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2009年9月

『イースタン・プロミス』この映画を見て!

第274回『イースタン・プロミス』
Photo_2  今回紹介する作品は『ヒストリー・オブ・バイオレンス』の監督デヴィッド・クローネンバーグと主演ヴィゴ・モーテンセンが再びタッグを組んだバイオレンスドラマ『イースタン・プロミス』です。
 ロンドンに暗躍するロシアン・マフィアの人身売買に絡む事件に巻きこまれる助産婦を『キング・コング』のナオミ・ワッツが熱演。また、マフィアの一員で非情さと優しさの両面を持つ謎の男をヴィゴ・モーテンセンが好演して、アカデミー賞主演男優賞でノミネートをされています。
 デヴィッド・クローネンバーグ監督は以前はドロドロとしたアブノーマルな世界を描いていましたが、21世紀に入り作風が少し変わり、前作の『ヒストリ~』からグロテスクな要素やバイオレンス描写が抑えられ硬派なドラマを正攻法に撮るようになっています。本作品も前作に似た感じの作風ですが、より研ぎ澄まされて無駄のない終始緊張感のあるバイオレンスドラマに仕上げています。

ストーリー:「クリスマスを間近のロンドンの病院に10代の幼い妊婦が運び込まれる。少女は女の子を産んだ直後に息を引き取るが少女のバッグからロシア語で書かれた日記が見つかる。助産婦のアンナは手帳を持ち帰り、孤児となった赤ちゃんのために少女の身元を調べ始める。ロシア語の分からないアンナは手帳に挟まっていたカードを頼りにロシア料理の店を訪ねる。そしてその店の前で、ロシアン・マフィアの運転手を務める運転手の男ニコライと出会う。」

 本作品は100分と短い映画なのですが密度が濃くて、見終わって大変満足感があり、もう一度見たくなる魅力がありました。

 冷酷な裏社会で生きる人間たちの屈折した感情や善と悪の間で揺れる葛藤に焦点を当てた作りは見ていて人間の苦悩と底知れぬ闇を強く感じました。

 主人公であるナオミ・ワッツ演ずる助産婦アンナは裏社会の恐ろしさを知らずに足を深く突っ込んでいくので、見ていてハラハラしました。
 しかし、途中からは彼女よりもヴィゴ・モーテンセン演じる寡黙だが優しく強いニコライの圧倒的な存在感に目を奪われ、見た後は彼のストイックな生き様が強く印象に残りました。特にラストシーンで彼が一人佇む姿は己の役割や運命を受け入れた人間の切なさや哀しみといったものが滲み出ていました。本作品を見るとヴィゴ・モーテンセンの渋く格好良い姿に誰もが魅了されると思います。アカデミー賞にノミネートされたのも納得の演技と存在感があります。

 バイオレンス描写は少なめですが、その分インパクトがあります。特に全裸のヴィゴ・モーテンセンがサウナで敵と戦うシーンは強烈です。全くの無防備の状態でナイフを持った男たちに襲われ、体を切られて血が飛び散り、命からがら敵を倒すヴィゴ・モーテンセン。その姿は見ている側にも生々しい痛みや緊迫感が伝わってきます。このシーンを見るだけでも本作品は価値があります。

 本作品は地味ではありますが、何度見ても深い味わいのある名作です。ハードボイルドタッチの映画が好きな人にお薦めの作品です。

上映時間 100分
製作国    イギリス/カナダ/アメリカ
製作年度 2007年
監督:    デヴィッド・クローネンバーグ   
脚本:    スティーヴ・ナイト   
撮影:    ピーター・サシツキー   
プロダクションデザイン:    キャロル・スピア   
衣装デザイン:    デニース・クローネンバーグ   
編集:    ロナルド・サンダース   
音楽:    ハワード・ショア   
出演:    ヴィゴ・モーテンセン   
    ナオミ・ワッツ
    ヴァンサン・カッセル   
    アーミン・ミューラー=スタール   
    イエジー・スコリモフスキー   
    シニード・キューザック   
    ミナ・E・ミナ   
    サラ=ジャンヌ・ラブロッセ   

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『狼/男たちの挽歌・最終章』この映画を見て!

第273回『狼/男たちの挽歌・最終章』
Photo  今回紹介する作品はジョン・ウー監督とチョウ・ユンファ主演がタッグを組んだ香港ノワールの最高傑作『狼/男たちの挽歌・最終章』です。ちなみに本作品は「男たちの挽歌」とタイトルに銘打っていますが、監督と主演が同じだけで、『英雄本色』シリーズとは全く関係ありません。

ストーリー:「殺し屋のジェフリーは引退の仕事で誤って女性歌手のジェニーを失明させてしまう。彼は彼女の目の手術費を稼ぐために殺し屋の仕事を再開する。
 ある夜、失明しながらもクラブで歌い続けていたジェニーは暴漢に襲われそうになるところをジェフリーに助けられる。彼の正体を知らないジェニーは彼に好意を寄せる。次第に近づきあう2人。
 しかし、ジェフリーは麻薬シンジケートのボスの暗殺を依頼したジョニーに裏切られ命を狙われるようになる。また同時に、要人警護の任務中に要人を狙撃された刑事リーからも追われる身となる。」

 私は高校の時に深夜放送で本作品を始めて見たのですが、激しい銃撃戦と哀しいラブストーリーと男たちの熱い生き様に深く感動して、その後何度も繰り返し見直したお気に入りの作品です。

 ストーリーも演技も演出も香港映画だけあって全てにおいてベタで暑苦しく大げさです。また、突っ込みどころも多いですし、話しに粗も多いです。
 しかし、そんなことが見ていて気にならないほどのパワーと魅力が全編に漲っています。

 まず、主人公とその味方となる男たちの生き様がとても格好良いです。友情や仁義を重んじる姿は今どき古臭いとはいえば古臭いですが、仁義や友情のために体を張って戦う姿には何度見ても目頭が熱くなります。

 また、本作品ではジョン・ウー監督としては珍しく主人公のラブストーリーも描かれるのですが、男たちの熱い友情の前ではどうしてもかすみがちです。ただ、切ないラストシーンは涙なしでは見ることができません。

 アクションシーンは弾がどれだけ装填できる銃なんだと突っ込みたくもなりますが、どのシーンも緊張感があり迫力満点です。ラストの教会での銃撃シーンは映画史に残る壮絶なシーンとなっています。特にジョン・ウー監督には欠かせない白い鳩が銃撃戦の中を飛びかい、ショットガンでマリア像が吹っ飛ぶシーンは強烈なインパクトがあります。

 個人的にはジョン・ウー監督の最高傑作であり、ハードボイルドアクション映画の最高峰だと思います。

上映時間 111分
製作国    香港
製作年度 1989年
監督:    ジョン・ウー   
製作:    ツイ・ハーク   
脚本:    ジョン・ウー   
撮影:    ウォン・ウィンハン   
    ピーター・パオ   
音楽:    ローウェル・ロー   
出演:    チョウ・ユンファ   
    ダニー・リー   
    サリー・イップ   
    ケネス・タン   
    チュウ・コン   
    ラム・チャン   
    シン・フイウォン

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『レオン』この映画を見て!

第272回『レオン』
Photo_2  今回紹介する作品はリュック・ベッソンがジャン・レノとコンビを組みアメリカで撮影した純愛アクション映画『レオン』です。ベッソン監督がSF大作『フィフス・エレメント』の資金を集めるために製作されたそうですが、根強いファンが多数いて現在でも高い評価を受けています。

ストーリー:「ニューヨークで殺し屋として完璧な仕事をするレオンはある日同じアパートに住んでいた12歳の少女マチルダを匿う。マチルダの家族は麻薬絡みで麻薬取締役で汚職に手を染めていたスタンフィールドとその部下たちによって抹殺されたのだった。
 マチルダはレオンが殺し屋であることを知り、自分にも殺しのテクニックを教えて欲しいと頼み込む。そしてレオンとマチルダの奇妙な共同生活が始まる。」

 本作品の見所は何と言ってもゲイリー・オールドマンの圧倒的に存在感溢れる演技。彼は以前から芸達者ではありましたが、本作品の狂気をにじませた演技は強烈です。麻薬取締官でありながら薬物依存で汚職に手を染め罪もない人間を殺しまくる極悪最低な人間を見事に演じており、本作品に何とも言えない緊張感を与えています。彼が出演していなければ本作品は凡作に終わっていたと思います

 ストーリーは孤独な殺し屋と少女の愛情関係を描くというシンプルな内容です。殺し屋でありながら純粋な心を持ち合わせているレオン。12歳でありながら過酷な現実の中で背伸びして生き抜こうとしてきたマチルダ。そんな2人が一緒に生活する中でお互いに思いを寄せていく中盤の展開は何度見ても心温まります。
 ラストはとても切ないですが、愛の美しさや力強さを感じさせてくれます。愛を知ったマチルドはレオンと一緒には生きることは出来ませんでしたが、レオンから受け取った愛を糧に逞しく大地に根を張って生きていくんだろうなと思います。

 ジャン・レノは大人の男としての渋さと少年のような子どもっぽさを併せ持った主人公のレオンを格好良く演じています。また、ナタリー・ポートマンは撮影当時13歳だったそうですが、少女の可愛さと大人の女性の色気と魅力を併せ持つマチルダという女の子を見事に演じきっています。

 アクションシーンは少ないですが、オープニングの暗殺シーンでのレオンの手際のよさは何度見ても格好良いですし、ラストの銃撃戦はここまで派手にする必要があったのかと思うほど迫力満点です。

 エンディングに流れるスティングの「シェイプ・オブ・マイ・ハート」も深い余韻を与えてくれます。

 なお、本作品は劇場公開された後に20分の追加カットが入った完全版も発表されています。完全版はレオンとマチルダの交流がより丁寧に描かれいます。

上映時間 111分(完全版は133分)
製作国    フランス/アメリカ
製作年度 1994年
監督:    リュック・ベッソン   
脚本:    リュック・ベッソン   
撮影:    ティエリー・アルボガスト   
編集:    シルヴィ・ランドラ   
音楽:    エリック・セラ   
出演:    ジャン・レノ
    ナタリー・ポートマン   
    ダニー・アイエロ   
    ゲイリー・オールドマン   
    ピーター・アペル   
    マイケル・バダルコ   
    エレン・グリーン

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『カリートの道』この映画を見て!

第271回『カリートの道』
Photo  今回紹介する作品はブライアン・デ・パルマとアル・パチーノが『スカーフェイス』以来10年ぶりにタッグを組んだギャング映画『カリートの道』です。

ストーリー:「元麻薬王のカリートは30年の刑期を言い渡されていたが、親友の弁護士クラインフェルドによって5年で刑務所から出所する。
 しかし、彼が5年ぶりに見た街や人も以前とは大きく変わり果てていた。仁義は廃れ、金のためなら仲間も平気で裏切る裏社会の人間たち。
 カリートは堅気となってバハマでレンタカー屋を営むことを夢見て、ナイトクラブの雇われオーナーとなりお金をこつこつ稼ぎ始める。昔の恋人だったゲイルとも再会するが、彼女はミュージカルダンサーの夢を捨て、ストリッパーになっていた。カリートは彼女との交際を再び始め、一緒に南国に連れて行くことを計画する。
 そんな中、クラインフェルドがマフィアのボスが脱獄を手伝ってくれと言ってきた。カリートは親友の頼みごとだけあって断ることができずに引き受けることにする。しかし、それがきっかけとなり、カリートは窮地へと追い込まれる。」

 本作品はマフィア映画の王道といった感じの作りで目新しさはありませんが、ハードボイルドタッチの渋く切ない物語は何度見ても深い味わいがあります。
 デ・パルマ監督の映画は撮影技法にこだわりすぎて人間ドラマが置き去りになることがあるのですが、本作品は人間ドラマとしても大変見応えがあります。
 本作品の特徴としてオープニングに主人公が迎える結末が描かれています。その為、結末を知っている見る側は主人公が堅気になろうと苦悶すればするほど、その姿に切なさを感じて胸が締め付けられます。

 主人公カリートを演じたアル・パチーノの演技は格好良いの一言で、酸いも甘いも知った大人の男の魅力に満ちています。アル・パチーノは寡黙で孤独な男を演じると様になります。
 また、カリートがチェーンのかかったドア越しに誘惑する彼女に向かって飛び込んでいき抱き合うシーンは情熱的かつ官能的なラブシーンでとても印象に残ります。

 脇役では、親友の弁護士クラインフェルドを演じたショーン・ペンが強烈な演技を披露しており、一見すると彼とは分からないほど役に入り込み変貌しています。(あの薄い髪の毛は実際に頭髪を抜いたそうです。)
 カリートの恋人を演じたペネロープ・アン・ミラーも気品と力強さがあり印象に残りました。
 余談ですが、『ロード・オブ・ザ・リング』のアラゴルン役で人気が出たヴィゴ・モーテンセンも登場時間は短いですが出演しています。

 アクションシーンに関しては少なめですが、ラスト20分の電車での逃亡と駅での銃撃戦のシーンは大変緊迫感があり、手に汗握るものがあります。特にエスカレーターでの銃撃戦はこれぞデ・パルマといった感じのスタイリッシュな仕上がりになっています。

 もちろんデ・パルマカットも健在で、長回しやスローモーション、役者の周りをカメラがぐるぐる回るシーンなどが随所に見られます。本作品の良いところはそれらのカットが不自然に目立ちすぎず、見ていて自然な形で使われているところです。

 映画のラストは最初に分かっているにもかかわらず何度見ても胸が締め付けられます。冒頭にも登場した南国の看板がカラーで映し出され、その看板に描かれた浜辺で恋人のゲイルが踊りだす。そして、「You Are So Beautiful」が流れて、映画は静かに幕を閉じる。深い余韻を味わうことが出来る締めくくり方です。

 本作品は派手な作品ではないですが完成度は極めて高いですし、デ・パルマの作品が苦手な人でもすんなり見ることができます。

上映時間 145分
製作国    アメリカ
製作年度 1993年
監督:    ブライアン・デ・パルマ   
原作:    エドウィン・トレス   
脚本:    デヴィッド・コープ   
撮影:    スティーヴン・H・ブラム   
音楽:    パトリック・ドイル   
出演:    アル・パチーノ   
        ショーン・ペン   
        ペネロープ・アン・ミラー   
        ジョン・レグイザモ   
        イングリッド・ロジャース   
       ルイス・ガスマン   
        ヴィゴ・モーテンセン   
        エイドリアン・パスダー   
        ジョン・アグスティン・オーティス   
        ジョン・セダ   
        ジェームズ・レブホーン   

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『しんぼる』映画鑑賞日記

Photo   『大日本人』から2年ぶりとなる松本人志監督作品『しんぼる』を鑑賞してきました。前作同様に松本人志が企画・脚本・主演・監督と四役をこなした本作品。
 前作の『大日本人』はドキュメンタリー形式でヒーローの日常生活を描くアイデアは面白かったものの、テンポが悪くラストのオチもいまいちで個人的には残念な出来でした。その分、今回の新作に関してはもしかして今度こそという期待もあり、もしかしたら今回もという不安もありました。
 なるべく前情報を入れず見に行ったのですが、公開2週目にして上映回数は1日3回と減っており、劇場内もがらがらで、これは大丈夫かなとかなり不安が強くなりました。

 そして、映画を鑑賞しての感想はと言うと、前作に引き続き今回も残念な出来でした。笑えるシーンはいくつかありましたが、映画としての見所があまりなく、正直退屈でした。これならテレビかDVDで十分です。

 ストーリーはメキシコの田舎町のプロレスラーの1日と、目を覚ますと何もない白い部屋に閉じ込められてた主人公が途方に暮れ出口を必死に探す姿が交互に描かれていきます。

 主人公が部屋から脱出するパートに関してはベタな笑いの連続に最初は笑えたものの、同じことの繰り返しに見ていて退屈になってきました。海外配給を意識過ぎたのか、松本のテレビ等で見せる笑いの魅力があまり活かされていない感じを受けました。
 また、松本自体に役者としての演技力や魅力がなく、過剰な演技が少しくどく感じました。上映時間のほとんどが松本の1人舞台ですが、正直大画面でひたすら松本を見るのは厳しいです。

 メキシコのパートは話しは単調ですが絵としては上手に撮れており、主人公の話とどう絡むのかなあと思って見ていたのですが、まさかあんなオチだとは・・・。長い前フリの後のあのシーンには思わず笑ってしまいました。個人的にあのオチで終わっても良かったと思います。

 映画のラストに関しては松本が○○になるという宗教がかったオチには正直引きました。『2001年宇宙の旅』を意識したのかなとも思いましたが、その描き方は安直で深みが欠けます。

 「修行」に始まり「実践」して「未来」で終わる本作品が表現しようとしたことは分からないでもないです。ただ伝え方が下手くそです。本作品は発想自体は前作同様にユニークだと思うのですが、シナリオや描き方にもう一工夫必要だと思いました。また、主演も松本でないほうが良かったような気がします。

上映時間 93分
製作国    日本
製作年度 2009年
監督:    松本人志   
企画:    松本人志   
脚本:    松本人志   
    高須光聖   
撮影:    遠山康之   
美術:    愛甲悦子   
    平井淳郎   
編集:    本田吉孝   
音楽:    清水靖晃   
出演:    松本人志

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中島みゆきの新アルバム『DRAMA!』11月発売!

Drama   中島みゆき2年ぶりのオリジナルアルバムとなる『DRAMA!』が2009年11月18日に発売されることが発表されました。今回は吉川晃司主演で昨年公演されたミュージカル『SEMPO』の楽曲と『夜会VOL.15~夜物語~元祖・今晩屋』の楽曲が収録されています。
 まさか『SEMPO』の楽曲が収録されるとは思っていなかったので正直嬉しいです。
また、『夜会VOL.15~夜物語~元祖・今晩屋』は夜会の中でも難解なステージだったので、歌がじっくり聞けるのはありがたいです。   
  夜会15のクライマックスに歌われた「天鏡」はとても素晴らしい歌なので、手に入れたら何回も聞くと思います。
 今から11月の発売がとても楽しみです。
  なお、シングルアルバム『愛だけを残せ』も11月4日発売されることが発表されています。この歌は11月14日公開「ゼロの焦点」の主題歌となっているようで、一体どのような曲なのかこちらも楽しみです。

【収録曲】
1,翼をあげて
2,こどもの宝
3,夜の色
4,掌
5,愛が私に命ずること
6,NOW
7,十二天
8,らいしょらいしょ
9,暦売りの歌
10,百九番目の除夜の鐘
11,幽霊交差点
12,海に絵を描く
13,天鏡

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『雨月物語』この映画を見て!

第270回『雨月物語』
Photo  今回紹介する作品は日本映画界の巨匠・溝口健二の代表作『雨月物語』です。本作品は江戸時代の読本作家であった上田秋成の怪異小説『雨月物語』の中の「浅茅が宿」と「蛇性の婬」の2編を脚色して製作されています。日本を代表するカメラマン・宮川一夫が撮影したモノクロ映像は息を呑むほど美しく、欲望に目の眩んだ者たちの悲劇の物語は今の時代にも十分通ずるものがあります。世界的にも高く評価されており、ベネチア国際映画祭で銀獅子賞とイタリア批評家賞を受賞しているほどです。

ストーリー:「戦国時代、近江国の農村で焼き物を作っていた源十郎は戦に乗じて町で焼き物を売り捌いてお金を手にする。源十郎は、妻子のためにもっとお金を稼ごうと、侍になるための金がほしい弟の籐兵衛と一緒に大量の焼き物を作り始める。
 後は焼きあがるのを待つ段階になった時、村に兵が押し寄せてきて、源十郎たちはやむなく山に逃げこまざるえなくなる。だが、源十郎はどうしても焼き物が気になり、兵がまだいる村へと戻る。焼き物は無事完成しており、源十郎は妻子と籐兵衛夫妻を率いて焼き物を対岸の市場に売りにいくために琵琶湖に船で繰り出す。
 しかし、湖上に海賊が出回っており、源十郎は一旦引き戻して妻子を残して琵琶湖を渡る。無事に市場までたどり着いた源十郎は焼き物を次々と売りさばく。そんなある時、市来笠を冠った美しい女が付き人の老女を伴って現れ、大量の焼き物を購入する。老女は『焼き物を屋敷にまで届けてくれ』と言うので、源十郎は屋敷まで持っていくのだが・・・・。」

 私はテレビで本作品が放送されているのを偶然見たのですが、その美しくも哀しい物語に釘付けになってしまいました。特にラストの源十郎が村に戻って妻と再会するシーンはあまりにも切なくて思わず泣いてしまいました。(このシーンでの田中絹代の抑えた演技は最高に素晴らしいです!)男の浅はかな欲望とそれに振り回されながらも尽くしてしまう女たち。男の身勝手さや弱さに対して我慢強く耐え受け入れようとする女たち。男としては見ていて我が身を反省させられる作品です。

 また、中盤の屋敷での主人公が美しい女に溺れていくエピソードは戦に翻弄された女の哀しみとこの世の男に対する激しい執念が大変印象に残ります。京マチコ演じる姫君の現実離れした妖艶さは息を呑むほど美しく、そして怖いです。また、お付の老女も不気味な雰囲気を見事に醸し出していました。

 宮川一夫が撮影した映像は水墨画のようなモノクロ画面と計算されつくした美しい構図は芸術の域に達しています。特に霧が漂う琵琶湖での幻想的なシーンとラストの源十郎が妻を捜して家を一周する長回しのシーンは映画史に残る美しい映像です。
 早坂文雄の音楽も日本の伝統音楽を見事に取り込み、幻想的ながら緊張感溢れる音楽に仕上がっています。

 本作品は古い作品ではありますが、愛や欲望と言った普遍的なテーマを幻想的で物悲しい物語として一流のスタッフとキャストで描いており、今見ても大変見応えがあります。 

上映時間 97分
製作国    日本
製作年度 1953年
監督:    溝口健二   
原作:    上田秋成   
脚本:    川口松太郎   
    依田義賢   
撮影:    宮川一夫   
美術:    伊藤熹朔   
編集:    宮田味津三   
作詞:    吉井勇   
音楽:    早坂文雄   
助監督:    田中徳三   
出演:    京マチ子   
    水戸光子   
    田中絹代   
    森雅之
    小沢栄太郎   
    青山杉作   
    羅門光三郎   
    香川良介   
    上田吉二郎   
    毛利菊枝   
    南部彰三   
    光岡龍三郎   

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