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2010年3月

『丑三つの村』この映画を見て!

第294回『丑三つの村』 
Photo_3  今回紹介する作品は昭和13年に岡山県で実際に起こった大量惨殺事件「津山三十人殺し」を描いた『丑三つの村』です。津山三十人殺しは昭和13年5月21日未明に岡山県苫田郡西加茂村において肺結核になり村人から冷たい扱いを受けた若者が2時間足らずの間に村人30名を殺戮、その後に自らも山の中で自殺するという大変衝撃的な事件でした。金田一耕助シリーズで有名な推理小説家の横溝正史も本事件を知り強い衝撃を受けて、後に『八つ墓村』という作品を発表しました。本事件の詳細に関しては以下のサイトに詳しい情報が掲載されています。
http://www.alpha-net.ne.jp/users2/knight9/tuyama.htm

 本作品はポルノ映画で活躍していた田中登監督が津山事件を扱った81年発表の西村望の小説を元に、犯人の青年が村人から追い詰められて殺戮を決行するまでの過程を丁寧に描いていきます。主役の青年役に2003年に45歳という若さで亡くなった古尾谷雅人が起用され、上手いとはいえませんがインパクトのある演技を披露しています。また、公開当時は新人だった田中美佐子が村の中で唯一青年を理解する女性役を務め、オールヌードシーンもある中で体当たりの演技を見せてくれます。さらに池波志乃や五月みどりも惜しげもなく裸体を披露して激しいセックスシーンを見せてくれます。

ストーリー:「戦時下の昭和13年山あいに数十戸が点在する閉鎖的な村に十八歳の犬丸継男は村一番の秀才として村人の尊敬と期待を集めていた。将来は軍人になることを夢見ていたが結核と診断されてしまう。その後、村人からは煙たがられ村八分にされる。追いつめられた彼は猟銃を購入して、自分を裏切り馬鹿にした村人への復讐を計画するようになる。」

 衝撃的な事件の映画化ということで暗く陰惨な雰囲気漂う作品と思って鑑賞したのですが、見終わった印象は哀切感漂う青春映画といった感じでした。
クライマックスの20分にわたる殺戮シーンは凄惨極まる描写の連続ですが、それまでの村人たちの青年への冷たい仕打ちを考えると逆に主人公に感情移入してカタルシスさえ覚えました。
神童と村人から期待されていた主人公が肺結核に罹り、夢見ていた軍人にもなれず、村人にも煙たがられて屈折して破滅していく姿は見ていて胸痛むものがありました。

また、本作品はポルノ映画並みに生々しい性描写が大変多いです。主人公が隣近所の人妻と夜這いする姿や好意を寄せている女性にセックスを求める姿は性欲盛んな20代前半の悶々とした男の姿をかなりリアルに描いています。

本作品一番の見せ場である殺戮シーンは松竹版『八つ墓村』に比べると残酷度やインパクトは低いです。ただ、主人公が殺戮に向けて武器を装着していく姿を丹念に描くところは緊張感があり画面に釘付けになりました。

映画のラストは主人公の自殺で終わりますが、自殺する前に画面に向かって呟く独白が大変印象に残りました。

脚本や音楽がもう少し深みがあれば本作品はもっと完成度は上がったと思います。

本作品は万人にお薦めできる作品ではありませんが、この手の映画が好きな人は一度見てみてください。

上映時間 106分
製作国 日本
製作年度 1983年
監督: 田中登
製作: 奥山和由
原作: 西村望「丑三つの村」
脚本: 西岡琢也
撮影: 丸山恵司
美術: 猪俣邦弘
編集: 後藤健二
音楽: 笹路正徳
出演: 古尾谷雅人
       田中美佐子
       池波志乃
       夏八木勲
       原泉
       五月みどり
       大場久美子

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『ピアノ・レッスン』この映画を見て!

第293回『ピアノ・レッスン』
Photo  今回紹介する作品はオーストラリア出身の女性監督ジェーン・カンピオンの名を一躍有名にした愛と官能の人間ドラマ『ピアノ・レッスン』です。本作品は公開と同時に幻想的な映像とマイケル・ナイマンの美しい旋律、そして繊細で力強いストーリーに世界中の映画ファンや批評家から絶賛されました。カンヌ国際映画祭ではパルムドール大賞と主演女優賞の2部門を、アカデミー賞では主演女優賞に助演女優賞そして脚本賞と3部門を受賞しました。

ストーリー:「19世紀の半ば、幼い頃から話すことができないエイダは娘のフロラを連れてスコットランドから未開の地であるニュージーランドへ嫁ぐ。話せないエイダにとってピアノが言葉であり、ニュージーランドまで運んでくる。しかし、夫のスチュアートは重すぎると浜辺に置き去りにする。原住民に同化している男ベインズはエイダのピアノを欲しがり、土地との交換条件にスチュアートから譲り受ける。さらにベインズはピアノの弾き方を習うためにエイダを家に招く。ベインズはエイダに黒鍵の数だけ自分にレッスンをしてくれたらピアノを返すと約束。エイダはベインズにレッスンするが、次第にエイダとベインズは恋に落ち体を重ね合わせるようになる。」

 私が本作品を始めて見たのは高校2年の時でした。その時はニュージーランドの海や森を幻想的に捉えた映像とマイケル・ナイマンが作曲した切なく美しいピアノのメロディーに心奪われたものでした。特に映画冒頭の波が高く打ち寄せる海岸にピアノがポツンと置き去りにされるシーンは、まるで絵画を見ているかのように美しく、そして主人公の孤独な心情を見事に表現しており、本作品の中でも一番印象に残るシーンでした。
 ストーリーに関しては男性の私から見ると主人公エイダの行動はいまいち共感できず、むしろ妻にないがしろにされるスチュアートに共感してしまいました。まあ、スチュアートは妻の分身ともいえるピアノを浜辺に置き去りにした時点で愛される資格を失ったのは致し方ありませんが、いつか愛されると思いこんでいる単細胞な夫が妻に裏切られ激情する姿は見ていてとても哀れなものを感じました。
 エイダが野性的な男であるベインズにいつの間にか惹かれて禁じられた恋に落ちていく過程はとても官能的で見ていて背筋がゾクゾクしました。女性の内に秘めた生と性に対する情熱が荒々しくも繊細な男によって徐々に開花していく展開は女性監督ならではの描写だと思いました。
 また、本作品はエイダの連れ子のフロラがストーリーのとても良いアクセントになっています。母が不倫していることを夫に告げ口するシーンは何とか自分を守ろうとする子どもの複雑な心境が見事に描かれていたと思います。
 映画のラストは主人公エイダの心の解放と成長を描き、ある意味ハッピーエンドで終わります。一度ピアノと共に死を選びながらも、やはりピアノと決別して新たな生を選択する姿は見ていて清々しく思うと共に、女性の逞しさや強かさを強く感じます。 

 ホリー・ハンターは話すことが出来ない主人公という難しい役どころでしたが、細やかな表情や仕草で心情を見事に表現しています。また、ピアノの演奏自体も吹き替えでなく自分でしているところも素晴らしいです。また、当時12歳だったアンナ・パキンの瑞々しく繊細な演技も大変素敵です。

 あと、本作品を語る上で外すことができないのがマイケル・ナイマンの音楽。彼の音楽なくしては本作品の成功はなかったと言っても過言ではありません。話せない主人公の心情を代弁するかのようなピアノの音色。聞いていて感情が揺さぶられる名曲です。

 本作品は女性の生と性を繊細かつ重厚に描いた作品です。男性と女性で評価の分かれる作品だと思いますが、一度は見て損のない作品です。

上映時間 121分
製作国    オーストラリア
製作年度 1993年
監督:    ジェーン・カンピオン   
製作:    ジェーン・チャップマン   
脚本:    ジェーン・カンピオン   
撮影:    スチュアート・ドライバーグ   
音楽:    マイケル・ナイマン   
出演:    ホリー・ハンター   
    ハーヴェイ・カイテル   
    サム・ニール   
    アンナ・パキン   
    ケリー・ウォーカー   
    ジュヌヴィエーヴ・レモン   
    タンジア・ベイカー   
    イアン・ミューン   
    ホリ・アヒペーン

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『インビクタス/負けざる者たち』この映画を見て!

第292回『インビクタス/負けざる者たち』
Photo_2  今回紹介する作品はマンデラ大統領就任後の南アフリカで開催されたラグビーワールドカップを巡る実話をクリント・イーストウッド監督が映画化した『インビクタス/負けざる者たち』です。主演のモーガン・フリーマンとマット・デイモンはそれぞれ2009年度アカデミー主演男優賞と助演男優賞にノミネートされています。

ストーリー:「南アフリカ共和国では1994年にアパルトヘイト撤廃後初の全国民が参加した総選挙を実施。そしてアパルトヘイトに反対して27年間投獄されたネルソン・マンデラが初の黒人大統領に就任する。しかし、白人と黒人間の人種差別や経済格差は以前と残り続け、国家自体が非常に不安定な状況だった。そんな中、マンデラ大統領は95年に南アフリカで開催されるラグビーのワールドカップを国民の和解と融和の機会にしようと南アフリカ代表のラグビーチーム「スプリングボクス」に目をつける。負け続けで国民からも不人気だったスプリングボクスの主将フランソワ・ピナールをマンデラ大統領は官邸に招き、ラグビーで国民をまとめたいという思いを語る。マンデラの思いに感銘を受けたピナールはW杯優勝を目指してチームを強化しようと励み始める。」

 ここ最近公開される作品全て傑作のクリント・イーストウッド監督。今回もまたまた傑作を生み出してくれました。実話でスポーツものという下手すると安っぽいお涙頂戴のドラマになりがちな素材ですが、そこはイーストウッド監督。抑制された手堅い演出で見事にまとめあげ、希望に満ちた爽やかな感動作に仕上げてくれました。マンデラ大統領のことは南アフリカ初の黒人大統領でノーベル平和賞をとった人くらいの知識しかなかった私にとって、本作品は彼の偉大さを知る貴重な機会でした。自分を監獄に送った白人を寛容に許し、スポーツを通して分断した国民を一つにまとめ上げようと奮闘する姿に政治家として、そして人間として感銘を受けました。権力を取ったからといって今までの敵を排斥せず、自らの中に取り込み共に歩もうとする姿に政治家としての器の大きさを感じると共に人や国をまとめるとはどういうことかを教えられます。日本の政治家にもマンデラ大統領を見習って欲しいものです。

 私は正直スポーツにはあまり興味ない人間でありますが、本作品を見てスポーツが持つ力や役割といったものを再認識しました。最初はいがみあっていた黒人と白人がラグビーを通して次第に打ち解けあう姿に私は見ていて自然と涙がこみあげてきました。スポーツは政治に非常に利用されやすく危うい面もありますが、マンデラ大統領はスポーツの力を最大限活用して良い方向に国を持っていったと思います。

 本作品の一番の見せ場は何と言ってもラストのワールドカップ優勝戦ですが、白熱の試合シーンと国民の観戦シーンを交互に見せる正攻法な演出でありながら、見ていて胸があつくなります。特にスローモーションで見せるシーンはラグビーというスポーツの躍動感と重量感を見事に表現していたと思います。

 現実はもっと複雑でドロドロした面もあったのでしょうが、そういう部分は敢えて描かず、ラグビーを通して国がまとまる姿だけを簡潔に描いたことが本作品の完成度を高めたと思います。また、マンデラ大統領役のモーガン・フリーマンの堂々とした演技はとても素晴らしく、本物の大統領みたいな風格がありました。

 70歳を超えて毎年ハイクオリティな作品を撮り続けるクリント・イーストウッド監督は本当に凄いです。本作品もまだ早いですが今年のベスト5に入る傑作だと思います。まだ劇場公開されていますのでぜひ興味ある方はご覧ください!

上映時間 134分
製作国    アメリカ
製作年度 2009年
監督:    クリント・イーストウッド   
原作:    ジョン・カーリン   
脚本:    アンソニー・ペッカム   
撮影:    トム・スターン   
プロダクションデザイン:    ジェームズ・J・ムラカミ   
衣装デザイン:    デボラ・ホッパー   
編集:    ジョエル・コックス   
    ゲイリー・D・ローチ   
音楽:    カイル・イーストウッド   
    マイケル・スティーヴンス   
出演:    モーガン・フリーマン   
    マット・デイモン   
    トニー・キゴロギ   
    パトリック・モフォケン   
    マット・スターン   
    ジュリアン・ルイス・ジョーンズ   
    アッジョア・アンドー   
    マルグリット・ウィートリー   
    レレティ・クマロ   
    パトリック・リスター   
    ペニー・ダウニー

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『エグゼクティブ・デシジョン』この映画を見て!

『エグゼクティブ・デシジョン』
Photo  今回紹介する作品はハイジャックされたジャンボ機を救出する米軍の特殊部隊の活躍を描いたアクション映画の傑作『エグゼクティブ・デシジョン』です。
 監督は『ダイハード』等のアクション映画の編集を手がけたスチュアート・ベアードが初メガホンを取っています。

 ストーリー:「アテネ発ワシントン行きのジャンボジェット機がテロリストたちにハイジャックされる。テロリストリーダーであるハッサンは指導者の今すぐの釈放を要求する。
米陸軍情報部顧問のグラント博士は機内にテロリストが世界一殺傷能力の高い神経ガスDZ-5を持ち込んでいる恐れがあると政府高官たちに警告する。アメリカ政府は化学兵器がワシントン上空で使われる事を恐れて、ハイジャック機撃墜の検討に入るが、軍事技術テロ対策特殊部隊のトラヴィス中佐はテロリストの制圧と乗客の救助のために軍の特殊部隊が空中からジャンボ機に乗り込む作戦を提案する。
そして、アメリカ領空内にハイジャック機が入る前にテロリストを制圧するために、トラヴィス中佐が指揮する特殊部隊とグラント博士は機内に潜入しようとするのだが・・・。」

私は本作品を始めてみたとき、スティーヴン・セガールの扱いに衝撃を受けました。
(ここからネタバレになりますので未見の方はご注意ください。)

あの有名なアクションスターであるセガールが映画の序盤でいなくなってしまいます。セガールがいなくなるとは正直予想もできず、どういう展開になるのか中盤以降は目が離せませんでした。緊迫感を高めるために監督がセガールをあのような扱いにしたのだとしたら、その目論見は見事に成功していると思います。

また、本作品のもう一つの特長として銃撃戦が終盤までほとんどなく、乗り込んだ特殊部隊がハイジャック犯を制圧までの作戦過程が綿密に描かれている点が挙げられます。頼りになる指揮官も失い、外部との連絡も遮断され窮地に追い込まれる特殊部隊。タイムリミットが刻一刻と迫る中、ジャンボ機という密室内でハイジャック犯に見つからないように部隊がチームワークで作戦を遂行していく姿は何度見ても手に汗握ります。

 132分と上映時間は長いですが、テンポ良く話しが進んでいきますし、それぞれのキャラクターが立っており、次から次に危機が訪れるので最後まで退屈しません。伏線の張り方も上手です。

 911のテロまでは、本作品のようにテロリストがジャンボをハイジャックしてワシントンを攻撃するなんて現実にありえない話しと思っていたのに、現実にそのようなことが起こるとは正直驚愕しました。現実がフィクションを越える世の中に複雑なものを感じます。

上映時間 132分
製作国    アメリカ
製作年度 1996年
監督:    スチュアート・ベアード   
脚本:    ジム・トーマス   
    ジョン・C・トーマス   
撮影:    アレックス・トムソン   
美術:    テレンス・マーシュ   
音楽:    ジェリー・ゴールドスミス   
出演:    カート・ラッセル   
    スティーヴン・セガール   
    ハリー・ベリー   
    ジョン・レグイザモ   
    オリヴァー・プラット   
    ジョー・モートン   
    デヴィッド・スーシェ   
    B・D・ウォン   
    J・T・ウォルシュ   
    レン・キャリオー   
    ウィップ・ヒューブリー   
    アンドレアス・カツーラス   
    メアリー・エレン・トレイナー   
    イヴォンヌ・ジーマ   
    ユージン・ロッシュ   
    デイ・ヤング

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