2008年3月20日 (木)

『ジブリ実験劇場 On Your Mark』この映画を見て!

第204回『ジブリ実験劇場 On Your Mark』
On_your_mark  今回紹介する作品は宮崎駿監督の隠れた名作『On Your Mark』です。本作品はCHAGE and ASKAのコンサートツアー『SUPER BEST3』のオープニング・フィルムとして企画、制作され、コンサート会場で初公開されました。その後、『耳をすませば』の公開時に同時上映という形で一般にも公開されました。
私が本作品を始めて見たのも『耳をすませば』を見に行った際でした。その時は約7分という短い上映時間ながら、宮崎監督のエッセンスが詰め込まれた内容の濃さに圧倒されたとものでした。

ストーリー:「放射能で汚染され、人類がシャルターに住むようになった未来。武装警官隊たちがカルト教団の施設を武力制圧する。その中にいた警官2人は教団施設で翼の生えた少女を発見する。少女はすぐに研究施設に送られるが、彼女に惹かれた2人は研究施設から救助しようと奮闘を始めるが・・・。」

 本作品が公開された1995年というとオウム真理教の地下鉄サリン事件の年でもあり、本作品を始めてみた時はカルト教団が出てくる内容に衝撃を覚えたものでした。私は宮崎監督がオウム事件にインスパイアされて本作品を製作したものだと思ったものでした。しかし、調べたところ、宮崎監督はオウム事件前に本作品のシナリオを考えていたとのことで重なったのは全くの偶然だそうです。

 宮崎監督は本作品に関して以下のようなコメントをしています。
「『位置について』という意味のタイトルだけれど、その内容をわざと曲解して作っています。いわうる世紀末の後の話。放射能があふれ、病気が蔓延した世界。実際、そういう時代がくるんじゃないかと、僕は思っていますが。そこで生きるということはどういうことかを考えながら作りました」(『出発点』,宮崎駿,1996年,徳間書店,556p)
 
 宮崎監督の作品には『未来少年コナン』や『風の谷のナウシカ』等に見られるように人間の文明が一度崩壊した後の世界を描いたものがありますが、本作品もその系統の一つです。
 閉塞され追い詰められた人間社会の中で主人公たちが生きる希望を翼の生えた少女に見出そうとするストーリー展開は非常に解放感に溢れています。
 もちろん良く考えるとラストの展開も必ずしも主人公たちの今後は決してハッピーエンドとは言えません。少女は解放できても、自らは放射能まみれの大地でお尋ね者として生き続けていくしかないという暗い未来が待っているわけで・・。
 本作品はどんな状況下においても絶望と体制に身を寄せるのでなく、希望を見出し積極的に生き死んでいくことの大切さを謳った内容となっています。

「彼女が救世主だったり、救出を通して彼女と心の交流があったというわけではないんです。ただ、状況に全面降伏しないで、自分の希望、ここだけは誰にも触らせないぞというものを持っているとしたら、それを手放さなければならいのなら、誰の手にも届かないところに放してしまおうおいう。そういうことですよ」(『出発点』,宮崎駿,1996年,徳間書店,557p)

 宮崎監督の映画が好きなら本作品は絶対見逃すことの出来ない傑作です。現在、『ジブリがいっぱいSPECIALショートショート』というDVDに収録されているので是非見てください!

上映時間 6分40秒
製作国 日本
製作年度 1995年
監督: :宮崎駿 
脚色::宮崎駿 
原作::宮崎駿 
撮影監督:奥井敦 
作画監督: 安藤雅司 
美術監督::武重洋二
音楽:「On Your Mark」  by CHAGE&ASKA

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2008年3月16日 (日)

『オーケストラストーリーズ となりのトトロ 』

お気に入りのCD NO.23 『オーケストラストーリーズ となりのトトロ 』久石譲
Photo_2  今回紹介する作品は『となりのトトロ』の音楽を交響組曲にした『オーケストラストーリーズ となりのトトロ 』です。
 本作品は映画本編の音楽も担当している久石譲さんがオーケストラに初めて接する子どもや大人のために編曲されたもので、ブリテンの「青少年のための管弦楽入門」という曲を参考にしているそうです。

 私は2003年の久石譲さんのコンサートツアーで本作品を始めて聞いたのですが、その時はオーケストラの繊細かつ迫力のある音が奏でるおなじみの美しいメロディーに鳥肌が立つほど大変感動しました。
 
 本作品は映画でお父さん役を務めたコピーライター・糸井重里によるナレーションが付いたヴァージョンと交響組曲ヴァージョンと2バージョン収録されています。
私のお勧めはナレーション付きのバージョンです。糸井重里さんの優しく温かみのある声による情景の説明と音楽を聴くと映画の一場面が自然と脳裏に浮かんできます。

 新日本フィルハーモニーによる演奏も大変素晴らしく完成度も高いので、自宅で聞く時も許す限り大音量で聞いてほしいです。

 トトロが好きな人、オーケストラに興味のある人には絶対お勧めのアルバムです!

1. さんぽ 
2. 五月の村 
3. ススワタリ~お母さん 
4. トトロがいた! 
5. 風のとおり道 
6. まいご 
7. ネコバス 
8. となりのトトロ
〈となりのトトロ組曲〉 
9. さんぽ 
10. 五月の村 
11. ススワタリ~お母さん 
12. トトロがいた! 
13. 風のとおり道 
14. まいご 
15. ネコバス 
16. となりのトトロ 

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2008年3月 8日 (土)

『崖の上のポニョ イメージアルバム』

お気に入りのCD NO.22 『崖の上のポニョ イメージアルバム』久石譲
Photo  2008年夏公開される宮崎駿監督最新作『崖の上のポニョ』。そのイメージアルバムが先日発売されました。音楽を担当しているのは『風の谷のナウシカ』以降の全ての宮崎作品の音楽を手がけている久石譲。今回のイメージアルバムを聞く限り、映画本編の音楽も素晴らしい仕上がりになりそうです。

 ちなみにイメージアルバムとは映画本編の音楽制作の半年から1年前に制作されます。宮崎監督から送られてくる作品に関する詩やメモをもとに久石さんが映画のイメージにあった音楽を作ります。
 映画本編の音楽を制作するときもイメージアルバムを基に監督と検討していきます。宮崎監督と久石さんは「ナウシカ」以降、すべてこの方法で映画音楽を制作しています。

 今回のイメージアルバムの特長は10曲中6曲が歌であるところです。『となりのトトロ』や『千と千尋の神隠し』でもイメージアルバムで歌が取り入れられていましたが、今回も素敵な歌が数多く収録されています。

 1曲目の『崖の上のポニョ』は12月に先にシングルとして発売されており聞いたことある人も多いと思いますが、明るいメロディと女の子のかわいい歌声そして中年男性の渋く優しい歌声が非常に印象的です。  
 2曲目の『サンゴ塔』は豊嶋泰嗣さんの奏でるストリングの音色が美しく、海の中をゆらゆら漂っているような感じの曲です。
 3曲目の『ポニョ来る』は何かがこちらに向かってやってくる感じが、ピアノの軽快なフレーズで表現されています。
 4曲目の『海のおかあさん』はバイオリンの優しい音色が聴いていてとても心地よいです。
 5曲目の『いもうと達』はNHK東京児童合唱団の卒団生で結成されたグループ「リトル・キャロル」が歌っているのですが、2部合唱の曲なのですが、響きあい重なり合う美しい歌声がとても印象的です。それにしても、この曲で歌われる「おねえちゃん」とは一体何を指すのでしょう?非常に気になります。
 6曲目の『フジモトのテーマ』と9曲目の『本当の気持ち』は藤岡藤巻が作詞とボーカルを担当しているのですが、中年男性の切なさや悲哀といったものがしみじみと伝わってきます。ちなみに『フジモト』とはポニョの人間の父親だそうです。
 7曲目の『発行信号』も優しい音色とメロディが印象的です。海の上で主人公の宗介とポニョが交流しているシーンに流れそうな曲です。
 8曲目の『ポニョの子守唄』は短い曲なのですが、聞いているとウトウトと眠りに誘われます。
 10曲目の『ひまわりの家の輪舞曲』。この曲は久石譲さんの娘である麻衣さんが担当しています。麻衣さんは『風の谷のナウシカ』でも歌声を披露しているのですが、透明感溢れる歌声が印象的です。

 映画の公開まではまだ半年くらいありますが、映画本編の音楽がどんな感じになるのか今から楽しみです。

1.崖の上のポニョ
 歌:藤岡藤巻と大橋のぞみ/作詞:近藤勝也/
 補作詞:宮崎駿/作・編曲:久石譲

2.サンゴ塔
 作・編曲:久石譲

3.ポニョ来る
 作・編曲:久石譲

4.海のおかあさん
 ヴァイオリンソロ:豊嶋泰嗣/作・編曲:久石譲

5.いもうと達
 歌:Little Carol/作詞:宮崎駿/作・編曲:久石譲

6.フジモトのテーマ
 歌:藤岡藤巻/作詞:藤岡藤巻/作・編曲:久石譲

7.発光信号
 作・編曲:久石譲

8.ポニョの子守唄
 歌:大橋のぞみ/作詞:宮崎駿/作・編曲:久石譲

9.本当の気持ち
 歌:藤岡藤巻/作詞:藤岡藤巻/作・編曲:久石譲

10.ひまわりの家の輪舞曲
 歌:麻衣/作詞:宮崎駿/作・編曲:久石譲

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2007年12月 5日 (水)

『崖の上のポニョ』主題歌発売!

お気に入りのCD NO.21『崖の上のポニョ』 大橋のぞみ・藤岡藤巻
Photo_2  来年の夏に公開される宮崎駿監督の最新作『崖の上のポニョ』の主題歌が今日発売されました。スタジオジブリの作品では毎回主題歌が話題になりますが、今回も一度聞いたら忘れられない印象を残す主題歌となっています。
 主題歌の題名は映画と同じく「崖の上のポニョ」で、作画監督を担当している近藤勝也さんが作詞、宮崎監督が補作、そして作曲と編曲を映画本編の音楽を手がける久石譲さんが担当しています。
 今回の主題歌は『となりのトトロ』のようにシンプルなメロディで誰もが口ずさめる明るく楽しい歌となっています。
 
 主題歌を歌うのは男性デュオ「藤岡藤巻」の藤岡孝章さんと藤巻直哉さん、そして児童劇団に所属する大橋のぞみさんの3人が抜擢。大橋さんの子どもらしいかわいい声と「藤岡藤巻」の低く優しい声が聞く者の心を暖かくしてくれます。

 映画自体の公開はまだ半年以上先ですが、今から主題歌を何回も聞いて楽しみに待ちたいと思います。

1. 崖の上のポニョ 
2. フジモトのテーマ 
3. 崖の上のポニョ(カラオケ) 
4. フジモトのテーマ(カラオケ) 
5. 崖の上のポニョ(のぞみちゃんデモ)

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2007年10月 8日 (月)

『崖の上のポニョ』主題歌発売!

Ponyo  今日の朝、日本テレビ系列の「スッキリ!!」で宮崎駿の最新作『崖の上のポニョ』の主題歌が初公開されていました。私も偶然見ていたのですが、まさかもう主題歌が出来ているとは思いもよりませんでした。
 今回の作曲を宮崎アニメに欠かせない久石譲さんが、作詞を『ポニョ』の作画監督・近藤勝也氏が担当しています。宮崎監督は今回の主題歌を作るに当たって「能天気に突き抜けた歌を作ってほしい」と久石さんに要望したそうです。
 主題歌を歌うのは団塊世代の一部に熱狂的に支持される藤岡孝章と藤巻直哉のデュオ「藤岡藤巻」と児童劇団所属の子役・大橋のぞみの3人のユニットです。この3人を起用したのは父娘で一緒にお風呂に入り、たどたどしく歌う女の子を手助けするお父さんの構図をイメージしてのことだそうです。
 ちらっとテレビで聞いた感想は子どもが非常に口ずさみやすそうな歌でした。
 12月5日には主題歌のCDが先行発売されるそうです。今から非常に楽しみです。

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2007年8月30日 (木)

『耳をすませば』この映画を見て!

第172回『耳をすませば』
Whisper_of_the_heart  今回紹介する作品はスタジオジブリが製作した青春映画の傑作『耳をすませば』です。
 柊あおいの同名漫画を原作にした本作品。宮崎駿が脚本と絵コンテを手がけ、スタジオジブリの数多くの作品で作画監督を務めた近藤喜文が監督を手がけました。
 
 宮崎さんは以前から少女漫画の映画化を検討していたそうです。しかし、なかなか映画化できそうな原作にめぐりあえないでいたそうです。
 そんな中、「りぼん」に連載されていた原作をたまたま読む機会があり、非常に好印象を持ったそうです。そして、原作のピュアな部分を大切にしながら、現代の閉塞した時代の中で豊かに生きることは何かを問う作品を製作することを決めたそうです。
 
 ストーリー:「両親と大学生の姉と東京近郊の団地に住む月島雫は読書好きの中学3年の女の子。夏休みは図書館に通い読書三昧だったが、自分の読む本を全て先に借りて読んでいる「天沢聖司」の名前に気がつく。雫は天沢聖司について調べ、実は同級生だったことを知る。
 そんなある日、図書館への道で変な猫を見つけ、その猫を追いかける。猫に導かれ、丘の上にある小さなアンティークショップ「地球屋」へたどり着く。雫は店の主人である老人・西司朗と出会う。西老人は聖司の祖父で、彼は地球屋のアトリエでヴァイオリンを作っていた。聖司はヴァイオリン職人になるために中学卒業後はイタリアへ留学したいという夢を持っていた。聖司に比べて確固たる夢をもたない雫は自分のこれからについて悩み始める。そして、雫も自分を試そうと自分の夢を求め、小説を書き始める。」
 
 私がこの作品に出会ったのは高校3年生の夏休みでした。ちょうど私も自分の進路や将来について悩んでいた時期で、自分の夢に向かって真直ぐに進もうとする映画の主人公たちに強い影響を受けたものでした。
 特に何がしたいわけでなく、親や教師の言われるままだった当時の自分。そんな自分に「人生これで良いのか?」と人生を見つめ直す機会を与えてくれました。そして、高校卒業後は自分の夢や希望に基づいた人生の選択することができました。私はこの作品に出会ったおかげで今後悔のない人生を送れているといっても過言ではありません。

 この作品の脚本を手がけた宮崎さんは恋愛の駆け引きや内面の揺れ動く感情を描く恋愛ドラマでなく、素直に恋愛感情を表現するラブロマンスを描きたかったそうです。そんな宮崎さんの思いが反映されたストーリーは見ている側が恥ずかしくなるほどとてもストレートな恋愛ドラマが展開されていきます。特にラストシーンの聖司が雫に言うセリフは直球過ぎて始めて見た時は驚きましたが、何回も見返す内にあのセリフに清清しさを感じるようになりました。この作品を見るとお互いが響きあい成長しあう恋愛って素晴らしいなってしみじみ思います。
 またこの作品は恋愛ドラマの側面と共に、夢を追う少年・少女たちの現実と格闘する姿が熱く描かれます。ヴァイオリン職人を目指す聖司。そんな彼の姿に影響され、小説家を目指し始める雫。二人の夢に向かってひたむきに努力する姿は今見ても心打たれるものがあります。厳しい現実にぶつかりながらも夢を持ち続けることの素晴らしさや大切さをこの映画は見る者に思い出させてくれます。
 原作はもっとほんわかした恋愛ドラマなのですが、宮崎さんはそれを見事に改変して、熱い青春ドラマに仕上げています。 

 この作品で初めて監督を手がけた近藤喜文さんは普段見慣れている日常の風景や登場する人物たちの何気ない日常の仕草を丁寧に描くことにこだわったそうです。そんな監督の日常へのこだわりが宮崎さんの理想が反映されたストーリーにリアリティを与えたと思います。
(近藤喜文さんはこの作品を監督した3年後に47歳の若さで亡くなられました。スタジオジブリの中では宮崎監督や高畑監督の跡を継ぐ監督と期待されていただけに残念です。)

 この作品は音楽も素晴らしく、特に主題歌のカントリーロードは映画のテーマにぴったりあっており、映画を見た後に思わず口ずさんでしまうほどです。

 この作品は夢を追い求めることの素晴らしさと厳しさを見る者に教えてくれます。自分の人生を見失いかけたとき、将来について悩んだときはぜひこの作品を見てください!  

製作年度 1995年
製作国・地域 日本
上映時間 111分
監督 近藤喜文 
製作総指揮 徳間康快 
原作 柊あおい 
脚本 宮崎駿 
音楽 野見祐二 
出演もしくは声の出演 本名陽子 、高橋一生 、小林桂樹 、露口茂 、立花隆 、室井滋 、山下容莉枝 、佳山麻衣子 、中島義実 、飯塚真弓 、高山みなみ 、岸部シロー 、

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2007年7月15日 (日)

『出発点―1979~1996』街を捨て書を読もう!

『出発点―1979~1996』 著:宮崎駿 徳間書店
Syutupatuten  今回紹介する本は日本を代表するアニメ監督・宮崎駿の1979年から1996年までの企画書・演出覚書・エッセイ、講演・対談等を90本以上収録した『出発点―1979~1996』です。
 この本には宮崎駿のアニメや仕事そして人生に対する考え方から、好きな本や興味のあること、そして自分のアニメに込めた思い等がぎっしり詰まっており、非常に読み応えがあります。

 私がこの本に出会ったのは大学生の時でしたが、この本を読んで私は宮崎アニメに対する見方が大きく変わりました。宮崎監督がそれぞれの映画に込めた熱い思いや細かい裏設定。それを知った上で映画を見ると、今まで以上に味わい深いものがありました。

 またそれと同時にこの本の中で語られる宮崎駿監督の仕事に対する姿勢や自然や子ども対する熱い思い、そして人間や歴史に対する独自の視点は学ぶべきことが多く、自分の人生観や生き方に大きく影響を与えてくれました。

 宮崎アニメが好きな人にぜひ読んで欲しい一冊です。
 

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2007年6月19日 (火)

『平成狸合戦ぽんぽこ』この映画を見て!

第163回『平成狸合戦ぽんぽこ』
Ponpoko  今回紹介する作品は『火垂るの墓』の高畑勲監督が、人間による自然破壊から自分たちの生活を守ろうとするタヌキたちの奮闘を描いた『平成狸合戦ぽんぽこ』です。
 ストーリー:「多摩ニュータウンの宅地開発で自然が失われて故郷を追われた狸たち。彼らはタヌキ連合軍を結成して化学(化け学)を駆使して人間に闘いを挑むが・・・。」
 この作品はスタジオジブリの数ある作品の中で一般的な評価は低いですが、個人的には大好きな作品です。

 個性的な狸の面々たちが化け学を一生懸命学んで、人間に挑んでいく姿はユーモア満点で見ていて楽しいですし、日本各地の民話をさりげなく取り入れたエピソードの数々は民俗学に興味のある私にはたまらない設定でした。特に中盤の見せ場である狸たちによる百鬼夜行のシーンは日本の妖怪のオンパレードで妖怪好きには見ごたえ満点でした。(さりげなく、パレードの中でトトロや紅の豚そしてキキも登場しています。気づかなかった人はぜひビデオでも借りて、どこにいたか探してみてください!)
 また高畑監督が好きな作家・宮沢賢治の『双子の星』のエピソードの挿入や、以前から映画化を希望している平家物語の名シーンの再現も見ていて監督の熱い思いが伝わってきました。
 
 所々に挿入されるシニカルなエピソードも印象的で、狸がマクドナルドのハンバーガーを食べるシーンやテレビの料理番組で天ぷらを揚げるところをじっと見つめるシーンなどは、狸も人間の文化の中で生きているという皮肉な現実を見事に象徴していたと思います。
 
 後半は中盤までのユーモラスな展開から打って変わり、悲壮感漂う展開になっていき、見ていて胸が締め付けられます。
 人間に闘いを挑んで玉砕する狸たち、死出の旅に向かう狸たち、人間社会に迎合していく狸たち。大きな力の前に屈していく狸たちの姿は涙なしでは見れませんでした。ラストシーンで生き残った仲間たちが人間社会の中で健気に生きる姿は何とも物悲しいものがありました。
 
 この作品は環境問題や自然保護を訴えた作品という感想が多いですが、私の中ではこの作品はそれらのテーマと合わせて、60年代の全共闘による学生運動の顛末を描いた作品だと思っています。
 なぜそう思うのかというと、私の知り合いに60年代に学生運動に身を投じていた人がおり、当時の状況についていろいろ教えてもらっていたからです。
 共産主義を目指して資本主義国家を倒すために、時にデモやストライキをして自らの意志をアピールし、時に国家権力の手先である警察や機動隊に向かっていく・・・。しかし、次第に権力の弾圧も強まり、次第に運動から離れる人も増え、残った人たちもセクト同士で内ゲバを始め自壊していく・・・。
 そんな当時の学生運動の顛末を知っていたので、この作品を見たとき、単なる自然保護の映画というより、自分たちの理想を目指して運動に投じた人間たち(狸たち)が権力の前に敗北していく姿を描いた作品として見たものでした。
 映画のラストの栄養ドリンクを飲みながら社会に溶け込もうとする狸の姿は、学生運動から身を離れ資本主義の中で必死に生きていこうとする元運動家の姿にダブって見え、切ないものがありました。

 あと、この映画の大きな魅力として声優がとてもはまっているところがあります。スタジオジブリは大物タレントや俳優を声優として起用することが多いですが、話題性だけで違和感のある場合があります。
 この作品でもたくさんの俳優やタレントが起用されているのですが、違和感が全くなくキャラクターにぴったりあっています。
 また桂米朝[3代目] 、桂文枝 、柳家小さんなどの有名落語家の起用も狸を主人公にしたユーモアと悲哀に満ちた今回の作品には抜群の効果があったと思います。

 この作品はスタジオジブリ作品の中ではあまりパッとしませんが、非常に完成度の高い作品だと思います。  

製作年度 1994年
製作国・地域 日本
上映時間 119分
監督 高畑勲 
原作 高畑勲 
脚本 高畑勲 
音楽 紅龍 、渡野辺マント 、猪野陽子 、後藤まさる 、上々颱風 、吉澤良治郎 
出演もしくは声の出演 野々村真 、石田ゆり子 、三木のり平 、清川虹子 、泉谷しげる 、芦屋雁之助 、村田雄浩 、林家こぶ平 、福澤朗 、山下容莉枝 、桂米朝[3代目] 、桂文枝 、柳家小さん 、神谷明 

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2007年3月20日 (火)

宮崎駿最新作!『崖の上のポニョ』

Ponyo  2008年に公開予定の宮崎駿監督の新作アニメ映画のタイトルが今日発表されていました。「崖の上のポニョ」というタイトルの最新作は、人間になりたがっている「ポニョ」という名の金魚姫と5歳の男の子宗介の物語だそうです。
 今回は作風も大きく変わるそうです。今までの緻密な映像でなく、すべて手書きで描くそうです。今日発表された画像を見る限りは、絵本のような柔らかい絵が魅力的ですね。
 音楽も宮崎作品には欠かせない久石譲が担当。今回はどんな音色を響かせてくれるのか今から待ち遠しいです。
 公開は2008年とまだ1年以上ありますが、今から期待で胸がいっぱいです。

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2006年10月21日 (土)

『ルパン三世 カリオストロの城』この映画を見て!

第122回『ルパン三世 カリオストロの城』
Kariosutoro  今回紹介する映画は宮崎駿監督の初の劇場公開作品であり、今なお絶大な人気を誇る傑作アクション映画『ルパン三世 カリオストロの城』です。この作品は当時人気のあったアニメ『ルパン三世』シリーズの劇場第2作目として制作されました。1作目の『ルパンVS複製人間』は10億円を超える大ヒットをしたのですが、意外にも『カリオストロの城』は公開当時は興行的には不振に終わりました。しかし、評論家からは絶賛され、海外で公開されたときは絶大な人気を誇りました。スピルバーグ監督やキャメロン監督などハリウッドのヒットメーカーもこの作品を高く評価しています。(キャメロン監督の『トゥルーライズ』のオープニングはこの映画の影響が強いです。)
 私はこの映画をテレビで放映されたときに見たのですが、あまりの面白さに画面に釘付けになったものでした。何と言ってもアニメならではの表現を活かしたアクションシーンが素晴らしいです。前半のカーチェイスシーンのダイナミックさとスピード感、中盤の城内潜入シーンの緊張感と躍動感、そして後半の時計台での伯爵との激しい攻防戦とアクションの見せ方がとても巧みです。この映画を見て、アニメという表現の素晴らしさというものを実感したものでした。
 ストーリーもお城に囚われたお姫様を救出するという冒険活劇映画では王道な展開ですが、見せ方の上手さとテンポの良さで一瞬たりとも飽きさせません。愛とロマンとスリルに満ち溢れたストーリーを時にコミカルに、時にシリアスに描く手腕はさすが宮崎監督です。
 映画のルパンは原作のルパンの性格を改変して善人として描いています。宮崎監督はルパンを善人として描くために、原作よりも年齢を高めに設定して描いたそうです。原作ファンからは不評ですが、私はこの映画の年を取り、丸くなったルパンが大好きです。中年の男性の渋い魅力が見事に描かれています。
 またルパンを始めとして次元・五右衛門・不二子・銭形警部と各キャラクターに見せ場があり活き活きと活躍しているのも嬉しい限りです。特に銭形警部は脇役ながら、誰しもが知っている有名なラストのセリフのおかげで強烈な印象を残します。この映画のヒロインであるクラリスも宮崎アニメのヒロインらしく可憐さと気丈さを兼ね備えた印象的なキャラクターです。
 この映画は今見ても一級の娯楽作品であり、宮崎監督の映画の中でも最高に面白い作品だと思います。 
 
製作年度 1979年 
製作国・地域 日本
上映時間 100分
監督 宮崎駿 
原作 モンキー・パンチ 
脚本 宮崎駿 、山崎晴哉 
音楽 大野雄二 
出演 山田康雄 、小林清志 、増山江威子 、井上真樹夫 、納谷悟郎 、島本須美 、石田太郎 、宮内幸平 、永井一郎 、山岡葉子 、常泉忠通 、寺島幹夫 、野島昭生 、阪脩 

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2006年10月17日 (火)

『千と千尋の神隠し』この映画を見て!

第119回『千と千尋の神隠し』
「トンネルの向こうは、不思議の町でした。」
Spirited_away  今回紹介する映画は国内映画興行記録を全て塗り替える大ヒットとなった宮崎アニメ『千と千尋の神隠し』です。この映画は興行記録だけでなく、世界中で大変高い評価を受け、2002年のベルリン国際映画祭でグランプリである金熊賞をアニメ作品としてはじめて受賞しました。また日本アニメで初のアカデミー長編アニメ賞を受賞して、宮崎アニメを世界中に知らしめました。
私は『もののけ姫』という大変密度の濃い作品を創り上げた宮崎監督の次回作と言うことで公開されるまでは大変期待したものでした。予告編で木村弓が歌う『いつでも何度でも』が流れたときは歌のあまりの美しさに鳥肌が立つほど感動したものでした。また予告編で説明される異世界の温泉街に迷い込んだ10歳の少女の成長を描くという物語にも大変興味を持ち、どんな映画になるのか公開までとても楽しみにしていたものでした。
 公開当時は初日に立ち見が出るほどの満員状態の映画館で見たものでした。映画の内容はさすが宮崎監督らしく2時間という上映時間があっという間に感じられる作品でした。宮崎作品だけあって映像や音楽の美しさはさすがです。飛翔シーンや高低差や上下の動きを活かしたアクションシーンも宮崎作品ならではです。しかし、今までの宮崎作品に比べると、どこかあっさりとしているような印象も受け、インパクトが弱いような気もしました。

 この映画の一番の見所はイマジネーション溢れる映像の数々です。温泉街の奇抜でカラフルな街並み、温泉街に集まる八百万の神々たち、海の上を走る電車、空を飛ぶ白い竜・・・。この作品はストーリーがどうこうと言うより、宮崎駿のイマジネーションが創り出す摩訶不思議な世界を楽しむ作品です。
 特に湯屋の赤を基調にした派手で個性的な外観や内装は観客を圧倒します。監督は日本近代の和洋折衷された建築文化を反映させ、異世界でありながらも、どこか懐かしさが感じらるような美術を目指したそうです。その甲斐あって、観客はまるで夢の世界を彷徨っているような感覚になります。
 また湯屋を取り囲む海の描写も美しく、建物の派手で賑やかな色調と対照的に、どこまで静謐で透きとおるような青は観客の心を落ち着かせます。
 
 久石さんの音楽もカラフルで美しいメロディーが多く、映像の雰囲気とよくあっています。今回はフルオーケストラとエスニックな音を融合させることにこだわったそうです。フルオケで演奏されているのにどこかアジアンテイストな雰囲気が漂う曲の数々は千と千尋の世界観をよく表しています。それと対照的に千尋の心情を語る場面ではピアノをメインにした静かな曲が流れており、印象に残りました。特におにぎりを食べるシーンと海の上を走る電車のシーンで流れるピアノをメインとした曲は、千尋の不安や切なさが伝わってくる名スコアーだと思います。

 ストーリーに関しては宮沢賢治の作品の影響を強く感じました。ストーリーの随所に見られるブラックユーモアの数々は賢治の作品にも見られますし、後半の電車に乗るシーンは宮崎駿版銀河鉄道の夜」といった感じを受けました。また宮沢賢治の作品以外にも「ゲド戦記」や「クラバート」「不思議の国のアリス」など様々な児童文学に影響を受けている場面や設定が多く見られました。
 宮崎監督はこの作品のストーリーを考えるに当たって電車に乗るシーンをクライマックスに持ってきたかったそうです。千尋が異世界で成長することを描くより、異世界で自分の意志で電車に乗って、幻想の世界と現実の世界を全部自分の世界として引き受けていくことを描きたかったそうです。この映画は千尋が変わっていく姿を追った作品でなく、自分の力を信じて一歩踏み出すまでの姿を描いた作品です。
 監督は現代社会に対する様々な風刺やメッセージを映画の随所に込めています。お金で何でも解決しようとする滑稽さ、小さな自我と欲望にこだわり身動きの取れない現代人の悲哀、自然破壊に対する怒り・・・・。この映画はファンタジーでありならが極めてリアルな面を持ち合わせています。カオナシは現代の日本人そのものであり、見ていて胸が痛くなります。
 あと私がこの映画を見て面白いと思ったのは、映画の舞台となる湯屋がどうみてもソープランドであるところです。宮崎監督自身もこの映画の舞台は神様のソープランドであることを認めています。10歳の少女がソープランドという性風俗で働かされるファンタジー映画なんて世界広しといえどもないと思います。宮崎監督はこの映画で現代の少女を取り巻く性風俗の現状を描きたかったとインタビューで答えています。
 (千と千尋の神隠しと性風俗の関係を詳細に解説した記事が下記のサイトで読めます。)
 http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20040314

 この映画のストーリーは省略されているところや説明不足な所が多く、観客の想像に任す部分が大きくなっています。監督は意図的にこのようなストーリーにしたそうです。千尋から見た世界を千尋自身が変えていくことを描くために、千尋が知らなくて良いことは全て省略したそうです。
 ストーリーの流れは起承転結の起承に当たる部分は丁寧に描かれているのに反して、転結はとても駆け足で唐突な展開になっています。(これは『ハウルの動く城』に関してもですが・・・)この映画は監督の当初の構想では3時間くらいの上映時間になるような話しを考えていたようで、それを無理に2時間で収めたそうです。そのためにストーリーの展開が後半強引なものになってしまそうです。カオナシを登場させたのも映画を2時間で収めるために急遽考えついた設定で、本来は湯婆婆と銭婆がもっと登場する作品になっていたようです。
 またそのような制作の裏事情とは別に監督はこの映画やハウルなど最近の宮崎作品はストーリーを語ることよりも自分のイマジネーションをどう表現するかに力点を置いて制作しているような気がします。その為、最近の宮崎映画はストーリーを楽しむというより、夢の世界のような映像そのものを楽しむことが正しい見方だと思います。

製作年度 2001年 
製作国・地域 日本
上映時間 125分
監督 宮崎駿 
製作総指揮 徳間康快 
原作 宮崎駿 
脚本 宮崎駿 
音楽 久石譲 
出演 柊瑠美 、入野自由 、夏木マリ 、内藤剛志 、沢口靖子 、上條恒彦 、小野武彦 、我修院達也 、はやしこば 、神木隆之介 、玉井夕海 、大泉洋 、菅原文太 

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2006年9月20日 (水)

『紅の豚』この映画を見て!

第113回『紅の豚』
Porcorosso  今回紹介する映画は宮崎監督の個人的趣味が詰め込まれた『紅の豚』です。この映画は元々JALの国際線の機内上映の作品として、30分くらいの短編として制作されていたのですが、宮崎監督の構想が大幅に膨らみ、長編作品として途中から制作されることになりました。この映画は公開当時、日本アニメ映画の興行成績の記録を塗り替えると同時に、その年一番ヒットした邦画となりました。

Miyazaki_note  この映画は月刊「モデルグラフィックス」誌に宮崎監督が連載していたエッセイ漫画「宮崎駿の雑想ノート」の中の「飛行艇時代」を原作にしています。「宮崎駿の雑想ノート」は古今東西の珍しい戦車や戦艦などの兵器とそれを扱う人々の情熱を虚実まじえて描いており、宮崎監督のミリタリー趣味が全開で読む人をとても選ぶ漫画です。「飛行艇時代」は第一次大戦中の飛行艇に対する宮崎監督の思いが込められた作品です。宮崎監督は実家が飛行機関連会社だったこともあり、飛行機には特にこだわりがあり、映画化に当たっても飛行機の描写には随所にこだわったそうです。

 この映画は宮崎作品の中で好き嫌いが分かれる作品でありますが、私はこの作品の持つ清々しさが大好きです。空や海の青の清々しさ、飛行艇が飛ぶシーンの清々しさ、そして登場人物たちの生き様の清々しさ。この映画は見ていてスカッと晴れやかな気持ちにさせてくれます。
 この映画は他の宮崎作品のような深いテーマはないですが、格好良く生きるとはどういうことかを教えてくれる作品です。この映画に出てくる人物は皆すでに自己確立ができており、自分の生き方というものが分かっているので、迷いや不安といったものが見ていて感じられません。迷いや不安をくぐり抜けた大人たちが登場人物なので、見ていて格好良いと同時に、過去にいろいろあったんだろうなと想像することができる奥深いものがあります。

主人公が豚という設定もかなり大胆であり、普通なら豚が主人公なんてと思うのですが、この映画では豚である主人公が格好良く見えるのだから不思議です。戦争に嫌気がさし、あえて豚になる主人公の生き様に痛烈な批判精神を感じます。この映画は見た目の明るさとは裏腹に、世界大恐慌による経済の混乱とイタリアがムッソリーニ率いるファシズム政権の台頭という暗い時代が舞台となっています。ポルコがなぜ人間を捨て、豚になったのか、そこに狂気と不安の蔓延する時代に個人としてどう抗っていくか、監督の強いメッセージが込められていると思います。

 私がこの映画で一番好きなシーンはポルコが天国へ昇るように雲を通り抜け大空へ消えて行く無数の戦闘機を見たことを回想するシーンです。この回想シーンを見るたびに、ポルコの自分だけ生き残ってしまったことに対する自責の念や無数の命が散る戦争の哀しみといったものが伝わってきます。
 この映画のラストはポルコが人間に戻ったのか、豚にもどったのか曖昧なまま終わりますが、私はポルコは豚のままで居続けたのだと思います。それこそが亡くなった戦友に対する彼なりの弔いだと思うので・・・。

 あとこの映画の素晴らしさを語るときに忘れてはいけないのが音楽です。久石譲の音楽はいつものごとく素晴らしいですし、加藤登紀子の主題歌や挿入歌もとても映画とマッチしています。特に加藤登紀子の起用は宮崎監督がこの映画にこめた思いを見事に表していると思います。加藤登紀子が映画の中でパリコミューンの歌「さくらんぼの実る頃」を歌いますが、あの歌は共産主義を目指した革命家たちの歌であり、時代に対抗しようとした人たちのロマンが込められている曲です。その曲を革命家の夫を持ち、彼が獄中にいたときに結婚した加藤登紀子に歌わせたのは、かつて共産主義に傾倒していた宮崎監督の過去に対する複雑な思いが込められています。

 この映画は声優も違和感がなく、キャラクターにあっています。特にポルコを演じる森山周一郎の渋い声は聴いていて格好いいです。ちなみにフランスではポルコの声を『レオン』のジャン・レノが当てているのですが、渋い声がポルコの雰囲気にとてもあっています。DVDに収録されているので、ぜひ聴いてみてください。

 宮崎監督は個人的趣味で作った『紅の豚』に対して、制作後とても後悔したそうです。しかし、私は宮崎作品の中で一番肩の力を抜いて見られる作品であり、宮崎作品の中で一番繰り返し見ている作品です。宮崎監督はもう個人的な映画は作らないと宣言していますが、ぜひ「宮崎駿の雑想ノート」の違うエピソードを映画化して欲しいと願っています。  

製作年度 1992年
製作国・地域 日本
上映時間 91分
監督 宮崎駿 
原作 宮崎駿 
脚本 宮崎駿 
音楽 久石譲 
出演 森山周一郎 、加藤登紀子 、桂三枝 、上條恒彦 、岡村明美 

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『魔女の宅急便』この映画を見て!

第112回『魔女の宅急便』
Kiki_2  今回紹介する映画は宮崎駿が思春期を迎えた女性の自立を描いて大ヒットした『魔女の宅急便』です。この映画はオリジナルの作品が多い宮崎監督としては珍しく、角野栄子の同名タイトルの児童文学を基に製作しています。映画は前半の展開は原作と同じなのですが、後半の展開はかなり違っており、ラストの飛行船のシーンなどは宮崎監督の全くのオリジナルです。このラストの派手な展開は冒険活劇を得意とする宮崎監督らしい展開です。ただ作品全体が少女の日常の生活や心情を丁寧に描いている分、ラストだけ突然派手な展開になるの浮いているような感じもして、どうかなとも思ったりもしますが・・・。
 この作品は本来、宮崎監督は制作に回り、新人の監督に任せる予定だったそうです。しかし、宮崎監督がこの映画に対してあまりにも思い入れが強くなり、自分で監督をすることになったようです。宮崎監督はこの映画を作るに当たって、『宮崎アニメのヒロインはトイレにも行かないような非現実的な存在だ』と周囲に言われたことが悔しくて、地に足のついた等身大の女性を描くことにこだわったそうです。この映画の途中でキキがトイレに行くシーンがあるのですが、宮崎監督がこの映画の中でも特にこだわって描いたシーンだそうです。

 この映画は若者の自立への格闘を爽やかに描いた作品であり、仕事が上手くいかず落ち込んだとき等に見ると非常に元気の出る作品です。私も仕事で親元を離れて暮らしてだいぶ時間が経つのですが、キキが見知らぬ街で一人で生活を始めるシーンを見ると、自分が一人で生活を始めたときの不安や孤独といったものを思い出してします。キキが仕事を見つけ、時に傷ついたり挫折したりしながらも、自分の理解者を見つけて支えてもらいながら前に進んでいく姿は、若者の自立とはどういうものかを見事に描いていると思います。ニートと呼ばれる人たちにもこの映画を見て、自立について考えてほしいなと思ったりします。

 私がこの映画で前から疑問に思っていたのは、なぜキキはジジがしゃべたことを理解できなくなったのかということでした。最初はキキの魔法の力が弱ったからと思ったりしたのですが、魔法が戻ったラストシーンでもキキはジジの言葉を理解できないままでした。私はキキが新しい街で自分を支えてくれる仲間を見つけ、相談相手としてジジの支えがいらなくなり、大人としてキキが自立した象徴として、ジジの言葉をキキが理解できなくなった(理解する必要がなくなった)と解釈しています。皆さんはいかがお考えでしょうか?

 この映画ではキキと絵描きの女性ウルスラの声を名探偵コナンでおなじみの高山みなみが一人二役で当てています。宮崎監督はキキの成長した姿をイメージししてウルスラというキャラクターを設定したそうです。さらに言えばパン屋のオソノさんもウルスラのさらに成長した姿をイメージして描いたそうです。そういう意味では、ウルスラやオソノさんは自立した女性の先輩としてキキを支えていく大切な役割をもったキャラクターであり、キキの将来の姿を描いているとも言えます。

 この映画はストーリーの面白さはもちろんのこと、北欧の街をイメージした美術の美しさや宮崎映画には欠かせない久石譲の清々しくちょっぴり切ない音楽、そして主人公の心情を見事に表現したユーミンの主題歌の起用など多くの魅力がつまった作品です。キキの飛翔の描写も独特の浮遊感があり、さすが飛行シーンを撮ったら右に出るものはいない宮崎監督ならではです。

 あと、私はこの映画を見るといつも気になるのが「ニシンパイ」、一体どんな味か気になります。

 優しい気持ちになりたいとき、元気になりたいとき、この映画をぜひ見てください!

製作年度 1989年
製作国・地域 日本
上映時間 112分
監督 宮崎駿 
原作 角野栄子 
脚本 宮崎駿 
音楽 久石譲 
出演 高山みなみ 、佐久間レイ 、戸田恵子 、山口勝平 、加藤治子 

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2006年9月17日 (日)

『となりのトトロ』この映画を見て!

第111回『となりのトトロ』
Tonari_no_totoro  今回紹介する映画は国民的アニメと言っても過言ではない『となりのトトロ』です。この映画はテレビでも何度でも放映されており、誰しも一度は見たことがあると思います。私も小学生の時からテレビで放映される度に欠かさず見たものでした。個人的にはスケールの大きい『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタ』の方が昔はお気に入りだったのですが、大学生になったくらいから『となりのトトロ』の魅力が分かってきました。

 『となりのトトロ』の大きな魅力として、身近な自然の美しさを表現したところにあります。宮崎監督が昭和30年というまだ日本が高度経済成長期に入る前を舞台にしたのも、人間と自然が調和した美しい田園風景がまだ都会近郊にも残っていたからだそうです。この映画の背景を担当したのは男鹿和雄という人なのですが、自然を正直に捉えたいという宮崎監督の意向をくみ取り、草の描き方から土や植物の色まで様々な工夫を凝らしたそうです。また時間の経過も背景で表現しようと、時間ごとに影の描き方や背景の色の彩度を変えるなどしたそうです。監督がこの映画を製作した理由の一つとして、映画を見た子どもたちが身近な自然の美しさに気づき、実際に触れに行って欲しいという思いがあったそうです。監督の子どもたちへの思いが背景の美しさには込められています。

 また、この映画の魅力として、子どもの視点で物語が進んでいくところがあります。サツキとメイという2人の姉妹を主人公に設定し、子ども時代に誰もが持つ好奇心や感性の豊かさや鋭さを見事に表現しており、大人が見ると懐かしく感じ、子どもが見るとワクワクドキドキする話しに仕上がっています。身近な場所を冒険の舞台として、大人には見えない独自の世界を創りあげる子ども時代の素晴らしさや大切さが伝わってきます。
 お母さんが病気で家にいないという設定は宮崎監督の幼少期の体験が基になっているとのことで、母親が家にいない子どもたちの寂しさや不安・苛立ちといったものを映画の中でもリアルに表現しています。私はこの映画を見るといつも家で母親の代わりをしようとするサツキの健気さが切なくて胸が締めつけられます。サツキが病院でお母さんに髪を漉いてもらう場面はサツキと母親の切ない心情が伝わってくる名シーンです。

 トトロというキャラクターは日本で一番有名なアニメキャラクターだと思いますが、映画の中では親しみやすいけど神秘的でもある存在として描かれています。監督は変に人間っぽくしたり、逆にいかにも妖怪といった感じにもしたくなかったそうで、観客が神様と思おうが、もののけと思おうが、それはかまわないと言っています。宮崎監督は日本人が昔から持っていた森に対するアミニズム信仰の象徴としてトトロを描いたそうです。森を信仰の対象として畏怖し、大切にしてきた日本人の姿をトトロという不思議な生き物を通して監督は観客に伝えたかったとのことです。

 久石譲の音楽の素晴らしさもこの映画の大きな魅力の一つです。主題歌の「さんぽ」と「となりのトトロ」はもはや童謡の定番となっていますし、映画の途中で流れる「風の通り道」はシンセによって奏でられる爽やかなメロディーがとても印象的です。

 声優陣も最近のジブリ作品のように話題性でタレントを起用するのでなく、プロの声優を起用しているので、安心して聞くことができます。またコピーライターの糸井重里氏の起用も成功しており、優しいけど、どこか頼りないお父さんを見事に声で表現しています。お父さんがサツキやメイがトトロにあったことを馬鹿にすることなく、共感するセリフを言う場面は素敵だなと思います。

 この映画は何度見ても引き込まれる魅力があります。宮崎監督の子どもや森に対する思いがつまった『となりのトトロ』。きっとこれからも多くの子どもたちに夢や希望を与えることでしょう。

 


製作年度 1988年
製作国・地域 日本
上映時間 88分
監督 宮崎駿 
原作 宮崎駿 
脚本 宮崎駿 
音楽 久石譲 
出演 日高のり子 、坂本千夏 、糸井重里 、島本須美 、北林谷栄

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『ゲド戦記歌集』

お気に入りのCD NO.14『ゲド戦記歌集』
Gedo_song  今回紹介するCDは今年の夏に公開されたスタジオジブリの最新作『ゲド戦記』の挿入曲『テルーの唄』を歌った手嶌葵のファーストアルバムであり、映画のイメージソング集でもある『ゲド戦記歌集』です。
 映画の出来は最悪でしたが、このCDはなかなかの出来です。作詞は映画の監督も務めた宮崎吾郎が全曲手がけているのですが、どの詞もシンプルでありながら力強さや切なさといったものが表現されており、胸に訴えてくるものがあります。ある意味、映画よりもゲドの世界観を表しています。曲もアコースティックな楽器の音色や哀愁漂う素朴なメロディーが印象的で、聞いていて心が落ち着きます。そして、何といっても手島葵の歌声が素晴らしく、透明感溢れる声が私たちの疲れた心を慰めてくれます。彼女の声の魅力を上手く活かしたアルバムだと思います。
 私のお薦めは8曲目の『春の夜に』です。全体的に子守歌のような感じの優しい曲なのですが、間奏で流れるリコーダーの響きがとても印象的で、何度でも聞きたくなる曲です。また映画のエンディングでも流れる『時の歌』も命の儚さや切なさを見事に表現しています。
 彼女が今後どのような曲を歌うのか非常に楽しみです。映画はあまりお薦めできませんがCDはお薦めです、ぜひ買って聞いてみてください。

1. 数え唄 
2. 竜
3. 黄昏 
4. 別の人 
5. 旅人 
6. ナナカマド 
7. 空の終点 
8. 春の夜に 
9. テルーの唄(歌集バージョン) 
10. 時の歌(歌集バージョン) 

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2006年9月 9日 (土)

『もののけ姫』この映画を見て!

第107回『もののけ姫』
Princess_mononoke  今回紹介する作品は公開当時に大ブームを巻き起こし、日本の興行収入の記録を塗り変えた『もののけ姫』です。監督は日本一有名なアニメ映画監督・宮崎駿。
 監督は若いときから日本を舞台にしたファンタジー映画を作りたいと考えており、1980年には『もののけ姫』の構想を練っていたそうです。
Mononokebook               この時に描かれたイメージボードは絵本『もののけ姫』として現在出版されています。映画とは全く違った内容であり、もののけはトトロみたいな姿で、ディズニーの『美女と野獣』のようなお話しになっています。興味のある人はぜひ読んでみてください。とても面白い絵本です。個人的には絵本版「もののけ姫」に忠実な映画も見てみたい気がします。
 最初の構想から約17年後、20億円近い制作費と3年近い制作期間をかけて、映画版『もののけ姫』が完成するのですが、当初の構想とは全く違う、自然と人間の対立という非常にハードなテーマの作品として完成しました。
 私はこの映画の制作を知った時、どんな作品になるのかとても楽しみにしていたものでした。中世の日本を舞台に、森の神・シシ神の首をめぐって、人間ともののけが壮絶な戦いをするいうストーリーを聞いたときは、『風の谷のナウシカ』のようなスケール大きく、アクション満載で、感動できるドラマが展開されるのだと勝手に予想していました。
 テレビや映画館で予告編が公開された時は、手や首が飛ぶシーンの激しい暴力描写が大変話題になりましたが、宮崎駿はコミック版『風の谷のナウシカ』でかなり激しい暴力を描いていたので、私としては驚きはしませんでしたが、これは今までのジブリ作品とは違うなと感じ、どのような展開になるのか期待が高まったものでした。
 公開当時は友だちと初日に長蛇の列に並んで見たのですが、映像や音楽の美しさはさすが宮崎駿作品だと思いつつ、私が予想したアクション満載の派手な作品とはかなり違う静謐な雰囲気の作品となっており戸惑ったものでした。この映画を最初見たときはあまり面白くないと評価していたのですが、映画を見終わってもこの作品のことが頭から離れず、また次の日も見に行き、また一週間後に見に行き、1ヵ月後に見に行きと、結局6回も劇場に足を運びました。おそらく私の中で一番映画館で何回も見た作品だと思います。(ちなみに二番は『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』)
 
 『もののけ姫』は『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタ』のような派手なアクションシーンやカタルシスもなく、ストーリーも全編重苦しく、見た後の爽快感といったものはないのですが、心にずしりと残るものありました。
 人間と自然の対立と共存というテーマは映画版『風の谷のナウシカ』でも描かれていましたが、『ナウシカ』は人間は自然に歩み寄ることの大切さだという明確なメッセージがありました。しかし『もののけ姫』では人間は生きるために自然を利用していかなくてはいけない存在であり、そう簡単に自然に歩み寄れない人間の姿が描かれました。人間は長い歴史をかけて自然を支配してきました。人間が『もののけ姫』は、文明という力によって自然を自分たちの支配下に置くまでの歴史を、タタラ場とシシ神の森を舞台に簡潔に描いており、人間と自然の現在の関係性とその問題解決の難しさを見事に表現した作品です。
 自然が破壊されると人間の生存にとっても脅威になると分かりつつも、自然を支配し利用しないと生きていけない現代の人間。人間が人間らしく生きるために自然を支配し利用することを誰が止める権利があるのか?良い意味でも悪い意味でも欲深い生き物である人間が自然をどう節度をもって利用していくことができるのか?この映画が提起する問題は簡単にこうすれば解決できるというものではありません。そのため、この映画のラストも明確な解決策を打ち出せず、アシタカがタタラ場に住み、サンが森に帰るという非常に曖昧な結末になっています。
 
 私はこの映画の大きな魅力の一つに歴史の表舞台に出てこない人たちにスポットライトを当てたところがあると思います。普通の時代劇なら必ず登場する武士や農民がほととんど出てこず、蝦夷をイメージさせる主人公・アシタカを始めとして、製鉄の職人集団、牛飼い、婆娑羅など今までの時代劇に出てこなかったさまざまな人物を登場させ、日本の中世の歴史の多様性を教えてくれる作品となっています。
 またこの映画では遊女や被差別民、ハンセン病と思われる病人など社会の中で虐げられてきた人々がタタラ場という共同体の中で活き活きと活躍している姿がとても印象的でした。もののけ側から見たらタタラ場は破壊の中心にしか見えないと思いますが、社会の中で虐げられてきた人たちにとってタタラ場は救いの場であり、理想的な共同体だと思います。人間にとっての理想郷が自然にとっては脅威になってしまうという悲劇。この映画は単純にタタラ場の人が悪いとも言えず、かと言ってもののけがいっていることも悪いと言えず、明確な悪人が出てこないので、見終わって切なく重い気持ちになってしまう作品です。
 
 私はいつもこの作品を見ると、引き裂かれた状況で生きる主人公2人の哀しみに胸が苦しくなります。人間にもなりきれず、もののけにもなれないサン。サンのアシタカが好きだけど、人間を許せないという思いは見ていて辛いものがあります。またアシタカもタタラ場も好きだし、サンも好きであるが故に、何とか両者を和解させようと努めながら、結局タタラ場も森も崩壊してしまうという悲劇。映画のラストにサンがアシタカに「アシタカは好きだ。でも人間は許すことはできない」と言い、アシタカがサンに「それでもいい、私と共に生きてくれ」というシーンは切なすぎて、泣いてしまいます。

 映画のラストはコダマが一匹だけ登場します。それは一見まだ森は再生する可能性があることを示してるようにも見えますが、よく考えるとコダマがたくさんいる森に戻ることはないことを示しており、哀しい気持ちになります。

 この映画は明るく楽しい作品ではありませんが、見終わった後なぜかもう一度見たくなる作品であり、なぜか生きていくことを励まされる作品です。アシタカがタタリ神の不条理な呪いに立ち向かい、自然と人間の解決策のない課題に立ち向かう姿は、困難な状況でも自分に与えられた課題にどう立ち振る舞っていくべきかの一つのよいお手本だと思います。生きていくことの大切さと哀しみ、人間の宿業を感じさせられる作品です。

製作年度 1997年
製作国・地域 日本
上映時間 133分
監督 宮崎駿 
製作総指揮 徳間康快 
原作 宮崎駿 
脚本 宮崎駿 
音楽 久石譲 
出演 松田洋治 、石田ゆり子 、田中裕子 、小林薫 、西村雅彦 、美輪明宏、森みつ子、森繁久弥

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