ホラー・サスペンス映画

『サバイバル・オブ・ザ・デッド』映画鑑賞日記

Photo  ゾンビ映画の巨匠ジョージ・A・ロメロ監督が前作『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』に登場した脇役を主役に据えて製作した続編とも言える作品『サバイバル・オブ・ザ・デッド』。本作品はグレゴリー・ペック主演の傑作西部劇『大いなる西部』をモチーフにして、西部劇タッチのゾンビ映画に仕上がっています。

 本作品は前作で主人公たちの物資を略奪した州兵たちが主人公です。ゾンビを倒しながら生き延びていた主人公たちがゾンビのいない安全な島があると聞き、島を目指します。しかし、たどり着いた島は2つの一家がゾンビをめぐって抗争を繰り広げており、主人公たちも人間たちの不毛な抗争に巻き込まれていきます。 

 本作品は人間とゾンビとの激しい攻防戦を期待して見ると肩透かしを喰らいます。本作品はゾンビのいる世界を舞台にしていますが人間同士の愚かな争いに対して警鐘を鳴らす社会派作品です。人間世界が崩壊に近づいていても、主義思想の違いや欲望のために争い続け自滅していく人間たちの姿をシニカルに描いています。そういう意味ではロメロ監督らしいゾンビ映画です。
 また、西部劇をモチーフにしていることもあり、馬に乗っているゾンビが登場したり、銃による決闘シーンなども盛り込まれています。そういう意味ではクラシカルな仕上がりになっています。

 もちろんゾンビ映画に欠かせない残酷描写も満載ですし、『死霊のえじき』でも描かれていたゾンビを飼いならす描写もあります。個人的にはロメロ監督らしいゾンビ映画だったので最後まで飽きることなく見ることが出来ました。

 ただ、残念な点もいくつかあり、低予算のためかスケールが小さく、ゾンビの数も少なすぎます。セットや演出も所々チープな印象を受けました。また世界の崩壊を描いているにもかかわらず、終末感や緊張感といったものがあまり伝わってきません。また、ラストの馬をゾンビが食べるシーンは正直どうかと思いました。

 本作品は誰にでもお薦めできる作品とは言いがたいですが、ロメロ監督のゾンビシリーズが好きなら見て損はないと思います。

上映時間 90分
製作国    アメリカ/カナダ
製作年度 2010年
監督:ジョージ・A・ロメロ   
脚本:ジョージ・A・ロメロ   
撮影:アダム・スウィカ   
特殊効果メイクアップ:グレッグ・ニコテロ   
プロダクションデザイン:アーヴ・グレイウォル   
衣装デザイン:    アレックス・カヴァナー   
編集:マイケル・ドハティ   
音楽:ロバート・カーリ   
出演:    アラン・ヴァン・スプラング   
    ケネス・ウェルシュ   
    キャスリーン・マンロー   
    デヴォン・ボスティック   
    リチャード・フィッツパトリック   
    アシーナ・カーカニス   
    ステファーノ・ディマッテオ   
    ジョリス・ジャースキー   
    エリック・ウールフ   
    ジュリアン・リッチングス   
    ウェイン・ロブソン

| | コメント (0) | トラックバック (3)

『恋する幼虫』この映画を見て!

第302回『恋する幼虫』
Photo  今回紹介する作品は『片腕マシンガール』の井口昇監督による純愛コメディーホラー『恋する幼虫』です。

ストーリー:「漫画家・西尾フミオは少年の頃に抱えた性的トラウマが原因で異性とうまく付き合えずにいた。そんなフミオのもとに藤井ユキという新人編集者がやってくる。彼女には中年オヤジの恋人・木村がいたが、上手く付き合えないでいた。
 そんなある日、フミオはユキに新作のことで苦言を呈されて激情。ユキの顔にペンを突き刺してしまう。それがきっかけで仕事も恋人も失うユキ。フミオは彼女のことが心配になり、自宅を訪ねてみると顔の傷は想像以上に悪化していた。罪悪感から彼女の言いなりになるフミオ。やがて彼女の顔の傷は奇怪な吸血生命体へと変化を遂げる。血を求める彼女のために協力し始めるフミオだったが・・・。」

 本作品は見た目はチープでグロくてシュールなB級作品であるのですが、中身は純度100パーセントの恋愛映画です。バカバカしく現実離れしたシーンの連続であるにもかかわらず、登場人物の屈折した感情や恋に揺れる心が繊細に描かれており、ドラマとして見応えがあります。
 また、気持ち悪いシーンが多いにも関わらず、演出がスローでほのぼのとしており見ていて嫌悪感をそれほど抱きません。

 映画の冒頭はフミオの過去の性的トラウマが描かれるのですが、その描き方にまず度肝を抜かれました。性行為をあのような形で描く監督の発想力に感心しました。

 映画のストーリーは不器用で心を病んでいる主人公たちが出会い、傷つけあい、求め合う姿を描いていくのですが、フミオを演じた荒川良々とユキを演じた新井亜樹の演技が絶品です。
 荒川良々の独特な顔と朴訥とした台詞回しは印象に残りますし、新井亜紀の最初は暗く幸薄そうな印象の女性が次第に可愛く色っぽい女性に見えてくる演技も非常に素晴らしいです。あと、フミの元恋人を演じる松尾スズキの見た目と演技の濃さも強烈です。

 本作品は性行為そのものを描くシーンはほとんどないのですが、非常にエロティックなシーンが随所にあります。特にユキが血を吸うシーンが放つエロスは強烈です。 

 映画はクライマックスに近づくにつれて世界の崩壊をも描くぶっ飛んだ展開になるのですが、ラストはある意味でハッピーエンドな締めくくり方で、ユキが○○○がないフミオに寄り添って寝る姿を見ていて心が和みました。

 万人受けする映画ではありませんがカルト映画が好きな人はぜひ一度ご覧ください。

上映時間 110分
製作国    日本
製作年度 2004年
監督:    井口昇   
脚本:    井口昇   
撮影:    西川裕   
    太田丈   
    井口昇   
特殊メイク:西村喜廣   
音楽:北野雄二   
出演:    荒川良々   
    新井亜樹   
    乾貴美子   
    唯野未歩子   
    伊勢志摩   
    村杉蝉之介   
    松尾スズキ

| | コメント (0) | トラックバック (1)

『丑三つの村』この映画を見て!

第294回『丑三つの村』 
Photo_3  今回紹介する作品は昭和13年に岡山県で実際に起こった大量惨殺事件「津山三十人殺し」を描いた『丑三つの村』です。津山三十人殺しは昭和13年5月21日未明に岡山県苫田郡西加茂村において肺結核になり村人から冷たい扱いを受けた若者が2時間足らずの間に村人30名を殺戮、その後に自らも山の中で自殺するという大変衝撃的な事件でした。金田一耕助シリーズで有名な推理小説家の横溝正史も本事件を知り強い衝撃を受けて、後に『八つ墓村』という作品を発表しました。本事件の詳細に関しては以下のサイトに詳しい情報が掲載されています。
http://www.alpha-net.ne.jp/users2/knight9/tuyama.htm

 本作品はポルノ映画で活躍していた田中登監督が津山事件を扱った81年発表の西村望の小説を元に、犯人の青年が村人から追い詰められて殺戮を決行するまでの過程を丁寧に描いていきます。主役の青年役に2003年に45歳という若さで亡くなった古尾谷雅人が起用され、上手いとはいえませんがインパクトのある演技を披露しています。また、公開当時は新人だった田中美佐子が村の中で唯一青年を理解する女性役を務め、オールヌードシーンもある中で体当たりの演技を見せてくれます。さらに池波志乃や五月みどりも惜しげもなく裸体を披露して激しいセックスシーンを見せてくれます。

ストーリー:「戦時下の昭和13年山あいに数十戸が点在する閉鎖的な村に十八歳の犬丸継男は村一番の秀才として村人の尊敬と期待を集めていた。将来は軍人になることを夢見ていたが結核と診断されてしまう。その後、村人からは煙たがられ村八分にされる。追いつめられた彼は猟銃を購入して、自分を裏切り馬鹿にした村人への復讐を計画するようになる。」

 衝撃的な事件の映画化ということで暗く陰惨な雰囲気漂う作品と思って鑑賞したのですが、見終わった印象は哀切感漂う青春映画といった感じでした。
クライマックスの20分にわたる殺戮シーンは凄惨極まる描写の連続ですが、それまでの村人たちの青年への冷たい仕打ちを考えると逆に主人公に感情移入してカタルシスさえ覚えました。
神童と村人から期待されていた主人公が肺結核に罹り、夢見ていた軍人にもなれず、村人にも煙たがられて屈折して破滅していく姿は見ていて胸痛むものがありました。

また、本作品はポルノ映画並みに生々しい性描写が大変多いです。主人公が隣近所の人妻と夜這いする姿や好意を寄せている女性にセックスを求める姿は性欲盛んな20代前半の悶々とした男の姿をかなりリアルに描いています。

本作品一番の見せ場である殺戮シーンは松竹版『八つ墓村』に比べると残酷度やインパクトは低いです。ただ、主人公が殺戮に向けて武器を装着していく姿を丹念に描くところは緊張感があり画面に釘付けになりました。

映画のラストは主人公の自殺で終わりますが、自殺する前に画面に向かって呟く独白が大変印象に残りました。

脚本や音楽がもう少し深みがあれば本作品はもっと完成度は上がったと思います。

本作品は万人にお薦めできる作品ではありませんが、この手の映画が好きな人は一度見てみてください。

上映時間 106分
製作国 日本
製作年度 1983年
監督: 田中登
製作: 奥山和由
原作: 西村望「丑三つの村」
脚本: 西岡琢也
撮影: 丸山恵司
美術: 猪俣邦弘
編集: 後藤健二
音楽: 笹路正徳
出演: 古尾谷雅人
       田中美佐子
       池波志乃
       夏八木勲
       原泉
       五月みどり
       大場久美子

| | コメント (0) | トラックバック (1)

『犬神の悪霊』この映画を見て!

第290回『犬神の悪霊』
Photo_2  今回紹介する作品は70年代の洋画のオカルトブームにのって製作された和製オカルト映画『犬神の悪霊』です。本作品はなかなかDビデオ化されず幻のカルト映画としてマニアの間で話題になっていました。しかし、2年前についにDVD化され、多くのマニアが喜んだものでした。

ストーリー:「ウラン鉱探査のため同僚と久賀村を訪れた竜次は山道を車で走っている最中に路傍の小さな祠を破壊して犬を轢き殺してしまう。その後、竜次は村に住む麗子と結婚するが、その直後に同僚が次々と怪死。。麗子も何者か憑かれたれたかのように不可解な行動を起こすようになる。竜次は麗子を連れて村に戻る。村人たちは麗子がおかしくなったのは犬神に憑かれたと判断して、憑き物落としの儀式を行うのだが・・・」

 本作品はカルト作品と言われただけあって、傑作かどうかは別として非常に見応えがありました。
 オープニングの民謡調の不気味な主題歌に始まり、川で素っ裸で踊る少女たち、結婚披露宴での同僚の突然の発狂、そして都会でシェパードの群れに襲われる同僚と目の離せない展開がこれでもかと続きます。
 前半の最大の見せ場は何と言っても妻が憑き物落としの儀式をする場面。村人たちが赤飯のおにぎりを妻の体中になすりつけるシーンは何ともエロティックです。
 中盤以降しばらくは迷信と差別に囚われた村人たちの集団ヒステリーや乱開発による公害問題を描いた社会派作品としての色が濃くなります。村人たちが犬神筋の家族を村八分にして排斥するシーンはオカルトシーン以上に恐ろしいものを感じました。
 ラスト30分は怒涛の急展開となります。特に犬神が少女に憑いて主人公を襲撃する場面は強烈なインパクトがあります。そし我々の想像を超える唐突かつ意味不明なシーンで映画は締めくくられます。このラストを見るだけでも一見の価値ありです。

 出演者たちも個性派揃いで大変濃い演技を見せてくれます。特に霊媒師を演じた白石加代子の演技は迫力満点で、本当に何者かが取り憑いたかと思うほどです。
 ちなみに主人公を演じた大和田伸は終始過剰な演技と表情を披露してくれるので見ていて笑ってしまいます。

 本作品はストーリーは無茶苦茶で良く分かりませんが、終始テンションの高い演出と演技で最後まで一気に見ることが出来ます。カルト映画が好きな人はぜひ一度見ることをお薦めします。

上映時間 103分
製作国    日本
製作年度 1977年
監督:    伊藤俊也   
脚本:    伊藤俊也   
撮影:    仲沢半次郎   
美術:    桑名忠之   
編集:    戸田健夫   
音楽:    菊池俊輔   
出演:    大和田伸也   
    泉じゅん
    室田日出男   
    岸田今日子   
    鈴木瑞穂   
    小山明子   
    長谷川真砂美   
    山内恵美子   
    加藤順也   
    川合伸旺   
    小野進也   
    畑中猛重   
    清水昭夫   
    三谷昇   
    小林稔侍   
    仲谷昇   
    高木均

| | コメント (0) | トラックバック (0)

『激突』この映画を見て!

第279回『激突』
Photo  今回紹介する作品はスピルバーグの名を一躍有名にした『激突』です。本作品は元々テレビムービーだったのですが、あまりの完成度の高さに海外では劇場公開されました。

 平凡なサラリーマンが田舎道でタンクローリーを追い越したことから起こる恐怖を描いた本作品。乗用車が巨大なタンクローリーに襲われるだけのシンプルな話しにも関わらず、一瞬たりとも目が離せない完成度の高さ。低予算かつ2週間という短期間で撮影されたにも関わらず、これほど面白い作品を作れるとは、さすがスピルバーグ監督です。

 本作品の特長は最後までタンクローリーの男の姿を映さないことです。どんな男が主人公を追いかけているのか分からないだけに不気味ですし、緊張感があります。また、観客にもどういう男が運転しているのか想像させる余地があります。

 また、次第に追い詰めれらていく主人公の心理描写やタンクローリー自体がまるで巨大な猛獣であるかのように見せる迫力満点の描写に、若い頃のスピルバーグのサスペンス映画の監督としての才能の豊かさを感じることができます。
 特に追いかけられた主人公がカフェに立ち寄った際に他の客の中に運転手がいるのではと疑心暗鬼になるシーンは見ていてドキドキさせられます。

 ラストの主人公の決死の反撃も今までの執拗な襲撃の描写がある分カタルシスがあります。

 本作品はスピルバーグの作品の中では個人的に一番才能に溢れ面白いと思います。未見の方はぜひご覧ください。 

上映時間 89分
製作国    アメリカ
制作年度 1973年
監督:    スティーヴン・スピルバーグ   
原作:    リチャード・マシスン   
脚本:    リチャード・マシスン   
撮影:    ジャック・A・マータ   
美術:    ロバート・S・スミス   
編集:    フランク・モリス   
音楽:    ビリー・ゴールデンバーグ   
出演:    デニス・ウィーヴァー   
    キャリー・ロフティン   
    エディ・ファイアストーン   
    ルー・フリッゼル   
    ジャクリーン・スコット   
    アレクサンダー・ロックウッド

| | コメント (0) | トラックバック (1)

『PERFECT BLUE』この映画を見て!

第266回『PERFECT BLUE』
Perfect_blue  今回紹介する作品は今や日本を代表するアニメ監督となった今敏が本格的なサイコサスペンスをアニメで描いた意欲作『PERFECT BLUE』です。
 本作品は実写作品として当初企画されていたそうですが、途中からアニメ作品に変更して製作されました。キャラクター原案に江口寿史、企画に大友克洋が参加。今敏監督のデビュー作品でもあります。

ストーリー:「アイドルグループ『チャム』のメンバーである未麻はグループ脱退を宣言し、女優への転身を計る。アイドルから女優を目指すためにドラマ出演でレイプシーンを演じたり、ヘアヌードの撮影に応じたりする。次第に注目されていく未麻だが、人気とは裏腹に現状への不満を募らせる。そんな中、ネットで自分の行動が詳細に書かれたホームページを知る。未麻はストーカーに監視されていることに気づき恐怖に怯える中、周辺で関係者が次々と殺される事件が発生する。」

  今見るとネットやストーカーを扱った点など少し古臭いところはありますが、日本のサイコサスペンス映画の中では5本の指に入るほど面白い作品です。アニメでないと出来ない表現を駆使して、現実と妄想が錯綜する世界を見事に表現しています。アイドルから女優に転身した主人公がストレスから自分を見失い、現実と非現実の境界が曖昧になる展開は見ている側もどこまでが現実なのか分からず最後まで画面に釘付けになります。また、主人公が芸能界という厳しい世界で追い込まれていく心情が見ている側にも良く伝わってきます。
 サスペンスとしてもシナリオが練りこまれており、ラストのオチを初めてみた時は「そういうことだったのか」と感心しました。(多少突っ込みどころはありますが)

 過激な暴力及び性的描写があるので、万人受けする作品ではないですが、サスペンス映画好きなら一度は見て損のない作品だと思います。

上映時間 81分
製作国    日本
製作年度 1998年
監督:    今敏   
演出:    松尾衝   
原作: 竹内義和   
脚色: 村井さだゆき   
作画監督: 浜州英喜   
特殊効果: 真田祥子   
ビュジュアル・ワークショプ   
美術監督: 池信孝   
撮影監督: 白井久男   
編集:    尾形治敏   
音楽:    磯見雅博   
声の出演:岩男潤子
    松本梨香   
    辻親八   
    大倉正章   
    秋元洋介   
    塩屋翼   
    堀秀行   
    篠原恵美   
    古川恵実子   
    新山志保   
    江原正士   
    梁田清之   
    津久井教生   
    古澤徹

| | コメント (0) | トラックバック (1)

『ポルターガイスト』この映画を見て!

第257回『ポルターガイスト』
Photo  今回紹介する作品はスティーヴン・スピルバーグが製作と脚本を担当した陽性ホラー映画『ポルターガイスト』です。監督は『悪魔のいけにえ』で一躍有名になったトビー・フーパーが抜擢。スタッフも大変豪華で、特撮に『スターウォーズ』のリチャード・エドランド、音楽に『オーメン』のジェリー・ゴールドスミスが起用されています。

ストーリー:「新興住宅地のクエスタベルデに引っ越したフリーリング一家。新居での楽しい生活を送り始めた矢先に、家の中で物が勝手に動きだす現象が起こり始める。そして、嵐の晩に庭の木が息子ロビーを襲い、次女キャロル・アンがクローゼットの中に消えてしまう。両親は霊を研究しているレシュ博士に相談して、家を調査してもらう。博士は家の中で起きている現象を目撃して、霊媒師のタンジーナにキャロル・アンの救出を依頼する。」

 スピルバーグ監督は本作品の構想を思いつくと何と10日間で脚本を作り上げたそうです。自分は『ET』の製作に追われて監督はできませんでしたが、ストーリーボードも自ら作り、撮影時には何回も現場に来て指示をしていたそうです。結果、完成した作品はスピルバーグが自分で監督したのではと思うほど、スピルバーグ色が濃い作品となっています。

 私が本作品を始めてみたのは小学生の時でした。その時は大変怖い印象があったのですが、最近改めて見直すとあまり怖くはなく、むしろ家族の強い絆が大変印象に残りました。特に私は子どもを救うために霊界に飛び込む母親の姿を見て、改めて「母は強し」と感じました。

 また本作品はホラー映画としては珍しく、残酷なシーンがほとんどなく、誰もが安心して見ることができます。描かれる心霊現象は明るく派手で、日本のホラー映画のようなじめじめと後に引くような怖さはあまりありません。ラストシーンなどは光と音と死体による一大スペクタルショーで、まるでテーマパークのアトラクションのようです。

 あと、私が本作品で好感を持ったのがジェリー・ゴールドスミスのテーマ曲です。大変優しく心温まるメロディーで、本作品が単なる怖いホラー映画でないことを見事に表現しています。

 なお、本作品はシリーズ化され3作目まで製作されましたが、出演者が映画公開後に次々と亡くなったことが大変話題になりました。3作通してキャロル・アンとして出演したヘザー・オルークも亡くなり、呪われた映画という噂が映画ファンの間で流れたほどです。ちなみに2作目、3作目は映画としての出来はイマイチです。

上映時間 115分
製作国    アメリカ
製作年度 1982年
監督:    トビー・フーパー   
原案:    スティーヴン・スピルバーグ   
脚本:    スティーヴン・スピルバーグ   
    マイケル・グレイス   
    マーク・ヴィクター   
撮影:    マシュー・F・レオネッティ   
特撮:    リチャード・エドランド   
音楽:    ジェリー・ゴールドスミス   
出演:   
    クレイグ・T・ネルソン   
    ジョベス・ウィリアムズ   
    ヘザー・オルーク   
    ビアトリス・ストレイト   
    ドミニク・ダン   
    オリヴァー・ロビンス   
    ゼルダ・ルビンスタイン   
    リチャード・ローソン   
    ジェームズ・カレン   
    マイケル・マクマナス   
    ヴァージニア・カイザー

| | コメント (0) | トラックバック (4)

『オーメン』この映画を見て!

第256回『オ-メン』
Photo_2  今回紹介する作品は6月6日6時に産まれた悪魔の子ダミアンがもたらす恐怖を描いた作品『オーメン』です。

  ストーリー:「アメリカ人外交官であるロバート・ソーンは、妻には内緒で死産してしまった子どもの代わりに、ローマの産院で孤児を養子として引き取る。ダミアンと名づけた子は大きな病気一つすることなく育っていく。しかし、乳母の自殺をきっかけに息子の周囲で奇妙な出来事が起こり始める。そして妻は次第に精神的に不安定になっていく。
 その頃、ソーンの前に『あの子どもは悪魔だと』言う神父が現れる。最初は神父の言うことを信じなかったソーンだが、奇怪な出来事の連続に次第にダミアンに疑問を持ち始める。」

  本作品を私が始めてみたのがテレビで小学生の時でした。その時はジェリー・ゴールドスミスの不気味なスコアも相まって大変怖い印象があったのですが、最近見返してみるとそれほど怖くはなく、むしろオカルト映画としての完成度の高さに感心しました。

 本作品の見せ場は何と言っても登場人物たちの派手な死に方です。不謹慎ですが、次は誰がどういった死に方をするのかが本作品で見ている側が一番気になるところであり、期待しているところでもあります。そういった意味では期待を裏切らない出来となっています。特にガラスで首が吹っ飛ぶシーンは強烈なインパクトを見ている側に与えてくれます。

 ストーリーはこじんまりとしていますが、次々と謎が明かされていく展開は最後まで飽きることなく見ることが出来ます。特にダミアンの母の正体が実は○○だったと分かるシーンは結構ショッキングです。

 キャストもこの手の作品としては珍しく、名優グレゴリー・ペックが主演を務めています。彼の重厚な演技が本作品の質を格段に高めています。また、ダミアンを演じた子どももかわいらしく無垢な表情をしている分、逆に恐ろしさを感じさせます。

 あと、アカデミー最優秀音楽賞も受賞したジェリー・ゴールドスミスのスコアが最高に素晴らしいです。特にテーマ曲である「アヴェ・サターニ」の迫力と恐ろしさは鳥肌が立つほどです。彼のスコアが本作品の完成度を一気に上げたと思います。

 本作品は怖すぎることもなく、グロすぎることもなく、比較的誰でも見ることが出来る格調高いオカルトホラー映画だと思います。暑い夏にぜひご覧ください。

 なお、本作品は大ヒットしてシリーズ化されました。『オーメン2』では13歳になったダミアンが自分の正体に気づき、『オーメン3最後の闘争』では32歳になったダミアンが英国で誕生する救世主の抹殺をもくろみます。また、『オーメン4』ではダミアンの娘ディーリアが主役となります。しかし、残念なことにシリーズを重ねるごとに、内容は面白くなく、映画としての質も低下しています。ただ、2作目は死に方の派手さにおいては1作目を上回っていますが。
 また、2006年にはリメイクもされましたが、オリジナルに比べると出来はイマイチです。

上映時間 111分
製作国    アメリカ
製作年度 1976年
監督:    リチャード・ドナー   
脚本:    デヴィッド・セルツァー   
撮影:    ギルバート・テイラー   
音楽:    ジェリー・ゴールドスミス   
出演:    グレゴリー・ペック   
    リー・レミック   
    デヴィッド・ワーナー   
    ハーヴェイ・スティーヴンス   
    ビリー・ホワイトロー   
    ホリー・パランス   
    レオ・マッカーン   
    アンソニー・ニコルズ

| | コメント (0) | トラックバック (1)

『ミスト』この映画を見て!

第248回『ミスト』
Photo  今回紹介する作品はスティーヴン・キングのパニックホラー小説『霧』を映画化した『ミスト』です。監督と脚本は『ショーシャンクの空に』『グリーンマイル』とスティーヴン・キング原作の映画化に定評のあるフランク・ダラボンが担当しています。劇場公開当時は原作と異なる衝撃的なラストが大変話題になりました。

ストーリー:「田舎町を激しい嵐が襲った翌日、映画ポスターのデザイナーであるデヴィッドは息子と共にスーパーマーケットに買い物へと出かけた。その頃、町は突如として濃い霧に飲み込まれ始めていた。そして、スーパーマーケットの周囲も濃い霧に覆われる。店に買い物に来ていた客たちは突如発生した霧に身動きが取れなくなってしまう。そんな中、デヴィッドを始めとして数人の客と店員が霧の中に潜む不気味な触手生物の襲撃に遭う。彼らは店にバリケードを作り始め、武器になる物もかき集める。その一方で、キリスト教の原理主義者であるカーモディは狂信めいた発言で人々を不安に陥れる。そして夜に店の光に集まった霧の中の生物たちが店内を襲撃。中にいた人々はパニックへと陥る。」

 私は高校の時にスティーヴン・キングの小説にはまっていて、その当時に本作品の原作も読んでいました。私は原作を始めて読んだ時から、これは映画にしたら面白いだろうなと思っていました。それから15年近くたって、フランク・ダラボンが映画化する話しを知り、あの原作をどんな風に映画にするのか大変楽しみでした。
 実際に映画を見ての感想ですが、ラスト近くまで基本的に原作に忠実に作られていました。(一部変更点や映画独自のエピソードが追加されている箇所はありましたが。)自分が原作を読んだときにイメージしていた映像に近いものが再現されていたのでうれしかったです。

 怪物の襲撃シーンは予想以上にグロい映像も多く、ホラー映画ファンとしては見応えがありました。ただ、怪物の造形に関しては巨大な奴を除いては巨大な昆虫に過ぎないといった感じでイマイチでした。もっと私たちの想像を超えるような造形の怪物をだしてほしかったですね。

 ところで本作品の魅力は異世界の怪物による襲撃の恐怖はもちろんのことですが、それ以上に極限状況下での人間描写にあります。特に印象的なのがキリスト原理主義者の女性カーモディがスーパーのお客たちを扇動して次第に狂信的な集団を作り上げていくところです。情報が遮断された中で、冷静な判断力を失った人々がカーモディにすがり、彼女の言うがままに動いていくシーンはある意味で怪物の襲撃以上に恐ろしいです。
 それにしてもカーモディを演じたマーシャ・ゲイ・ハーデンの存在感と迫力に満ちた演技は最高です。ある意味、主人公よりもインパクトがありました。

 さて、ラストの映画独自の追加シーンに関してですが、確かに衝撃的でしたが個人的には原作の読者の想像に任せる曖昧な終わり方の方がよかったような気がします。映画の絶望的な終わり方も嫌いではないのですが、主人公の最後の決断が話の流れからして少し唐突な気がしました。あのような極限状態では、主人公の最後の決断も止むを得ないのかもしれません。しかし、途中までかすかな希望をつかもうとした主人公があれくらいの状況であのような行動をするにはどうしても思えないんですよね。観客を驚かすために無理にバットエンドにしたような気がします。
 ただ、本作品で一番冷静だと思っていた主人公も巨大な絶望の前では結局感情に動かされてしまったというところは何ともいえない皮肉ですね人間にはどうすることもできない巨大な出来事の前では何が正しくて何が間違いなのか、人間ごときの存在には正しい選択などできないのかもしれませんね。

 本作品はクリーチャーの造形とラストが微妙ではありますが、それを除けば見応えのあるパニックホラーに仕上がっています。特にスパーの中での人間模様は手に汗握ります。興味のある方はぜひご覧ください。 

上映時間 125分
製作国    アメリカ
製作年度 2007年
監督:    フランク・ダラボン   
原作:    スティーヴン・キング   
脚本:    フランク・ダラボン   
撮影:    ロン・シュミット   
プロダクションデザイン:    グレゴリー・メルトン   
編集:    ハンター・M・ヴィア   
音楽:    マーク・アイシャム   
出演:    トーマス・ジェーン   
    マーシャ・ゲイ・ハーデン
    ローリー・ホールデン   
    アンドレ・ブラウアー   
    トビー・ジョーンズ   
    ウィリアム・サドラー
    ジェフリー・デマン   
    フランシス・スターンハーゲン   
    アレクサ・ダヴァロス   
    ネイサン・ギャンブル   
    クリス・オーウェン    ノーム
    サム・ウィットワー   
    ロバート・トレヴァイラー   
    デヴィッド・ジェンセン   
    ケリー・コリンズ・リンツ

| | コメント (0) | トラックバック (7)

『28週後』この映画を見て!

第244回『28週後』  

28_2  今回紹介する作品は5年前に公開されて世界中でヒットした世紀末パニックホラーの傑作『28日後』の続編『28週後』です。
前作は今年度アカデミー最優秀監督賞を受賞したダニー・ボイルが監督をしていましたが、今回はスペインのフアン・カルロス・フレスナディージョ監督に交代しています。

ストーリー:「感染すると凶暴性になり他の人間に襲いかかる新種ウイルス“RAGE”が猛威をふるったイギリス。ウイルス感染発生から5週後に最後の感染者が死亡して、11週後にアメリカ軍主導でNATO軍が派遣され、ロンドンの再建が始まった。
スペイン旅行中で感染を逃れたタミーとアンディの姉弟も帰国し、父親ドンと久しぶりの再会を果たす。しかし、母のアリスはドンと田舎のコテージに立て籠もっていた時に感染者の襲撃をうけて生死が分からなかった。
母を恋しがる姉弟はこっそり軍の監視区域外の我が家へと向かう。そこで姉弟は何と生き延びていた母親と再会する。しかし、そこにNATO軍がやって来て、姉弟と母は一時的軍の施設に隔離される。
軍の施設で母親はウイルスに感染しながらも発病していないキャリアだと判明。軍医スカーレットはワクチン開発への期待を持つ。
そんな折、ドンが軍の施設に侵入して、アリスと接触して感染して発病してしまう。」

 本作品は個人的に最近見たパニックホラー映画の中ではベスト3に入る面白さと完成度でした。前前作と比べるとスケールやグロさも一段とアップしていますし、ストーリーも終末観漂う絶望的な展開でジョージ・A・ロメロのゾンビ映画が好きな私にはたまりませんでした。(本作品は厳密に言うとゾンビ映画ではありませんが…)

本作品の特長は全編にわたって非情なところです。冒頭から夫が最愛の妻を見捨て一人逃げ出しますし、中盤に夫と妻が再開することで感染が再発・拡大し、主人公の姉弟を助けようとする人たちは次々に死んでいく。ラストも子供たちを救おうとする行為が世界を破滅に導くという皮肉な結末を迎えます。ここまで愛や人間性が否定された救いようのないリアルなストーリーはなかなかお目にかかれません。結局、人間を破滅させるのは人間なんですよね・・・・。

 また、狙撃部隊による無差別攻撃シーンやナパーム弾で市街地を焼き尽くすシーンなど、アメリカ軍のアフガン・イラク侵攻を痛烈に皮肉るシーンが随所に盛り込まれているところも大変印象的でした。

 グロシーンではヘリコプターによる感染者虐殺シーンが一番の見所でした。あと、前作同様に荒廃したロンドンの街の空虚な美しさも見応えがありました。

 ただ、本作品で唯一残念だったのは設定にいくつかご都合主義な点がいくつかあったところです。特に夫が隔離された妻に会うシーンや中盤の軍の対応、そして後半の父が主人公の姉弟を追うシーン等はリアリティに欠けていたような気がします。

 あと、主人公の姉弟にあまり感情移入できないシナリオや演出だったのもマイナスでした。

 いろいろ注文をつけたくなるところもありますが、本作品は近年のパニックホラーの中では間違いなく傑作の部類に入ると思います。家族や恋人と見るような作品では決してありませんが、この手の映画が好きな人なら一度は見て損はないと思います!

上映時間 104分
製作国 イギリス/スペイン
製作年度 2007年
監督: フアン・カルロス・フレスナディージョ 
製作総指揮: ダニー・ボイル 
アレックス・ガーランド 
脚本: フアン・カルロス・フレスナディージョ 
ローワン・ジョフィ 
ヘスス・オルモ 
E・L・ラビニュ 
撮影: エンリケ・シャディアック 
プロダクションデザイン: マーク・ティルデスリー 
衣装デザイン: ジェーン・ペトリ 
編集: クリス・ギル 
音楽: ジョン・マーフィ 
出演: ロバート・カーライル 
ローズ・バーン 
ジェレミー・レナー
ハロルド・ペリノー
キャサリン・マコー
マッキントッシュ・マグルトン 
イモージェン・プーツ
イドリス・エルバ 
アマンダ・ウォーカー
シャヒド・アハメド

| | コメント (0) | トラックバック (1)

より以前の記事一覧