『蜘蛛巣城』この映画を見て!
第285回『蜘蛛巣城』
今回紹介する作品はシェイクスピアの『マクベス』を日本の戦国時代に舞台を置き換えて映画化した『蜘蛛巣城』です。
ストーリー:「時は戦国時代、武将・鷲津武時は三木義明とともに帰城の途中で森の中で道に迷い、物の怪の妖婆に出会う。妖婆は2人に『鷲津様はやがて国の主となろう、そして、その後を継ぐのは三木様の子孫であろう・・・』と告げる。それを聞いた二人は最初は信じなかったが、城に戻ると二人は城主から武勇を賞せられ妖婆の予言どおりに出世する。予言が気になっていた鷲津武時は妻・浅茅にそそのかされて主君を殺害。予言どおりに城主となるが、朝茅は次は親友の三木義明を殺害するよう強要する。」
本作品を見ると己の欲望に囚われて身を破滅させてしまう人間の業やこの世の無常さといったものを強く感じさせられます。どの地域どの時代でも変わらぬ人の欲と愚かさ。それが身に沁みる映画です。
映像は黒澤監督だけあって見応え十分です。冒頭の霧の中から城が出てくるシーンは幻想的な美しいに満ちていますし、森の中で物の怪と出会うシーンは不気味で下手なホラー映画よりも怖いです。富士山の麓に実際に建てて撮影された城の映像もリアリティと重厚さがあります。
またラストシーンの主人公めがけて矢が飛ぶシーンは弓の名人を呼び実際に三船敏郎に向かって矢を放ったそうで、大変迫力があります。三船敏郎は撮影後に黒澤監督に「殺す気か!」と怒ったそうですが無理ありません。この矢のシーンを見るだけでも本作品は価値があります。
黒澤監督は日本の伝統芸能である能を意識した演出を取り入れ、作品に独特な雰囲気や様式美をもたらすことに成功しています。音楽も能を意識したものになっています。
三船敏郎演ずる主人公が欲望から次第に狂気に陥っていく演技もさることながら、冷酷かつ不気味な雰囲気を持つ主人公の妻・浅茅を能面のようなメイクを施し演じた山田五十鈴が大変印象に残ります。特に浅クライマックスで茅が狂って手を洗い続けるシーンの演技は圧巻で、見ていて鳥肌が立ちます。
本作品で唯一残念なのは古い作品でもあるせいか台詞が聞き取りにくいこと。耳を澄ましても聞き取れない箇所があり、字幕つきで見ることをお薦めします。
上映時間 110分
製作国 日本
製作年度 1957年
監督: 黒澤明
原作: ウィリアム・シェイクスピア
『マクベス』
脚本: 小国英雄
橋本忍
菊島隆三
黒澤明
撮影: 中井朝一
美術: 村木与四郎
音楽: 佐藤勝
記録: 野上照代
照明: 岸田九一郎
出演: 三船敏郎
山田五十鈴
志村喬
久保明
太刀川洋一
千秋実
佐々木孝丸
三好栄子
浪花千栄子
木村功
宮口精二
中村伸郎
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