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『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』この映画を見て!

第253回『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』
Photo  今回紹介する作品は20世紀初頭のカリフォルニアを舞台に石油に執着した男の一生を重厚に描いた『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』です。
『マグノリア』や『ブギーナイツ』などの作品で有名なポール・トーマス・アンダーソンが5年ぶりに脚本と監督を務め、アメリカンドリームの光と影を真正面から描いています。
また、ダニエル・デイ=ルイスが『ギャング・オブ・ニューヨーク』から6年ぶりに主演。その圧倒的な存在感と狂気迫る演技からアカデミー賞で2度目の最優秀主演男優賞を受賞しました。

ストーリー:「20世紀初頭のカリフォルニア。鉱山の採掘で一攫千金を夢みるダニエル・プレインヴューはある時に石油を掘り当てる。それ以降、彼は石油探す稼業を始める。そんなある日、ポール・サンデーという青年から故郷の広大な土地に石油が眠っていると言う情報を得る。彼は幼い息子H・Wを連れて、西部の小さな町リトル・ボストンへ赴く。そして石油があることを確信すると、町の土地を買い占めていった。
 そんな中、彼の前に住民の絶大なる信頼を集める牧師イーライ・サンデーが現れ、油田の採掘と引きかえに教会への協力を求めてくる。しかし、彼はイーライを無視して採掘を進めていく。
 だが、ある日油井やぐらが爆発炎上するという大事故が起こり、息子のH・Wが聴力を完全に失ってしまう・・・。」

 主人公の放つ強烈なオーラと終始張り詰めた緊張感に久々に見ていて体力を消耗する映画でした。
 本作品は冒頭から約15分間、主人公が黙々と採掘作業をする場面が続くのですが、セリフが一切ないにも関わらず成功を何としても掴みたい主人公のエネルギーが伝わってきて画面に釘付けにさせられます。その後は主人公が様々なアクシデントや障壁を物ともせず、ひたすら油田開発という己の欲望に突き進んでいく姿が描かれていきます。他人や神を全く信じられず、己の欲望と金だけを信じて生き抜く姿は偽善や嘘がない分、潔さを感じました。
 また印象的だったのは、主人公が決して欲望を追うだけの冷血漢でなく、兄弟や子どもとの絆を求める人間として描かれているところです。無骨であるがゆえに上手く伝えられないもどかしさ、信じていたのに裏切られる辛さ、自分本位な振る舞いによる手痛いしっぺ返し。孤独から逃れようとすればするほど孤独に陥る主人公を見ていると欲だけが満たされても心は決して満たされないということを改めて痛感させられます。

 本作品は20世紀のアメリカの象徴として石油と宗教が取り上げ、欲望の暴走と宗教の敗北を描いていきます。人間の理性の象徴である宗教ですら、欲望の前で堕落して失墜していく展開は人間という生き物の暗部を見事に抉り出しています。欲から簡単に逃れることの出来ない人間の業というものを本作品は強く感じさせます。

 また、私は本作品を見てスタンリー・キューブリックの映画に似た雰囲気や演出を随所に感じました。アカデミー撮影最優秀賞を受賞したロバート・エルスウィットの構図の決まった美しい映像、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドによる重低音の不安をかきたてる音楽、エキセントリックな主人公。ラストシーンは『シャイニング』の主人公であったジャックを彷彿させませた。

 2度目のアカデミー最優秀男優賞を受賞したダニエル・デイ=ルイスの演技はさすがの一言。見ていて息苦しくなるほどの熱演であり怪演です。

 本作品は万人受けする作品とは言いがたいですが、見応えはあります。30代でこんな重厚な作品が作れるポール・トーマス・アンダーソン。今後が楽しみです。

上映時間 158分
製作国    アメリカ
製作年度 2007年
監督:ポール・トーマス・アンダーソン   
原作:アプトン・シンクレア    『石油!』
脚本:ポール・トーマス・アンダーソン   
撮影:ロバート・エルスウィット   
プロダクションデザイン:ジャック・フィスク   
衣装デザイン:マーク・ブリッジス   
編集:ディラン・ティチェナー   
音楽:ジョニー・グリーンウッド   
出演: ダニエル・デイ=ルイス   
    ポール・ダノ   
    ケヴィン・J・オコナー   
    キアラン・ハインズ   
    ディロン・フレイジャー   
    バリー・デル・シャーマン   
    コリーン・フォイ   
    ポール・F・トンプキンス   
    デヴィッド・ウィリス   
    デヴィッド・ウォーショフスキー   
    シドニー・マカリスター   
    ラッセル・ハーヴァード   

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