この映画を見て!~お奨め映画紹介~

『君の名は』この映画を見て!

第312回『君の名は』
Index  今回の作品は邦画歴代2位の興行収入となった大ヒット作品『君の名は』。私も公開されて半年経過して劇場にて鑑賞してきました。

 新海誠監督は2002年に公開されたデビュー作の『ほしのこえ』の時から好きで、美しい背景美術と観る人の感情を揺さぶる音楽の挿入の仕方が印象に残る作品が多いです。

 今回の作品も美しい背景と RADWIMPS の音楽が印象的でした。また、以前の作品に比較して、キャラクターデザインも背景とマッチしており、作画も躍動感があり、素晴らしかったです。スタッフに田中将賀さんと安藤雅司さんが参加されたことで、この映画の映像としてのクオリティは格段に上がったと思います。

 ストーリーに関しては、見知らぬ男女の心が突然の入れ替わるという設定は面白く、主人公たちの戸惑いと何とか目の前の状況を切り抜けようとする姿は微笑ましく、次第に主人公たちが心を寄せ合って恋愛感情を抱くようになる前半の展開は見ていて瑞々しく心地よかったです。
 それ故に後半の東日本大震災等を意識した内容に突然シフトチェンジに驚きました。また、タイムラグというSF的設定も盛り込み、真実を探り何とか会おうとする主人公の男の子の賢明な姿や悲劇を回避するために苦闘する少しサスペンスタッチのストーリー展開に惹きこまれました。
 ただ、冷静に考えるとかなり突っ込みどころのある矛盾のあるストーリー展開ではあります。
なぜ二人はタイムラグに気付かなかったのか、如何にヒロインは父親を説得出来たのか?、タイムパラドックスも気になるところではあります。
 また、個人的に
最後がハッピーエンドだったことも印象的でした。新海作品は切ない終わり方が印象的だったのですが、監督の心情の変化か、多くの人に観てもらいたく変えたのか?ただ、この映画はこの終わり方がとてもあっていたとは思いますし、だからこそヒットしたのだがと思います。
 この映画はファンタジーという形で
突然の災いで失ったものを取り戻したい人の叶わぬ思いに対して、一時の慰めを与えてくれます。

 

監督: 新海誠 

脚本: 新海誠 

キャラクターデザイン: 田中将賀 安藤雅司 

作画監督:安藤雅司 

美術監督:丹治匠、馬島亮子、渡邉丞 

音楽: RADWIMPS

声の出演:神木隆之介 

 上白石萌音 

 長澤まさみ 

 市原悦子 

 成田凌 

 悠木碧 

 島崎信長 

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『トゥルー・ロマンス』この映画を見て!

第311回『トゥルー・ロマンス』
Photo_3  今回紹介する作品はクエンティン・タランティーノ脚本、トニー・スコット監督によるバイオレンスアクション映画の傑作『トゥルー・ロマンス』です。
 本作品は脇役が大変豪華で、デニス・ホッパー、ヴァル・キルマー、ゲイリー・オールドマン、ブラッド・ピット、クリストファー・ウォーケン、サミュエル・L・ジャクソンと錚々たる顔ぶれが出演しています。

ストーリー:「ビデオショップに働く映画オタクの青年クラレンスは、誕生日に店長が紹介したコールガール・アラバマと出会う。互いに一目ぼれした二人は即座に結婚。アバラマは元ヒモの男に会いに行き殺されかけるが逆に男を殺害。逃げる際に衣装ケースと思って奪ってきたカバンには大量のコカインが入っていた。」

 私は高校生のときに本作品を劇場で見たのですが、激しいバイオレンス描写と純度100パーセントのラブストーリーとの絶妙なブレンドが大変印象に残りました。
 特に私が印象に残ったシーンはデニス・ホッパー演ずる主人公の父とクリストファー・ウォーケン演ずる主人公を追うギャングが対峙するシーン。短いシーンではありますが、2人の会話は緊張感が漲っており見ていて手に汗握ります。
 他にもゲイリー・オールドマンの常軌を逸した演技やダメ男を嬉しそうに演じるブラッド・ピット、ヒロインがぼこぼこに拷問されながら反撃するシーンなど見所は随所にあります。

 本作品はタランティーノの初脚本だそうで、彼の趣味嗜好や恋愛に対する妄想が詰め込まれた内容となっています。ストーリー展開は特にひねりもなく王道の展開ですが、タランティーノだけあって随所に過激な暴力シーンがあり、登場人物の台詞や言い回しも独特で印象に残ります。

 トニー・スコット監督の演出もテンポ良くタランティーノの脚本の持つ魅力を引き出すことに成功していると思います。タランティーノ自身が監督していたら良くも悪くも更に濃い作品になっていたと思うのですが、ハリウッドの職人気質の監督であるトニー・スコットが手がけたことにより万人受けしやすいテイストになったと思います。  

 ラストはタランティーノの脚本では主人公の2人は死ぬ予定だったそうですが、監督が2人をどうしても生き残らせたいと熱望してハッピーエンドに変更したそうです。ここは賛否両論分かれるところだと思いますが、個人的にはハッピーエンドになって良かったかなと思います。

上映時間 121分
製作国    アメリカ
製作年度 1993年
監督:トニー・スコット   
脚本:クエンティン・タランティーノ   
撮影:ジェフリー・L・キンボール   
音楽:ハンス・ジマー   
出演:クリスチャン・スレイター   
   パトリシア・アークエット   
   デニス・ホッパー   
   ヴァル・キルマー   
   ゲイリー・オールドマン   
   ブラッド・ピット   
   クリストファー・ウォーケン   
   サミュエル・L・ジャクソン   
   マイケル・ラパポート   
   ブロンソン・ピンチョット   

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『アンストッパブル』この映画を見て!

第310回『アンストッパブル』
Photo_2  今回紹介する作品はアメリカで実際に起きた貨物列車の暴走事故をもとに製作されたパニックアクション映画『アンストッパブル』です。
 トニー・スコット監督とデンゼル・ワシントンが『サブウェイ123 激突』に続いてタッグを組み、『スタートレック』で主演を務めたクリス・パインも参加。 暴走した列車を如何に止めるかにのみ焦点を当てた直球勝負の作品に仕上げています。

ストーリー:「ペンシルベニア州にある操車場で39両編成の貨物列車777号が運転士のミスによって無人のまま暴走を始めた。この列車には危険な化学物質とディーゼル燃料を積んでおり、暴走を止めなければ1時間40分後に人口密集地帯で脱線転覆する事態に陥る。鉄道会社は様々な手を使って列車を止めようとするが失敗。そんな中、貨物列車1206号を運転した勤続28年のベテラン機関士フランクと職務経験4ヶ月の新米車掌ウィルが777号を止めるべく立ち上がる。」

 年末年始ということもあり数多くの大作や話題作が公開されていますが、個人的には一番面白い作品でした。今どき珍しいくらいシンプルかつテンポの良いパニックアクション映画です。実話でもあり結末は列車が止まるのは分かっているにも関わらず、見せ方が上手いこともあり、最後まで手に汗握って見ることができました。

 本作品は始まって15分も経たない内に列車が暴走。その後は暴走する列車の脅威と何とか列車を止めようとする主人公たちの奮闘が描かれます。
 主人公2人の私生活のドラマも時折描かれますが、無駄に長くなく映画の程良いアクセントになっています。
 暴走する列車の描き方も重量感があり、全てのものを蹴散らし突っ走る姿は巨大なモンスターのようで迫力満点です。

 ここ最近パニック映画はスケールが大きい割りにストーリーが大味でイマイチなものが多かったのですが、本作品は小粒ながら満足感が高いです。

上映時間 99分
製作国    アメリカ
製作年度 2010年
監督:トニー・スコット   
脚本:マーク・ボンバック   
撮影:ベン・セレシン   
プロダクションデザイン:クリス・シーガーズ   
衣装デザイン:ペニー・ローズ   
編集:クリス・レベンゾン   
   ロバート・ダフィ   
音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ   
出演:    デンゼル・ワシントン   
    クリス・パイン   
    ロザリオ・ドーソン   
    イーサン・サプリー   
    ケヴィン・ダン   
    ケヴィン・コリガン   
    ケヴィン・チャップマン   
    リュー・テンプル   
    T・J・ミラー   
    ジェシー・シュラム   
    デヴィッド・ウォーショフスキー   
    アンディ・アンバーガー   
    エリザベス・マシス   
    ディラン・ブルース

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『スカーフェイス』この映画を見て!

第309回『スカーフェイス』
Photo  今回紹介する作品はハワード・ホークスの『暗黒街の顔役』をアル・パチーノ主演、ブライアン・デ・パルマ監督でリメイクした『スカーフェイス』です。『プラトーン』のオリバー・ストーンが脚本を担当。音楽は『フラッシュダンス』のジョルジオ・モロダーが手がけています。

ストーリー:「1980年にキューバから反カストロ主義者として追放されマイアミへ逃げてきたトニー・モンタナはアメリカでの成功を夢見て、麻薬王フランクの下で麻薬の取り引きを行っていく。トニーは麻薬の取り引きで徐々に頭角を現していく。そんなトニーの姿にフランクは危険を感じるようになり、殺害を試みる。しかし、殺害は失敗して、逆にトニーにフランクは殺されてしまう。
 トニーはフランクの豪邸と愛人エルヴィラを手に入れ、マイアミの麻薬王として君臨して、巨万の富を手に入れる。しかし、警察による脱税の摘発をきっかけにトニーは次第に追い詰められていく。」

 本作品は3時間近い上映時間ですが、アル・パチーノのギラギラとした存在感と迫真の演技で最後まで飽きることなく見ることが出来ます。アル・パチーノは『ゴッドファーザー』を始めとして数多くの映画に出演していますが、個人的には本作品での演技が最高だと思います。本作品では乱暴で下品で傲慢だが極悪非道になりきれない弱さもある男を見事に演じきっています。

 デ・パルマ監督はアメリカの裏世界で成功して頂点を極めながらも破滅していく男の壮絶な生き様と死に様をストレートに描いています。デ・パルマ監督らしい凝ったカメラワーク等は見られませんが、過激な暴力描写が随所に盛り込まれています。特に前半の風呂場での電動のこぎりを使った拷問シーンは強烈なインパクトがあります。

 私は本作品で印象的だったのは何と言ってもラストの銃撃戦による主人公の壮絶な死に方です。破滅に向かって自ら突き進んでいく主人公の姿は哀れでもあり、潔くもあり、見ていて胸が締めつけられると同時に鳥肌が立ちました。

 本作品はマフィア映画の傑作であり、アル・パチーノの最高の演技を見ることが出来ます。

上映時間 170分
製作国    アメリカ
製作年度 1983年
監督:ブライアン・デ・パルマ   
製作:マーティン・ブレグマン   
脚本:オリバー・ストーン   
撮影:ジョン・A・アロンゾ   
編集:ジェラルド・B・グリーンバーグ   
音楽:ジョルジオ・モロダー   
出演:アル・パチーノ   
   スティーヴン・バウアー   
   ミシェル・ファイファー   
   ポール・シェナー   
   ロバート・ロジア   
   メアリー・エリザベス・マストラントニオ   
   F・マーレイ・エイブラハム   
   ミリアム・コロン   
   ラナ・クラークソン   
   ハリス・ユーリン   
   リチャード・ベルザー

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『バトル・ロワイアル』この映画を見て!

第308回『バトル・ロワイアル』
Photo  今回紹介する作品は中学生同士が殺しあうという過激なストーリーが話題になったバイオレンスアクション映画『バトル・ロワイアル』です。
 公開にあたって青少年への悪影響を与えるのではと国会でも議論になり、15歳未満は劇場で鑑賞できないR15指定となったこともマスコミで大きく取り上げられました。

ストーリー:「不況によるによる失業者たちの増加や多発する少年犯罪で荒廃した近未来の日本。
大人たちが自信を取り戻すために新世紀教育改革法・通称(BR法)が可決。その法律の内容は全国の中学3年生の中から無作為に選ばれた1クラスを最後の1人になるまで殺し合わせるという残酷なものだった。
 そして、城岩学園中学校3年B組が今回選ばれ、生徒42人が無人島に拉致され、最後の一人になるまで3日間殺しあうことになる。」

 私は公開当時に劇場まで見に行ったのですが、ストーリーや演出は突っ込みどころもありますが、テンポの良さと派手なアクションは見応えがあり、最後まで楽しんで鑑賞できました。

 本作品は深作欣二監督の実質的な遺作ですが、監督当時すでに70歳と高齢ながら演出はとてもエネルギッシュでケレン味があります。私が一番印象に残ったエピソードは灯台での殺し合いのシーン。仲の良かった友達同士が一人の死をきっかけに疑心暗鬼になり全員死んでいく様は見ていて非常に哀しかったです。
 本作品は残酷な殺し合いの中に中学生たちの青春模様や深作監督の閉塞社会で生きる若者たちへの熱いメッセージが込められていて、後味はとても爽やかです。
 ただ、所々リアリティにかけていて興ざめだったり、台詞や演出が臭すぎて見ていて恥ずかしくなる場面がいくつかありました。 

 役者の演技も主役である藤原竜也や前田亜季よりも、脇役の栗山千明や柴咲コウそして安藤政信の方がインパクトがありました。主役の2人は必死に逃げ惑うだけですが、脇役たちは己のために積極的に闘おうとするので、見ていてギラギラしていて痛快です。
 あと、学校の教師役を演じた北野武の演技も他の役者を圧倒する存在感があり、本作品の完成度を上げています。

 翌年に追加シーンを入れた特別篇も公開されています。クラスメートがバスケットをしているシーンや柴崎コウ演ずる光子の小さい頃のおぞましいエピソードなどが追加されています。光子のエピソードはよかったのですが、ラストにダラダラ続く追加カットは蛇足だったような気がします。

 本作品は賛否両論ありますが、バイオレンス青春映画として見るとなかなか面白いです。

上映時間 114分
製作国    日本
製作年度 2000年
監督:深作欣二   
原作:高見広春『バトル・ロワイアル』(太田出版刊)
脚本: 深作健太   
撮影:柳島克己   
美術:部谷京子   
編集:阿部浩英   
音楽:天野正道   
録音:安藤邦男   
出演:   藤原竜也   
    前田亜季   
    山本太郎   
    栗山千明   
    塚本高史   
    高岡蒼佑   
    石川絵里   
    神谷涼   
    柴咲コウ   
    安藤政信   
    日下慎   
    松沢蓮   
    宮村優子   
    美波   
    山村美智子   
    谷口高史   
    深浦加奈子   
    岩村愛   
    竜川剛   
    中井出健   
    ビートたけし   
     前田愛   

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『ポルノ時代劇 忘八武士道』この映画を見て!

第307回『ポルノ時代劇 忘八武士道』
Photo  今回紹介する作品は小池一雄・小島剛夕の同名原作をを日本映画の鬼才・石井輝男監督が完全映画化した『ポルノ時代劇 忘八武士道』です。

ストーリー:「“人斬り死能"と恐れられている明日死能は役人に追われていたが、吉原遊廓の忘八者に命を助けられる。“忘八者"とは、「孝、悌、忠、信、礼、義、廉、恥」を全て捨てた無法者で、人にして人に非ず、人たる姿を忘れた鬼畜外道の集りであった。明日は忘八者の仲間入りを勧められる。吉原の総名主・大門四郎兵衛に気に入れられた明日は客分として扱われる。
 この頃の江戸は湯女や茶屋女などの幕府非公認の性風俗が流行し、幕府の公認を受けている吉原は経営を圧迫されていた。それらをつぶす機会を狙っていた大門は明日を利用して湯女や茶屋女を潰す行動に出るのだが・・・」

 本作品は35年以上前の作品でありますが、今見ても強烈なインパクトがあります。長髪の丹波哲郎の切れのある殺陣、次々と登場する全裸の女性、そして激しく噴出す血と飛んでいく首や腕。エログロ・バイオレンスのオンパレードで一瞬たりとも目が離せません。

 ストーリーは荒唐無稽ではありますが、吉原などのセットは凝っていますし、江戸時代の性風俗の丁寧に描写していますし、時代劇に欠かせない立ち回りは迫力満点ですし、見ていて飽きません。
 登場する役者の演技やメイクも大変濃く、小池監督の演出もサイケでケレン味に溢れており、見る者を独特の世界に引きずり込んでくれます。

 私が一番印象に残ったシーンは主人公を助けるための女性たちが着物を着て火の中に飛び込み転げまわって消火活動をして、鎮火後に火照った体を冷やすために着物を脱いで素っ裸で水浴びをするところです。そのぶっ飛んだ演出とサービス満点の映像に見ていてお腹がいっぱいになります。

 また、『ウルトラセブン』のアンヌ隊員役で人気のある女優・ひし美ゆり子が惜しげもなく裸体を披露しており、ストーリーとは無関係な白人女性に対する拷問シーンを迫力満点に演じています。

 ラストのアヘンで意識が朦朧とした主人公が雪の降る中で彼を捕らえようとする幕府の人間たちを斬りまくるシーンは日本映画史に残るほどスプラッターな立ち回りが繰り広げられます。血が飛び、腕や首が水平に飛んでいく演出は残酷さを超えたカタルシスがあります。

 本作品はR18指定であり、18歳以下の方は見られませんが、カルト映画好きなら一度は見て損はないと思います。

上映時間 81分
製作国    日本
製作年度 1973年
監督:    石井輝男   
原作:    小島剛夕   
    小池一雄   
脚本:    佐治乾   
撮影:    鈴木重平   
美術:    吉村晟   
編集:    市田勇   
音楽:    鏑木創   
出演:    丹波哲郎   
    伊吹吾郎   
    遠藤辰雄   
    内田良平   
    久野四郎   
    深江章喜   
    ひし美ゆり子   
    相川圭子   
    池島ルリ子   
    一の瀬レナ   
    佐藤京一   
    原田君事   
    小林千枝   
    北川マキ   
    笹木俊志   

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『十三人の刺客』(1963年版)この映画を見て!

第306回『十三人の刺客』(1963年版)
1963  今回紹介する作品は三池崇史監督によってリメイクされ現在公開中の『十三人の刺客』のオリジナル版です。
 東映の時代劇に集団抗争時代劇というジャンルを確立させた作品であり、それまでの勧善懲悪の時代劇から脱却してリアリズムを重視した作風となっています。

 私は三池監督のリメイク版を見た後にオリジナル版をDVDで見たのですが、役者の演技という点ではオリジナル版の方が圧倒的な勝ちでした。特に片岡千恵蔵の凛とした佇まいは見ていて惚れ惚れします。また、脇を固める嵐寛寿郎や月形龍之介もさすが当時の時代劇の大スターだけあって演技に貫禄があります。
 ただ、アクションシーンの派手さと悪役のインパクトという点ではリメイク版の方が個人的には勝っていたと思います。

 ストーリーは将軍の弟で明石藩主である暴君を抹殺するべく、十三人の刺客の宿場町で明石藩の侍たちと死闘を繰り広げるという単純明快なものです。
 映画の前半はアクションシーンはほとんどないにも関わらず、暴君の極悪非道さや敵味方の駆け引きが緊張感たっぷりに描かれており、見る者を画面に釘付けにします。
 そして、後半の30分以上続く、混沌とした戦闘シーン。敵味方それぞれ己の役目を果たそうとぶつかり合う姿は大変迫力があります。また、敵味方いつ斬られるか分からない恐怖の中で必死に戦いながらも倒れていく姿は見ていて爽快さよりも悲壮感が強いです。特に剣豪役の西村晃の無様な死に方は強烈なインパクトがありました。

 本作品は『七人の侍』と比較されがちですが、個人的にはサム・ペキンパー監督の『ワイルドバンチ』に近い印象を持ちました。己を信じて捨て身で戦う男たちのカッコ良さと空しさが非常に印象に残る作品です。 

上映時間 125分
製作国    日本
製作年度 1963年
監督:工藤栄一   
脚本:池上金男   
撮影:鈴木重平   
美術:井川徳道   
編集:宮本信太郎   
音楽:伊福部昭   
出演:片岡千恵蔵   
   里見浩太郎   
   内田良平
   西村晃   
   丹波哲郎   
   嵐寛寿郎   
   月形龍之介   
   丘さとみ   
   三島ゆり子   
   藤純子   
   河原崎長一郎   
   水島道太郎   
   加賀邦男   
   沢村精四郎   
   阿部九州男   
   山城新伍   
   原田甲子郎   
   春日俊二   
   明石潮   
   片岡栄二郎   
   北龍二   
   香川良介   
   菅貫太郎   
   和崎俊哉   
   水野浩   
   小田部通麿   
   堀正夫   
   高松錦之助   
   汐路章   

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『東京ゴッドファーザーズ』この映画を見て!

第305回『東京ゴッドファーザーズ』
Photo_3  今回紹介する作品は先月惜しくも亡くなった今敏監督が現代の東京を舞台に描く奇跡の物語『東京ゴッドファーザーズ』です。声の出演に江守徹、梅垣義明、岡本綾が参加しています。

ストーリー:「元競輪選手のギンちゃん、元ドラッグ・クイーンのハナちゃん、家出少女のミユキの3人は、ホームレスとして新宿の公園でダンボールハウスにて共同生活をしていた。そんな彼らはクリスマスの夜にゴミ置き場の中からひとりの赤ん坊を見つける。ギンちゃんは警察に届けるべきだと主張するが、赤ん坊を欲しがっていたハナちゃんは、“清子”と勝手に命名して手放そうとしない。。ハナちゃんに押し切られる形で3人は自分たちで清子の親探しをすることにしたのだが・・・。」

 本作品を始めてみた時、まるで実写かと思うほど描きこまれた東京の街並みにまず驚きました。そんなリアルな風景の中で繰り広げられる赤ん坊をめぐる物語はあまりにも出来すぎた偶然の連続です。普通ここまでご都合主義な展開が続くとうそ臭くて白けてしまいますが、本作品はキャラクターの魅力とテンポの良いシナリオと演出で最後まで飽きることなく楽しむことができます。

 主人公の3人はそれぞれ辛い事情があって家族と別れてホームレスになっているのですが、そんな彼らが赤ん坊のために奔走する中で自分たちの人生を見つめなおしていきます。その展開はベタなのですが、なぜか感動してしまいます。

 赤ん坊の両親を探す話しも終盤に思わぬ展開となり、主人公たちがアクション映画並みの活躍をするのですが、ラストに起こる本作品最大の奇跡はアニメだから表現ができる素晴らしい締めくくり方だったと思います。

 あとオープニングのスタッフロールも東京の街並みに溶け込むよう工夫が凝らしてあって面白い試みだと思いました。

 本作品はアニメ好きでない方でも十分楽しめる作品に仕上がっています。心温まる奇跡のストーリーを是非一度ご覧になってください。  

上映時間 90分
製作国    日本
製作年度 2003年
監督:今敏   
企画:丸山正雄   
脚本:今敏、信本敬子   
キャラクターデザイン:今敏、小西賢一   
作画監督:小西賢一   
美術監督:池信孝   
色彩設計:橋本賢   
撮影監督:須貝克俊   
音楽:鈴木慶一   
音響監督:三間雅文   
声の出演:江守徹   
    梅垣義明   
    岡本綾   
    飯塚昭三   
    加藤精三   
    石丸博也   
    槐柳二   
    屋良有作   
    寺瀬今日子   
    大塚明夫   
    小山力也   
    こおろぎさとみ   
    柴田理恵   
    矢原加奈子   
    犬山犬子   
    山寺宏一   

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『千年女優』この映画を観て!

第304回『千年女優』
Photo_2  今回紹介する作品は先日惜しくも亡くなった今敏監督の代表作『千年女優』です。公開されるや否や世界各国の映画祭で高い評価を受け、国内でも『千と千尋の神隠し』と同時に第5回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞を受賞しています。

ストーリー:「芸能界を引退した伝説の大女優・藤原千代子は自分がかつて撮影していた撮影所の取り壊しに伴うインタビューの依頼に応じて30年ぶりにカメラの前に姿を現した。以前から千代子のファンだった立花源也とカメラマンの井田恭二は千代子の自宅を訪れて、インタビューを開始。千代子は女学生の頃に恋した名も知らぬ男性を追って映画女優になった半生を映画の記憶と交錯しながら語っていく…。」

 ストーリーは主人公の女優の人生と彼女が出演した映画を重ね合わせて描いており、どこまでが現実でどこからが空想か分からない虚実入り乱れた構成となっています。始めてみた時は次々と場面が展開していくので最初戸惑いましたが、慣れてくると平沢進の音楽の効果もあってか非常に心地よく感じるようになりました。

 本作品の構成で私が印象的だったのが、二人のインタビュアーが主人公の回想シーンに突如入る込むところです。一人が主人公の長年の大ファンで女優の回想の中で重要な役どころとして振る舞い、もう一人が主人公のことをあまり知らず傍観者としてカメラを回し続ける。この2人が本作品の狂言回しの役割を見事に果たしていたと思います。

 戦国時代から激動の戦前戦後そして宇宙船が飛ぶ未来という壮大な時間の流れを90分という短い時間に詰め込み、一人の女優の情熱的で一途な生き様を疾走感と躍動感に満ちた演出で描き切る今敏監督の手腕は大変素晴らしいです。
 また、『蜘蛛巣城』や『無法松の一生』など日本映画の名作にオマージュを捧げたシーンや昭和の大女優たちを彷彿さえるエピソードの数々も邦画ファンにはたまりません。

 ラストの主人公の台詞に関しては賛否両論あるかと思いますが、個人的には賛同できます。私は本作品は一途な純愛の素晴らしさを単に描いた作品でなく、好きな男をひたすら追い続ける自分の姿に恋する女性のエゴイズムをポジティブに描いた作品だと思っていますので。

上映時間 87分
製作国    日本
製作年度 2002年
監督:    今敏   
企画:    丸山正雄   
原案:    今敏   
脚本:    今敏   
    村井さだゆき   
作画監督:本田雄   
    井上俊之   
    濱洲英喜   
    小西賢一   
    古屋勝悟   
美術監督:池信孝   
色彩設計:橋本賢   
撮影監督:白井久男   
音楽:平沢進   
音響監督:三間雅文   
声の出演:折笠富美子   
    小山茉美   
    荘司美代子   
    飯塚昭三   
    佐藤政道   
    小野坂昌也   
    津田匠子   
    鈴置洋孝   
    片岡富枝   
    徳丸完   
    京田尚子   
    山寺宏一   
    津嘉山正種   

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『十三人の刺客』(2010年版)この映画を観て!

第303回『十三人の刺客』(2010年版)
Photo  今回紹介する作品は1963年に工藤栄一監督が片岡千恵蔵を主演に製作した傑作時代劇を『ヤッターマン』の三池崇史監督が豪華キャストでリメイクした『十三人の刺客』です。

ストーリー:「時は江戸時代末期、明石藩江戸家老間宮図書が将軍・家慶の弟で明石藩主・松平斉韶の暴君ぶりを訴え自決する。松平斉韶は老中への就任も決まっている男だが、その極悪非道かつ無慈悲な振る舞いは目に余るものがあった。幕府の存亡に危機感を募らせる老中の土井利位は御目付役の島田新左衛門に斉韶の暗殺命令を下す。松平斉韶の極悪非道ぶりに怒り心頭の島田新左衛門は暗殺のための計画を練る。そして、腕に覚えある侍たちを集め、参勤交代で帰る途中の斉韶一行を中山道の落合宿で討つ作戦を立てる。」

 日本ホラー映画の傑作『オーディション』の脚本家・天願大介と監督・三池崇史がコンビを組んだ作品ということもあり劇場に足を運んで鑑賞しました。前半は松平斉韶のこれでもかという極悪非道ぶりに、後半は13人対200人の激しい立ち回りに目が釘付けになり、2時間半近い上映時間があっという間でした。ここまで派手で面白い時代劇は久しくなかったので大変満足しました。

 まず、私が度肝を抜いたのは稲垣吾郎演ずる暴君の常軌を逸した振る舞いの数々です。子どもを矢で射殺すわ、娘の両腕両足を切断するわの鬼畜ぶりで、近年の邦画で一番インパクトのある悪役だといっても過言でありません。前半で敵の非道さをしっかり見せつけることで、主人公たちの暗殺作戦に観客も感情移入することができたと思います。

 また、十三人の刺客たちの人間ドラマにも敢えて触れず、ひたすら目的を達成しようとする主人公たちと何とかそれを阻止しようとする鬼頭半兵衛の姿だけに絞ったところも緊張感があって良かったと思います。(逆にそれが物足りないという人もいるかと思いますが)

 後半は約50分間延々と戦闘シーンが続くのですが、血と泥にまみれながら侍たちが刀で殺しあう姿は見ている側もヘトヘトになるほどです。

 三池監督の演出はリアリズムとケレン味に溢れており見応えがあります。落合宿のセットも生活の息吹が感じられるほど凝っていますし、室内や夜など暗い場面も変に明るくせず暗く撮影しているところもリアリティを感じました。

 役者に関して言うと、役所広司や市村正親の演技が素晴らしいのはもちろんの事ですが、予想以上に稲垣吾郎のクールな顔立ちに狂気を秘めた演技がインパクトがありました。国民的アイドルであるSMAPのメンバーがこんな悪役を演じられるとは正直驚きました。ある意味、助演男優賞ものです。
 また、松方弘樹もさすが時代劇出身だけあって、殺陣の切れが他の役者とは違います。彼の殺陣がスクリーンで見られるだけでも本作品は価値があります。
 ただ、伊勢谷友介演じる山の民に関しては賛否両論あるかと思いますが、個人的には三池さんらしいキャラクター造形で好感が持てました。劇場でも彼が登場するシーンでは笑いが起こっており、一服の清涼剤としての役割を見事に果たしていたと思います。ただラストでの登場に関してはあまりにも非現実的で違和感ありました。

 本作品は久しぶりに邦画が本気を出して製作した娯楽時代劇です。ぜひ大画面で見ることをお薦めします。
 ちなみに三池監督は3Dで小林正樹監督の『切腹』もリメイクすることになったそうで、そちらも大変楽しみです。

上映時間 141分
製作国    日本
製作年度 2010年
監督:    三池崇史   
原作:    池宮彰一郎   
脚本:    天願大介   
撮影:    北信康   
美術:    林田裕至   
編集:    山下健治   
音楽:    遠藤浩二   
出演:    役所広司   
    山田孝之   
    伊勢谷友介   
    沢村一樹   
    古田新太   
    高岡蒼甫   
    六角精児   
    波岡一喜   
    石垣佑磨   
    近藤公園   
    窪田正孝   
    伊原剛志   
    松方弘樹   
    吹石一恵   
    谷村美月   
    斎藤工   
    阿部進之介   
    内野聖陽   
    光石研   
    岸部一徳   
    平幹二朗   
    松本幸四郎   
    稲垣吾郎   
    市村正親

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