『チェンジリング』この映画を見て!
第242回『チェンジリング』 今回紹介する作品はクリント・イーストウッド監督がアクション女優のイメージが強いアンジェリーナ・ジョリーを主演に迎え、1920年代のロサンゼルスで実際に起きた事件を映画化した『チェンジリング』です。
ストーリー:「1928年、ロサンゼルス。シングルマザーのコリンズは電話会社に勤めながら、9歳の息子ウォルターを育てていた。そんなある日、彼女はウォルターを一人家に残したまま休日出勤をする。その日の夕方、彼女が急いで帰宅すると、ウォルターは家からいなくなっていた。コリンズは警察に慌てて電話するが、「翌日からしか捜査しない」と言われる。警察は翌日から捜査が始まるが、有力な手掛かりが何一つ掴めず月日は過ぎていくばかりだった。
5ヶ月後、ウォルターがイリノイ州で見つかったという朗報が警察から入る。コリンズは列車で帰ってくる我が子を駅に出迎える。しかし、列車から降りてきたのはウォルターとは別人の全く見知らぬ少年だった。警察に自分の子でないと訴えるコリンズ。しかし警察は「その子はウォルターに間違いない」と言って取り合ってくれなかった。」
本作品、予告編を見ていた時は子どもの誘拐を扱った単なるサスペンス映画かと思っていたのですが、本編を見て予想した内容と全く違っていたので驚きました。
子どもの失踪に端を発して、警察権力の腐敗や市民への弾圧、そして猟奇殺人事件と次々と重いテーマが展開していきます。
特に1920年代のロサンゼルス警察の腐敗と市民への弾圧は見ていて大変恐ろしく、この話しが事実ということに衝撃を受けました。自分たちに楯突く市民を強制的に精神病院に収容していくシーンは見ていて身が凍る思いをしました。
一方、猟奇殺人事件に関しては衝撃的な内容を抑えたタッチで描いていきます。犯人を過度にエキセントリックに描くことを避け、弱い面を持った人間として淡々と描いています。
本作品において、個人の猟奇殺人事件よりも権力による組織犯罪の方に比重を置いて描いているところに、イーストウッド監督の権力への反骨精神が感じられます。
本作品はセンセーショナルで重い内容を扱っていますが、基本的には母親の突然いなくなった子を思う気持ちを終始描いています。警察の腐敗も猟奇殺人事件の犯人も、主人公の母にとっては腹立たしいとは言え味関心はそこまでなく、ただ子どもと再会することだけを望む前に立ちはだかる困難として立ち向かっていきます。その姿を見て、私は母の力強さに心打たれると同時に、北朝鮮拉致被害者の家族の方のことが頭をよぎりました。突然子を失った親の耐え難い悲しみと何としても再会したいという気持ち、その前に立ちはだかる権力の思惑。いつの時代にも起こりうる出来事だと、本作品を見て思いました。
映画の技術的な面から見ても本作品は文句のつけようがないほど完璧です。セットやCGで20年代のロサンゼルスを見事再現していますし、彩度を落として陰影に富んだ映像を生み出した撮影や照明の技術も大変素晴らしいです。またイーストウッド監督自らが作曲したスコアは切ないメロディーは非常に印象に残ります。
演技に関しても、アンジェリーナ・ジョリーが今まで出演した映画とは全く違う役に挑みながら、見事にその役を演じきっています。正直、意識してみないとアンジェリーナ・ジョリーだと分からないほどです。特に殺人鬼と刑務所で出会うシーンの迫真の演技は見ていて圧倒されました。本作品で彼女がアカデミー賞を取れなかったのが残念です。
また脇役では悪役警部を演じたジェフリー・ドノヴァンの憎憎しい演技が映画を引き立てていました。
イーストウッド監督の演出はいつもながら無駄なく淡々とした語り口で子どもを捜す母親の前に立ちはだかる困難を描いていきます。非常に陰惨なテーマを扱いながらも、最後にかすかな希望を持たせる演出はさすがです。
個人的には今年に入って見た映画で一番完成度が高く、内容も見終わって深い余韻を与えてくれる作品でした。80歳を超えて、このような素晴らしい映画を作ることが出来るクリント・イーストウッド監督には本当に脱帽です。
上映時間 142分
製作国 アメリカ
製作年度 2008年
監督: クリント・イーストウッド
脚本: J・マイケル・ストラジンスキー
撮影: トム・スターン
プロダクションデザイン: ジェームズ・J・ムラカミ
衣装デザイン: デボラ・ホッパー
編集: ジョエル・コックス、ゲイリー・ローチ
音楽: クリント・イーストウッド
出演: アンジェリーナ・ジョリー
ジョン・マルコヴィッチ
ジェフリー・ドノヴァン
コルム・フィオール
ジェイソン・バトラー・ハーナー
エイミー・ライアン
マイケル・ケリー
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