『グラン・トリノ』この映画を見て!
第251回『グラン・トリノ』
今回紹介する作品はクリント・イーストウッド監督が真の勇気とは何かを描いた『グラン・トリノ』です。
イーストウッド監督は本作品で俳優業を引退して今後は監督業に専念すると宣言しています。それだけあって俳優クリント・イーストウッドの総括ともいえる作品となっており、アメリカでは彼の監督作品の中で歴代ナンバー1のヒットとなっています。
ストーリー:「頑固で偏屈な老人コワルスキーは妻を失い子供たちにも煙たがられていた。彼は若い時は朝鮮戦争に出兵、その後はフォードの工場で組立工一筋の人生だった。そんな彼は退職して妻を失った今、愛犬デイジーと72年製フォード車グラン・トリノを支えに生きていた。
人種差別主義であった彼は、住んでいた町に黒人や東洋人が増えてきたことに嫌悪感を抱いていた。そんなある時、隣に引っ越してきたモン族の気弱な少年タオが不良少年グループに絡まれているところを目撃する。コワルスキーはライフルを手に彼らを追い払おう。タオの母親と姉がこれに感謝し、何かとお礼をしてくる。最初は迷惑がっていたコワルスキーだが、次第に隣のモン族一家に親近感を抱き交流を始める。」
私は本作品を見た時、主人公のラストの行動に自然と涙があふれてきました。かつて『荒野の用心棒』や『ダーティハリー』でアウトローなヒーローを演じてきたイーストウッド。そんな彼が本作品で演じたヒーローは今までのように暴力に対して暴力ではなく違う形で解決を図ります。老いて死が近づいた人間だからこそ考えついた解決方法とも言えますが、過去の罪を悔いた主人公が自分の人生に見事な落とし前をつけることができたという意味で、ラストシーンは悲しくも清清しく感じました。監督イーストウッドは本作品で役者イーストウッドに見事な引退の花道を与えたと思います。
また、本作品はアメリカ合衆国の時代の変遷を自動車と人種問題をキーワードに巧みに描いている面も印象的でした。かつては世界一だった自動車産業が日本に取って代わられ、白人以外の民族が台頭するアメリカ。主人公はかつて栄光のアメリカを懐かしみ現状に苛つく姿は今のアメリカの白人保守層の姿そのものです。他民族に偏見を持ち差別していた主人公がふとしたきっかけでモン族の家族と交流して打ち解けていく姿はアメリカという国の人種問題の根深さと差別や偏見の解決の道のりは地道に付き合っていくことでしか始まらないないことを改めて認識しました。エンディングもアメリカがもはや白人中心ではなくなったことを見事に表現していると思いました。アメリカで大ヒットしたのも、不況で自動車産業が衰退していき、初の黒人大統領が誕生するという時代だったからなのでしょう。
それにしても先々月に公開された監督作『チェンジリング』も傑作でしたが、本作品も前作に負けず劣らずの傑作でした。1年に2作品も質の高い作品を生み出すイーストウッド監督恐るべしです。
上映時間 117分
製作国 アメリカ
製作年度 2008年
監督: クリント・イーストウッド
原案: デヴィッド・ジョハンソン
ニック・シェンク
脚本: ニック・シェンク
撮影: トム・スターン
プロダクションデザイン: ジェームズ・J・ムラカミ
衣装デザイン: デボラ・ホッパー
編集: ジョエル・コックス
ゲイリー・D・ローチ
音楽: カイル・イーストウッド
マイケル・スティーヴンス
出演: クリント・イーストウッド
ビー・ヴァン
アーニー・ハー
クリストファー・カーリー
コリー・ハードリクト
ブライアン・ヘイリー
ブライアン・ホウ
ジェラルディン・ヒューズ
ドリーマ・ウォーカー
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