2008年2月 3日 (日)

『ベティ・ブルー インテグラル完全版』この映画を見て!

第198回『ベティ・ブルー インテグラル完全版』
Photo_2  今回紹介する作品は純度100%の恋愛映画『ベティ・ブルー』です。本作品は『ディーバ』で鮮烈なデビューを放ったジャン=ジャック・ベネックスが脚本も兼任して製作した力作で、情熱的な女と作家を目ざす男の鮮烈な愛を描いています。公開当時は切ないストーリリーと美しい映像、そして大胆な性描写が大変話題を呼び、世界中で大ヒットしました。

 ストーリー:「海辺のコテージで1人暮らしをする修理工のゾルグはウエイトレスのベティと恋に落ちて同棲を始める。セックスに耽るベティとゾルグ。ベティは大変気性が激しく自分が気に入らないことがあるとすぐに見境なく怒り出す女性だった。ゾルグはそんなベティを優しく見守っていた。そんあある日、ベティは怒って自宅の物を放り出している最中、ゾルグの書いた小説に心奪われる。ゾルグを何とか小説家にさせようとベティは画策するがなかなか上手くいかない。そんな中、ベティは彼の子供を身ごもったのではないかと思い喜ぶ。しかし、それもベティの勘違いだった。落胆するベティ。ベティの純粋な心は次第に破綻していき狂気へと陥っていく…。」

 私は本作品を始めて見た時は、あまりにも痛切な純愛物語に大変衝撃を受けたものでした。恋愛映画は古今東西数多くありますが、本作品ほど見ていて主人公たちのほとばしる感情に心動かされ、愛の痛みと苦しみに涙した作品はありません。

 本作品の主人公であるベティが愛する者のためにひたすら真っ直ぐに尽くそうとする姿は純粋さと狂気に満ちていて見ていて圧倒されました。己を捨てて相手に尽くす姿は客観的に見ると愚かにさえ見えますが、愛に身を捧げた者にすれば己などどうでもいいんだろうなと見ていて思い、ひたすら愛に生きる女の凄みを感じました。

 またベティのような情熱的かつ気性も激しく付き合うには男性側も大変エネルギーのいると思います。最初見た時はひたすら全身で受け止めようとするゾルグの姿に同じ男性ながら尊敬してしまいました。
 しかし、何度か見返すうちにベティがゾルグを生きるために必要としていたというより、ゾルグがベティを生きるために必要としていたことに気づきました。ゾルグは己にはないベティの純粋な愛と狂気に憧れ、そんな女性を受け止め愛していくことで己の人生の憧れという名の欲望を満たしていたと思います。
 
 本作品は献身的な愛の素晴らしさや悲しさを描いているだけでなく、愛に潜むエゴイズムの悲しみや切なさまで踏み込んで描いているからこそ、見ている側も心打たれるのだと思います。

 映像や音楽も大変美しく印象的です。映像に関していえば赤い服や黄色のベンツなど色の使い方も巧みですし、前半の家が燃えるシーンや夕焼けの平原に佇む主人公たちを捉えたシーンはまるで絵画のようです。
 音楽もピアノで奏でられる切ないメインテーマが大変耳に残ります。

 あと私が本作品の好きなところは主人公をとりまく人たちのユーモラスな描写です。作家希望の刑事、歌を唄い見送る交通取締りの警察官、片手を失ったゴミ収集のおじさん、トイレで麻薬を売るおじさん。主人公たちと周囲の人たちとの何気ない微笑ましい描写が映画の良いアクセントになってます。
  
 本作品は1986年に劇場で初公開された2時間のヴァージョンと今回紹介したディレクターズ・カットの3時間のヴァージョンと2つあります。初公開版はベティの描写が中心でありますが、ディレクターズ・カット版はゾルグの心情に関する描写が増えており、どちらを見るかによって大きく印象が変わります。興味のある方は是非見比べてほしいと思います。

上映時間 185分
製作国 フランス
製作年 1992年
監督: ジャン=ジャック・ベネックス 
原作: フィリップ・ディジャン 
脚本: フィリップ・ディジャン 
撮影: ジャン=フランソワ・ロバン 
音楽: ガブリエル・ヤーレ   
出演: ベアトリス・ダル , ジャン=ユーグ・アングラード, コンスエロ・デ・ハヴィランド, ジェラール・ダルモン

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2007年8月30日 (木)

『耳をすませば』この映画を見て!

第172回『耳をすませば』
Whisper_of_the_heart  今回紹介する作品はスタジオジブリが製作した青春映画の傑作『耳をすませば』です。
 柊あおいの同名漫画を原作にした本作品。宮崎駿が脚本と絵コンテを手がけ、スタジオジブリの数多くの作品で作画監督を務めた近藤喜文が監督を手がけました。
 
 宮崎さんは以前から少女漫画の映画化を検討していたそうです。しかし、なかなか映画化できそうな原作にめぐりあえないでいたそうです。
 そんな中、「りぼん」に連載されていた原作をたまたま読む機会があり、非常に好印象を持ったそうです。そして、原作のピュアな部分を大切にしながら、現代の閉塞した時代の中で豊かに生きることは何かを問う作品を製作することを決めたそうです。
 
 ストーリー:「両親と大学生の姉と東京近郊の団地に住む月島雫は読書好きの中学3年の女の子。夏休みは図書館に通い読書三昧だったが、自分の読む本を全て先に借りて読んでいる「天沢聖司」の名前に気がつく。雫は天沢聖司について調べ、実は同級生だったことを知る。
 そんなある日、図書館への道で変な猫を見つけ、その猫を追いかける。猫に導かれ、丘の上にある小さなアンティークショップ「地球屋」へたどり着く。雫は店の主人である老人・西司朗と出会う。西老人は聖司の祖父で、彼は地球屋のアトリエでヴァイオリンを作っていた。聖司はヴァイオリン職人になるために中学卒業後はイタリアへ留学したいという夢を持っていた。聖司に比べて確固たる夢をもたない雫は自分のこれからについて悩み始める。そして、雫も自分を試そうと自分の夢を求め、小説を書き始める。」
 
 私がこの作品に出会ったのは高校3年生の夏休みでした。ちょうど私も自分の進路や将来について悩んでいた時期で、自分の夢に向かって真直ぐに進もうとする映画の主人公たちに強い影響を受けたものでした。
 特に何がしたいわけでなく、親や教師の言われるままだった当時の自分。そんな自分に「人生これで良いのか?」と人生を見つめ直す機会を与えてくれました。そして、高校卒業後は自分の夢や希望に基づいた人生の選択することができました。私はこの作品に出会ったおかげで今後悔のない人生を送れているといっても過言ではありません。

 この作品の脚本を手がけた宮崎さんは恋愛の駆け引きや内面の揺れ動く感情を描く恋愛ドラマでなく、素直に恋愛感情を表現するラブロマンスを描きたかったそうです。そんな宮崎さんの思いが反映されたストーリーは見ている側が恥ずかしくなるほどとてもストレートな恋愛ドラマが展開されていきます。特にラストシーンの聖司が雫に言うセリフは直球過ぎて始めて見た時は驚きましたが、何回も見返す内にあのセリフに清清しさを感じるようになりました。この作品を見るとお互いが響きあい成長しあう恋愛って素晴らしいなってしみじみ思います。
 またこの作品は恋愛ドラマの側面と共に、夢を追う少年・少女たちの現実と格闘する姿が熱く描かれます。ヴァイオリン職人を目指す聖司。そんな彼の姿に影響され、小説家を目指し始める雫。二人の夢に向かってひたむきに努力する姿は今見ても心打たれるものがあります。厳しい現実にぶつかりながらも夢を持ち続けることの素晴らしさや大切さをこの映画は見る者に思い出させてくれます。
 原作はもっとほんわかした恋愛ドラマなのですが、宮崎さんはそれを見事に改変して、熱い青春ドラマに仕上げています。 

 この作品で初めて監督を手がけた近藤喜文さんは普段見慣れている日常の風景や登場する人物たちの何気ない日常の仕草を丁寧に描くことにこだわったそうです。そんな監督の日常へのこだわりが宮崎さんの理想が反映されたストーリーにリアリティを与えたと思います。
(近藤喜文さんはこの作品を監督した3年後に47歳の若さで亡くなられました。スタジオジブリの中では宮崎監督や高畑監督の跡を継ぐ監督と期待されていただけに残念です。)

 この作品は音楽も素晴らしく、特に主題歌のカントリーロードは映画のテーマにぴったりあっており、映画を見た後に思わず口ずさんでしまうほどです。

 この作品は夢を追い求めることの素晴らしさと厳しさを見る者に教えてくれます。自分の人生を見失いかけたとき、将来について悩んだときはぜひこの作品を見てください!  

製作年度 1995年
製作国・地域 日本
上映時間 111分
監督 近藤喜文 
製作総指揮 徳間康快 
原作 柊あおい 
脚本 宮崎駿 
音楽 野見祐二 
出演もしくは声の出演 本名陽子 、高橋一生 、小林桂樹 、露口茂 、立花隆 、室井滋 、山下容莉枝 、佳山麻衣子 、中島義実 、飯塚真弓 、高山みなみ 、岸部シロー 、

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2007年2月11日 (日)

『街の灯』この映画を見て!

第143回『街の灯』
City_light  今回紹介する作品はチャップリンの映画の中で最もロマンティックかつ深い余韻を残す恋愛映画『街の灯』です。
 盲目の花売りの少女に恋をした浮浪者の主人公。何とか彼女を救おうと一人奮闘する姿をユーモラスに描きます。

 私がこの作品を始めてみた時、ラストシーンはハッピーエンドだと思っていましたが、何回か見るたびにラストシーンは決してハッピーエンドだとは言えず、むしろとても残酷なラストであるのではないかと思うようになりました。
 ラストは主人公のおかげで目が治った女性が、初めて恩人である主人公の姿を始めて見るのですが、その時の女性の表情。そこには恩人に対する感謝と言うより失望が感じ取れます。自分を救ってくれた恩人は金持ちの紳士だと思っていたのに、目の前に現れたのは小汚い浮浪者だったという真実。チャップリン演じる主人公も女性のリアクションを見て何とも困惑した笑顔を見せて映画は終わります。
 私はこのラストシーンを見るたびに現実の残酷さに胸が締め付けられます。別に女性がひどい人間というわけではありません。女性が恩人に対して理想を抱くことは仕方のないことです。人間は決して外見だけで判断できるものではありません、しかし人間は理想を抱く時どうしても外見をも美化してしまうところがります。この映画はそんな人間の悲しい業を真正面から描いています。だからこそラストシーンは単なる感動を超えた深い余韻を見る者に与えます。

 またこの作品は貧富の問題に対するチャップリンの怒りや悲しみといったものが強く感じられます。映画の冒頭の除幕式のシーンの痛烈な皮肉、酔っ払っているときといないときで態度を豹変させる身勝手な金持ちの男。貧困層の富裕層に対する憧れ。この作品は富める者の愚かさと貧しい者の哀しみが見事に描かれています。

 チャップリンのコメディアンとしてのセンスも冴え渡っており、中盤のボクシングシーンはその計算されつくした演技に腹を抱えて笑ってしまいます。
 サイレント映画はトーキー映画と違い動きと表情だけで全てを表現するので、役者の演技力が問われます。この映画を見るとチャップリンを始めとする登場人物たちの演技の上手さに改めて感心します。

 映画史に残るこの傑作をぜひ多くの人に見て欲しいです。 

製作年度 1931年 
製作国・地域 アメリカ
上映時間 86分
監督 チャールズ・チャップリン 
脚本 チャールズ・チャップリン 
音楽 アルフレッド・ニューマン 
出演 チャールズ・チャップリン 、ヴァージニア・チェリル 、フローレンス・リー 、ハリー・マイアーズ 、アラン・ガルシア 、ハンク・マン 、ジョン・ランド 、ヘンリー・バーグマン 、アルバート・オースチン 

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2006年10月31日 (火)

『ほしのこえ』この映画を見て!

第123回『ほしのこえ』
Hosinokoe  今回紹介する作品は携帯メールをモチーフとした、宇宙で異星人と戦う少女と地球に残った少年の超遠距離恋愛を描いたフルCGアニメ『ほしのこえ』です。この作品は新海誠監督がほぼ一人で、作画から動画、背景に至るまで全て手がけた自主制作アニメということで大変話題になりました。
 
 ストーリー:「2046年、埼玉の中学校に通う長峰美加子と寺尾昇は部活が同じで、とても仲が良かった。しかし、長峰が国連宇宙軍のロボットパイロットのメンバーに選抜され、寺尾を残して宇宙に旅立ってしまう。2人は携帯のメールを使ってやり取りをする。だが長峰が地球から離れれば離れるほどメールのやり取りに時間がかかるようになる。2人の距離が離れるにつれて、時間のズレがどんどん広がっていく。しかし、どんなに距離が離れても、お互いの思いは決して離れることはなかった・・・。」
 
 この作品は25分の短編の作品ですが、とても密度の濃い作品です。ストーリーはとても切ないものですが、人間の絆の強さを感じることができます。遠く離ればなれになった恋人同士のお互いに寄せる思い。それを携帯メールという現代的なツールを使って見事に描いています。人が人に寄せる思いというものは信頼という絆があれば、時空を超えて結びつくことができるものだということをこの映画は教えてくれます。
 映像も自主制作とは思えないほどクオリティが高いです。特に背景の美しさは特筆もので、ノスタルジックな雰囲気を醸し出しています。また戦闘シーンもエヴァンゲリオンの影響を強く感じますが、迫力満点で見応えがあります。
 ただキャラクターデザインに関してはもうひとつ魅力に欠けていたような気がしました。
 
 この作品は見ていて、『エヴァンゲリオン』や『トップをねらえ』などGAINAX作品の影響を強く感じました。止め絵の多さや戦闘シーンの描き方、主人公とヒロインの人間関係だけに焦点を当てたセカイ系のストーリーなどはエヴァを思い出させました。また少女がロボットのパイロットになって異星人と戦うところやウラシマ効果を活かしたストーリーなどは『トップをねらえ』を思い出させました。この作品は過去のGAINAX作品へのオマージュを強く感じました。

 この作品はMac一台で個人が制作したアニメとは思えないほど見応えのある作品です。粗も多く見られますが、アニメ好きなら一度は見て損はないと思いますよ。

製作年度 2002年 
製作国・地域 日本
上映時間 25分
監督 新海誠 
脚本 新海誠 
音楽 天門 
出演 篠原美香 、新海誠 、武藤寿美 、鈴木千尋

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2006年10月 8日 (日)

『時をかける少女』(2006年版)この映画を見て!

第118回『時をかける少女』(2006年版)
「待ってられない 未来がある」
Time_wait_for_no_one  今回紹介する映画は『ゲド戦記』を抜いて2006年夏一番面白いアニメ映画として評判の高い『時をかける少女』です。『時をかける少女』は最初ミニシアター系の公開でほとんど話題になっていませんでした。しかし公開されると同時に多くの観客や批評家の支持を受け、またたく間に全国拡大公開になりました。
 筒井康隆原作の『時をかける少女』は今までにも映画化やドラマ化を何度もされている有名な作品です。特に大林宣彦監督が原田知世を主演にして制作した1983年公開された『時をかける少女』は知名度・人気共に高く、主題歌も大ヒットしました。今回のアニメは何と8回目の映像化になります。
 今回この原作をアニメ映画化したのは細田守というアニメ監督であり、ポスト宮崎駿とも言われており、アニメ業界の中で現在一番注目されています。細田監督はスタジオジブリの『ハウルの動く城』の監督を当初手がける予定であったほどの実力派です。細田監督は原作のファンで自ら映画化を熱望したそうです。脚本は『学校の怪談シリーズ』の脚本家・奥寺佐渡子を招き、9ヶ月かけて練り上げたそうです。またスタッフもスタジオジブリの美術を担当してきた山本二三や『エヴァンゲリオン』のキャラクターデザインで有名な貞本義行など実力派が結集しています。
 
 私がこの映画の存在を知ったのは公開されて時間が経ってからでした。ネット上で多くの人がこの映画をこの夏一番の映画と絶賛する感想を書いているのを読み、どんな映画なのかとても気になっていました。私の住んでいる地区では公開がすでに終わっており、DVDが出るまでは無理かなと諦めていていました。しかし、たまたま実家のある愛媛に用事があって帰ってみると、何とこの映画が劇場公開中であり、早速鑑賞してきました。
 
 映画を見終わっての感想ですが、さわやかで、ほろ苦く、大人が見ると懐かしさで胸がいっぱいになる素晴らしい青春映画でした。映画のラストは切なさのあまり不覚にも泣いてしまいました。タイムトラベルものとしては少し矛盾や説明不足な点もありますが、青春恋愛ものしては共感できる点の多い作品で、もう一度見たいと思わせる魅力があります。一見地味な作品ではありますが、中身のしっかりとした作品です。多くの人がこの映画を支持する理由がよく分かりました。

 この映画のストーリーは時間を超える能力を身につけた少女・紺野真琴の一夏の恋と成長を描きます。真琴はふとしたことから時間を超える能力・タイムリープを身につけます。最初は時間を戻せる力を使って、自らの都合の良いように過去を変えようしまう。しかし過去を変えれば変えるほど、周囲に迷惑がかかることに気付く真琴。何とかしようと過去をいじくればいじくるほど事態は悪化していきます。そして、真琴はタイムリープの秘密を知り、かけがえのない今という一瞬の大切さ、そして未来向かって進むことの大切さに気付きます。
 この映画のテーマはとてもストレートなものです。二度とやり直せないからこそかけがえのない今という時間。移り変わる時の流れの中で、どんなに今のままでいたいと思っても自分も周囲も変わっていってしまうという切なさ。この映画はやり直しのきかない人生だからこそ、一つ一つの選択がかけがえのないものだということ当たり前のことに改めて気付かせてくれます。

 最初は笑わせながら、後半徐々にシリアスな展開になり、気付いたら切なさで涙が溢れてくるというストーリーの流れも素晴らしいです。また映像も素晴らしく、学校や街、空の何気ない背景描写の丁寧さには感心しました。特に夏の青空の清々しさや夕暮れの川辺のシーンの切なさは印象的でした。またピアノをメインにした音楽も映像とマッチしており美しく、映画の挿入歌や主題歌も映画の内容にあっており主人公・真琴の気持ちがよく伝わってきます。映画のクライマックスシーンに流れる挿入歌『変わらないもの』は観客の涙腺を刺激しますし、映画のラストに流れる主題歌『ガーネット』は映画の余韻を味あわせてくれます。
 
 ここまで自然に涙が出てくる作品ってあまりないと思います。笑って、どきどきハラハラして、最後は切なさとさわやかさで胸がいっぱいになる『時をかける少女』。私は今年一番の作品だと思います。ぜひ多くの人に見て欲しいです。

 公式サイト:http://www.kadokawa.co.jp/tokikake/

製作年度 2006年 
製作国・地域 日本
上映時間 98分
監督 細田守 
原作 筒井康隆 
脚本 奥寺佐渡子 
音楽 吉田潔 
出演 仲里依紗 、石田卓也 、板倉光隆 、原沙知絵 、谷村美月 、垣内彩未 、関戸優希 

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2006年8月21日 (月)

『NANA』この映画を見て!

第99回『NANA』
Nana   今回紹介する映画は昨年大ヒットした矢沢あいの少女コミックが原作の『NANA』です。私は原作を読んだことはないのですが、映画はとても楽しませてもらいました。
 ストーリーは少女マンガを原作にしているだけあって、若い女性の複雑な恋愛模様と友情をきめ細やかに描いています。かわいく天真爛漫な女性・奈々とクールでかっこいい女性ナナという対照的な2人のNANAという女性を主人公に持ってきたところがこのストーリーの面白さであり素晴らしさだと思います。特に性格・雰囲気共に対照的な2人がお互い支えあっていく友情がとても見ていて素敵だなと思いました。映画のラストも爽やかで心温まるものがありました。
 また二人が住むマンションの美術や二人の衣装もおしゃれで、可愛く、少女マンガの持つ雰囲気を見事に表現できていたと思います。
 ライブやコンサートのシーンも臨場感をよく捉えていましたし、映画で流れる歌もとてもよかったです。特に映画の中に登場するTRAPNEST(トラネス)のボーカルのレイラの歌声は美しく、聞きほれました。もちろん中島美嘉の主題歌も最高でした。
 
 私がこの映画で印象的だったのは、宮崎あおい演じる小松奈々の存在でした。天真爛漫で純粋だけど、男性から見ると付き合い難い女性・奈々を見事に表現していました。宮崎あおいの演技の上手さを改めて認識しました。
 もう一人のナナを演じた中島美嘉も見た目はクールで強気だけど、実は昔の恋人を思い続ける女性を熱演していましたが、演技自体は宮崎あおいに比べると駄目でした。しかし、本業が歌手というだけあって、歌うシーンはとても素敵でした。
 あと役者で言うと私がこの映画を見て非常に違和感を感じたのが、松田龍平演じるレンでした。どうみても彼はバンドをしているように見えないし、かっこよくもないし、演技も下手くそだし、なぜ彼を起用したのかが不思議でした。
 この映画は続編が制作されるそうですが、宮崎あおいが降板するとのことで、非常に残念です。市川由衣が奈々を演じるそうですがどうなるか心配です。ナナの恋人・レン役も松田龍平から姜暢雄へ変わるそうですが。こちらに関しては姜暢雄という役者がどんな人か分からないので何ともいえません。
 私はこの映画を見て、原作の『NANA』がとても読みたくなりました。近いうちに買って読んでみようと思います。きっと原作を読むと、映画の印象はまた変わるのでしょうね。

制作年度 2005年
製作国・地域 日本
上映時間 114分
監督 大谷健太郎 
原作 矢沢あい 
脚本 浅野妙子 、大谷健太郎 
音楽 上田禎 
出演 中島美嘉 、宮崎あおい 、成宮寛貴 、松山ケンイチ 、平岡祐太 、松田龍平

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2006年8月13日 (日)

『アメリ』この映画を見て!

第95回『アメリ』
Ameri  今回紹介する映画は見た人を幸せにする恋愛映画『アメリ』です。この映画は公開当時フランスや日本でも大ヒットを飛ばし、アメリブームが巻き起こりました。この映画の監督は『エイリアン4』や『ロスト・チルドレン』などダークでグロテスクな映画を撮ることで有名なジャン=ピエール・ジュネが担当。今までの彼の作風とは打って変わって、お洒落でお茶目でポップな恋愛映画を作り上げました。
 私は公開当時、この映画にはまり、何回も映画館で通ってみたものでした。話し自体は別にこれといって目新しいものはなく単純なものなのですが、その描き方に独特なセンスがあり、何度見ても楽しめるだけの魅力がこの映画にはあります。
 まず独特な映像センス。全体的に彩度を落としたセピア調の色彩のノスタルジックな雰囲気と赤と緑を大胆に使用したポップ映像の融合はお洒落で美しいですし、さりげないCGの使い方もとても巧みです。カメラワークも凝っており、普通の映画では見られない構図がいくつもあり、監督の画の才能を感じることができました。また映画に登場する部屋や小物・衣装などもかわいく、見ていて欲しくなりました。特に豚のランプはお気に入りです。
Ameri_cd  ヤン・ティルセンが作曲した音楽もとても素晴らしく、映像とマッチしています。軽快なアコーディオンの音が印象的なテーマ曲に胸が締め付けられるようなセンチメンタルなピアノの曲と、映画で流れるどの曲もとても親しみやすく、どこか懐かしい感じを受けるものばかりです。私はこの映画を見て、音楽がとても気に入り、即サントラを買いました。この映画のサントラを聞くとすぐに映画に舞台となった街の風景が思い浮かぶと同時に、温かい気持ちになれます。ぜひ映画を見てはまった人はサントラCDも買ってください。絶対損しないと思います。
 続いてストーリーですが、一言で表すと、内気な女性の初恋を描いたとてもシンプルなラブストーリーです。それでいながら、登場人物たちは一癖もふた癖もある人たちばかりですし、ストーリー自体もどこか現実離れしているところもあり、普通の恋愛映画にはない独特な感じを受けます。
 ストーリー:「小さいときの家族環境現実逃避気味な女性アメリが、ある事件をきっかけに人を幸福にすうる喜びを感じ、周囲の人を幸せにしようと奮闘する。そんな中、アメリはふとした偶然で出会った青年に恋をする。彼に思いを告白したいが勇気をもてないアメリ。そんなアメリが恋を成就するまでの姿を周囲の人たちとのやりとりを交えながら描く。」
 この映画のストーリーは空想の世界に浸っていた女性が他者を幸福にすることや恋愛を通して現実の世界に居場所を見つけるというものです。アメリという女性はずっと孤独であったが故に純粋でもあったのだと私は思います。そんな彼女が他人を幸せにしようと奮闘したり、恋をする中で、人と触れ合う幸せを感じていく姿は見ていてとてもほほえましかったです。また彼女の純粋さや優しさが人の気持ちをほぐしていく場面も見ていて心地よいものを感じました。八百屋の店主に対する悪戯も遊び心があり、くすくす笑わさせてもらいました。後半、恋に落ちたアメリが彼と会いたいのに、自分に自信がなくてあと一歩のところで引いてしまう場面は見ていて切なく、彼女にがんばれと応援している自分がいました。
 この映画は主人公アメリだけでなく、周囲の人物も変わった人ばかりです。みんなどこか人間関係を上手く築けない不器用な人たちばかりなのですが、その不器用さがとても人間らしく、愛おしさを感じてしまいます。この映画は世の中にうまく馴染めない人たちに対する監督の温かい眼差しが感じられるところが私は大好きです。
 またストーリーの展開はとてもテンポが良く軽快です特にオープニングは短い時間で面白可笑しくアメリの生い立ちや周囲の人たちの姿を巧みに説明していたと思います。またファンタジックで心温まるストーリーでありながら時折生々しい場面やブラックな場面がはさまれていたりするがフランス映画らしかったです。ナレーションもエスプリが利いてました。
 この映画は見た後に誰もが幸せになれる恋愛映画です。ぜひ一度ご覧になってください。

製作年度 2001年
製作国・地域 フランス
上映時間 120分
監督 ジャン=ピエール・ジュネ 
脚本 ジャン=ピエール・ジュネ 、ギョーム・ローラン 
音楽 ヤン・ティルセン 
出演 オドレイ・トトゥ 、マチュー・カソヴィッツ 、ヨランド・モロー 、ジャメル・ドゥブーズ 、イザベル・ナンティ 

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2006年4月 9日 (日)

『ラブ・アクチュアリー』この映画を見て!

第65回『ラブ・アクチュアリー』
ラブ・アクチュアリー

 今回紹介する映画は私が大好きな恋愛映画です。私はおとぎ話のような甘い恋愛映画は昔から苦手なのですが、この映画には見事にやられました。恋すること、人を愛することのすばらしさと同時にその苦しみや葛藤も丁寧に描いており、主人公たちにとても共感できる映画でした。
 この映画は年齢も職業もおかれている環境も違う19人の登場人物たちの様々な恋愛模様が描かれいます。英国首相から小学生まで、19人の登場人物1人1人が抱える恋や愛に対する悩みを、時にコミカルに時にウェットに描いていきます。いろいろな状況での恋愛が次々と展開していくので、見ていて飽きることがありません。また19人の登場人物たちが意外なところでつながっていたりして、ストーリーが進むにつれて、その関係性が分かっていく所も面白かったです。成就する恋もあれば、上手くいかない恋もあり、恋愛の甘酸っぱさやほろ苦さが堪能できる映画です。
 私がこの映画で特に印象的だったエピソードは、親友の婚約者にほれてしまった画家の話しと、精神障害の弟を持つがゆえに好きな男との恋愛が上手くいかない女性の話しの二つです。どちらも見ていて、とても切なくなる話しで、思い通りにいかない人生のもどかしさが伝わってきました。また秘書に一目ぼれする英国首相の話しや言葉の通じないポルトガルの女性を好きになる小説家の話などはとてもロマンティックなストーリーで、見ていて楽しく幸せになれる話しでした。
 またイギリスの恋愛映画らしく、洒落や皮肉も効いています。特にアメリカを皮肉っているようなシーンが時折見られ、英国首相とアメリカ大統領との話しは見ていて笑いがこみ上げてきました。またこの映画はオープニングのナレーションから911のテロを意識しているところが感じられます。アメリカがテロに対する憎悪や不安から報復を叫ぶ中、この映画はそういう時代だからこそ、あえて愛や恋の素晴らしさを謳いあげます。
 この映画は役者たちがとても豪華です。『ブリジット・ジョーンズの日記』のヒュー・グラントとコリン・ファースを筆頭に、『シンドラーのリスト』のリーアム・ニーソン 、『ハワーズ・エンド』のエマ・トンプソン 、『ハリーポッター』のアラン・リックマン 、ビリー・ボブ・ソーントン、キーラ・ナイトレイ、ローラ・リニー、ローワン・アトキンスンと今が旬の名役者揃いです。彼らの演技のアンサンブルを見るだけで、一見の価値があります。
 また挿入される音楽がとても映画の雰囲気にあっていて印象的です。ノラ・ジョーンズからガブリエル、クレイグ・アームストロングにビートルズの「ALL YOU NEED IS LOVE」と感傷的でロマンティックな雰囲気に浸れる曲ぞろいです。この映画を見るときっとサントラが欲しくなると思います。
 この映画を見ると人生において誰かに恋することや誰かを愛することっていいなあと素直に思えます。恋愛は苦しいこともありますが、生きる原動力にもなることが実感できる映画です。恋人がいる人もいない人もぜひ一度見てみてください。幸せで胸がいっぱいになると思います。

製作年度 2003年
製作国・地域 イギリス/アメリカ
上映時間 135分
監督 リチャード・カーティス 
製作総指揮 モハメド・アル=ファイド 、リチャード・カーティス 
脚本 リチャード・カーティス 
音楽 クレイグ・アームストロング 
出演 ヒュー・グラント 、リーアム・ニーソン 、エマ・トンプソン 、アラン・リックマン 、コリン・ファース ビリー・ボブ・ソーントン、キーラ・ナイトレイ、ローラ・リニー、ローワン・アトキンスン

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2006年2月25日 (土)

『ドールズ』この映画を見て!

第52回『ドールズ』 北野武特集4
見所:「美しい日本の四季の風景。斬新な衣裳デザイン。純粋で残酷な愛の物語。」
Dolls [ドールズ]
 今回紹介する『ドールズ』は、北野武監督が描く究極の愛の形を描いた映画です。近松門左衛門の『冥途の飛脚』の主人公、梅川と忠兵衛をモチーフにした構成で作られており、残酷で純粋な愛の物語が展開していきます。
 この映画はまた映像もいつものキタノブルーと呼ばれる青が基調のモノトーンの映像から、赤や黄など色彩豊かで幻想的な映像が展開されます。特にこの映画では日本の四季をとても綺麗に撮影しており、観客はその美しさに息を呑むと思います。衣装も『BROTHER』かファッション界の鬼才、山本耀司が斬新なデザイン・色遣いの衣裳を提供して、観客を魅了します。そして音楽は久石譲。繊細に研ぎ澄まされた最小限の音楽が、幻想的な映像をさらに際だたせます。
 ストーリーは3つの話しから構成されています。どの話しもどこか非現実的で幻想的でおとぎ話のようです。その反面、とても生々しく残酷でもあり、愛ゆえの孤独や哀しみが痛切に伝わってくる話しでもあります。
 ストーリー:「1本の赤い紐に結ばれ、あてもなくさまよう男と女がいた。女は男に振られて気が狂い、病院に入院していた。男は全てを捨てて彼女を連れ出し、当てもない旅に出ていた。迫り来る死期を悟った老境のヤクザと彼を長年待ち続ける女。女は若いときに男と出会い、弁当を食べてもらっていた。しかし、突然姿を消した男。女は弁当を持って男が来るのをずっと待っていた。事故で人気の絶頂から転落したアイドルと、そんな彼女を慕い続ける孤独な青年。青年は転落したアイドルへの愛ゆえに狂気に走る。
 北野監督は「愛とは主観的であり、暴力的なものである」という価値観の基、この映画を作ったそうです。それ故に描かれる登場人物たちの行動はどれも他人から見れば理解しがいものです。自分の人生も全て相手の為に投げ出そうとする登場人物たち。その姿は狂気としか言いようがありません。愛するが故に常軌を逸した行動をとる主人公たちの姿を通して、純粋な愛の本質を描きます。この映画が非現実的でおとぎ話のような作りになっているのは、愛とは主観的な思いこみであり、純粋であればあろうとするほど、現実から逸脱してしまうという愛の本質を伝えるためです。この映画は好きな人とくっつく、くっつかないなどの決して甘いラブストーリーではありません。とても辛口で残酷で、それでいて究極の愛の形を描いています。
 この映画は北野映画らしく、たくさんの死が扱われます。この映画で描かれる死は愛の成就です。純粋に愛しすぎた故に現実から逸脱した彼らが、その愛を全うしようと思うと、もはや死という永遠に時の止まった世界に身を置くしかないという哀しみが描かれます。そういう意味でこの映画における死はある意味ハッピーエンドです。死によって彼らは永遠に愛の中に身を置くことが出来るのですから・・。
 美しく幻想的な映像と音楽の中で展開される残酷なほど美しい愛の姿。ぜひ見てみてください!

製作年度 2002年
製作国・地域 日本
上映時間 113分
監督 北野武 
脚本 北野武 
音楽 久石譲 
出演 菅野美穂 、西島秀俊 、三橋達也 、松原智恵子 、深田恭子 

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2006年2月24日 (金)

『あの夏、一番静かな海。』この映画を見て!

第49回『あの夏、一番静かな海。』 北野武特集1
見所:「どこまでも静かなラブストーリー、どこまでも青く美しい海、波の音と久石譲による音楽の心地よさ」
a_scene_at_the_sea  今回紹介する映画は、北野武が始めて手がけたラブストーリーです。この映画は有名な映画評論家・淀川長治さんが「一番の傑作」と賞賛した作品です。この映画からキタノブルーといわれる映像、極端に少ないセリフ、間を大切にした編集など、北野武の映画スタイルが確立され始めます。またこの作品から久石譲が音楽を担当し始め、彼の作品で次々と印象に残る音楽を発表していきます。
 ストーリー:「主人公は聴覚障害者のカップル。ごみ収集車のアルバイトをする茂は、ごみ集積所で偶然サーフィンボードを拾ったことをきっかけに、サーフィンを始める。彼の練習する砂浜には、彼を見守る聴覚障害者のガールフレンド貴子の姿があった。茂は毎日練習を重ねて、サーフィン大会に出場するほどに上達する。
 最初、この映画を見たときは、映像・ストーリーとも徹底的に無駄なものが削ぎ落とされた演出に驚きました。この映画は最初から最後まで全て静かに進んでいきます。聞こえてくるのは波の音と久石譲の静かな音楽だけ。この静けさに最初は戸惑いますが、慣れてくるととても心地よく映像に集中できます。セリフも主人公のカップルは聾唖者なので一切なく、サーフィンに打ち込み始めた彼氏とそんな彼を浜辺でじっと見つめる彼女の姿が淡々と描かれていきます。その代わりに、主人公たちの仕草や表情がセリフの代わりになり、2人の感情や関係を伝えてきます。その繊細な表現はセリフでは伝えられない微妙な心の動きを感じることが出来ます。
 このどこまでも静かな映画は、久石譲の音楽がとても重要な役割を担っており、削ぎ落とされた映像・ストーリーに情感を与えてくれます。どこまでも透明で美しい反復音楽の調べは聞いていて心地よく、画面やストーリーの静けさを際だたせます。そしてラストシーンでメインテーマの音楽が流れた時はパブロフの条件反射のように涙が出てきます。
 この映画、北野監督らしい、コメディシーンがあります。主人公の何気ない失敗、周囲の者たちの滑稽な姿。静かな場面が続くこの映画の中で、くすっと観客を笑わかせる場面は、心を和ませてくれます。
 私はこの映画を見て、サイレント時代のチャップリンの映画に似ているなと思いました。全てを主人公の仕草や表情、周囲の状況で伝えようとするサイレント時代の映画。『あの夏、一番静かな海』の演出はサイレント映画の演出に似ており、観客をくすっと笑わかせながら、ドラマが展開していく手法はチャップリンの映画に似ていると思います。
 また私がこの映画の好きなところの一つとして、聾唖者という障害を持つ人を主人公にしながら、そのことを強調することなく、さりげなく描いているところがあります。普通の映画だと障害を持っている人を主人公にすると、その障害に焦点を当てて映画を撮るのですが、この映画は主人公の一つの属性としてしか扱いません。映画に出てくる周囲の人物たちも主人公たちの障害を特に気にすることなく接しています。このようにごく自然に障害を持った人の日常を描いた映画は少ないと思います。
 映画のラストはとても切ない終わり方をします。北野監督らしい終わり方であるのですが、人生の不条理さを見事に語っています。映画のラスト5分は映像の切なさに久石譲の音楽の効果も相まって、とても感情を揺さぶられます。私はいつもラストシーンを見るたびに自然に涙がこみ上げてきます。
 この映画はどこまでも静かで、どこまでも美しい映画です。ぜひ、この心地よい静けさに浸ってみてください。

製作年度 1991年
製作国・地域 日本
上映時間 101分
監督 北野武 
脚本 北野武 
音楽 久石譲 
出演 真木蔵人 、大島弘子 、河原さぶ 、藤原稔三 、寺島進 

 

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2005年12月31日 (土)

この映画を見て!「ポンヌフの恋人」

第17回「ポンヌフの恋人」
見所:ロマンティックで痛々しく、そして美しい。純度100パーセントのラブストーリー!

ポンヌフの恋人〈無修正版〉

ここ最近、純愛映画が流行しています。しかし、この映画ほど恋愛が持つエゴイズムの痛々しさ、哀しみを描いた作品はなかなかありません。私がこの映画を始めて見たのは高校の時でしたが、画面からほとばしる情熱に釘付けになったものです。それと同時に恋愛とエゴイズムの関係の生々しい描写にいろいろと考えさせらた作品でもありました。
ストーリー:「パリで最も古く美しい橋、ポンヌフ。そこの橋をねぐらにして、火を噴く大道芸人として生計を立てる天涯孤独の青年アレックス。失恋の痛手と失明の危機にさらされ、人生に絶望して、街をさまようミシェル。彼らは橋で出会い、恋に落ちる。孤独と絶望の底で出会った二人は激しい恋に身を焦がす。しかし、目の治療法が見つかり、ミシェルは突然姿を消す。絶望に陥るアレックス。ミシェルも目が治ったにも関わらず、心は虚ろなままだった。そんな二人は雪積もるポンヌフの橋の上で再会する」
 この映画、全体を通して重く暗い場面が多いのですが、それが主人公たちの鬱屈した精神を見事に表現しています。またそんな場面の中、はっとさせる印象的な場面がとても多いです。自分をふった恋人を銃で撃ち殺すミシェル、花火が上がるで橋の上で踊り狂う二人、海辺でのデート、地下鉄通路でミシェルを探すために両親が貼ったポスターを燃やすアレックス、そしてラスト雪が降り積もる中で再会する二人の姿。どのシーンも主人公たちの感情がほとばしり、見ている側にビンビン伝わってきます。音楽は全編を通してあまり流れてませんが、上手く既成曲を取り入れインパクトを残しています。特に花火のシーンでの曲の使い方は最高です。
 役者の演技も上手く、ドニ・ラヴァンは決してかっこいいという訳ではないのですが、インパクトがあります。(監督曰くドニ・ラヴァンは彼の分身だそうです)またジュリエット・ビノシュは体当たりの演技をしてます。この映画で見せるさまざまな彼女の表情はとても素敵です。
 北野武が「Dolls」という映画を撮った時に、「恋愛と暴力は似ている」という趣旨の発言をしておりますが、この映画をみるとその通りだなと思ってしまいます。恋愛ってある意味、エゴイズムとエゴイズムのぶつかり合いという面はありますよね。それがかみ合えば幸せであり、かみ合わなければ悲惨ですよね。この映画では恋愛におけるエゴイズムの問題が深く追求されています。孤独な二人がお互いの孤独を埋め合わせるために、共に過ごす場面は痛々しく、胸に迫るものがあります。恋愛とは相手のことを思いながらも、自己の欲求を相手との付き合いの中で満たすということが本質にあるということを、この映画は鋭く描いています。
 ちなみにこの映画、フランス映画でもかなり高額の予算をかけて、ポンヌフ橋を再現したセットを作り撮影をされており、完成までに何年もかかっています。制作していた会社が倒産したり、プロデューサーが交代したりと、制作はとても困難を極めたようです。DVDのメイキングにそこら辺の経緯は詳しく描かれています。興味のある方は是非見てください。ある意味、本編より面白いです。監督の強い思いに支えられて完成した力作の映画です。是非見てみてください。 映画のラストは全編重苦しいですが、重苦しさを吹き飛ばす、希望に満ちたシーンで終わります。ラスト生まれ変わった彼らを祝福してあげてください!

製作年度 1991年
製作国・地域 フランス
上映時間 125分
監督 レオス・カラックス 
製作総指揮 エルヴェ・トリュフォー 、アルベール・プレヴォスト 
脚本 レオス・カラックス 
音楽 ベンジャミン・ブリテン 
出演 ドニ・ラヴァン 、ジュリエット・ビノシュ 、クラウス=ミヒャエル・グリューバー 、ダニエル・ビュアン 、マリオン・スタレンス 

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2005年12月22日 (木)

この映画を見て!「シザーハンズ」

第14回「シザーハンズ」
見所:悲しく切ないストーリー、キッチュな映像、ジョニー・ディップの目

シザーハンズ〈特別編〉

前回紹介したギルバート・グレイプに引き続き、ジョニー・ディップの主演作の紹介です。この映画はクリスマスにぴったりの切ないラブストーリーです。監督がティム・バートンという人で、今年ジョニー・ディップ主演で「チャーリーとチョコレート工場」という映画を作っており、この映画も同じコンビで作られた映画です。
 ティム・バートンは私の好きな映画監督の一人であり、代表作に「バットマン」や「マーズ・アタック」「スリーピー・ホロウ」などがあります。この監督の持ち味は、B級SF、ホラー映画やおとぎ話の世界のような映像とマイノリティなキャラクターに焦点を当てた、ダークで切ないストーリーです。(最近の映画はそんな彼の持ち味が発揮されてませんが。)

この映画は監督の持ち味が最大限発揮された映画です。

ストーリー:「丘の上の発明家の屋敷に一人住んでいるエドワード。彼は発明家によって作られた人造人間。しかし、発明家はエドワードが完成する前に死んでしまい、彼の手は仮に付けられたハサミのままだった。丘の上で何年も暮らしていたが、ある日、ふもとの町の化粧品販売の女性によって、丘を降りて、町で暮らすことになる。彼は最初、好奇な目で見られるがハサミの手を利用して植木や散髪を行い、町の人気者になる。そして一人の女性に恋をしてしまう。しかし、彼は手がハサミであるが故に、彼女抱きしめることができない。そんな中、ある事件から彼は町の住人から嫌われ、恐れられる。そして、彼は町を追い出されることになる。」

 この映画、とても切なく、悲しく、残酷で美しいおとぎ話です。オープニングの20世紀フォックスのタイトルロゴから一気におとぎ話の世界に引き込まれます。まず主人公のエドワードが手がハサミの人造人間というところが面白いアイデアだなと思います。手がハサミであるという設定がこの映画のストーリーをとても面白いものにしています。またエドワードと彼が恋をするキムとの関係の描写も彼の手がハサミであるが故にロマンティックで切なく、見るものを引きつけます。
 ラブストーリーとしてもこの映画は素晴らしいのですが、それだけでなく人間への痛烈な風刺が込められています。主人公が純粋で美しい人造人間であればあるほど、周りの人間たちが最初は彼をちやほやし、持ち上げながら、途中から手の平を返したように冷たくあしらう姿は見ていてつらくなります。それは主人公がただ単にかわいそうだからつらくなるだけでなく、自分の中にもあるマジョリティ(多数派)のマイノリティ(少数派)に対する偽善性や差別意識を暴かれているような気がして見ていてつらくなります。(名作と呼ばれるおとぎ話にはどこか人間の本性を暴くようなメッセージが込められているものです。)

 映像的にも見所満載です。まずこの映画が、美術が秀逸です。丘の上の屋敷のゴシックホラー映画調の雰囲気でありながら、どこか人間的暖かみをもったユニークな構造の美術、それと対照的にカラフルで美しく整然としているけれど、どこか冷たく非人間的な感じのする町など、美術がこの映画のストーリーや雰囲気をうまく伝えています。またエドワードが氷で彫像を作るシーンなどロマンティックな映像も、見ていてうっとりとします。
 衣装やヘアスタイルもユニークで面白く、おとぎ話のような世界観をうまく表現しています。
 音楽もティムバートン監督映画には欠かせないダニーエルフマンが、幻想的で美しくもの悲しいスコアを聴かせてくれて、映画を盛り上げてくれます。
 そして、この映画を魅力的にしている最大の要因はジョニーディップの演技です。特に彼の目が最高です。彼の透き通った、どこか憂いを帯びた目を通して、エドワードの孤独やさびしさなどがじんじん伝わってきます。

 もうすぐクリスマスですが、是非皆さんこの哀しく美しいおとぎ話をご覧ください。

製作年度 1990年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 98分
監督 ティム・バートン 
製作総指揮 リチャード・ハシモト 
脚本 キャロライン・トンプソン 
音楽 ダニー・エルフマン 
出演 ジョニー・デップ 、ウィノナ・ライダー 、ダイアン・ウィースト 、アンソニー・マイケル・ホール 、キャシー・ベイカー 

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