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2010年6月

『告白』この映画を見て!

第297回『告白』
Photo 今回紹介する作品は湊かなえの同名ベストセラーを『嫌われ松子の一生』の中島哲也監督が完全映画化した『告白』です。主演に松たか子、共演に岡田将生や木村佳乃を起用。生徒に子どもを殺された教師の復讐と子どもを殺した生徒の顛末を、ダークな映像と演出で描いていきます。

ストーリー:「ある中学校の1年B組、終業式後のホームルームで担任の森口先生が突然「わたしの娘が死にました。警察は事故死と判断しましたが、娘は事故で死んだのではなくこのクラスの生徒に殺されたのです」と静かに語り始める。担任の衝撃的な告白に騒然とする生徒たち。担任は娘を殺した犯人Aと犯人Bに対して、命の重さを知らしめるための制裁を加えて学校を辞める。その後、事情を知らない熱血教師が新担任としてクラスにやってくる。そんな中、以前と変らぬ様子の犯人Aはクラスでイジメの標的となり、一方の犯人Bはひきこもりとなってしまう。」

 私は原作未読で話しの内容も良くを知らないまま、中島哲也監督の最新作ということで見に行ったのですが、衝撃的な内容と映画としての完成度の高さにスクリーンに釘付けになりました。中島監督の前作『パコと魔法の絵本』はいまいちでしたが、人間の心の闇と命の重さを描ききった本作品はストーリー・演技・演出全てがパーフェクトでした。
 先生の衝撃的な告白から始まる本作品は少年犯罪・殺人・いじめ・学級崩壊・差別・歪んだ親子関係と現代の日本の病みをこれでもかと盛り込み、人間の醜いエゴイズムや悪意そして脆さを真正面から描いています。メジャー系の作品でこのような暗く重い内容を取り上げ、エンターテイメントしても満足のいく作品に作り上げた中島監督は凄いと思いました。
 色彩を抑えた冷たく美しい映像、スローモーションを多用した演出、レディオヘッドやBorisを選曲する音楽センス、子どもたちのリアルな演技、ラストのカタルシスと絶望。中島監督の才能を堪能できる作品です。

 また、主人公の担任教師を演じた松たか子の演技が大変素晴らしく、感情を抑えた演技と爆発させる演技のコントラストが大変印象に残りました。また過保護な母親役を演じる木村佳乃の演技も大変リアルで、真に迫るものがありました。

 私は本作品を主人公が犯人を探す話しだと最初思っていました。しかし、犯人は前半の担任の告白ですぐに分かり、途中からは主人公以外の主要登場人物たちによる告白が次々と描かれていきます。あくまで登場人物たちの主観による告白なので、その告白はどこまでは真実で、どこからが嘘や思い込みか分かりません。客観的な事実はあったとしても、それぞれの人間の主観によって事実は大きく変容する。本作品は悲劇的な事件に関わった人間が事実をどう受け止めて自分なりに処理しようとしたのかを重層的に描き、人間の心の危さや脆さそして繊細さを見る者に痛感させます。

 あと、私は本作品を見て、岩井俊二監督の傑作『リリィ・シュシュのすべて』を思い起こしました。思春期の少年・少女の繊細で不安定な心情をどちらの作品もリアルに描き、見ていて心が痛くなります。

 人の命は軽いのか重たいのか?復讐の連鎖は断ち切れるのか?罪を償うとはどういうことなのか?本作品は見る者に重い問いを投げかけて終わります。私も見終わって悶々とした気持ちの中、答えの簡単に出ない問いをしばらく考え込んでしまいました。

 まだ早いですが、私の中では今年一番の邦画だと思います。ぜひ多くの人に劇場で本作品を鑑賞して、命の重さと人の心の闇について感じて欲しいです。

上映時間 106分
製作国 日本
製作年度 2010年
監督:    中島哲也   
原作:    湊かなえ   
    『告白』(双葉社刊)
脚本:    中島哲也   
CGディレクター:    増尾隆幸   
撮影:    阿藤正一   
    尾澤篤史   
美術:    桑島十和子   
編集:    小池義幸   
主題歌:    レディオヘッド   
    『Last Flowers』
出演:    松たか子   
    木村佳乃   
    岡田将生   
    西井幸人   
    藤原薫   
    橋本愛   
    天見樹力   
    一井直樹   
    伊藤優衣   
    井之脇海   
    岩田宇   
    大倉裕真   
    大迫葵   
    沖高美結   
    加川ゆり   
    柿原未友   
    加藤果林   
    奏音   
    樺澤力也   
    佳代   
    刈谷友衣子   
    草川拓弥   
    倉田伊織   
    栗城亜衣   
    近藤真彩   
    斉藤みのり   
    清水元揮   
    清水尚弥   
    田中雄土   
    中島広稀   
    根本一輝   
    能年玲奈   
    野本ほたる   
    知花   
    古橋美菜   
    前田輝   
    三村和敬   
    三吉彩花   
    山谷花純   
    吉永あゆり   
    新井浩文   
    山口馬木也   
    黒田育世   
    芦田愛菜   
    山田キヌヲ   

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『アウトレイジ』映画鑑賞日記

Photo  北野監督15作品目にして、久しぶりにバイオレンスを主題にした『アウトレイジ』。ここ最近の北野映画は実験的な作風で少しアート寄りになっていたので、久しぶりのヤクザ世界の抗争という北野監督得意のジャンルを扱った本作品の公開をとても楽しみにしていました。

 

公開初日の今日、北野武の大ファンの友人と映画館に見に行ったのですが、映画のタイトルどおり「極悪非道」なストーリーと目を背けたな くなるほど痛い暴力シーンの連続に最後まで飽きることなく見ることができました。

 

 本作品は北野映画初出演の豪華なキャストも大きな話題になっていますが、出演者全員とても迫力満点に悪い奴を演じていました。特に加瀬亮・三浦友和・小日向文世はいつもの役柄と180度違う計算高い悪人を見事に好演して印象に残りました。

 

 ストーリーに関しては義理人情など関係ない現代ヤクザ社会の激しい権力抗争を描いているのですが、今までの北野映画とは違い終始セリフが非常に多いです。その為か北野映画の特長であった静と動のコントラストが生み出す緊張感といったものは余り感じられませんでした。

また、いつもの北野映画なら追い詰められた主人公が男の美学を持って滅んでいくところを、本作品は敢えてそうさせない終わり方をしています。まさか武演じる主人公がラストあのような格好悪い行動を取るとは思いも寄りませんでした。

 

スプラッター映画一歩手前の過激な暴力描写は苦手な人は全く受け付けない作りだと思います。カンヌ映 画で賛否両論分かれ、評価が思った以上に低かったのもある意味分かるような気がしました。


 本作品はバイオレンスアクション映画としては非常に良く出来ていますが、過去の北野作品のように何度も見たいかと言われると1回見れば十分かなと思いました。

 

上映時間 109分

製作国 日本

製作年度 2010年

監督: 北野武

脚本: 北野武

撮影: 柳島克己

美術: 磯田典宏

衣装: 山本耀司(大友組組長衣装)

衣装デザイン: 黒澤和子

編集: 北野武、太田義則

音楽: 鈴木慶一

音響効果: 柴崎憲治

メイク: 細川昌子

出演: ビートたけし

椎名桔平

加瀬亮

三浦友和

 國村隼

杉本哲太

塚本高史

中野英雄

石橋蓮司

小日向文世

 北村総一朗

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