第252回『ミラーズ・クロッシング』
今回紹介する作品はコーエン兄弟が製作したギャング映画の傑作『ミラーズ・クロッシング』です。本作品は彼らの3本目の長編映画ですが、ストーリー・映像・音楽・演技と全てにおいて完成度が高いです。
ストーリー:「1929年のアメリカ東部の街。アイルランド系マフィアのレオとイタリア系マフィアのキャスパーが裏社会でしのぎを削っていた。レオにはトムという片腕がおり、厚い友情と信頼で結ばれていた。
ある日、レオはキャスパーから、八百長を邪魔するチンピラのバーニーを始末しろと要求される。しかし、バーニーの姉であった高級娼婦ヴァーナを愛するレオはキャスパーの頼みをはねつける。
その夜博打で負けたトムはヴァーナと出会い一夜を共にしてしまう。その翌朝、ヴァーナを尾行していたレオの用心棒ラグが殺される。
この事件によってレオとキャスパーの間で抗争が勃発。レオは警察を使ってキャスパーのアジトに襲撃をかけるが、報復としてレオ自身がキャスパー一味からの奇襲を受ける。
熾烈な争いの中で、トムはヴァーナと関係を持ったことをレオに告白。激怒したレオによってトムは追放されてしまう。トムはキャスパーの側に付くことにする。そしてトムはキャスパーへの忠誠を示すため、バーニーを捕らえて森の中で処刑するよう命じられるのだが・・・。」
本作品を私が始めて見たのは高校生の時でしたが、主人公であるトムはあまりカッコよくないし、派手な展開があるわけでもないし、映像の美しさ以外は特に印象残らない作品でした。
しかし、最近見直して本作品の持つスタイリッシュかつクールな作りに惚れ込みました。昔はあまり共感できなかった主人公トムに対しても下手に暴力に頼らず頭脳戦で挑んでいくこと点や最後まで自分の信念やプライドを貫こうとする点がカッコよく感じるようになりました。一見すると頼りなく何を考えているか分からないトムが実は友情や愛情に熱い男であり、それ故にラストは敢えて孤独に生きることを選択する姿は渋い男の魅力に満ちています。
また、コーエン兄弟の作品はどれも映像にこだわっていますが、恐らく本作品が彼らの作品の中で一番映像が美しいです。特に冒頭の森の中で帽子が吹き飛ばされるシーンの美しさは格別で息を呑むほど美しいです。
役者の演技に関して言うと主人公トムを演じたガブリエル・バーンも難しい役を熱演していますが、それ以上にアルバート・フィニーとジョン・タートゥーロの演技が強烈です。
アルバート・フィニーはアイルランド系マフィアのボスであるレオを演じているのですが、その存在感は他を圧倒しています。特に自宅で敵に襲撃を受けるシーンでの強さやカッコよさは尋常ではなく鳥肌が立ちます。ダニーボーイが流れる中で襲撃してきた敵に向かって冷静に銃で立ち向かう姿は本作品最大の見せ場ともいえます。
ジョン・タートゥーロは本作品のキーパーソンとも言えるチンピラのバーニーを演じていますが、軽薄で軟弱で嫌らしい人間を巧みに演じています。
本作品はコーエン兄弟の作品の中ではコミカルなシーンが少なく、異色な作品と言えるかもしれません。しかし、圧倒的な映像美の中で繰り広げられる終始緊張感が張り詰めたストーリーは見る者を釘付けにします。
派手な映画ではないですが見れば見るほど良さが分かってくる作品だと思います。
上映時間 115分
製作国 アメリカ
製作年度 1991年
監督: ジョエル・コーエン
脚本: イーサン・コーエン
ジョエル・コーエン
撮影: バリー・ソネンフェルド
音楽: カーター・バーウェル
出演: ガブリエル・バーン
マーシャ・ゲイ・ハーデン
アルバート・フィニー
ジョン・タートゥーロ
ジョン・ポリト
J・E・フリーマン
マイク・スター
スティーヴ・ブシェミ
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