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2009年3月

『ウォッチメン』この映画を見て!

第245回『ウォッチメン』
Photo  今回紹介する作品は異色のヒーロー映画『ウォッチメン』です。本作品は80年代後半にアメリカで発表されるや否や高い人気と評価を得たグラフィック・ノベルです。88年にはグラフィックノベルとして初となるSF文学の最高峰ヒューゴー賞を受賞、最近でもタイム誌が選ぶ1923年以降の長編小説ベスト100に選ばれているほどです。
 テリー・ギリアム監督やポール・グリーングラス監督が今まで映画化を計画していたようですが途中で頓挫、ハリウッドでも映像化困難といわれていた作品です。そんな中、『ゾンビ』のリメイク映画『ドーン・オブ・ザ・デッド』で監督デビュー、フランク・ミラーのグラフィックノベル『300』をCGを駆使して大胆に映画化したザック・スナイダーが映画化に挑戦。ついに原作に忠実な作品として映画化に成功しました。

ストーリー:「ニクソンがアメリカ大統領3期目を務めて、米ソの冷戦状態が緊迫している1980年代。ニューヨークの高層マンションでエドワード・ブレイクという男性が殺される。彼は以前に「ウォッチメン」と呼ばれるコスチュームヒーロー集団の一員でコメディアンという名前で活躍していた。
 「ウォッチメン」はアメリカを守るヒーローとしてかつて活躍していたが、彼らの正義の名の下の行動にアメリカ市民が疑問を抱くようになり、1977年に彼らの行動を規制する法律が作られた。多くのヒーローが引退をして、一般市民として生活していた。
 そんな中、「ウォッチメン」のメンバーであったロールシャッハは事件の裏に巨大な陰謀がある事を察知する。一体誰が何の目的でコメディアンを殺したのか、ロールシャッハはかつてのメンバーと共に事件の真相に迫っていくが・・・・。」

 私は原作を読んだことないので比較して感想を述べることはできませんが、昨年公開された『ダークナイト』以上に衝撃的かつ奥深いヒーロー映画でした。
 上映時間はこの手の映画としては160分とかなり長いですが、話しの密度が大変濃く、映像や音響も大変凝っているので退屈することはありません。ただ、私は原作を知らないので、中盤までは世界観やストーリー展開に正直ついていけませんでした。そういう意味では本作品はある程度予備知識を持って見た方が楽しめるかもしれません。
 ストーリーに関しては誰がコメディアンを殺したのかを探していくミステリー形式となっており、その合い間にウォッチメンのメンバーの過去や現在の苦悩が描かれていきます。
 
 本作品ではヒーローたちを単純な正義や善の存在として描かず、人間としての弱さや愚かさを併せ持った存在として描いています。孤独や過去のトラウマに苦しみ、個人的な感情に翻弄されるヒーローたち。本作品のヒーローは確かに強いですが、決してカッコいい存在とはいえません。
 
 映画の後半は敵の大きな陰謀が暴かれていくのですが、ラストは予想外の結末で戸惑いました。ヒーローたちの行動によって人類に平和が訪れるのですが、劇中のロールシャッハ同様に「これで良いのか!」と思わず叫びたくなりました。
 倫理的に正しい行いが良い結果を生むとは必ずしも言えず、時には倫理的に糾弾されるような行いが良い結果を生む。そんな結末に平和や正義とは一体何か思わず見た後考え込んでしまいました。

 映像に関しては過激な暴力描写とヒーロー映画としては珍しい艶かしい性描写が印象的でした。本作品がR-15指定なのも納得です。アクションシーンもスローモーションを効果的に使って迫力に満ちたものに仕上がっていました。
 また、火星でのシーンや都市の崩壊シーンもスケールの大きな映像に圧倒されました。

 登場するキャラクターでは青い体のDR.マンハッタンが何と言っても強烈でした。普段はフルチンで歩き回り、時に超人的能力で敵と戦い、時に失恋して火星に一人旅立つ。繊細かつスケールの大きなキャラクターがとても印象に残りました。
 また、この映画のストーリーテラーとも言えるロールシャッハもハードボイルドな雰囲気と人間臭さが漂っており、本作品の中で一番魅力的なキャラクターでした。

 本作品は賛否両論分かれる作品ですが、映像やストーリーは大変見応えがあります。私の中では今年公開された映画の中でベスト5に入る傑作だと思います。

上映時間 163分
製作国 アメリカ
製作年度 2009年
監督: ザック・スナイダー 
原作: アラン・ムーア、デイヴ・ギボンズ 
脚本: デヴィッド・ヘイター、アレックス・ツェー 
撮影: ラリー・フォン 
視覚効果スーパーバイザー: ジョン・“DJ”・デジャルダン 
プロダクションデザイン: アレックス・マクダウェル 
衣装デザイン: マイケル・ウィルキンソン 
編集: ウィリアム・ホイ 
音楽: タイラー・ベイツ 
出演: マリン・アッカーマン
ビリー・クラダップ
マシュー・グード
カーラ・グギーノ
ジャッキー・アール・ヘイリー
ジェフリー・ディーン・モーガン
パトリック・ウィルソン
スティーヴン・マクハティ
マット・フルーワー
ローラ・メネル
ロブ・ラベル 
ゲイリー・ヒューストン 
ジェームズ・マイケル・コナー

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『宮崎駿の雑想ノート』街を捨て書を読もう!

『宮崎駿の雑想ノート』 著:宮崎駿 大日本絵画; 増補改訂版版
Photo  今回紹介する本は宮崎駿監督の戦争兵器とそれに携わる人たちに対する愛情とこだわりが感じられる『宮崎駿の雑想ノート』です。本書は『月刊モデルグラフィックス』 という雑誌で1984年~1990年にかけて不定期で連載された宮崎監督の第1次大戦から第2次大戦にかけての古今東西の軍事兵器に関する虚実入り交ざったイラストエッセイ及びマンガが収録されています。
 『となりのトトロ』や『崖の上のポニョ』などの宮崎監督のほのぼのとした作品が好きな人にとっては本書を読んでも面白くないかもしれません。本書は宮崎監督のミリタリーマニアとしての溢れんばかりの思いが詰まった非常にマニアックな内容となっています。近代の陸海空の今から見ればアナログな兵器とそれを操る人間の奮闘や悲喜劇が水彩画の優しいタッチで描かれており、好きな人は何度読んでも飽きることがありません。本書の特長は何と言っても兵器に対する緻密な設定と描写。本当にそんな兵器があったのかなと読む者に思わせるだけの説得力があります。
 また、本書は決して単純に戦争を賛美しているわけではありません。戦争という狂気の時代の中で兵器を扱う人々の悲喜劇なドラマを通して、戦争というものの愚かさや空しさまで描いています。

 個人的には「多砲塔の出番」と「豚の虎」というエピソードが一番好きです。どちらも戦車を扱った作品ですが、両作品をぜひ宮崎監督にアニメ化してほしいです。

 あと、本書には『紅の豚』の原作も収録されています。ストーリーは大きく変わっていませんが、ジーナは登場しません。

 ちなみに本書の続編として『宮崎駿の妄想ノート』という作品が出版されています。

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『おとぎばなし』中島みゆきのアルバム紹介 

中島みゆきのアルバム紹介No.6『おとぎばなし』 
Photo  今回紹介するアルバムは中島みゆきが2002年に発表した通算30作目のオリジナル・アルバム『おとぎばなし』です。今回は「夜会」で発表された曲や、他のアーティストに提供した曲を集めた、セルフカヴァー・アルバムです。
 
 1曲目「陽紡ぎ唄」は夜会VOL.11&12「ウィンター・ガーデン」のために書き下ろされた歌です。時計の振り子の音から始まる歌ですが、おとぎばなしのような不思議な歌詞が印象に残ります。
 
 2曲目「シャングリラ」は夜会VOL.6「シャングリラ」のために書き下ろされた歌です。二胡の懐かしい音色とみゆきさんの歌声がとてもマッチしています。
 
 3曲目「おとぎばなし」は1988年に薬師丸ひろ子に提供した歌です。叶わぬ恋に対する女性の心情をみゆきさんらしい歌詞で見事に綴っています。
 
 4曲目「雪・月・花 」は1998年に工藤静香に提供した歌です。工藤静香の甘い歌い方と違って、みゆきさんの歌い方は切なさが前面に出ています。
 
 5曲目「匂いガラス~安寿子の靴」は1984年にNHKドラマとして制作された「匂いガラス」、「安寿子の靴」の主題歌です。歌詞は唐十郎さんが手がけていると言うこともあり、独特な言い回しが味わい深いです。。
 
 6曲目「あの人に似ている」は高倉健&裕木奈江のためにみゆきさんとさだまさしが共同で作詞・作曲を手がけた異色のデュエットソングです。本アルバムでは何とさだまさしを共演に迎えてデュエットしています。このコンビがデュエットするなんて二度とないと思います。そういう意味で本アルバム一番の目玉です。二人の声が交錯する形で歌われていくのですが、何を歌っているか少し聞き取りにくかったのが残念です。
 
 7曲目「みにくいあひるの子」は1978年に研ナオコに提供した歌です。好きな男に相手にされない女のつらい思いをラテン調にアレンジされた曲で一気に歌い上げています。
 
 8曲目「愛される花 愛されぬ花」は1986年に三田寛子に提供した歌です。これも好きな男に相手にされない女の心情をしっとりと歌い上げています。
 
 9曲目「裸爪(はだし)のライオン」は再び工藤静香に提供した歌です。作曲は後藤次利が手がけており、力強い歌声とポップなメロディーが印象的です。
 
 10曲目「紫の桜」は夜会VOL.10「海嘯」のために書き下ろされた歌です。夜会では迫力満点のうなり声で観る者を圧倒しましたが、本アルバムでは歌い方を180度変えています。優しく包容力のある歌い方は聞いていて心洗われます。
 
 11曲目「海よ」はデビューアルバム『私の声が聞こえますか』に収録されていた歌です。私は発売当時にこの歌を聞いて、2001年にハワイ沖で愛媛県立宇和島水産高等学校の練習船「えひめ丸」が浮上してきたアメリカ海軍の原子力潜水艦「グリーンビル」に衝突され沈没した事件が頭をよぎりました。みゆきさんがそれを意図して、本作品に収録したのか分かりませんが、私はこの歌をきくとえひめ丸の事件が思い出されてしまいます。

 今回のアルバムはタイトルの通り、静かで優しい感じの歌が多いです。 みゆきさんの力強い歌声が好きな人には物足りないかもしれませんが、聞けば聞くほど心に染み入る味わい深いアルバムです。    

1. 陽紡ぎ唄 
2. シャングリラ   
3. おとぎばなし   
4. 雪・月・花    
5. 匂いガラス 安寿子の靴   
6. あの人に似ている    
7. みにくいあひるの子   
8. 愛される花 愛されぬ花   
9. 裸爪(はだし)のライオン   
10. 紫の桜 
11. 海よ 

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『28週後』この映画を見て!

第244回『28週後』  

28_2  今回紹介する作品は5年前に公開されて世界中でヒットした世紀末パニックホラーの傑作『28日後』の続編『28週後』です。
前作は今年度アカデミー最優秀監督賞を受賞したダニー・ボイルが監督をしていましたが、今回はスペインのフアン・カルロス・フレスナディージョ監督に交代しています。

ストーリー:「感染すると凶暴性になり他の人間に襲いかかる新種ウイルス“RAGE”が猛威をふるったイギリス。ウイルス感染発生から5週後に最後の感染者が死亡して、11週後にアメリカ軍主導でNATO軍が派遣され、ロンドンの再建が始まった。
スペイン旅行中で感染を逃れたタミーとアンディの姉弟も帰国し、父親ドンと久しぶりの再会を果たす。しかし、母のアリスはドンと田舎のコテージに立て籠もっていた時に感染者の襲撃をうけて生死が分からなかった。
母を恋しがる姉弟はこっそり軍の監視区域外の我が家へと向かう。そこで姉弟は何と生き延びていた母親と再会する。しかし、そこにNATO軍がやって来て、姉弟と母は一時的軍の施設に隔離される。
軍の施設で母親はウイルスに感染しながらも発病していないキャリアだと判明。軍医スカーレットはワクチン開発への期待を持つ。
そんな折、ドンが軍の施設に侵入して、アリスと接触して感染して発病してしまう。」

 本作品は個人的に最近見たパニックホラー映画の中ではベスト3に入る面白さと完成度でした。前前作と比べるとスケールやグロさも一段とアップしていますし、ストーリーも終末観漂う絶望的な展開でジョージ・A・ロメロのゾンビ映画が好きな私にはたまりませんでした。(本作品は厳密に言うとゾンビ映画ではありませんが…)

本作品の特長は全編にわたって非情なところです。冒頭から夫が最愛の妻を見捨て一人逃げ出しますし、中盤に夫と妻が再開することで感染が再発・拡大し、主人公の姉弟を助けようとする人たちは次々に死んでいく。ラストも子供たちを救おうとする行為が世界を破滅に導くという皮肉な結末を迎えます。ここまで愛や人間性が否定された救いようのないリアルなストーリーはなかなかお目にかかれません。結局、人間を破滅させるのは人間なんですよね・・・・。

 また、狙撃部隊による無差別攻撃シーンやナパーム弾で市街地を焼き尽くすシーンなど、アメリカ軍のアフガン・イラク侵攻を痛烈に皮肉るシーンが随所に盛り込まれているところも大変印象的でした。

 グロシーンではヘリコプターによる感染者虐殺シーンが一番の見所でした。あと、前作同様に荒廃したロンドンの街の空虚な美しさも見応えがありました。

 ただ、本作品で唯一残念だったのは設定にいくつかご都合主義な点がいくつかあったところです。特に夫が隔離された妻に会うシーンや中盤の軍の対応、そして後半の父が主人公の姉弟を追うシーン等はリアリティに欠けていたような気がします。

 あと、主人公の姉弟にあまり感情移入できないシナリオや演出だったのもマイナスでした。

 いろいろ注文をつけたくなるところもありますが、本作品は近年のパニックホラーの中では間違いなく傑作の部類に入ると思います。家族や恋人と見るような作品では決してありませんが、この手の映画が好きな人なら一度は見て損はないと思います!

上映時間 104分
製作国 イギリス/スペイン
製作年度 2007年
監督: フアン・カルロス・フレスナディージョ 
製作総指揮: ダニー・ボイル 
アレックス・ガーランド 
脚本: フアン・カルロス・フレスナディージョ 
ローワン・ジョフィ 
ヘスス・オルモ 
E・L・ラビニュ 
撮影: エンリケ・シャディアック 
プロダクションデザイン: マーク・ティルデスリー 
衣装デザイン: ジェーン・ペトリ 
編集: クリス・ギル 
音楽: ジョン・マーフィ 
出演: ロバート・カーライル 
ローズ・バーン 
ジェレミー・レナー
ハロルド・ペリノー
キャサリン・マコー
マッキントッシュ・マグルトン 
イモージェン・プーツ
イドリス・エルバ 
アマンダ・ウォーカー
シャヒド・アハメド

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『フレンチ・コネクション』この映画を見て!

第243回『フレンチ・コネクション』
Photo  今回紹介する作品はアカデミー賞5部門(作品・監督・脚色・編集・主演男優)受賞した刑事ドラマの傑作『フレンチ・コネクション』です。
 監督はこの後ホラー映画史に残るオカルト映画『エクソシスト』を作り上げたウィリアム・フリードキンが担当。主役の「ポパイ」ことドイル刑事には当時アカデミー賞に2度ノミネートされて勢いのあったジーン・ハックマン、相棒の刑事役「クラウディ」ことラソーには『ジョーズ』で主役を務めた ロイ・シャイダー、そして悪役にはフランスの名優フェルナンド・レイが起用されています。

ストーリー:「ニューヨーク市警で“ポパイ”と呼ばれていたドイル刑事は相棒のラソーと共に麻薬の売人を逮捕する。その捜査の過程で麻薬ルートの黒幕であるフランスの実業家シャルニエの存在が浮かび上がる。ドイルとラソーはシャルニエがニューヨークで取引きをする現場を押さえようと尾行を開始する。」

 本作品の特徴は主人公である刑事たちの内面描写がほとんどなく、麻薬捜査の過程がドキュメンタリータッチで淡々と描かれるところです。ドラマチックな展開もなければ、派手なアクションシーンも中盤の伝説的なカーチェイスシーンを除いてほとんどありません。映画の半分以上が張り込みや尾行という地味なシーンで占めています。
 では、退屈かと言うと決してそんなことはなく、リアルかつ緊迫感のあるカメラワークと演出で最後まで一気に見ることができます。
 張り込みのシーンのニューヨークの寒さが見ていて側にも伝わってくる映像、悪役が高級レストランでフレンチのコースを食べている中で主人公が屋外で凍えながら不味いコーヒーとピザを食べるシーンの正義と悪の鮮烈な対比。尾行のシーンでの犯人を追って地下鉄を乗ったり降りたりするシーンの静かな緊張感。細部にまでこだわった演出が本作品の素晴らしさです。
 
 中盤の高架下でのカーチェイスは編集の巧みさもあって、今見ても迫力満点のシーンとなっています。前半が静かで地味なシーンが多かっただけに、突然始まるカーアクションは見る者に鮮烈な印象を与えます。ニューヨーク市警の全面的な協力もあり、実際の道路でのオールロケでゲリラ的に撮影されただけあって、何ともいえない臨場感と生々しさがあります。

 演技に関して言えば、ジーン・ハックマンが白熱の演技を見せてくれます。さすがに本作品でアカデミー賞で主演男優賞を取っただけあって、悪を執念深く追う無軌道な刑事を迫力満点に演じています。相棒であるラソーを演じた ロイ・シャイダーもハックマンとは好対照の演技でいい味を出しています。ちなみに本作品の主役であるドイル刑事とラソー刑事は実在のニューヨークの刑事エディ・イーガンとソニー・グロッソがモデルとなっており、ジーン・ハックマンと ロイ・シャイダーは撮影前に数週間彼らの仕事に同行していたそうです。
 あとフェルナンド・レイも 魅力的な悪役を余裕たっぷりに演じています。

 映画のラストは唐突かつ後味が悪いですが、本作品のスタイルに見事にあっていると思います。ちなみに本作品のラストに不満を持たれたなら続編がありますのでそちらをご覧ください。スカッと締めくくってくれます。但し、本作品に比べると完成度やインパクトは落ちますが・・・。

 本作品は最近の刑事映画と同じ感覚で見ると違和感があるかもしれませんが、ここまでリアルで面白い刑事ドラマはなかなかありません。刑事ドラマが好きな方はぜひご覧ください!
 

上映時間 105分
製作国 アメリカ
製作年度 1971年
監督: ウィリアム・フリードキン 
製作: フィリップ・ダントニ 
原作: ロビン・ムーア 
脚本: アーネスト・タイディマン 
撮影: オーウェン・ロイズマン 
編集: ジェリー・グリーンバーグ 
音楽: ドン・エリス 
出演: ジーン・ハックマン
ロイ・シャイダー 
フェルナンド・レイ
トニー・ロー・ビアンコ
マルセル・ボズフィ 
フレデリック・ド・パスカル
エディ・イーガン 
ソニー・グロッソ 

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『チェンジリング』この映画を見て!

第242回『チェンジリング』
Photo  今回紹介する作品はクリント・イーストウッド監督がアクション女優のイメージが強いアンジェリーナ・ジョリーを主演に迎え、1920年代のロサンゼルスで実際に起きた事件を映画化した『チェンジリング』です。

ストーリー:「1928年、ロサンゼルス。シングルマザーのコリンズは電話会社に勤めながら、9歳の息子ウォルターを育てていた。そんなある日、彼女はウォルターを一人家に残したまま休日出勤をする。その日の夕方、彼女が急いで帰宅すると、ウォルターは家からいなくなっていた。コリンズは警察に慌てて電話するが、「翌日からしか捜査しない」と言われる。警察は翌日から捜査が始まるが、有力な手掛かりが何一つ掴めず月日は過ぎていくばかりだった。
 5ヶ月後、ウォルターがイリノイ州で見つかったという朗報が警察から入る。コリンズは列車で帰ってくる我が子を駅に出迎える。しかし、列車から降りてきたのはウォルターとは別人の全く見知らぬ少年だった。警察に自分の子でないと訴えるコリンズ。しかし警察は「その子はウォルターに間違いない」と言って取り合ってくれなかった。」

 本作品、予告編を見ていた時は子どもの誘拐を扱った単なるサスペンス映画かと思っていたのですが、本編を見て予想した内容と全く違っていたので驚きました。
 子どもの失踪に端を発して、警察権力の腐敗や市民への弾圧、そして猟奇殺人事件と次々と重いテーマが展開していきます。
 特に1920年代のロサンゼルス警察の腐敗と市民への弾圧は見ていて大変恐ろしく、この話しが事実ということに衝撃を受けました。自分たちに楯突く市民を強制的に精神病院に収容していくシーンは見ていて身が凍る思いをしました。
一方、猟奇殺人事件に関しては衝撃的な内容を抑えたタッチで描いていきます。犯人を過度にエキセントリックに描くことを避け、弱い面を持った人間として淡々と描いています。
本作品において、個人の猟奇殺人事件よりも権力による組織犯罪の方に比重を置いて描いているところに、イーストウッド監督の権力への反骨精神が感じられます。

本作品はセンセーショナルで重い内容を扱っていますが、基本的には母親の突然いなくなった子を思う気持ちを終始描いています。警察の腐敗も猟奇殺人事件の犯人も、主人公の母にとっては腹立たしいとは言え味関心はそこまでなく、ただ子どもと再会することだけを望む前に立ちはだかる困難として立ち向かっていきます。その姿を見て、私は母の力強さに心打たれると同時に、北朝鮮拉致被害者の家族の方のことが頭をよぎりました。突然子を失った親の耐え難い悲しみと何としても再会したいという気持ち、その前に立ちはだかる権力の思惑。いつの時代にも起こりうる出来事だと、本作品を見て思いました。

映画の技術的な面から見ても本作品は文句のつけようがないほど完璧です。セットやCGで20年代のロサンゼルスを見事再現していますし、彩度を落として陰影に富んだ映像を生み出した撮影や照明の技術も大変素晴らしいです。またイーストウッド監督自らが作曲したスコアは切ないメロディーは非常に印象に残ります。

 演技に関しても、アンジェリーナ・ジョリーが今まで出演した映画とは全く違う役に挑みながら、見事にその役を演じきっています。正直、意識してみないとアンジェリーナ・ジョリーだと分からないほどです。特に殺人鬼と刑務所で出会うシーンの迫真の演技は見ていて圧倒されました。本作品で彼女がアカデミー賞を取れなかったのが残念です。
また脇役では悪役警部を演じたジェフリー・ドノヴァンの憎憎しい演技が映画を引き立てていました。

イーストウッド監督の演出はいつもながら無駄なく淡々とした語り口で子どもを捜す母親の前に立ちはだかる困難を描いていきます。非常に陰惨なテーマを扱いながらも、最後にかすかな希望を持たせる演出はさすがです。

個人的には今年に入って見た映画で一番完成度が高く、内容も見終わって深い余韻を与えてくれる作品でした。80歳を超えて、このような素晴らしい映画を作ることが出来るクリント・イーストウッド監督には本当に脱帽です。

上映時間 142分
製作国 アメリカ
製作年度 2008年
監督: クリント・イーストウッド 
脚本: J・マイケル・ストラジンスキー 
撮影: トム・スターン 
プロダクションデザイン: ジェームズ・J・ムラカミ 
衣装デザイン: デボラ・ホッパー 
編集: ジョエル・コックス、ゲイリー・ローチ 
音楽: クリント・イーストウッド 
出演: アンジェリーナ・ジョリー 
ジョン・マルコヴィッチ 
ジェフリー・ドノヴァン 
コルム・フィオール 
ジェイソン・バトラー・ハーナー
エイミー・ライアン 
マイケル・ケリー 

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