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2009年7月

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 (EVANGELION:1.11)』映画鑑賞日記

111  今年の夏大ヒットを飛ばしている『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』。その公開に併せて前作の『序』が新作カットを追加してデジタルマスター版としてリリースされました。私は以前発売された特装版を購入したので、本作品のリリースを知ったときは憤慨して絶対買わないし見ないと誓ったものでした。しかし、追加カットがどうしても気になり、レンタルで借りてきて、鑑賞してしまいました。

 まず、新作カットに関しては序盤に結構追加されていました。私が確認した追加シーンは以下の通りです。
①冒頭からミサトが車でシンジを迎えに行くシーン
②シンジとミサトの車内での会話シーン
③第4の使徒に関して冬月とゲンドウが話すシーン
④ネルフ本部でミサトが迷うシーン
⑤赤木リツコが水着で登場するシーン
⑥初号機に乗るかどうかゲンドウに迫られるシンジを周囲の人間が見つめるシーン
 上記以外にも風景描写が随所で追加されていました。
 また、細かな修正も随所にされており、使徒が登場する際に天使の輪が追加されていたり、第6使徒が崩壊する際に虹が浮かび上がるように修正されていました。
 特にストーリーを語る上で重要なものはありませんが、物語の奥行きに深みを与えたり、次回作以降との整合性を保つためのシーンが多かったように思います。

 映像に関してはレンタルしたのがDVDなのでBDほどではないのでしょうが、前回リリースされたものより鮮明に感じました。前回はテレシネ方式でデジタルデータから一旦35mmフィルムにプリントしてDVD用の映像を作り出しているのに対して、今回はデジタルデータをそのまま使っています。BD版を持っている人の感想を聞くと前回のDVDとは比較にならないほど綺麗と言っているので、BDプレイヤーを購入した暁には購入して視聴したいと思います。

 ところで『破』のDVDはどのように発売されるのか気になるところです。前作同様に劇場公開テレシネ版と追加カット付きデジタルリマスター版が分けて発売されるのか、いきなりデジタルリマスター版が出るのか。ファンはどちらも買ってしまうのでしょうが・・・。

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『アキレスと亀』この映画を見て!

第263回『アキレスと亀』

Photo  今回紹介する作品は北野武監督が芸術を追い求める男の人生を描いた『アキレスと亀』です。前作、前々作と実験色が強く難解な作品が続きましたが、今回は比較的分かりやすい作品となっています。

 

ストーリー:「裕福な家庭に生まれた真知寿は絵を描くことが大好きで、将来は画家になるつもりだった。しかし、父の会社が倒産したことで状況は一変。貧しい叔父の家に預けられ、辛い生活を送る。

 青年になってからも画家を目指す真知寿は昼間働きながら芸術学校に通う。仲間と芸術に取り組む毎日。職場の幸子は絵を描くことしか知らない純朴な真知寿に惹かれていく。やがて2人は結婚。真知寿は幸子の支えの下、画家として成功を掴むため様々なアートに挑戦していくが芽が出ない日々が続く。」

 

本作品は少年時代、青年時代、中年時代と3つのパートに分かれています。

少年時代は主人公とその家族が転落していく姿が描かれていくのですが、抑制の効いた静謐な演出が主人公を襲う悲劇を際出せています。また、主人公が仲良くなる山下清のような絵を描く知的障害の男性も深く印象に残りました。

 青年時代は芸術学校で仲間と芸術を追い求める姿が淡々と描かれていきます。このパートで一番印象的だったのが本筋とは全く関係ない電撃ネットワークの登場シーン。彼らのアバンギャルドな芸風はある種芸術の域に達しています。

 中年時代は北野監督が主人公としても出演するパートですが、それまでの落ち着いた雰囲気から一転してコミカルかつ哀愁漂う雰囲気が前面に押し出されます。このパートは北野監督のコメディアンとしての色が大変強く出ており、樋口可南子とのコントのような芸術活動は見ていて大変面白かったです。また同時に芸術を追い求めていくにつれて、社会から逸脱していく主人公の姿は真剣であるが故に滑稽でした。

本人は芸術に身を捧げられて幸せな一生なのかもしれませんが、社会的に評価されない限り周囲からは哀れな変人にしか見られない芸術の世界の残酷さというものを感じました。

 

 また、本作品で印象的だったのが主人公の周囲で次々に起こる死です。北野作品はどれも死が描かれることが多いですが、本作品はそれが特に際立っていました。生のすぐ裏に潜む死。淡々と描かれる死の数々は芸術や人生の無常さを見事に表現していたと思います。

 

 映画のラストは今までの北野作品なら死で終わるところですが、今回は生で終わるところが良かったです。あのラストシーンを見て、今回の映画のタイトルがなぜ『アキレスと亀』なのか分かりました。

 

 芸術なんて本来は自己の表現欲を満足させるための行為であり、本当は自分が納得すればそれで良い筈なのに、そこに社会的評価や成功を求めるために追い詰められていく。本作品は芸術家になりたかった男の悲劇を喜劇的に描いた傑作です。 

 

上映時間 119

製作国 日本

製作年度 2008

監督: 北野武

脚本: 北野武

撮影: 柳島克己

美術: 磯田典宏

編集: 北野武

太田義則

音楽: 梶浦由記

音響効果: 柴崎憲治

記録: 谷恵子

照明: 高屋齋

挿入画: 北野武

録音: 堀内戦治

助監督: 松川嵩史

出演: ビートたけし

 樋口可南子

柳憂怜

麻生久美子

中尾彬

伊武雅刀

大杉漣

 筒井真理子

吉岡澪皇

円城寺あや

徳永えり

大森南朋

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『太陽を盗んだ男』この映画を見て!

第262回『太陽を盗んだ男』
Photo  今回紹介する作品は原爆を作って日本政府を脅迫する男と警察の攻防をスケール大きく描いてカルト的人気を誇る『太陽を盗んだ男』です。
 私が本作品を今回紹介しようと思ったのは現在劇場にて大ヒットしている『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』の劇中にて第三新東京市の風景が映し出されるシーンで本作品の「山下警部のテーマ」がバックに流れていたからです。あのシーンにあの曲をもってくる『ヱヴァ』のスタッフのセンスの良さとマニアックさに個人的に感心しました。

ストーリー:「中学校で理科を教える城戸誠は東海村の原子力発電所からプルトニウムを盗み出し、自宅のアパートで原子爆弾の製造に成功する。城戸は原爆を盾に警察に対してプロ野球のTV中継を最後まで見せろと要求。しかし、次に何を要求すべきか思いつかない城戸はラジオ番組にて公開リクエストを行う。結果、番組のDJをしていた沢井零子のリクエストであるローリング・ストーンズの日本公演を城戸は警察に要求する。」

 私は2001年にDVD化された時に偶然レンタル店に置いてあって借りて見たのですが、こんな面白い邦画が70年末に製作されていたのかと驚きました。冒頭の皇居前で老人が天皇陛下に会わせろとバスをハイジャックするシーンから画面に釘付けになりました。前半の原爆製造シーンは荒唐無稽でありながら妙に生々しいですし、後半のアクションシーンはスケールの大きな演出と菅原文太の人間離れした活躍に圧倒され、2時間半という上映時間があっという間に感じるほどです。

 私が本作品で一番印象に残ったのは沢田研二演じる主人公・城戸が特に明確な理由なく原爆を製造して国を脅迫するところです。シラケ世代を象徴したかのような主人公が物質的に満たされた社会に漂う何ともいえない閉塞感を打破しようとする展開は当時の若者の心情や願望を見事に表現しています。本作品は原爆という過激な題材が扱われていますが、閉塞された社会の中で生きる目的を探す孤独な若者の悲喜劇を描いた青春映画だと思います。

 沢田研二の演技は終始クールかつシニカルで格好良いです。特に部屋にこもって原爆を作るシーンの演技はとても素晴らしいです。また、お爺さんや妊婦に変装するコミカルなシーンもあり、ドリフのコントを見ているようで笑ってしまいました。

 あと、本作品を語る上で忘れてはいけないのが主人公を追う警部を演じた菅原文太。後半の主人公を追い詰めていく際の執念には圧倒させられます。特にラストの銃で撃たれても立ち上がるシーンはまるでターミネーターかと思いました。

 アクションシーンに関しては荒唐無稽ではありますが、渋谷東急デパートや皇居前での無許可での緊張感漲るロケーションシーンや高速道路を警察に無断で封鎖して撮影した西部警察ばりのダイナミックなカーチェイスシーンと見所満載です。ちなみに撮影時には何人ものスタッフが無許可撮影で警察に留置されたそうです。

 井上堯之の音楽も素晴らしく、テーマ曲は一度聴くと忘れられないメロディーです。

 本作品は天皇制批判、核保有問題など過激な題材を扱っていますが、他の邦画にはないパワーと面白さに満ちています。未見の方はぜひ一度ご覧になることをお勧めします。

上映時間 147分
製作国    日本
製作年度 1979年 
監督:    長谷川和彦   
原案:    レナード・シュレイダー   
脚本:    長谷川和彦   
    レナード・シュレイダー   
撮影:    鈴木達夫   
美術:    横尾嘉良   
編集:    鈴木晄   
音楽:    井上堯之   
照明:    熊谷秀夫   
制作進行: 黒沢清   
録音:    紅谷愃一   
出演:    沢田研二   
    菅原文太   
    池上季実子   
    北村和夫   
    神山繁   
    佐藤慶   
    風間杜夫   
    小松方正   
    汐路章   
    森大河   
    水谷豊   
    西田敏行   
    伊藤雄之助

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『ターミネーター』この映画を見て!

第261回『ターミネーター』
Photo  今回紹介する作品はジェームス・キャメロン監督が生み出した人気シリーズの第1作目『ターミネーター』です。当時まだ駆け出しだったジェームズ・キャメロン監督とアーノルド・シュワルツェネッガーは本作品の成功を機にハリウッドの第一線に踊り出ました。
 本作品は制作費14億円とハリウッド映画としては低予算で製作されているので、映像に関してはチープですが、ストーリーの面白さと緊張感のある演出は今見ても大変見応えあります。

ストーリー:「反乱を起こした人工知能スカイ・ネットと、それに抵抗する人間が互いに戦い合う近未来。人類側の抵抗軍指導者ジョン・コナーの活躍で人類が優勢に立つことができるようになった。
 スカイ・ネットはジョン・コナーに脅威を感じて未来から殺人アンドロイド「ターミネーター」を1984年のロサンゼルスに送りこんだ。目的は人類側の指導者を歴史から抹殺するため、ジョン・コナーの母親となるサラ・コナーを殺害することであった。
 スカイネットの目的に気づいたジョン・コナーは母親を守るためにカイル・リースという戦士を未来から送り込む。
 1984年のロサンゼルスでサラ・コナーをめぐってターミネーターとカイルの間で激しい攻防が始まる。」

 私が本作品を始めてみたのは小学生のときでしたが、サラ・コナーを抹殺する目的のみを達成するためにどこまでもしつこく追いかけてくるターミネーターに衝撃を受けたものでした。特にラストの骨格だけになっても襲ってくるシーンはあまりのしつこさに背筋が凍りました。
 2作目、3作目のシュワルツェネッガー演じるターミネーターは人類側の味方となる頼もしいキャラクターですが、1作目の無慈悲で冷酷な殺人マシーンとしてのキャラクターが一番インパクトがあると思います。

 また、本作品の面白いところはサラ・コナーを守るために未来から送られてきた兵士であるカイルも人間であるところ。ターミネーターと力の差がありすぎる分、どうやって追われる主人公が危機を切り抜けていくのか2作目以降よりも手に汗握るものがありました。

 映像に関しては低予算である分、作り物であることがバレバレのシーンも多いですが、演出でカバーして最後まで見せきるところが凄いと思います。個人的には2作目は1作目の映像の出来に不満足だった監督のセルフリメイクだと思っています。

 本作品は4作目まで製作されていますが、何と言っても1作目が最高です。ぜひ未見の方はご覧ください! 

上映時間 108分
製作国    アメリカ
製作年度 1985年
監督:    ジェームズ・キャメロン   
脚本:    ジェームズ・キャメロン   
    ゲイル・アン・ハード   
撮影:    アダム・グリーンバーグ   
特撮:    スタン・ウィンストン   
美術:    ジョージ・コステロ   
衣装デザイン:    ヒラリー・ライト   
編集:    マーク・ゴールドブラット   
音楽:    ブラッド・フィーデル   
舞台装置: マリア・ロブマン・カソ   
出演:    アーノルド・シュワルツェネッガー   
    マイケル・ビーン   
    リンダ・ハミルトン   
    ポール・ウィンフィールド   
    ランス・ヘンリクセン   
    アール・ボーエン   
    ベス・モッタ   
    リック・ロソヴィッチ   
    ディック・ミラー   
    ビル・パクストン

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