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2009年5月

『恐山/銅之剣舞』

お気に入りのCD NO.26『恐山/銅之剣舞』 芸能山城組
Photo_2  今回紹介するCDはアニメ映画『AKIRA』の音楽を担当した芸能山城組が初めて発表したアルバム『恐山/銅之剣舞』です。日本の伝統音楽、アジアの民族音楽、そしてロック音楽を融合したジャンルを超越した作品であり、その強烈なインパクトは一度聞いたら忘れられません。
 芸能山城組は1974年に 山城祥二氏が主宰したアマチュアの音楽集団で、民族音楽からクラシックまで幅広い音楽を独自の解釈でパフォーマンスすることで有名です。
 本作品は2曲収録されています。
 1曲目の「恐山」は青森県の恐山で活躍するイタコの口寄せを題材に、合唱パフォーマンスとロック音楽を融合した作品です。いきなり女性の叫び声から始まるので驚くかもしれませんが、生々しく迫力のある声は不気味でありながら、惹きつけられるところがあり、聞いていて心が激しく揺さぶられます。
 2曲目の「銅之剣舞」は山城氏が創作した神話をバリ島のケチャと日本の古典芸能で表現した作品です。こちらも男性の迫力ある声が印象的で、聞いていて独特な高揚感があります。

 万人受けする作品ではありませんが、人間の声の持つ力を体感することが出来るアルバムです。

 

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『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』この映画を見て!

第253回『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』
Photo  今回紹介する作品は20世紀初頭のカリフォルニアを舞台に石油に執着した男の一生を重厚に描いた『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』です。
『マグノリア』や『ブギーナイツ』などの作品で有名なポール・トーマス・アンダーソンが5年ぶりに脚本と監督を務め、アメリカンドリームの光と影を真正面から描いています。
また、ダニエル・デイ=ルイスが『ギャング・オブ・ニューヨーク』から6年ぶりに主演。その圧倒的な存在感と狂気迫る演技からアカデミー賞で2度目の最優秀主演男優賞を受賞しました。

ストーリー:「20世紀初頭のカリフォルニア。鉱山の採掘で一攫千金を夢みるダニエル・プレインヴューはある時に石油を掘り当てる。それ以降、彼は石油探す稼業を始める。そんなある日、ポール・サンデーという青年から故郷の広大な土地に石油が眠っていると言う情報を得る。彼は幼い息子H・Wを連れて、西部の小さな町リトル・ボストンへ赴く。そして石油があることを確信すると、町の土地を買い占めていった。
 そんな中、彼の前に住民の絶大なる信頼を集める牧師イーライ・サンデーが現れ、油田の採掘と引きかえに教会への協力を求めてくる。しかし、彼はイーライを無視して採掘を進めていく。
 だが、ある日油井やぐらが爆発炎上するという大事故が起こり、息子のH・Wが聴力を完全に失ってしまう・・・。」

 主人公の放つ強烈なオーラと終始張り詰めた緊張感に久々に見ていて体力を消耗する映画でした。
 本作品は冒頭から約15分間、主人公が黙々と採掘作業をする場面が続くのですが、セリフが一切ないにも関わらず成功を何としても掴みたい主人公のエネルギーが伝わってきて画面に釘付けにさせられます。その後は主人公が様々なアクシデントや障壁を物ともせず、ひたすら油田開発という己の欲望に突き進んでいく姿が描かれていきます。他人や神を全く信じられず、己の欲望と金だけを信じて生き抜く姿は偽善や嘘がない分、潔さを感じました。
 また印象的だったのは、主人公が決して欲望を追うだけの冷血漢でなく、兄弟や子どもとの絆を求める人間として描かれているところです。無骨であるがゆえに上手く伝えられないもどかしさ、信じていたのに裏切られる辛さ、自分本位な振る舞いによる手痛いしっぺ返し。孤独から逃れようとすればするほど孤独に陥る主人公を見ていると欲だけが満たされても心は決して満たされないということを改めて痛感させられます。

 本作品は20世紀のアメリカの象徴として石油と宗教が取り上げ、欲望の暴走と宗教の敗北を描いていきます。人間の理性の象徴である宗教ですら、欲望の前で堕落して失墜していく展開は人間という生き物の暗部を見事に抉り出しています。欲から簡単に逃れることの出来ない人間の業というものを本作品は強く感じさせます。

 また、私は本作品を見てスタンリー・キューブリックの映画に似た雰囲気や演出を随所に感じました。アカデミー撮影最優秀賞を受賞したロバート・エルスウィットの構図の決まった美しい映像、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドによる重低音の不安をかきたてる音楽、エキセントリックな主人公。ラストシーンは『シャイニング』の主人公であったジャックを彷彿させませた。

 2度目のアカデミー最優秀男優賞を受賞したダニエル・デイ=ルイスの演技はさすがの一言。見ていて息苦しくなるほどの熱演であり怪演です。

 本作品は万人受けする作品とは言いがたいですが、見応えはあります。30代でこんな重厚な作品が作れるポール・トーマス・アンダーソン。今後が楽しみです。

上映時間 158分
製作国    アメリカ
製作年度 2007年
監督:ポール・トーマス・アンダーソン   
原作:アプトン・シンクレア    『石油!』
脚本:ポール・トーマス・アンダーソン   
撮影:ロバート・エルスウィット   
プロダクションデザイン:ジャック・フィスク   
衣装デザイン:マーク・ブリッジス   
編集:ディラン・ティチェナー   
音楽:ジョニー・グリーンウッド   
出演: ダニエル・デイ=ルイス   
    ポール・ダノ   
    ケヴィン・J・オコナー   
    キアラン・ハインズ   
    ディロン・フレイジャー   
    バリー・デル・シャーマン   
    コリーン・フォイ   
    ポール・F・トンプキンス   
    デヴィッド・ウィリス   
    デヴィッド・ウォーショフスキー   
    シドニー・マカリスター   
    ラッセル・ハーヴァード   

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『ミラーズ・クロッシング』この映画を見て!

第252回『ミラーズ・クロッシング』

Photo  今回紹介する作品はコーエン兄弟が製作したギャング映画の傑作『ミラーズ・クロッシング』です。本作品は彼らの3本目の長編映画ですが、ストーリー・映像・音楽・演技と全てにおいて完成度が高いです。

 

ストーリー:「1929年のアメリカ東部の街。アイルランド系マフィアのレオとイタリア系マフィアのキャスパーが裏社会でしのぎを削っていた。レオにはトムという片腕がおり、厚い友情と信頼で結ばれていた。

 ある日、レオはキャスパーから、八百長を邪魔するチンピラのバーニーを始末しろと要求される。しかし、バーニーの姉であった高級娼婦ヴァーナを愛するレオはキャスパーの頼みをはねつける。

 その夜博打で負けたトムはヴァーナと出会い一夜を共にしてしまう。その翌朝、ヴァーナを尾行していたレオの用心棒ラグが殺される。

 この事件によってレオとキャスパーの間で抗争が勃発。レオは警察を使ってキャスパーのアジトに襲撃をかけるが、報復としてレオ自身がキャスパー一味からの奇襲を受ける。

 熾烈な争いの中で、トムはヴァーナと関係を持ったことをレオに告白。激怒したレオによってトムは追放されてしまう。トムはキャスパーの側に付くことにする。そしてトムはキャスパーへの忠誠を示すため、バーニーを捕らえて森の中で処刑するよう命じられるのだが・・・。」

 

 本作品を私が始めて見たのは高校生の時でしたが、主人公であるトムはあまりカッコよくないし、派手な展開があるわけでもないし、映像の美しさ以外は特に印象残らない作品でした。

しかし、最近見直して本作品の持つスタイリッシュかつクールな作りに惚れ込みました。昔はあまり共感できなかった主人公トムに対しても下手に暴力に頼らず頭脳戦で挑んでいくこと点や最後まで自分の信念やプライドを貫こうとする点がカッコよく感じるようになりました。一見すると頼りなく何を考えているか分からないトムが実は友情や愛情に熱い男であり、それ故にラストは敢えて孤独に生きることを選択する姿は渋い男の魅力に満ちています。

 

また、コーエン兄弟の作品はどれも映像にこだわっていますが、恐らく本作品が彼らの作品の中で一番映像が美しいです。特に冒頭の森の中で帽子が吹き飛ばされるシーンの美しさは格別で息を呑むほど美しいです。

 

役者の演技に関して言うと主人公トムを演じたガブリエル・バーンも難しい役を熱演していますが、それ以上にアルバート・フィニーとジョン・タートゥーロの演技が強烈です。

アルバート・フィニーはアイルランド系マフィアのボスであるレオを演じているのですが、その存在感は他を圧倒しています。特に自宅で敵に襲撃を受けるシーンでの強さやカッコよさは尋常ではなく鳥肌が立ちます。ダニーボーイが流れる中で襲撃してきた敵に向かって冷静に銃で立ち向かう姿は本作品最大の見せ場ともいえます。

ジョン・タートゥーロは本作品のキーパーソンとも言えるチンピラのバーニーを演じていますが、軽薄で軟弱で嫌らしい人間を巧みに演じています。

 

本作品はコーエン兄弟の作品の中ではコミカルなシーンが少なく、異色な作品と言えるかもしれません。しかし、圧倒的な映像美の中で繰り広げられる終始緊張感が張り詰めたストーリーは見る者を釘付けにします。

派手な映画ではないですが見れば見るほど良さが分かってくる作品だと思います。

 

 

 

上映時間 115分

製作国 アメリカ

製作年度 1991年

監督: ジョエル・コーエン

脚本: イーサン・コーエン

ジョエル・コーエン

撮影: バリー・ソネンフェルド

音楽: カーター・バーウェル

出演: ガブリエル・バーン

マーシャ・ゲイ・ハーデン

アルバート・フィニー

ジョン・タートゥーロ

ジョン・ポリト

J・E・フリーマン

マイク・スター

スティーヴ・ブシェミ

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『グラン・トリノ』この映画を見て!

第251回『グラン・トリノ』
Photo  今回紹介する作品はクリント・イーストウッド監督が真の勇気とは何かを描いた『グラン・トリノ』です。
 イーストウッド監督は本作品で俳優業を引退して今後は監督業に専念すると宣言しています。それだけあって俳優クリント・イーストウッドの総括ともいえる作品となっており、アメリカでは彼の監督作品の中で歴代ナンバー1のヒットとなっています。

ストーリー:「頑固で偏屈な老人コワルスキーは妻を失い子供たちにも煙たがられていた。彼は若い時は朝鮮戦争に出兵、その後はフォードの工場で組立工一筋の人生だった。そんな彼は退職して妻を失った今、愛犬デイジーと72年製フォード車グラン・トリノを支えに生きていた。
 人種差別主義であった彼は、住んでいた町に黒人や東洋人が増えてきたことに嫌悪感を抱いていた。そんなある時、隣に引っ越してきたモン族の気弱な少年タオが不良少年グループに絡まれているところを目撃する。コワルスキーはライフルを手に彼らを追い払おう。タオの母親と姉がこれに感謝し、何かとお礼をしてくる。最初は迷惑がっていたコワルスキーだが、次第に隣のモン族一家に親近感を抱き交流を始める。」

 私は本作品を見た時、主人公のラストの行動に自然と涙があふれてきました。かつて『荒野の用心棒』や『ダーティハリー』でアウトローなヒーローを演じてきたイーストウッド。そんな彼が本作品で演じたヒーローは今までのように暴力に対して暴力ではなく違う形で解決を図ります。老いて死が近づいた人間だからこそ考えついた解決方法とも言えますが、過去の罪を悔いた主人公が自分の人生に見事な落とし前をつけることができたという意味で、ラストシーンは悲しくも清清しく感じました。監督イーストウッドは本作品で役者イーストウッドに見事な引退の花道を与えたと思います。

 また、本作品はアメリカ合衆国の時代の変遷を自動車と人種問題をキーワードに巧みに描いている面も印象的でした。かつては世界一だった自動車産業が日本に取って代わられ、白人以外の民族が台頭するアメリカ。主人公はかつて栄光のアメリカを懐かしみ現状に苛つく姿は今のアメリカの白人保守層の姿そのものです。他民族に偏見を持ち差別していた主人公がふとしたきっかけでモン族の家族と交流して打ち解けていく姿はアメリカという国の人種問題の根深さと差別や偏見の解決の道のりは地道に付き合っていくことでしか始まらないないことを改めて認識しました。エンディングもアメリカがもはや白人中心ではなくなったことを見事に表現していると思いました。アメリカで大ヒットしたのも、不況で自動車産業が衰退していき、初の黒人大統領が誕生するという時代だったからなのでしょう。 

 それにしても先々月に公開された監督作『チェンジリング』も傑作でしたが、本作品も前作に負けず劣らずの傑作でした。1年に2作品も質の高い作品を生み出すイーストウッド監督恐るべしです。

上映時間 117分
製作国    アメリカ
製作年度 2008年
監督:    クリント・イーストウッド   
原案:    デヴィッド・ジョハンソン   
    ニック・シェンク   
脚本:    ニック・シェンク   
撮影:    トム・スターン   
プロダクションデザイン:    ジェームズ・J・ムラカミ   
衣装デザイン:    デボラ・ホッパー   
編集:    ジョエル・コックス   
    ゲイリー・D・ローチ   
音楽:    カイル・イーストウッド   
    マイケル・スティーヴンス   
出演:    クリント・イーストウッド   
    ビー・ヴァン   
    アーニー・ハー   
    クリストファー・カーリー   
    コリー・ハードリクト   
    ブライアン・ヘイリー   
    ブライアン・ホウ   
    ジェラルディン・ヒューズ   
    ドリーマ・ウォーカー

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『GONIN』この映画を見て!

第250回『GONIN』
Gonin  今回紹介する作品は日本を代表する男優が勢揃いしたバイオレンス・アクションの傑作『GONIN』です。本作品は本木雅弘・北野武・佐藤浩市・竹中直人・根津甚八・椎名桔平と出演者が大変豪華であり、かつそれぞれの役者が映画の中で強烈な存在感を放っています。

ストーリー:「借金まみれのディスコ・バーズのオーナー・万代はゲイ相手のコールボーイの三屋、元刑事の氷頭、リストラされたサラリーマンの荻原、パンチドランカーの元ボクサー・ジミーと手を組んで暴力団事務所の大金を強奪する計画を企てる。計画は無事成功して、大金を手に入れる5人。しかし、万代達が犯人であることを突き止めた暴力団は、二人組のヒットマン・京谷と柴田を雇って報復に出る。」

 本作品はストーリー自体はこの手のジャンルの映画としては目新しいものはありませんが、ハードボイルドな雰囲気と役者たちの濃い演技合戦が素晴らしいです。バブル崩壊後の東京を舞台に追い、詰められた男たちが一発逆転を夢見て儚く散ってゆく姿は切なくも美しく、滅びの美学に満ちています。

 また、佐藤浩市と本木雅弘のキスシーンや北野武が木村一八を犯すシーンなど随所に同性愛的な描写があるのも印象的です。

 石井監督の演出は男たちの情念が前面に出ており、クールとは言いがたいですが、湿っぽいドラマが日本的で私は好きです。彼の得意とする長回しも効果的に使われていますし、静と動のメリハリのある編集も良かったです。

 役者で言うと、北野武と竹中直人の演技がとても怖かったですね。特に武はバイク事故後間もないという事もあり、まだ完治していない目を眼帯で保護して出演したそうですが、彼が冷酷な殺し屋を演じると本当にはまりますね。
 あと、今年のアカデミー賞を受賞した『おくりびと』で主演を務めたもっくんもゲイ相手のコールボーイという妖しい役を色気たっぷりに好演しています。

 本作品はバイオレンス描写も過激で一般受けはしないと思いますが、男くさい邦画を見たいなら本作品をお勧めします!

上映時間 109分
製作国    日本
製作年度 1995年
監督:    石井隆   
脚本:    石井隆   
撮影:    佐々木原保志   
美術:    山崎輝   
衣装:    松本美奈子   
編集:    川島章正   
音楽:    安川午朗   
出演:    本木雅弘   
    ビートたけし   
    佐藤浩市   
    竹中直人   
    根津甚八   
    椎名桔平   
    永島敏行   
    鶴見辰吾   
    木村一八   
    室田日出男   
    横山めぐみ

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『バートン・フィンク』この映画を見て!

第249回『バートン・フィンク』
Photo  今回紹介する作品は昨年アカデミー最優秀監督賞をコーエン兄弟がハリウッドに脚本家として招かれたの劇作家のスランプを独自のタッチで描いた『バートン・フィンク』です。
 本作品は脚本は兄弟で執筆して、監督をジョエル・コーエン、製作をイーサン・コーエンが担当しています。なお91年のカンヌ国際映画祭では史上初の3冠(パルム・ドール、監督賞、男優賞)を制して大変話題を呼びました。

ストーリー:「1941年のニューヨークで社会派劇作家として成功したバートン・フィンクは、ハリウッドに招かれてレスリング映画のシナリオを依頼される。バートンは古びたホテルに泊まりこみ、脚本の執筆を開始しようとするが、全くアイデアが思い浮かばず書けないでいた。そんな中、隣りの部屋に泊まっていた保険セールスマンのチャーリーと仲良くなる。
 書けないスランプに陥ったバートンはかつてあこがれの大作家であった脚本家メイヒューに出会い教えを請う。そしてバートンはそこで出会った彼の秘書兼愛人オードリーをホテルに呼び出し一夜を共にする。
 しかし、翌日バートンが起きてみるとオードリーは血だらけでホテルのベッドに横たわっていたのだった・・・。」

 私は始めて本作品を見た時はまるで悪夢を見ているかのような後半の不条理な展開と予想外のラストシーンに大変はまってしまい、その後何度も見返したものでした。
全体の感想としては、主人公のバートン・フィンクを通して、コーエン兄弟のハリウッドに対する皮肉と脚本家としての苦悩を見事に表現していたと思います。

 ストーリーはどこまでが現実で、どこからが非現実なのか分からない作りとなっているので、見た人が自分なりの解釈をすることができます。(その為、スッキリとした答えを求める人には不向きな映画とも言えますが・・。)私としては主人公がホテルに着いたところからすでに現実でないと思っているのですが、皆様はいかがでしょうか?

 映像もコーエン兄弟だけあって大変凝っており、見応えがあります。特にジメジメと暑苦しく不気味な雰囲気漂うホテルのシーンは主人公の苛立ちやストレスを映像で見事に表現していたと思います。それにしても壁紙が剥がれ、糊がどろどろと溶けて落ちるシーンは何度見ても生理的嫌悪感を与えてくれます。

 あと俳優の演技も個性派ぞろいで素晴らしく、特にジョン・グッドマンの後半の燃え盛るホテルでの演技は何度見ても鳥肌が立つほど迫力があります。あと、コーエン映画によく出ているスティーヴ・ブシェミも一瞬の登場ですが強烈な印象を残します。

 本作品は一般受けはしにくいと思いますが、はまれば何度見ても楽しめる作品だと思います。

上映時間 116分
製作国    アメリカ
製作年度 1991年
監督:    ジョエル・コーエン   
製作:    イーサン・コーエン   
脚本:    ジョエル・コーエン   
    イーサン・コーエン   
撮影:    ロジャー・ディーキンス   
美術:    デニス・ガスナー   
音楽:    カーター・バーウェル   
出演:    ジョン・タートゥーロ   
    ジョン・グッドマン   
    ジュディ・デイヴィス   
    マイケル・ラーナー   
    ジョン・マホーニー   
    トニー・シャルーブ   
    ジョン・ポリト   
    スティーヴ・ブシェミ   
    ミーガン・フェイ

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「スティーブン・キング原作の映画」私の映画遍歴15

 私は昔からスティーブン・キングの小説が大好きでした。キングの書く小説はジャンルとしてはホラーが多いですが、サスペンスやファンタジーそして重厚な人間ドラマまで幅広く手がけています。
 キングの小説の特長は何と言っても主人公たちの日常生活や心理描写の緻密さにあります。読んでいると主人公たちの姿が頭の中ではっきりイメージできるので、主人公たちにどっぷり感情移入して手に汗握る物語を楽しむことができます。
 そんなキングの小説は世界中でベストセラーになり、数多く映画やテレビドラマとして映像化されています。キングの小説は一見映像化しやすいようで、緻密な描写のため非常に難しく、今まで映像化された作品も出来に当たり外れがあります。
 そこで今回はキングの小説を映画化した作品で個人的にお薦めできるものを5つ紹介します。

・『キャリー』
Photo  キングのデビュー作をブライアン・デ・パルマ監督が完全映画化した本作品。後半は原作よりスケールはダウンしていますが、単なるホラーでなく主人公の青春ドラマとして見事に映像化しています。オープニングのシャワーシーンからラストのショッキングなシーンまで一瞬たりとも目を離すことができません。

・『シャイニング』
Photo_2  鬼才スタンリー・キューブリック監督が映画化した本作品。キングは原作と展開にかなり不満で、自ら監督を務めてテレビドラマとして撮り直したほどです。しかし、個人的にはキューブリック版の『シャイニング』はホラー映画の傑作だと思います。確かに原作の魅力である後半のドラマチックな展開や主人公たちの心理描写は全て映画では削除されていますが、醸し出す雰囲気の怖さは尋常ではありません。

・『地獄のデビル・トラック 』
Photo_6  キング自らが初監督をした本作品。はっきり言って完成度はB級以下の出来です。原作はそれなりに面白かったのですが、映画は最初から最後まで突っ込みどころ満載。ここまで下らない作品だと逆に笑ってみることができます。ある意味、キングファンに一度は見て欲しい作品です。

・『ミザリー』
Photo_4  キャシー・ベーツがアカデミー主演女優賞を受賞した本作品。彼女の狂気迫る演技が何といっても見所です。監督はかつてキングの『スタンド・バイ・ミー』も映画化したロブ・ライナーが担当。原作をコンパクトにまとめて、緊張感たっぷりの映画に仕上げています。

・『ショーシャンクの空に』
Photo_5  公開当時はあまり目立ちませんでしたが、その後評価がどんどん高まっていた本作品。原作を尊重した作りとなっており、何度見ても感動と勇気を見る者に与えてくれます。監督は本作品で長編デビューして、その後もキングの『グリーン・マイル』、『ミスト』を映画化したフランク・ダラボンが担当。長編1作目でこれだけ完成度の高い作品を作り上げたのはすごいです。ちなみに『グリーン・マイル』、『ミスト』も原作を尊重した作りで秀作ですが、残念ながら本作品の完成度には及びませんね。

【日本で劇場公開されたスティーブン・キング原作の映画一覧】
1408号室 (2007)   
ミスト (2007)    原作    
シークレット ウインドウ (2004)   
ライディング・ザ・ブレット (2004)   
ドリームキャッチャー (2003)
アトランティスのこころ (2001)         
グリーンマイル (1999)         
ゴールデンボーイ (1998)
スティーヴン・キング/ナイトフライヤー (1997)
スティーブン・キング/アーバン・ハーベスト2
スティーヴン・キング/痩せゆく男      
ブロス リターンズ/やつらはふたたび帰ってくる
マングラー (1995)
黙秘 (1995)         
ショーシャンクの空に (1994)   
スティーブン・キング/アーバン・ハーベスト (1994)   
ニードフル・シングス (1993)   
スティーブン・キング/死の収穫
バーチャル・ウォーズ (1992)   
ブロス/やつらはときどき帰ってくる (1991)         
スティーヴン・キング/地下室の悪夢 (1990)   
フロム・ザ・ダークサイド/3つの闇の物語 (1990)
ミザリー (1990)
ペット・セメタリー (1989)   
クリープショー2/怨霊 (1987)    
バトルランナー (1987)         
地獄のデビル・トラック (1986)
スタンド・バイ・ミー (1986)   
炎の少女チャーリー (1984)    
クジョー (1983)         
クリスティーン (1983)
デッドゾーン (1983)         
シャイニング (1980)         
死霊伝説 (1979)         
キャリー (1976)   

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『ミスト』この映画を見て!

第248回『ミスト』
Photo  今回紹介する作品はスティーヴン・キングのパニックホラー小説『霧』を映画化した『ミスト』です。監督と脚本は『ショーシャンクの空に』『グリーンマイル』とスティーヴン・キング原作の映画化に定評のあるフランク・ダラボンが担当しています。劇場公開当時は原作と異なる衝撃的なラストが大変話題になりました。

ストーリー:「田舎町を激しい嵐が襲った翌日、映画ポスターのデザイナーであるデヴィッドは息子と共にスーパーマーケットに買い物へと出かけた。その頃、町は突如として濃い霧に飲み込まれ始めていた。そして、スーパーマーケットの周囲も濃い霧に覆われる。店に買い物に来ていた客たちは突如発生した霧に身動きが取れなくなってしまう。そんな中、デヴィッドを始めとして数人の客と店員が霧の中に潜む不気味な触手生物の襲撃に遭う。彼らは店にバリケードを作り始め、武器になる物もかき集める。その一方で、キリスト教の原理主義者であるカーモディは狂信めいた発言で人々を不安に陥れる。そして夜に店の光に集まった霧の中の生物たちが店内を襲撃。中にいた人々はパニックへと陥る。」

 私は高校の時にスティーヴン・キングの小説にはまっていて、その当時に本作品の原作も読んでいました。私は原作を始めて読んだ時から、これは映画にしたら面白いだろうなと思っていました。それから15年近くたって、フランク・ダラボンが映画化する話しを知り、あの原作をどんな風に映画にするのか大変楽しみでした。
 実際に映画を見ての感想ですが、ラスト近くまで基本的に原作に忠実に作られていました。(一部変更点や映画独自のエピソードが追加されている箇所はありましたが。)自分が原作を読んだときにイメージしていた映像に近いものが再現されていたのでうれしかったです。

 怪物の襲撃シーンは予想以上にグロい映像も多く、ホラー映画ファンとしては見応えがありました。ただ、怪物の造形に関しては巨大な奴を除いては巨大な昆虫に過ぎないといった感じでイマイチでした。もっと私たちの想像を超えるような造形の怪物をだしてほしかったですね。

 ところで本作品の魅力は異世界の怪物による襲撃の恐怖はもちろんのことですが、それ以上に極限状況下での人間描写にあります。特に印象的なのがキリスト原理主義者の女性カーモディがスーパーのお客たちを扇動して次第に狂信的な集団を作り上げていくところです。情報が遮断された中で、冷静な判断力を失った人々がカーモディにすがり、彼女の言うがままに動いていくシーンはある意味で怪物の襲撃以上に恐ろしいです。
 それにしてもカーモディを演じたマーシャ・ゲイ・ハーデンの存在感と迫力に満ちた演技は最高です。ある意味、主人公よりもインパクトがありました。

 さて、ラストの映画独自の追加シーンに関してですが、確かに衝撃的でしたが個人的には原作の読者の想像に任せる曖昧な終わり方の方がよかったような気がします。映画の絶望的な終わり方も嫌いではないのですが、主人公の最後の決断が話の流れからして少し唐突な気がしました。あのような極限状態では、主人公の最後の決断も止むを得ないのかもしれません。しかし、途中までかすかな希望をつかもうとした主人公があれくらいの状況であのような行動をするにはどうしても思えないんですよね。観客を驚かすために無理にバットエンドにしたような気がします。
 ただ、本作品で一番冷静だと思っていた主人公も巨大な絶望の前では結局感情に動かされてしまったというところは何ともいえない皮肉ですね人間にはどうすることもできない巨大な出来事の前では何が正しくて何が間違いなのか、人間ごときの存在には正しい選択などできないのかもしれませんね。

 本作品はクリーチャーの造形とラストが微妙ではありますが、それを除けば見応えのあるパニックホラーに仕上がっています。特にスパーの中での人間模様は手に汗握ります。興味のある方はぜひご覧ください。 

上映時間 125分
製作国    アメリカ
製作年度 2007年
監督:    フランク・ダラボン   
原作:    スティーヴン・キング   
脚本:    フランク・ダラボン   
撮影:    ロン・シュミット   
プロダクションデザイン:    グレゴリー・メルトン   
編集:    ハンター・M・ヴィア   
音楽:    マーク・アイシャム   
出演:    トーマス・ジェーン   
    マーシャ・ゲイ・ハーデン
    ローリー・ホールデン   
    アンドレ・ブラウアー   
    トビー・ジョーンズ   
    ウィリアム・サドラー
    ジェフリー・デマン   
    フランシス・スターンハーゲン   
    アレクサ・ダヴァロス   
    ネイサン・ギャンブル   
    クリス・オーウェン    ノーム
    サム・ウィットワー   
    ロバート・トレヴァイラー   
    デヴィッド・ジェンセン   
    ケリー・コリンズ・リンツ

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