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『雨月物語』この映画を見て!

第270回『雨月物語』
Photo  今回紹介する作品は日本映画界の巨匠・溝口健二の代表作『雨月物語』です。本作品は江戸時代の読本作家であった上田秋成の怪異小説『雨月物語』の中の「浅茅が宿」と「蛇性の婬」の2編を脚色して製作されています。日本を代表するカメラマン・宮川一夫が撮影したモノクロ映像は息を呑むほど美しく、欲望に目の眩んだ者たちの悲劇の物語は今の時代にも十分通ずるものがあります。世界的にも高く評価されており、ベネチア国際映画祭で銀獅子賞とイタリア批評家賞を受賞しているほどです。

ストーリー:「戦国時代、近江国の農村で焼き物を作っていた源十郎は戦に乗じて町で焼き物を売り捌いてお金を手にする。源十郎は、妻子のためにもっとお金を稼ごうと、侍になるための金がほしい弟の籐兵衛と一緒に大量の焼き物を作り始める。
 後は焼きあがるのを待つ段階になった時、村に兵が押し寄せてきて、源十郎たちはやむなく山に逃げこまざるえなくなる。だが、源十郎はどうしても焼き物が気になり、兵がまだいる村へと戻る。焼き物は無事完成しており、源十郎は妻子と籐兵衛夫妻を率いて焼き物を対岸の市場に売りにいくために琵琶湖に船で繰り出す。
 しかし、湖上に海賊が出回っており、源十郎は一旦引き戻して妻子を残して琵琶湖を渡る。無事に市場までたどり着いた源十郎は焼き物を次々と売りさばく。そんなある時、市来笠を冠った美しい女が付き人の老女を伴って現れ、大量の焼き物を購入する。老女は『焼き物を屋敷にまで届けてくれ』と言うので、源十郎は屋敷まで持っていくのだが・・・・。」

 私はテレビで本作品が放送されているのを偶然見たのですが、その美しくも哀しい物語に釘付けになってしまいました。特にラストの源十郎が村に戻って妻と再会するシーンはあまりにも切なくて思わず泣いてしまいました。(このシーンでの田中絹代の抑えた演技は最高に素晴らしいです!)男の浅はかな欲望とそれに振り回されながらも尽くしてしまう女たち。男の身勝手さや弱さに対して我慢強く耐え受け入れようとする女たち。男としては見ていて我が身を反省させられる作品です。

 また、中盤の屋敷での主人公が美しい女に溺れていくエピソードは戦に翻弄された女の哀しみとこの世の男に対する激しい執念が大変印象に残ります。京マチコ演じる姫君の現実離れした妖艶さは息を呑むほど美しく、そして怖いです。また、お付の老女も不気味な雰囲気を見事に醸し出していました。

 宮川一夫が撮影した映像は水墨画のようなモノクロ画面と計算されつくした美しい構図は芸術の域に達しています。特に霧が漂う琵琶湖での幻想的なシーンとラストの源十郎が妻を捜して家を一周する長回しのシーンは映画史に残る美しい映像です。
 早坂文雄の音楽も日本の伝統音楽を見事に取り込み、幻想的ながら緊張感溢れる音楽に仕上がっています。

 本作品は古い作品ではありますが、愛や欲望と言った普遍的なテーマを幻想的で物悲しい物語として一流のスタッフとキャストで描いており、今見ても大変見応えがあります。 

上映時間 97分
製作国    日本
製作年度 1953年
監督:    溝口健二   
原作:    上田秋成   
脚本:    川口松太郎   
    依田義賢   
撮影:    宮川一夫   
美術:    伊藤熹朔   
編集:    宮田味津三   
作詞:    吉井勇   
音楽:    早坂文雄   
助監督:    田中徳三   
出演:    京マチ子   
    水戸光子   
    田中絹代   
    森雅之
    小沢栄太郎   
    青山杉作   
    羅門光三郎   
    香川良介   
    上田吉二郎   
    毛利菊枝   
    南部彰三   
    光岡龍三郎   

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☆☆☆☆★(9点/10点満点中) 1953年日本映画 監督・溝口健二 ネタバレあり [続きを読む]

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戦国時代、一獲千金を夢見る陶芸工を中心に、「蛇性の淫」の妖麗、「浅茅が宿」の凄愴、上田秋成の名作から三つのエピソードを巧みに構成するヒューマンドラマ。 [続きを読む]

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