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2010年1月

『トゥモロー・ワールド』この映画を見て!

第286回『トゥモロー・ワールド』
Photo  今回紹介する作品は、子供が誕生しなくなった近未来のイギリスを舞台に人類の希望をめぐる戦いに巻き込まれる主人公の姿を描いた『トゥモロー・ワールド』です。イギリスを代表するミステリー作家であるP.D.ジェイムズの『人類の子供たち』を原作にした本作品。『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』のアルフォンソ・キュアロンが監督を務め、長回しを多用したドキュメンタリータッチの映像で終始緊張感のある作品に仕上げています。

ストーリー:「人類が原因も分からないまま子どもを産むことができなくなって18年経った2027年。世界各国が絶望から混乱に陥っていた。イギリス政府も治安の維持のために不法入国者の徹底した取締りを行っていた。
 そんなある日、セオは元妻ジュリアンが参加していた反政府組織“FISH”に拉致される。ジュリアンは妊娠した移民の少女を“ヒューマン・プロジェクト”という組織に引き渡すために必要な通行証を手に入れるためにセオに協力を求める。セオは最初は拒否したものの、最終的にジュリアンに協力して通行証を手に入れる。セオはジュリアンや移民の少女と車に乗り込み検問所に向かおうとするが、途中で銃撃にあってしまう。」

 私は本作品を何気なくレンタルして鑑賞したのですが、硬派なストーリーと映像の完成度の高さに驚きました。私は近未来のディストピア(管理社会)を舞台にした映画を数多く見ていますが、これほどリアルで現代社会を反映した作品は滅多にないと思いました。
 近未来と言いながら今と見た目は大きく変わらない景色の中で繰り広げられる差別や殺戮。貧困が広がり、移民が排斥され、テロが頻発する近未来のイギリスはまさしく現代の延長の世界。絶望が広がる世界の中で主人公が子どもを何としても守ろうと奮闘する姿は見ていて胸が熱くなりました。

 私は本作品を見て、子どもが持つ命の輝きや希望といったものに改めて気づかされました。クライマックスの市街地での戦闘シーンで武装した兵士たちが生まれたての子どもを見て銃を下ろすシーンは見ていて涙が出てきました。命が次々と奪われていく戦場の中で命を与えられ何とか生きようと声を上げる子ども。そのシーンを見て戦争の愚かさや命の価値や尊厳といったものを考えさせられました。 また、同時に主人公やその仲間が自分を犠牲にしても子どもを守ろうとする姿に、生きるということの意味や大人の役割や責任とは何かも考えさせれました。

 本作品の特長として主人公の視点で終始話しが進んでいく点があります。普通の映画なら「なぜ子どもが生まれなくなったのか?」、「ヒューマンプロジェクトとは何か?」など説明するところもあえて省略しています。それが不満な人もいるかもしれませんが、個人的には見る側に想像できる余地があって良かったと思います。また、あえて状況説明せず主人公の姿だけを追うことで、見ている側に主人公と一緒に体験しているかのような臨場感がありました。

 あと、私が本作品で凄いと思ったのは長回しのような映像面での演出です。クライマックスの8分近い戦闘シーンを始めとして、冒頭のテロのシーンや主人公が乗った車が襲撃されるシーン。どれもワンカットで緊張感たっぷりに見せているのですが、一体どう撮影したのかと見終わって考え込んでしまいました。特にクライマックスの戦闘シーンはまるで主人公の後ろ姿を従軍カメラマンが手持ちカメラで撮影しているかのような映像で迫力がありました。メイキングを見ると単なる長回しでなくCG処理もされているようですが、見ている限りつなぎ目が分かりません。この長回しの映像を見るだけでも本作品は価値があります。

 また、音楽にも大変こだわっており、クラッシックからプログレやロックなど様々な曲が効果的に選曲されています。劇中歌としてディープ・パープルやレディオヘッド、キング・クリムゾンの作品が使用され、エンドロールではジョン・レノンの楽曲『ブリング・オン・ザ・ルーシー』が使われています。

 本作品は単なる近未来のアクション映画でなく、命の尊厳や価値といったものをテーマにした非常に考えさせられる映画です。映像も大変迫力ありますし、一度は見て損のない映画だと思います。 

上映時間 109分
製作国    アメリカ/イギリス
製作年度 2006年
監督:    アルフォンソ・キュアロン   
原作:    P・D・ジェイムズ   
    『人類の子供たち』/『トゥモロー・ワールド』(早川書房刊)
脚本:    アルフォンソ・キュアロン   
    ティモシー・J・セクストン   
撮影:    エマニュエル・ルベツキ   
美術:    ジェフリー・カークランド   
         ジム・クレイ   
衣装:    ジェイニー・ティーマイム   
編集:    アルフォンソ・キュアロン   
    アレックス・ロドリゲス   
音楽:    ジョン・タヴナー   
出演:    クライヴ・オーウェン   
    ジュリアン・ムーア   
    マイケル・ケイン   
    キウェテル・イジョフォー   
    チャーリー・ハナム   
    クレア=ホープ・アシティ   
    パム・フェリス   
    ダニー・ヒューストン   
    ピーター・ミュラン   
    ワーナ・ペリーア   
    ポール・シャーマ   
    ジャセック・コーマン   

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『蜘蛛巣城』この映画を見て!

第285回『蜘蛛巣城』
Photo  今回紹介する作品はシェイクスピアの『マクベス』を日本の戦国時代に舞台を置き換えて映画化した『蜘蛛巣城』です。

 ストーリー:「時は戦国時代、武将・鷲津武時は三木義明とともに帰城の途中で森の中で道に迷い、物の怪の妖婆に出会う。妖婆は2人に『鷲津様はやがて国の主となろう、そして、その後を継ぐのは三木様の子孫であろう・・・』と告げる。それを聞いた二人は最初は信じなかったが、城に戻ると二人は城主から武勇を賞せられ妖婆の予言どおりに出世する。予言が気になっていた鷲津武時は妻・浅茅にそそのかされて主君を殺害。予言どおりに城主となるが、朝茅は次は親友の三木義明を殺害するよう強要する。」

 本作品を見ると己の欲望に囚われて身を破滅させてしまう人間の業やこの世の無常さといったものを強く感じさせられます。どの地域どの時代でも変わらぬ人の欲と愚かさ。それが身に沁みる映画です。

 映像は黒澤監督だけあって見応え十分です。冒頭の霧の中から城が出てくるシーンは幻想的な美しいに満ちていますし、森の中で物の怪と出会うシーンは不気味で下手なホラー映画よりも怖いです。富士山の麓に実際に建てて撮影された城の映像もリアリティと重厚さがあります。
 またラストシーンの主人公めがけて矢が飛ぶシーンは弓の名人を呼び実際に三船敏郎に向かって矢を放ったそうで、大変迫力があります。三船敏郎は撮影後に黒澤監督に「殺す気か!」と怒ったそうですが無理ありません。この矢のシーンを見るだけでも本作品は価値があります。

 黒澤監督は日本の伝統芸能である能を意識した演出を取り入れ、作品に独特な雰囲気や様式美をもたらすことに成功しています。音楽も能を意識したものになっています。

 三船敏郎演ずる主人公が欲望から次第に狂気に陥っていく演技もさることながら、冷酷かつ不気味な雰囲気を持つ主人公の妻・浅茅を能面のようなメイクを施し演じた山田五十鈴が大変印象に残ります。特に浅クライマックスで茅が狂って手を洗い続けるシーンの演技は圧巻で、見ていて鳥肌が立ちます。

 本作品で唯一残念なのは古い作品でもあるせいか台詞が聞き取りにくいこと。耳を澄ましても聞き取れない箇所があり、字幕つきで見ることをお薦めします。

上映時間 110分
製作国    日本
製作年度 1957年
監督:    黒澤明   
原作:    ウィリアム・シェイクスピア   
    『マクベス』
脚本:    小国英雄   
    橋本忍   
    菊島隆三   
    黒澤明   
撮影:    中井朝一   
美術:    村木与四郎   
音楽:    佐藤勝   
記録:    野上照代   
照明:    岸田九一郎   
出演:    三船敏郎   
    山田五十鈴   
    志村喬   
    久保明   
    太刀川洋一   
    千秋実   
    佐々木孝丸   
         三好栄子   
    浪花千栄子   
         木村功   
    宮口精二   
    中村伸郎   

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『ブラックサンデー』この映画を見て!

第284回『ブラック・サンデー』
Photo  今回紹介する作品は過激派からの脅迫により日本では劇場未公開となった伝説のアクション映画『ブラック・サンデー』です。『羊たちの沈黙』など数々のベストセラーを生み出すトマス・ハリスの同名小説を原作にした本作品。荒々しく骨太な作風で人気のジョン・フランケンハイマー監督がドキュメンタリータッチでテンポよく描いており、終始緊張感のある仕上がりとなっています。
 また、最近の超人的な主人公が活躍する見た目だけ派手なアクション映画ではなく、敵味方それぞれの人物描写も丁寧で人間ドラマとしても深みがあります。

ストーリー:「ベトナム戦争で捕虜となったマイケル・ランダーは帰国後の周囲の冷たい扱いに怒りを覚えていた。そして、パレスチナのテロリストグループ『黒い九月』の女闘士であるダーリアと手を組み、アメリカ中が熱狂するスーパーボウルの試合中に観客を大量殺戮する計画を立てる。
 その計画を事前に察知したイスラエル秘密情報局のデビッド・カバコフはテロを食い止めようとアメリカに潜入したダーリアの行方を追うのだが・・。」

 私は最近になって本作品をDVDで鑑賞したのですが、ストーリー・アクション共に密度の大変濃い作品で、見終わって大変満足感がありました。前半から中盤にかけてテロリストの綿密な準備と情報局の必死の追跡をクールかつスリリングに描き、後半はスケールの大きなアクションシーンが次々と展開されて飽きることがありません。特にラストのスタジアムとその周辺でのアクションシーンの迫力と緊迫感はすごいです。カットバックの編集を巧みに駆使して、見る者を手に汗握らせます。

 本作品の特徴としてテロリスト側の心情や行動も中立の立場でじっくり描いている点があります。また、テロリストを演じた俳優の演技も素晴らしく、マルト・ケラーの美貌とクールな演技、帰還兵を演じたブルース・ダーンの怪しさと危うさを感じさせる演技は大変印象に残ります。その為、ラストのテロリストがテロを決行するシーンでは主人公側よりも敵側に思わず肩入れしてしまいそうになります。

 主人公のイスラエル秘密情報局カバコフを演じたロバート・ショーの演技も素晴らしく、人を殺めることに嫌気をさしながらもテロを防ぐために懸命に立ち向かう主人公を熱演しています。

 30年以上前の作品でありますが、911のテロを先取りしたかのような内容は今見ても決して古くはありません。これだけ硬派なアクション映画は現在なかなか製作されないので、一度は見て損はないと思います。

上映時間 143分
製作国 アメリカ
製作年度 1977年
監督:    ジョン・フランケンハイマー   
原作:    トマス・ハリス   
脚本:    アーネスト・レーマン   
    ケネス・ロス   
    アイヴァン・モファット   
撮影:    ジョン・A・アロンゾ   
音楽:    ジョン・ウィリアムズ   
出演:    ロバート・ショウ   
    ブルース・ダーン   
    マルト・ケラー   
    フリッツ・ウィーヴァー   
    スティーヴン・キーツ   
    ベキム・フェーミュ   
    マイケル・V・ガッツォ   
    ウィリアム・ダニエルズ   
    クリスティ・マクニコル   
    ウォルター・ゴテル   
    クライド草津

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『修羅雪姫 怨み恋歌』この映画を見て!

第283回『修羅雪姫 怨み恋歌』
Photo_2  今回紹介する作品は梶芽衣子主演のバイオレンスアクションの続編『修羅雪姫 怨み恋歌』です。前作で復讐を果たした梶芽衣子演ずる雪が国家権力と反政府主義者の闘争に巻き込まれる本作品。前作よりも反体制・反権力色が強く打ち出された作品となっています。前作では復讐の鬼だった修羅雪姫が本作品では正義の味方として巨大な悪と闘っていきます。その姿は前作同様に美しく、カッコ良いです。

ストーリー:「明治39年の日本。警察に追われ逃亡していた雪は疲れ果て、ついに逮捕され死刑宣告を受ける。しかし、死刑直前に秘密警察の長官である菊井に呼ばれて、無政府主義者・徳井が持っている極秘書類を奪い暗殺することを命じられる。雪は徳井の家に女中として潜入する。だが、徳井は雪の正体を見抜き、国家権力の横暴を伝える。雪は徳井の側に付きボディガードとなるが・・・。」

 本作品は雪を取り囲む脇のキャラクターが敵味方全て濃いです。ある意味、脇役が濃すぎて主人公である雪の存在感が途中薄く感じるほどです。
 味方側で言えば凄惨なリンチを受ける無政府主義者の徳井を伊丹十三、貧民窟で医者を営む徳井の弟を原田芳雄が熱演しています。
 敵側で言えば秘密警察の長官を演じた岸田森の不気味な存在感が強烈です。また、長官に仕える部下を演じた南原宏治の怪演も見逃せません。

 ストーリーは前作同様に暗く、そして前作以上に国家に対する反骨精神が前面に出ています。劇画タッチの演出の中、貧民窟のシーンは大変リアルで見応えがありました。
 殺陣シーンは血飛沫は相変わらず派手ですが、正直言って前作より迫力や美しさに欠けています。ただ、ラストの神社での敵との格闘は見応えがありました。

 前作に比べると完成度は落ちますが、脇役の濃さもあって最後まで飽きることなく見ることができます。前作が気に入られた方は本作品もお薦めです。

上映時間 89分
製作国   日本
制作年度 1974年
監督:   藤田敏八   
原作:   小池一雄   
       上村一夫   
脚本:   長田紀生   
       大原清秀   
撮影:  鈴木達夫   
美術:  樋口幸男   
編集:  井上治   
音楽:  広瀬健次郎   
助監督: 松沢一男   
出演:   梶芽衣子   
       伊丹十三   
       吉行和子   
       原田芳雄   
       岸田森   
       安部徹   
       山本麟一   
       南原宏治   

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『修羅雪姫』この映画を見て!

第282回『修羅雪姫』
Photo  今回紹介する作品はタランティーの監督の『キル・ビル』にも影響を与えた梶芽衣子主演のバイオレンスアクション『修羅雪姫』です。小池一夫原作・上村一夫作画によるマンガを映画化した本作品。梶芽衣子の凛とした美しさに、様式美に満ちた映像、そしてスプラッター映画も顔負けの血飛沫に劇画タッチの演出と見所は多く、暗い話しですが最後まで目が離せません。主題歌の「修羅の花」も名曲で、『キル・ビル』でも挿入歌として使われていました。

ストーリー:「明治4年の日本。家族を殺された鹿島小夜は復讐相手の一人を殺して獄中に入る。小夜は獄中で身篭り、産まれた女の子に雪と名づけ死ぬ。雪は引き取られた和尚の元で厳しい修行を受け、自分を産んでくれた母に代わって復讐の旅を続ける。」

 私は『キル・ビル』から本作品の存在を知り鑑賞したのですが、70年代の日本でこんなクールで面白い作品が存在しているとは思いませんでした。
 とにかく主人公の雪を演じた梶芽衣子が美しくかつ格好良くて見惚れてしまいます。特に敵の返り血を浴びた時の姿は不謹慎ですが綺麗です。あと目力も凄いです。
 ストーリーは強引で突っ込みどころも多いですし、演出もケレン味を追求しているので現実感は乏しいです。しかし、そんな欠点を補って余りあるほど主人公に魅力があります。

 それにしてもタランティーの監督は本作品が本当に好きだったんでしょうね。『キル・ビル』は本作品のリメイクと言っても過言ではないほど似ています。

『キル・ビル』が好きな方、スタイリッシュなアクション映画が好きな人は本作品を見ることをお薦めします。

上映時間 97分
製作国    日本
制作年度 1973年
監督:    藤田敏八   
原作:    小池一雄   
       上村一夫   
脚本:    長田紀生   
撮影:    田村正毅   
美術:    薩谷和夫   
編集:    井上治   
音楽:    平尾昌晃   
出演:    梶芽衣子
           赤座美代子   
       大門正明
       内田慎一   
       楠田薫
       根岸明美   
       西村晃   
       高木均   
       岡田英次
       中原早苗   
       仲谷昇   
       地井武男   
       黒沢年男   
       中田喜子   
       小松方正

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『幻の湖』この映画を見て!

第281回『幻の湖』
Photo  今回紹介する作品は東宝創立50周年記念作品として制作された『幻の湖』です。監督を務めた橋本忍は黒澤監督の『羅生門』の脚本家としてデビュー。『私は貝になりたい』や『砂の器』など数々のヒット作品の脚本を手がけ、本作品で初めて監督を務めました。橋本監督は原作・脚本も手がけて渾身の力をこめて作った結果は1週間で上映を打ち切られ興行的にも惨敗。2003年にDVD化されるまでビデオ化やテレビ放映もされず一時期は幻の作品とまで言われていました。しかし、90年代後半から一部の映画ファンの間で取り上げられ始め、今では日本を代表するカルト映画として評価?されています。

 ストーリー:「滋賀県大津市にある雄琴ソープランド街でお市と言う源氏名で働く道子は琵琶湖の西側を愛犬のシロと一緒に走ることが生きがいだった。そんなある日、愛犬のシロが和邇浜で殺される。道子はシロを殺した犯人を見つけだし仇を討つことを決意する。」

 本作品さすがカルト化しているだけあって見応え十分でした。164分と長い上映時間ながら、話しの展開が唐突で全く読めず、突っ込みどころも満載で飽きることがありません。
 また、私は現在滋賀県大津市で働いていることもあって、普段仕事で見ている風景が次から次へと映し出されるので思わず身を乗り出して見入ってしまいました。見ていて大津市湖西側の約30年の風景の移り変わりを感じることができ、別の意味で感動しました。私が知る限り琵琶湖をここまで大々的に取り上げた作品は後にも先にもないと思います。そういう意味では滋賀県民には必須の作品と言えるでしょう。

 さて、肝心の話しの内容ですが、何度見ても良く分かりません。主人公が犬の仇を討つだけと言えばそれだけなのです。しかし、そこに雄琴のソープ街に潜入捜査をしている白人女性の諜報員や琵琶湖を見下ろす山で笛を吹く宇宙飛行士が登場するわ、400年前の戦国時代の悲恋の物語が途中唐突に展開され、挙句の果てラストはスペースシャトルに搭乗した日本人が宇宙遊泳をして琵琶湖を見下しすというぶっ飛んだ内容に見ている側は呆然とするしかありません。

 主人公始め全ての登場人物の言動も変すぎて、真面目に演技していればいるほど見ていて笑ってしまいます。特に演技で印象的だったのは主人公が働くソープランドのお局役を演じたかたせ梨乃。まだ、若かりし頃の演技ですが圧倒的な存在感がありました。

 本作品の一番の見所は何と言っても主人公が走るシーン。愛犬を殺した犯人を追いかけて延々と走るだけのシーンが映画の中盤とクライマックスに10分以上繰り広げられるのですが、見ている側も途中でランナーズハイになるほど迫真の描写です。

 あと、本作品を見た人は誰しも気になるのは白人女性のセリフ。「ファントムではなく、イーグルだ。イーグルはすでに実戦配備についている。」このセリフは一体何を意味していたのでしょう。私は何回見ても分かりません。

 私は主人公が最後に犯人を追い詰めた琵琶湖大橋を時々使いますが、通るたびに主人公のあの名(珍?)セリフを思い出して仕方ありません。

 本作品は意味不明な点や突込みどころが多いですが、当時の日本映画を代表する一流のスタッフが参加しているだけあって映像や音楽はとても美しいです。(最後の特撮はショボイですが・・・。)時間と心に余裕があり、ぶっ飛んだ映画が見たい方はぜひご覧ください。

上映時間 164分
製作国    日本
制作年度 1982年
監督:    橋本忍   
原作:    橋本忍   
脚本:    橋本忍   
撮影:    中尾駿一郎   
    斎藤孝雄   
    岸本正広   
特撮監督: 中野昭慶   
音楽:    芥川也寸志   
出演:    南條玲子   
    北大路欣也   
    隆大介
    関根恵子   
    宮口精二   
    大滝秀治   
    星野知子   
    光田昌弘   
    かたせ梨乃   
    長谷川初範
    室田日出男   
    下絛アトム   
    北村和夫   
    谷幹一   
    仲谷昇

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『カサンドラ・クロス』この映画を見て!

第280回『カサンドラ・クロス』
Photo_2  今回紹介する作品は列車を舞台にした細菌アクション・パニック映画の傑作『カサンドラ・クロス』です。本作品はヨーロッパで制作されており、ハリウッドのパニック映画とは一味違う仕上がりとなっています。
 出演者はハリウッド映画に比べて地味ながらも有名な俳優が多数顔をそろえています。主役にリチャード・ハリス、バート・ランカスター、ソフィア・ローレンが起用され、エヴァ・ガードナー、アリダ・ヴァリ、リー・ストラスバーグと名立たる俳優が脇を固めています。

ストーリー:「ヨーロッパの大陸横断鉄道にありか軍が極秘に開発していた細菌に感染したテロリストが乗り込み、乗客が次々に感染。アメリカ軍は感染防止と秘密を守るために列車ごと老朽化した橋から転落させ葬り去ろうと計画する。アメリカ軍の計画を知った乗客たちは何とか阻止しようと奮闘するが・・・。」

 私が本作品を見たのは小さいときにテレビ放映された時でしたが、列車の中で乗客が徐々に感染していく展開が子どもながらにリアルで怖かったのを今でも覚えています。また、感染防護服を着用した兵士たちが列車に乗り込むシーンやカサンドラ・クロスでの衝撃的なラストシーンも強烈で大変印象に残ったものでした。
 最近久しぶりにDVDで本作品を見直してみると、映像のチープさストーリーの粗が多少気にはなりましたが、最後まで飽きることなく手に汗握ってみることが出来ました。
 前半は乗客の人間ドラマがまったりと描かれていくので、最近のハリウッド製作のアクション映画を見慣れた人には物足りないかもしれません。しかし、後半の軍が出動して列車を封鎖してポーランドの収容所に送り込もうとするシーンから本作品の緊迫感は一気に上がります。
 特に駅で白い防護服に身を包みマシンガンを持った兵士たちが列車を取り囲み、列車の窓や扉を塞ぎ、逃げようとする乗客を撃つシーンは背筋がゾッとするほど異様で怖いです。

 ドラマとして印象的だったのは若い頃にポーランドの収容所に送り込まれ妻子を失った老ユダヤ人のエピソード。列車がポーランドの収容所に向かうことを知り、戻りたくないと苦悶する場面は胸迫るものがありました。

 あと、本作品を語る上で忘れてはいけないのがジェリー・ゴールドスミスの音楽。一度聞いたら忘れられないほど印象に残る壮大で美しいメロディーで、テレビでもよく使われています。

 本作品は映像的には一昔前で古くさいですが、緊迫感あるストーリー展開と衝撃的なラストシーンは大変見応えがあります。アクション映画好きな方はぜひご覧ください。

上映時間 128分
製作国    イタリア/イギリス/西ドイツ
制作年度 1976年
監督:    ジョルジ・パン・コスマトス   
製作:    カルロ・ポンティ   
    ルー・グレイド   
脚本:    ジョルジ・パン・コスマトス   
    ロバート・カッツ   
    トム・マンキウィッツ   
撮影:    エンニオ・グァルニエリ   
編集:    ロベルト・シルヴィ   
音楽:    ジェリー・ゴールドスミス   
出演:    リチャード・ハリス   
    バート・ランカスター   
    ソフィア・ローレン   
    エヴァ・ガードナー   
    マーティン・シーン   
    イングリッド・チューリン   
    ジョン・フィリップ・ロー   
    アン・ターケル   
    レイモンド・ラヴロック   
    アリダ・ヴァリ   
    O・J・シンプソン   
    ライオネル・スタンダー   
    リー・ストラスバーグ

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『激突』この映画を見て!

第279回『激突』
Photo  今回紹介する作品はスピルバーグの名を一躍有名にした『激突』です。本作品は元々テレビムービーだったのですが、あまりの完成度の高さに海外では劇場公開されました。

 平凡なサラリーマンが田舎道でタンクローリーを追い越したことから起こる恐怖を描いた本作品。乗用車が巨大なタンクローリーに襲われるだけのシンプルな話しにも関わらず、一瞬たりとも目が離せない完成度の高さ。低予算かつ2週間という短期間で撮影されたにも関わらず、これほど面白い作品を作れるとは、さすがスピルバーグ監督です。

 本作品の特長は最後までタンクローリーの男の姿を映さないことです。どんな男が主人公を追いかけているのか分からないだけに不気味ですし、緊張感があります。また、観客にもどういう男が運転しているのか想像させる余地があります。

 また、次第に追い詰めれらていく主人公の心理描写やタンクローリー自体がまるで巨大な猛獣であるかのように見せる迫力満点の描写に、若い頃のスピルバーグのサスペンス映画の監督としての才能の豊かさを感じることができます。
 特に追いかけられた主人公がカフェに立ち寄った際に他の客の中に運転手がいるのではと疑心暗鬼になるシーンは見ていてドキドキさせられます。

 ラストの主人公の決死の反撃も今までの執拗な襲撃の描写がある分カタルシスがあります。

 本作品はスピルバーグの作品の中では個人的に一番才能に溢れ面白いと思います。未見の方はぜひご覧ください。 

上映時間 89分
製作国    アメリカ
制作年度 1973年
監督:    スティーヴン・スピルバーグ   
原作:    リチャード・マシスン   
脚本:    リチャード・マシスン   
撮影:    ジャック・A・マータ   
美術:    ロバート・S・スミス   
編集:    フランク・モリス   
音楽:    ビリー・ゴールデンバーグ   
出演:    デニス・ウィーヴァー   
    キャリー・ロフティン   
    エディ・ファイアストーン   
    ルー・フリッゼル   
    ジャクリーン・スコット   
    アレクサンダー・ロックウッド

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『伊賀忍法帖』映画鑑賞日記

Photo お正月にBSでたまたま放映していたので鑑賞した『伊賀忍法帖』。山田風太郎の同名小説の映画化で、戦国争乱の世を舞台に媚薬をめぐって伊賀忍者の笛吹城太郎と伝説的な妖術師である果心居士の戦いを描いた本作品。角川映画で忍者の話しということで期待して見たのですが残念な出来でした。

 

ストーリーが端折りすぎというか唐突で話しに入り込めませんし、ラストも「2人の愛に感動」というより突然の展開に唖然としました。

 

東大寺が炎上するスケールの大きなシーンや若かりし頃の真田広之の切れのあるアクション、そして中尾彬・成田三樹夫・千葉真一の濃厚過ぎる演技と見所は結構あるのにストーリーがぐだぐだでもったいない印象を受けました。

 

私が本作品で印象に残ったのは果心居士役の成田三樹夫の怪演と佐藤蛾次郎が黄色い液体を口から吐き出すシーン。映画のストーリーは忘れてもこの2つだけは忘れることはありません。

 あと笑ったのは変装して姿を隠している役を演じた千葉真一。変装しているにも関わらず正体がバレバレ過ぎて突っ込みを入れたくなりました。

上映時間 100分
製作国    日本
制作年度 1982年
監督:    斎藤光正   
製作:    角川春樹   
原作:    山田風太郎   
脚本:    小川英   
撮影:    森田富士郎   
音楽:    横田年昭   
出演:    真田広之   
       渡辺典子   
       美保純   
       中尾彬   
       成田三樹夫   
       千葉真一   
       ストロング小林   
       風祭ゆき   
       福本清三   
       佐藤蛾次郎

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