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2010年1月17日 - 2010年1月23日

『トゥモロー・ワールド』この映画を見て!

第286回『トゥモロー・ワールド』
Photo  今回紹介する作品は、子供が誕生しなくなった近未来のイギリスを舞台に人類の希望をめぐる戦いに巻き込まれる主人公の姿を描いた『トゥモロー・ワールド』です。イギリスを代表するミステリー作家であるP.D.ジェイムズの『人類の子供たち』を原作にした本作品。『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』のアルフォンソ・キュアロンが監督を務め、長回しを多用したドキュメンタリータッチの映像で終始緊張感のある作品に仕上げています。

ストーリー:「人類が原因も分からないまま子どもを産むことができなくなって18年経った2027年。世界各国が絶望から混乱に陥っていた。イギリス政府も治安の維持のために不法入国者の徹底した取締りを行っていた。
 そんなある日、セオは元妻ジュリアンが参加していた反政府組織“FISH”に拉致される。ジュリアンは妊娠した移民の少女を“ヒューマン・プロジェクト”という組織に引き渡すために必要な通行証を手に入れるためにセオに協力を求める。セオは最初は拒否したものの、最終的にジュリアンに協力して通行証を手に入れる。セオはジュリアンや移民の少女と車に乗り込み検問所に向かおうとするが、途中で銃撃にあってしまう。」

 私は本作品を何気なくレンタルして鑑賞したのですが、硬派なストーリーと映像の完成度の高さに驚きました。私は近未来のディストピア(管理社会)を舞台にした映画を数多く見ていますが、これほどリアルで現代社会を反映した作品は滅多にないと思いました。
 近未来と言いながら今と見た目は大きく変わらない景色の中で繰り広げられる差別や殺戮。貧困が広がり、移民が排斥され、テロが頻発する近未来のイギリスはまさしく現代の延長の世界。絶望が広がる世界の中で主人公が子どもを何としても守ろうと奮闘する姿は見ていて胸が熱くなりました。

 私は本作品を見て、子どもが持つ命の輝きや希望といったものに改めて気づかされました。クライマックスの市街地での戦闘シーンで武装した兵士たちが生まれたての子どもを見て銃を下ろすシーンは見ていて涙が出てきました。命が次々と奪われていく戦場の中で命を与えられ何とか生きようと声を上げる子ども。そのシーンを見て戦争の愚かさや命の価値や尊厳といったものを考えさせられました。 また、同時に主人公やその仲間が自分を犠牲にしても子どもを守ろうとする姿に、生きるということの意味や大人の役割や責任とは何かも考えさせれました。

 本作品の特長として主人公の視点で終始話しが進んでいく点があります。普通の映画なら「なぜ子どもが生まれなくなったのか?」、「ヒューマンプロジェクトとは何か?」など説明するところもあえて省略しています。それが不満な人もいるかもしれませんが、個人的には見る側に想像できる余地があって良かったと思います。また、あえて状況説明せず主人公の姿だけを追うことで、見ている側に主人公と一緒に体験しているかのような臨場感がありました。

 あと、私が本作品で凄いと思ったのは長回しのような映像面での演出です。クライマックスの8分近い戦闘シーンを始めとして、冒頭のテロのシーンや主人公が乗った車が襲撃されるシーン。どれもワンカットで緊張感たっぷりに見せているのですが、一体どう撮影したのかと見終わって考え込んでしまいました。特にクライマックスの戦闘シーンはまるで主人公の後ろ姿を従軍カメラマンが手持ちカメラで撮影しているかのような映像で迫力がありました。メイキングを見ると単なる長回しでなくCG処理もされているようですが、見ている限りつなぎ目が分かりません。この長回しの映像を見るだけでも本作品は価値があります。

 また、音楽にも大変こだわっており、クラッシックからプログレやロックなど様々な曲が効果的に選曲されています。劇中歌としてディープ・パープルやレディオヘッド、キング・クリムゾンの作品が使用され、エンドロールではジョン・レノンの楽曲『ブリング・オン・ザ・ルーシー』が使われています。

 本作品は単なる近未来のアクション映画でなく、命の尊厳や価値といったものをテーマにした非常に考えさせられる映画です。映像も大変迫力ありますし、一度は見て損のない映画だと思います。 

上映時間 109分
製作国    アメリカ/イギリス
製作年度 2006年
監督:    アルフォンソ・キュアロン   
原作:    P・D・ジェイムズ   
    『人類の子供たち』/『トゥモロー・ワールド』(早川書房刊)
脚本:    アルフォンソ・キュアロン   
    ティモシー・J・セクストン   
撮影:    エマニュエル・ルベツキ   
美術:    ジェフリー・カークランド   
         ジム・クレイ   
衣装:    ジェイニー・ティーマイム   
編集:    アルフォンソ・キュアロン   
    アレックス・ロドリゲス   
音楽:    ジョン・タヴナー   
出演:    クライヴ・オーウェン   
    ジュリアン・ムーア   
    マイケル・ケイン   
    キウェテル・イジョフォー   
    チャーリー・ハナム   
    クレア=ホープ・アシティ   
    パム・フェリス   
    ダニー・ヒューストン   
    ピーター・ミュラン   
    ワーナ・ペリーア   
    ポール・シャーマ   
    ジャセック・コーマン   

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『蜘蛛巣城』この映画を見て!

第285回『蜘蛛巣城』
Photo  今回紹介する作品はシェイクスピアの『マクベス』を日本の戦国時代に舞台を置き換えて映画化した『蜘蛛巣城』です。

 ストーリー:「時は戦国時代、武将・鷲津武時は三木義明とともに帰城の途中で森の中で道に迷い、物の怪の妖婆に出会う。妖婆は2人に『鷲津様はやがて国の主となろう、そして、その後を継ぐのは三木様の子孫であろう・・・』と告げる。それを聞いた二人は最初は信じなかったが、城に戻ると二人は城主から武勇を賞せられ妖婆の予言どおりに出世する。予言が気になっていた鷲津武時は妻・浅茅にそそのかされて主君を殺害。予言どおりに城主となるが、朝茅は次は親友の三木義明を殺害するよう強要する。」

 本作品を見ると己の欲望に囚われて身を破滅させてしまう人間の業やこの世の無常さといったものを強く感じさせられます。どの地域どの時代でも変わらぬ人の欲と愚かさ。それが身に沁みる映画です。

 映像は黒澤監督だけあって見応え十分です。冒頭の霧の中から城が出てくるシーンは幻想的な美しいに満ちていますし、森の中で物の怪と出会うシーンは不気味で下手なホラー映画よりも怖いです。富士山の麓に実際に建てて撮影された城の映像もリアリティと重厚さがあります。
 またラストシーンの主人公めがけて矢が飛ぶシーンは弓の名人を呼び実際に三船敏郎に向かって矢を放ったそうで、大変迫力があります。三船敏郎は撮影後に黒澤監督に「殺す気か!」と怒ったそうですが無理ありません。この矢のシーンを見るだけでも本作品は価値があります。

 黒澤監督は日本の伝統芸能である能を意識した演出を取り入れ、作品に独特な雰囲気や様式美をもたらすことに成功しています。音楽も能を意識したものになっています。

 三船敏郎演ずる主人公が欲望から次第に狂気に陥っていく演技もさることながら、冷酷かつ不気味な雰囲気を持つ主人公の妻・浅茅を能面のようなメイクを施し演じた山田五十鈴が大変印象に残ります。特に浅クライマックスで茅が狂って手を洗い続けるシーンの演技は圧巻で、見ていて鳥肌が立ちます。

 本作品で唯一残念なのは古い作品でもあるせいか台詞が聞き取りにくいこと。耳を澄ましても聞き取れない箇所があり、字幕つきで見ることをお薦めします。

上映時間 110分
製作国    日本
製作年度 1957年
監督:    黒澤明   
原作:    ウィリアム・シェイクスピア   
    『マクベス』
脚本:    小国英雄   
    橋本忍   
    菊島隆三   
    黒澤明   
撮影:    中井朝一   
美術:    村木与四郎   
音楽:    佐藤勝   
記録:    野上照代   
照明:    岸田九一郎   
出演:    三船敏郎   
    山田五十鈴   
    志村喬   
    久保明   
    太刀川洋一   
    千秋実   
    佐々木孝丸   
         三好栄子   
    浪花千栄子   
         木村功   
    宮口精二   
    中村伸郎   

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