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2010年2月

『3-4x10月』この映画を見て!

第291回『3-4x10月』
10  今回紹介する作品は北野武監督の第2作目のバイオレンスドラマ『3-4x10月』です。本作品から脚本も自ら手がけるようになり、北野監督の色がより濃く反映された仕上がりとなっています。

ストーリー:「草野球チームに所属している雅樹はガソリンスタンドで働いている最中にヤクザと揉め事を起こす。雅樹は草野球のコーチであり、以前に組長と兄弟分であったスナックのマスターに相談する。マスターは組に出向き仲裁に入ろうとするが上手くいかず、逆に組員に暴行を受けて重傷を負う。雅樹はマスターの復讐に協力するために草野球のメンバーと共に沖縄へ拳銃を買うため旅立つ。」

 本作品は個人的に北野武の演技が一番怖いと思った作品でした。映画に登場するのは中盤以降ですが、死の願望を持ちながら衝動的に暴力を振るう姿は狂気迫るものがありました。

 本作品の構成はとてもミニマムで、BGMもなければ、セリフや状況説明も必要最低限に抑えられています。ストーリー自体も行き当たりばったりと言うか、あってないようなものです。淡々とした展開の中で突如繰り広げられる刹那的な暴力の数々。その強烈なインパクトと日常の裏に潜む非日常を味わうのが本作品の正しい鑑賞法です。

 ラストのオチは予想外で賛否両論あるかと思いますが、個人的には納得できました。冴えない主人公の人生一発逆転の願望と妄想を巧みに描いた作品だと思いました。

 北野監督らしい独特な構図や青を基調にした美しい映像も非常に印象に残りましたし、時折挿入されるコミカルなシーンも良いアクセントになっていたと思います。

 役者に関して言うと、柳ユーレイも狂気を内に秘めた冴えない男の役がはまっていましたし、ベンガルやガダルカナルタカも良い味を出しています。あと、若い頃の豊川悦司もヤクザの親分としてちょい役ですが出演しています。

 本作品はまとまりはなくストーリーに一貫性はありませんが、北野監督しか作り出せない独特な雰囲気は一度はまると何度も見たくなる不思議な魅力があります。

 余談ですが、私は中島みゆきのファンなので、ダンカンがカラオケで『悪女』を歌うシーンはとてもツボにはまりました。

上映時間 96分
製作国    日本
製作年度 1990年
監督:    北野武   
脚本:    北野武   
撮影:    柳島克己   
美術:    佐々木修   
編集:    谷口登司夫   
出演:    柳ユーレイ   
    ビートたけし   
    石田ゆり子   
    井口薫仁   
    飯塚実   
    布施絵里   
    芦川誠   
    豊川悦司   
    鶴田忍   
    小沢仁志   
    井川比佐志   
    ベンガル   
    ジョニー大倉   
    渡嘉敷勝男

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『犬神の悪霊』この映画を見て!

第290回『犬神の悪霊』
Photo_2  今回紹介する作品は70年代の洋画のオカルトブームにのって製作された和製オカルト映画『犬神の悪霊』です。本作品はなかなかDビデオ化されず幻のカルト映画としてマニアの間で話題になっていました。しかし、2年前についにDVD化され、多くのマニアが喜んだものでした。

ストーリー:「ウラン鉱探査のため同僚と久賀村を訪れた竜次は山道を車で走っている最中に路傍の小さな祠を破壊して犬を轢き殺してしまう。その後、竜次は村に住む麗子と結婚するが、その直後に同僚が次々と怪死。。麗子も何者か憑かれたれたかのように不可解な行動を起こすようになる。竜次は麗子を連れて村に戻る。村人たちは麗子がおかしくなったのは犬神に憑かれたと判断して、憑き物落としの儀式を行うのだが・・・」

 本作品はカルト作品と言われただけあって、傑作かどうかは別として非常に見応えがありました。
 オープニングの民謡調の不気味な主題歌に始まり、川で素っ裸で踊る少女たち、結婚披露宴での同僚の突然の発狂、そして都会でシェパードの群れに襲われる同僚と目の離せない展開がこれでもかと続きます。
 前半の最大の見せ場は何と言っても妻が憑き物落としの儀式をする場面。村人たちが赤飯のおにぎりを妻の体中になすりつけるシーンは何ともエロティックです。
 中盤以降しばらくは迷信と差別に囚われた村人たちの集団ヒステリーや乱開発による公害問題を描いた社会派作品としての色が濃くなります。村人たちが犬神筋の家族を村八分にして排斥するシーンはオカルトシーン以上に恐ろしいものを感じました。
 ラスト30分は怒涛の急展開となります。特に犬神が少女に憑いて主人公を襲撃する場面は強烈なインパクトがあります。そし我々の想像を超える唐突かつ意味不明なシーンで映画は締めくくられます。このラストを見るだけでも一見の価値ありです。

 出演者たちも個性派揃いで大変濃い演技を見せてくれます。特に霊媒師を演じた白石加代子の演技は迫力満点で、本当に何者かが取り憑いたかと思うほどです。
 ちなみに主人公を演じた大和田伸は終始過剰な演技と表情を披露してくれるので見ていて笑ってしまいます。

 本作品はストーリーは無茶苦茶で良く分かりませんが、終始テンションの高い演出と演技で最後まで一気に見ることが出来ます。カルト映画が好きな人はぜひ一度見ることをお薦めします。

上映時間 103分
製作国    日本
製作年度 1977年
監督:    伊藤俊也   
脚本:    伊藤俊也   
撮影:    仲沢半次郎   
美術:    桑名忠之   
編集:    戸田健夫   
音楽:    菊池俊輔   
出演:    大和田伸也   
    泉じゅん
    室田日出男   
    岸田今日子   
    鈴木瑞穂   
    小山明子   
    長谷川真砂美   
    山内恵美子   
    加藤順也   
    川合伸旺   
    小野進也   
    畑中猛重   
    清水昭夫   
    三谷昇   
    小林稔侍   
    仲谷昇   
    高木均

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『柳生一族の陰謀』この映画を見て!

第289回『柳生一族の陰謀』
Photo  今回紹介する作品は徳川二代将軍・秀忠の亡き後の次期将軍の座をめぐる熾烈な抗争をオールスターキャストで描いた娯楽時代劇『柳生一族の陰謀』です。
 ヤクザ映画の人気が下火になった東映が12年ぶりに製作した時代劇である本作品。『仁義なき戦い』で当時人気だった深作欣二監督が起用され、ヤクザ映画テイストの時代劇に仕上げています。

ストーリー:「徳川二代将軍秀忠が急死によって、長兄・家光と次男・忠長どちらを三代将軍に擁立するかを巡り、幕府内で意見が対立。家光派と忠長派との間で熾烈な抗争が勃発する。将軍家の剣術指南役である柳生宗矩は家光派に付き忠長の失脚をはかるために権謀術数を巡す。一方、忠長派もこれに対抗して諸大名や宮廷を通じて家光の将軍職就任を阻止しようとする。」

 本作品の一番の見所は何と言っても萬屋錦之介の濃厚な演技です。大げさな身振りと台詞回しは強烈なオーラを放っており、オールスターキャストの中でも圧倒的な存在感を放っています。特にラストの演技は神懸り的で一度見たら脳裏から離れることが出来ません。あのラストを見たいがために私は本作品は何度も見返してしまいます。
 もちろん他のキャストも萬屋錦之介ほどでないにしろ素晴らしい演技を見せています。特に公家役の成田三樹夫の怪演と柳生十兵衛役の千葉真一の格好良さは何度見ても飽きることがありません。
 また、若かりし頃の真田広之の初々しい演技も見ていて微笑ましいです。
 これだけの豪華な役者を起用して、一人一人に印象的な見せ場を与えた深作監督の手腕は凄いな思います。

 ストーリーに関しては史実を全く無視した展開となっていますが、家光を何としても三大将軍にしようとする柳生但馬守の権謀術策をスリリングに描いており最後まで目を離すことができません。

 アクションシーンもJACが関わってるだけあって迫力満点です。特に千葉真一の切れのある動きと萬屋錦之介の堂々とした殺陣は見ていて惚れ惚れします。

 本作品は時代劇が好きな人もそうでない人も一度は見て損のない作品だと思います。

上映時間 130分
製作国    日本
製作年度 1978年
監督:    深作欣二   
脚本:    深作欣二   
            野上龍雄   
            松田寛夫   
撮影:    中島徹   
美術:    井川徳道   
編集:    市田勇   
音楽:    津島利章   
出演:   
    千葉真一   
    萬屋錦之介   
    丹波哲郎   
    芦田伸介   
    成田三樹夫   
    西郷輝彦   
    大原麗子   
    志穂美悦子   
    原田芳雄   
    高橋悦史   
    松方弘樹   
    山田五十鈴   
    夏八木勲   
    室田日出男   
    矢吹二郎   
    工藤堅太郎   
    真田広之   
    中谷一郎   
    中原早苗   
    金子信雄   
    浅野真弓   
    小林稔侍   
    角川春樹   
    三船敏郎   

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『神田川淫乱戦争』この映画を見て!

第288回『神田川淫乱戦争』
Photo_3  今回紹介する作品はJホラーの第一人者である黒沢清監督のデビュー作『神田川淫乱戦争』です。

ストーリー:「神田川沿いのアパートに住む明子と雅子は川向こうのマンションに住む母親と息子が全裸で抱きあう姿を発見。二人はマザコン男を正しい性の道に導くため母親からの救出作戦を計画する。」

 本作品は題名の通りポルノ映画ですが、どちらかというとシュールなコメディ映画といった感じです。ポルノ映画なのでセックスシーンやオナニーシーンも随所にもちろんあるのですが、乾いたタッチで撮られているのでいやらしさは余りありません。題名だけ見ると暗くドロドロした話しに思うかもしれませんが、若者たちが主人公の明るくポジティブな内容です。

 個人的には印象に残ったのは主人公の2人の若い女性が、マザコン男を救出するためマンションに潜入する場面。母親と格闘する場面はコントを見ているで笑ってしまいました。

 また、ゴダールを意識した実験的な演出が随所にあるのも斬新で面白かったですし、ラストの長回し撮影も構図や演出が決まっており素晴らしい出来栄えでした。

 黒沢監督やゴダールが好きな人は一度見ても損はないと思います。

上映時間 60分
製作国    日本
製作年度 1983年
監督: 黒沢清   
脚本: 黒沢清   
撮影: 瓜生敏彦   
ナレーター: 黒沢清   
出演:    麻生うさぎ   
    美野真琴   
    岸野萌圓   
    沢木ミミ   
    森太津也
    周防正行

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『変態家族 兄貴の嫁さん』この映画を見て!

第287回『変態家族 兄貴の嫁さん』

Photo  今回紹介する作品は『Shall we ダンス?』の周防正行監督のデビュー作にして小津安二郎監督作品にオマージュを捧げたピンク映画『変態家族 兄貴の嫁さん』です。

 タイトルが過激なだけに人によってはギョッとするかもしれませんが、周防監督の小津作品への熱い思いが伝わってくる見応えのある作品です。

ストーリー:「間宮家の長男・幸一が結婚して嫁・百合子が家にやってくる。長男夫婦に父・周吉と長女・秋子そして次男・和夫が同居する生活が始まる。しかし、幸一は他の女のもとに走り、秋子は事務職を辞めて風俗に勤め、次男・和夫は万引きして警察に捕まる。そんな間宮家を百合子は嫁として受け止め、支えていこうと励むのだった。」

 私が本作品を見て一番印象に残ったのは笠智衆の役に扮した大杉漣の演技です。大杉さんは当時まだ30代にあったにも関わらず、笠智衆に負けず劣らない味のある演技を見せてくれます。

 周防監督は本作品を『晩春』の続編として描いたそうですが、最後に『晩春』の嫁入り前の名セリフを引用するシーンは思わずジーンときました。

 本作品は小津作品の特徴であるカメラアングルや役者の淡々とした芝居を踏襲しており、小津作品が好きな人なら非常に楽しんで見ることができます。

 逆にピンク映画として見ると絡みのシーンがあっさりとしていて物足りないかもしれません。

上映時間 62分
製作国    日本
製作年度 1984年
監督:    周防正行   
企画:    朝倉大介   
脚本:    周防正行   
撮影:    長田勇市、 滝影志   
美術:    種田陽平、 矢島周平   
編集:    菊池純一   
音楽:    周防義和   
出演:    風かおる   
        山地美貴   
           大杉漣   
          下元史朗   
          首藤啓   
          深野晴彦   
          麻生うさぎ

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