『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』この映画を見て!
第255回『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』
今回紹介する作品は1972年の連合赤軍あさま山荘立てこもり事件の舞台裏を赤軍派の若者たちの視点から描いた『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』です。監督は日本赤軍とも関係のあった若松孝二が担当。連合赤軍の成立から山岳ベースでの集団リンチ殺人事件そして浅間山荘での立てこもり事件に至るまでを史実に基づいて丁寧に描いていきます。
低予算で製作された映画なので映像的にはこじんまりしていますが、役者たちの迫真の演技と監督のドキュメンタリータッチの生々しい演出で3時間以上の上映時間飽きることがありません。
第58回ベルリン国際映画祭では最優秀アジア映画賞(NETPAC賞)と国際芸術映画評論連盟賞(CICAE賞)をダブル受賞しました。
本作品は大きく分けて3つのパートに分かれています。
最初の1時間は当時の社会状況や学生運動の中で連合赤軍が結成されるまでの過程が当時のニュースフィルムを盛り込みながら描いていきます。革命を目指す若者たちの国家権力との戦いや党派同士の争いの歴史をテンポ良く描いており、当時を知らない人間には勉強になります。ただ、登場人物が多く、次々と場面も変わっていくので、正直ドラマとしては退屈でした。
中盤は連合赤軍の山岳ベースでの軍事訓練において「総括」の名の下で集団リンチが繰り広げられていく様が克明に描かれていきます。山に入ってからは登場人物も限られてきて、ドラマとしても一気に緊迫感を増します。社会から隔絶された状況で、冷静さを失い、過激になっていく指導者とその集団。自分たちが置かれている状況を客観視できず、精神主義だけで乗り切ろうとしていく中で起こる「自己批判」や「総括」の名の下の集団リンチと殺人。1時間以上にわたって延々と繰り広げられるリンチシーンは凄惨で、見ていて辛く疲れました。
「化粧をしているから」、「男女交際をしているから」、「勝手に銭湯に入ったから」と言った理由で総括を求められ殺されていくシーンは「誰もが幸せになる社会を目指した集団」が「誰もが不幸になる非人間的な集団」になってしまう恐怖や悲劇を特に強く感じました。脆弱になった組織が内部や外部に敵を作ることで先鋭化して立て直しを図ることはオウム真理教や北朝鮮など見ても分かるように良くある事です。集団や組織が先鋭化すると常に個人を抑圧・抹殺する危険性があることを常に肝に銘じておかないといけないなと本作品を見て思いました。
また、山岳ベースで指揮を執っていた森や永田の姿を見ていると組織のリーダーになる人間の責任の重さを感じました。彼らはもともと組織の指導者だった人たちが警察に検挙される中で、指導者にのし上がった人間であり、リーダーとしての己の振る舞いに自信がなかったのではと思います。その結果、己の弱さや自信のなさを隠すために、先鋭化して独裁者のごとく振る舞い、組織を崩壊へと導いてしまったのでしょう。精神主義だけで乗り切ろうとした森や永田を見ていると太平洋戦争末期の日本軍の上層部と何ら変わらないなと思います。
後半はいよいよ浅間山荘での立てこもり事件が描かれています。連合赤軍の視点から終始描かれるので、警察等外部の動きは全く分かりません。それが見たい方は原田眞人監督の『突入せよ!あさま山荘事件』をご覧ください。両作品を見るとあさま山荘事件の全体像が一番良く分かります。
本作品では浅間山荘内での連合赤軍の若者たちの追い詰められた心情がじっくりと描かれていきます。印象的だったのは人質の女性に対して「革命」を熱く語る若者たちの姿でした。自分たちは一般市民を救うためと思っている行為が外から見れば単なる迷惑にしか見えない。彼らの革命の敗北が痛々しく伝わってくるシーンでした。
私にとって本作品は当時の学生運動の敗北よりも閉鎖された集団や組織の恐ろしさが強く印象に残りました。
本作品は気楽に見られる映画ではありませんが、近年の邦画では一番強烈で骨太な映画だと思います。
上映時間 190分
製作国 日本
製作年度 2008年
監督: 若松孝二
企画: 若松孝二
原作: 掛川正幸
脚本: 若松孝二
掛川正幸
大友麻子
撮影: 辻智彦
戸田義久
美術: 伊藤ゲン
音楽: ジム・オルーク
照明: 大久保礼司
録音: 久保田幸雄
ナレーション: 原田芳雄
出演: 坂井真紀
ARATA
並木愛枝
地曵豪
伴杏里
大西信満
中泉英雄
伊達建士
日下部千太郎
椋田涼
粕谷佳五
川淳平
桃生亜希子
本多章一
笠原紳司
渋川清彦
RIKIYA
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