。
 

映画の中で流れる曲は以下の通りです。

1.愛はかげろうのように(シャーリーン)
2.ゴー・ウェスト(ヴィレッジ・ピープル)
3.ビリー・ドント・ビー・ア・ヒーロー(ペイパー・レイス)
4.マイ・ベイビー・ラウズ・ラヴィン(ホワイト・ブレインズ)
5.アイ・ラヴ・ザ・ナイトライフ(オリジナル・ヴァージョン)(アリシア・ブリッジズ)
6.キャント・ヘルプ・ラヴィン・ザット・マン(トラディ・リチャーズ)
7.恋のサヴァイヴァル(グロリア・ゲイナー)
8.ファイン・ロマンス(レナ・ホーン)
9.シェイク・ユア・グルーヴ・シング(オリジナル・ヴァージョン)(ビーチズ&ハーブ)
10.イフ・ザ・サン・ドント・シャイン(パティ・ペイジ)
11.ファイナリー(7″チョイス・ミックス)(シー・シー・ベニストン)
12.テイク・ア・レター・マリア(R.B.グリーヴス)
13.ママ・ミア(アバ)
14.セイヴ・ザ・ベスト・フォー・ラスト(ヴァネッサ・ウィリアムス)
15.アイ・ラヴ・ザ・ナイトライフ(リアル・ラビーノ 7″ミックス)(アリシア・ブリッジズ)
16.ゴー・ウェスト(オリジナル 12″ミックス)(ヴィレッジ・ピープル)
17.恋のサヴァイヴァル(1993フィル・ケルシー・クラシック 12″ミックス)(グロリア・ゲイナー)
18.シェイク・ユア・グルーヴ・シング(オリジナル 12″ミックス)(ビーチズ&ハーブ)
19.アイ・ラヴ・ザ・ナイトライフ(フィリップス・ダミアン・エクステンディッド・ヴォックス)(アリシア・ブリッジズ)

あと、この映画の主役3人を演じている俳優たちがとても魅力的です。 まず名優テレンス・スタンプ。60年代から活躍している俳優で「テレオマ」や「コレクター」などの作品が有名ですが、この映画では一番年長で、酸いも甘いも様々な人生体験をしてきたドラッグクィーンの生き様を貫禄ある演技で見せてくれます。続いてヒューゴ・ウィーヴィング。彼は最近「マトリックス」のスミス役や「ロード・オブ・ザ・リング」のエルフの王など大作映画に引っ張りだこですが、この映画では子持ちの父親であるドラッグクィーンの苦悩や葛藤をとてもうまく演じています。最後にガイ・ピアース。「メメント」などで有名ですが、この映画で夢と希望にあふれ、まだ人生を知らない若いドラッグクィーンを好演してます。

この映画、ドラッグクィーンの生き様を描く映画ということで、見るのを躊躇する人もいるかもしれませんが、主人公たちのめげないを見ると、とても元気がでます。是非、疲れたとき落ち込んだときに見てください!とてもハッピーな気持ちになりますよ。

製作年度 1994年
製作国・地域 オーストラリア
上映時間 103分
監督 ステファン・エリオット 
脚本 ステファン・エリオット 
音楽 ガイ・グロス 
出演 テレンス・スタンプ 、ヒューゴ・ウィーヴィング 、ガイ・ピアース 、ビル・ハンター 、サラ・チャドウィック

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この映画を見て!「ダンサー・イン・ザ・ダーク」

第7回!「ダンサー・イン・ザ・ダーク」

見所:主演女優ビョークの演技と魂を揺さぶる歌声、そして賛否両論分かれる結末

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この映画を私が最初に見たのは、ちょうど5年前のお正月でした。毎年1月1日の映画の日に家族で映画を見に行っており、この映画をミュージカル映画だという情報しか知らなかった我が家族はこの年の正月にこの映画を見ることを選びました。私の家族はミュージカル映画が好きだったので、その延長でこの映画を見にいったのですが、見終わった後、すぐに正月気分が飛び、家族みんな考えこみながら帰ったのを覚えています。

 

 この映画はハリウッドのミュージカル映画好きの人が行くと、期待を裏切られますし、一般的なハリウッド娯楽映画好きの人が見ると重くとても後味が悪い映画です。また気分の落ち込んでいるときに見るのは避けたほうがいい映画です。

ここまでの感想を読むと見るのを止めたくなると思うのですが、私は一度はぜひ見て損のない映画だと思っています。

この映画の最大の見所は主人公を演じるアイスランド出身の歌手、ビョークの演技と歌声にあると思います。ストーリーは好き嫌い分かれると思いますが、映画の中のミュージカルナンバーは曲・詩とも美しく、ビョークの歌声は見る人の魂を揺さぶる感動を与えてくれます。とくにラストのビョークの歌う姿・声はもはや歌姫といった感じで鳥肌ものです!またミュージカルシーンの美しさやユニークなアングルでの撮り方は一見の価値ありです。

ストーリ:「アメリカに一人息子と共に移民として渡ってきた主人公セルマ。主人公と息子は共にいつか失明する進行性の目の疾患を持っており、主人公は息子の目を助けようと下町の工場で働き、手術のお金を貯めている。そんな主人公の唯一の楽しみはアメリカのミュージカル。厳しい現実の中頭の中では自分もミュージカルの主人公となることで、自分を支えている。そんなある日、息子の手術代を近所の友人に盗まれてしまうことから悲劇がが始まる。」

この映画はハリウッドが作ってきた今までのミュージカル映画とまったく違っています。まずミュージカルシーンはすべて主人公の女性のこうあって欲しいと願う心象風景として描かれており、現実のシーンとはっきりと分かれています。現実のシーンは手持ちカメラ1台で主人公の姿をドキュメンタリータッチで生々しく捉え、ミュージカルシーンはデジタルビデオを100台以上使い、巧みな編集で幻想的かつ躍動感のあるシーンになっています。この二つのシーンの巧みな使い分けが主人公の置かれている現実と理想の差を鮮烈に表現してます。

ストーリーは前半、淡々と主人公の状況説明するシーンが続くので、眠くなるかもしれません。しかし中盤から主人公に訪れる悲劇を描くあたりから、目の離せない展開になります。主人公のとる行動一つ一つが一般の人から見ると不可解で、自分から不幸を招いているような印象をもつと思います。もっとこうしたら何とかなるのにと思う所が何箇所もあります。主人公のあまりの不器用さ、頑固さは、見る人をいらいらさせるかもしれません。そんな主人公のとる行動をどう受け取るかで、この映画の評価は分かれてくると思います。

また登場人物を通して、人間の強さ・美しさ・やさしさと弱さ・醜さ・愚かさの両面がこれでもかというほど描かれています。それは見る人を感動もさせ、とても不快にもさせます。監督は人間の両面を執拗に描く中で、生きていくことの意味を、見る人に問題提起しています。

さらに、この映画はアメリカのお家芸のミュージカルを逆手にとり、痛烈なアメリカ批判をしている映画でもあります。アメリカの民主主義・自由・ヒューマニズムの底の浅さを痛烈に批判しています。特に後半の裁判のシーンは必見です。

この映画のラストはある意味、とても重いものです。救いようの無いようなラストに見えるかもしれませんが、私は主人公にとって、残酷な舞台の上ではありますが、最後に現実の世界でみんなの前で歌を披露できたという意味では、救いようがあったのではと思っています。

この映画は見る人に感動か不快感のどちらかの印象を与えます。きっと監督は確信犯的に見る人がどちらの印象も取れるように作ってあります。みなさんはこの映画にどういう印象をもたれるでしょうか?ぜひ機会があればご覧下さい。

製作年度 2000年
製作国・地域 デンマーク
上映時間 140分
監督 ラース・フォン・トリアー 
製作総指揮 ペーター・オールベック・イェンセン 
脚本 ラース・フォン・トリアー 
音楽 ビョーク 
出演 ビョーク 、カトリーヌ・ドヌーヴ 、デヴィッド・モース 、ピーター・ストーメア 、ジャン=マルク・バール 

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