『告白』この映画を見て!
第297回『告白』
今回紹介する作品は湊かなえの同名ベストセラーを『嫌われ松子の一生』の中島哲也監督が完全映画化した『告白』です。主演に松たか子、共演に岡田将生や木村佳乃を起用。生徒に子どもを殺された教師の復讐と子どもを殺した生徒の顛末を、ダークな映像と演出で描いていきます。
ストーリー:「ある中学校の1年B組、終業式後のホームルームで担任の森口先生が突然「わたしの娘が死にました。警察は事故死と判断しましたが、娘は事故で死んだのではなくこのクラスの生徒に殺されたのです」と静かに語り始める。担任の衝撃的な告白に騒然とする生徒たち。担任は娘を殺した犯人Aと犯人Bに対して、命の重さを知らしめるための制裁を加えて学校を辞める。その後、事情を知らない熱血教師が新担任としてクラスにやってくる。そんな中、以前と変らぬ様子の犯人Aはクラスでイジメの標的となり、一方の犯人Bはひきこもりとなってしまう。」
私は原作未読で話しの内容も良くを知らないまま、中島哲也監督の最新作ということで見に行ったのですが、衝撃的な内容と映画としての完成度の高さにスクリーンに釘付けになりました。中島監督の前作『パコと魔法の絵本』はいまいちでしたが、人間の心の闇と命の重さを描ききった本作品はストーリー・演技・演出全てがパーフェクトでした。
先生の衝撃的な告白から始まる本作品は少年犯罪・殺人・いじめ・学級崩壊・差別・歪んだ親子関係と現代の日本の病みをこれでもかと盛り込み、人間の醜いエゴイズムや悪意そして脆さを真正面から描いています。メジャー系の作品でこのような暗く重い内容を取り上げ、エンターテイメントしても満足のいく作品に作り上げた中島監督は凄いと思いました。
色彩を抑えた冷たく美しい映像、スローモーションを多用した演出、レディオヘッドやBorisを選曲する音楽センス、子どもたちのリアルな演技、ラストのカタルシスと絶望。中島監督の才能を堪能できる作品です。
また、主人公の担任教師を演じた松たか子の演技が大変素晴らしく、感情を抑えた演技と爆発させる演技のコントラストが大変印象に残りました。また過保護な母親役を演じる木村佳乃の演技も大変リアルで、真に迫るものがありました。
私は本作品を主人公が犯人を探す話しだと最初思っていました。しかし、犯人は前半の担任の告白ですぐに分かり、途中からは主人公以外の主要登場人物たちによる告白が次々と描かれていきます。あくまで登場人物たちの主観による告白なので、その告白はどこまでは真実で、どこからが嘘や思い込みか分かりません。客観的な事実はあったとしても、それぞれの人間の主観によって事実は大きく変容する。本作品は悲劇的な事件に関わった人間が事実をどう受け止めて自分なりに処理しようとしたのかを重層的に描き、人間の心の危さや脆さそして繊細さを見る者に痛感させます。
あと、私は本作品を見て、岩井俊二監督の傑作『リリィ・シュシュのすべて』を思い起こしました。思春期の少年・少女の繊細で不安定な心情をどちらの作品もリアルに描き、見ていて心が痛くなります。
人の命は軽いのか重たいのか?復讐の連鎖は断ち切れるのか?罪を償うとはどういうことなのか?本作品は見る者に重い問いを投げかけて終わります。私も見終わって悶々とした気持ちの中、答えの簡単に出ない問いをしばらく考え込んでしまいました。
まだ早いですが、私の中では今年一番の邦画だと思います。ぜひ多くの人に劇場で本作品を鑑賞して、命の重さと人の心の闇について感じて欲しいです。
上映時間 106分
製作国 日本
製作年度 2010年
監督: 中島哲也
原作: 湊かなえ
『告白』(双葉社刊)
脚本: 中島哲也
CGディレクター: 増尾隆幸
撮影: 阿藤正一
尾澤篤史
美術: 桑島十和子
編集: 小池義幸
主題歌: レディオヘッド
『Last Flowers』
出演: 松たか子
木村佳乃
岡田将生
西井幸人
藤原薫
橋本愛
天見樹力
一井直樹
伊藤優衣
井之脇海
岩田宇
大倉裕真
大迫葵
沖高美結
加川ゆり
柿原未友
加藤果林
奏音
樺澤力也
佳代
刈谷友衣子
草川拓弥
倉田伊織
栗城亜衣
近藤真彩
斉藤みのり
清水元揮
清水尚弥
田中雄土
中島広稀
根本一輝
能年玲奈
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