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2009年11月15日 - 2009年11月21日

『DRAMA!』中島みゆきのアルバム紹介

中島みゆきのアルバム紹介No.9『DRAMA!』

Drama  今回紹介するアルバムは中島みゆき通算36枚目のアルバム『DRAMA!』です。本アルバムは吉川晃司主演で昨年公演されたミュージカル『SEMPO』と『夜会VOL.15~夜物語~元祖・今晩屋』の楽曲が収録されています。

 『SEMPO』は第2次世界大戦中にナチスに追われていたユダヤ人に対してビザを発行して救った外交官・杉原千畝の姿をミュージカルにしたものです。吉川晃司が主演することやみゆきさんがミュージカルに始めて楽曲を提供することで話題になりました。
 杉原千畝は第二次世界大戦勃発時、リトアニアの日本領事代理を務めていた時に、ソ連より領事館閉鎖命令が出たにもかかわらず、ユダヤ人のビザを発給を不眠不休で行い、6000人近いユダヤ人の命を救ったそうです。当時、人々が千畝をチウネと発音できないため、杉原は“SEMPO”と呼ばせており、海外では東洋のシンドラーと高く評価されています。
 みゆきさんはユダヤ人迫害という重いテーマの劇中歌を制作するにあたって、制作発表の際に以下のようなコメントをしています。
 「現代の民族紛争にも通ずるデリケートな作品ですが、私はただ1点、『人間として』という立場を貫いたSEMPO氏への敬意に基づいてのみ詞曲を書かせていただきました。この素晴らしい機会を与えていただいたことに感謝しています。」
 本アルバムでは前半に公演で歌われた6曲が収録されていますが、どの歌もみゆきさんらしい繊細で力強い言葉遣いとメロディーの美しさがとても印象に残ります。
 1曲目の「翼をあげて」は少し「銀の龍の背に乗って」に似た部分がありますが、サビの部分でグッと盛り上がるところが大好きです。
 2曲目の「こどもの宝」は子ども時代を振り返り今を見つめる内容の歌詞ですが、みゆきさんの優しい歌声とバイオリンソロの部分の美しい音色が印象に残ります。
 3曲目の「夜の色」は故郷に対する思いを歌っています。中村哲さんのアルト・サックスの音色が良いですね。
 4曲目の「掌」も2曲目同様に子ども時代を振り返り、今の自分の非力さに苦悩する心情を歌っています。
 5曲目の「愛が私に命ずること」は他者を労わり守ろうとする愛の大切さをみゆきさんらしい力強い言葉で表現した歌です。
 6曲目の「NOW」は前半のクライマックスとも言えるスケールの大きな歌です。男性コーラスから始まるので最初聞いた時はびっくりしましたが、みゆきさんの全身全霊を込めた歌い方は鳥肌が立ちます。

15  本アルバムの後半は昨年から今年の冬にかけて公演された『夜会VOL.15~夜物語~元祖・今晩屋』と今年の11月から東京で公演される『夜会VOL.16~夜物語~本家・今晩屋』で歌われる7曲が収録されています。

 夜会『今晩屋』は森鴎外の小説でも有名な「山椒大夫」をモチーフにしており、主人公である安寿と厨子王と母の来生での苦悩と魂の救済を描いていきます。今までの夜会の中では一番難解であり、ファンの間でも賛否両論ある作品です。

 私は今年2月の大阪公演を鑑賞したのですが、みゆきさんの力強い歌声とオーラに圧倒され、そして未練を残したまま輪廻転生する主人公たちの苦悩に胸が締め付けられ、クライマックスの魂の救済に鳥肌が立つほど感動しました。歌詞が難解な部分があり、一度聴いただけでは分からないところも多かったので今回のCD化はうれしい限りです。ただ、個人的に好きだった「有機体は過去を喰らう」、「十文字」、「紅蓮は目を醒ます」、「赦され河、渡れ」が収録されなかったのが残念です。前回か今回の公演がDVD化され、全曲聴けるようになると言いのですが・・。

 7曲目の「十二天」は仏教の護法神である「天」の諸尊12種を組み合わせたものを言います。東西南北と東北・東南・西北・西南の八方を護る諸天に、天・地・日・月にかかわる神を加えて十二天としています。東北は伊舎那天、東は 帝釈天、東南は 火天、南は 閻魔天、西南は 羅刹天、西は水天、西北は風天、北は毘沙門天、天は梵天、地は地天、 日は日天、月は月天となっています。
 夜会の中でも印象的だった十二天。本アルバムでもは2番でみゆきさんが十二天の名を讃えるかのごとく力強く歌い上げ、聴いていて魂が揺さぶられます。
 8曲目の「らいしょらいしょ」は前世・現世・来世の関係について日本の伝統的な手まり歌にあわせて歌った曲です。「前生から今生見れば来生」というフレーズがとても印象に残ります。
 9曲目の「暦売りの歌」は時間の流れの中で生きる人間の姿を暦に喩えて歌っています。軽快なメロディーで聴きやすい歌ですが、歌詞をじっくり読むと「今」とは何かについて考えさせられます。
 10曲目の「百九番目の除夜の鐘」は『今晩屋』のテーマ曲ともいえる歌です。百八の煩悩を大晦日の除夜の鐘で払い落として新しい年を迎えたいのに百九番目の除夜の鐘が鳴る。百九番目の煩悩とは何か?前世の未練を残し引きずった魂が、来世に行けず今生を彷徨う哀しみ、苦しみ。非情にインパクトの強い歌です。
 11曲目の「幽霊交差点」は簡単に過去から逃れることはできず、浮かばれない魂が今の自分を呼んでいることを歌っています。
 12曲目の「海に絵を描く」は前回の夜会ではコーラスの宮下文一さんが歌っていたのですがメロディーと歌詞が痺れるほど格好良かったので、本アルバムでみゆきさん本人が歌ってくれたのはうれしい限りです。サビの「海に絵を描く 絵の具は涙」の部分が何度聴いても良いですね。
 13曲目の「天鏡」は前回の夜会でもラストに本物の水の流れる舞台の上でみゆきさんが熱唱して鳥肌が立ったのを今でも覚えています。本アルバムでも最後を締めくくっていますが、人の愚かさや悲しみを壮大なスケールで歌っており、聴いていて心が浄化される名曲です。

 本アルバムはみゆきさんの力強く繊細な歌詞と歌声が十二分に堪能でき、舞台を見ていない人でも十分に聴き応えがあります。

1,翼をあげて
2,こどもの宝
3,夜の色
4,掌
5,愛が私に命ずること
6,NOW
7,十二天
8,らいしょらいしょ
9,暦売りの歌
10,百九番目の除夜の鐘
11,幽霊交差点
12,海に絵を描く
13,天鏡

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『空気人形』この映画を見て!

第275回『空気人形』
Photo  今回紹介する作品は業田良家の短編コミックを基に心を持ってしまったダッチワイフと孤独な現代人の交流を描くラブ・ファンタジー『空気人形』です。
監督は『誰も知らない』の是枝裕和が担当。主演を『リンダ リンダ リンダ』で日本映画デビューした韓国の若手女優ペ・ドゥナが演じています。また共演者には、ARATAや板尾創路、オダギリジョー、富司純子など個性派が顔を揃えています。また、ホウ・シャオシェンの作品等で有名なアジアを股にかけて活躍するリー・ピンビンが撮影を担当しており、東京の街並みを情緒豊かな美しい風景として捉えています。

ストーリー:「ファミレス店員をしながら古びたアパートで暮らしていた秀雄のダッチワイフがある朝「心」を持ってしまった。秀雄が仕事に出かけると、彼女はメイド服を着て、街へと繰り出す。初めて見る外の世界で出会う様々な人々。そんなある日、彼女はレンタルビデオ店で働く純一と出会い、一目惚れする。彼女はその店でアルバイトをしながら、純一に近づいていく。」

前知識なく本作品を鑑賞したのですが、最近観た映画の中ではインパクトがありました。人形やロボットが心を持つという物語はピノキオを始めとして昔から良くあります。(最近の作品で言うならスピルバーグ監督が2001年に発表した『A.I』などが挙げられます。)
 そんな中、本作品が面白いのは性欲処理の道具であるダッチワイフが心を持つという点です。昔のポルノ映画やエロ漫画にも良く似た設定や雰囲気の作品はありましたが、ここまで透明感があり文芸的な香りのする作品はなかなか見当たりません。
 本作品は現代人の孤独や満たそうと思っても満たされない心の苦しみを描いてきます。その描き方は時に美しく、時に切なく、時に残酷です。
 主人公のダッチワイフは空っぽ肉体に純粋な心を持った故に己の空虚な欠如を満たそうと他者に興味を持ち関わろうとします。その姿は微笑ましくもあれば、痛ましくもあります。
 普通の人間よりも純粋な心を持ったが故に周囲の人間に振り回され傷ついていく主人公を見ていると、人間誰しもが持つエゴイズムを痛感させられます。自分を傷つけまいと守りながら己の孤独や欲望を満たそうとするエゴイズム。エゴイズムを満たすために他者とつながりたいのに上手くつながれない現代人の苦悩が本作品では生々しく描かれています。

 また、本作品で私が印象的だったのが好きな男から息を吹き込まれるシーンとラストの主人公が好きな男に対して取った予想外な行為。
 映画の中盤のレンタルビデオ店で誤って空気が抜けかけた主人公に対して好きな男が息を吹き込むシーンの官能的な美しさは息を呑みます。息を吹き込まれるたびに主人公が見せるエロティクな表情。好きな男の息によって空っぽな肉体が満たされていき、己の心の空虚さが満たされていく。主人公は空気を吹き込まれることで他者から満たされることの喜びを知り、そして喪失への恐れを抱くようになります。
 映画のラストは満たされた主人公が好きな男を満たそうとした行為によって起きる悲劇が描かれます。傷つけるつもりはなかったのに純粋な心が故に傷つけてしまう悲しみと恐ろしさ、そして愛する者を失った喪失感。満たされた心も束の間、充足感は失われ空っぽになっていく。映画のラストはとても切なく哀しいです。
 しかし、同時にかすかな希望も与えてくれます。それは主人公が知らぬ間に他者と交わる中で育んだ温もりと絆の種です。

 それにしても本作品で主人公を演じたぺ・ドゥナの透明感と存在感は凄いです。彼女が主演でなければ本作品ははっきり言って失敗していたかもしれません。彼女に目を付けた監督も大したものです。

 本作品はダッチワイフが主人公ということで嫌悪感を抱く人もいるかもしれませんが、悪趣味で見世物的な描写もなく、大変美しくも生々しく人間の心の本質を描いています。今年の邦画で押さえておいて損はない作品だと思います。

製作国    日本
製作年度 2009年
監督:    是枝裕和   
原作:    業田良家   
    『空気人形』(小学館刊『ゴーダ哲学堂 空気人形』所収)
脚本:    是枝裕和   
撮影:    リー・ピンビン   
美術:    金子宙生   
美術監督: 種田陽平   
編集:    是枝裕和   
音楽:    world's end girlfriend   
衣裳デザイン:    伊藤佐智子   
照明:    尾下栄治   
造形:    原口智生   
人形デザイン:    寒河江弘   
出演:    ペ・ドゥナ   
    ARATA   
    板尾創路   
    高橋昌也   
    余貴美子   
    岩松了   
    星野真里   
    丸山智己   
    奈良木未羽   
    柄本佑   
    寺島進   
    オダギリジョー   
    富司純子   

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