『乱』この映画を見て!
第240回『乱』 今回紹介する作品は黒澤監督が自分のライフワークと位置づけた時代劇『乱』です。本作品はシェークスピアの悲劇『リア王』を原作に、舞台を日本の戦国時代に置き換えてシナリオが書かれました。
非常にスケールの大きな作品だけあって、フランスの映画会社からも資金援助を受けて、日仏合作映画として製作されました。
撮影は当時の日本映画としては大変大規模で、エキストラを1000人雇った合戦シーンや数億円かけて城を建てて燃やすなど話題になりました。
ストーリー:『3つの城を治める一文字秀虎は3人の息子たちと狩りに出かけていた。そこで秀虎は突然息子たちに家督を3人の息子に継がせ自分は隠遁することを告げる。
しかし、父親思いの三男・三郎は父親の提案に対して反論。怒った秀虎は三郎をその場で追放した。その場にいた客人の一人である隣の国の主・藤巻は三郎を気に入り、婿として迎え入れることを申し出る。
秀虎は長男・太郎に本丸を譲り、二の丸で隠居生活を送り始める。しかし、隠居した身とはいえ城の中で未だに影響力を持つ父親に対し、太郎は危惧して「今後は自分が領主なのだから、一切の事は自分に従うように」と迫る。そんな太郎の薄情な態度に立腹した秀虎は家来を連れて次男・次郎の所に行く。だが次郎も「家来抜きでないと迎え入れない」とそっけなく断る。家来を見捨てることなど出来ない秀虎は、野をさまよう事態に陥ってしまう。
その頃、太郎の奥方である楓の方は親兄弟を秀虎に殺された恨みを晴らすために太郎を巧みに動かして失墜の計画を立てていた。』
私は黒澤監督のカラー作品の中で本作品が一番見応えがあり大好きです。前作の『影武者』より映像はさらにスケールが大きく重厚ですし、因果応報のストーリーは胸を打つものがあります。
黒澤監督の演出は『影武者』よりも一段と能の舞台を意識したものとなっており、それに合わせてメイクや衣装も大変派手なものになっています。(ちなみに本作品のカラフルな衣装でワダエミはアカデミー賞最優秀衣装賞を受賞しました。)
本作品は戦国時代を舞台にしていますが、現在にも通ずるテーマが数多く内包されています。財産をめぐり争う子どもたち、子どもに命を狙われる父親、肉親を殺された憎しみから復讐を狙う女。いつの世も変わらぬ人間の愚かさや醜さ、そして業の深さを見ていて痛感させられます。
また、本作品では人間の愚かな行いと対比する形で自然の雄大な景色が映し出され、神の前では人間もちっぽけな生き物に過ぎないという印象を見る者に与えます。
役者の演技に関して言うと、仲代達矢のオーバーリアクション気味の演技は見る人によってはくどく感じるかもしれませんが、個人的には作風にあっていたと思います。
しかし、本作品では何と言っても原田美枝子の演技がすばらしく、復讐を誓う女性の恐ろしさやしたたかさを見事に表現していました。特に刃物を突きつけるシーンと泣きながら蛾を殺すシーンの演技は強烈でした。
また、植木等や井川比佐志も良い演技をしていたと思います。
ピーターの起用に関しては賛否両論あるところですが、飄々と本作品の狂言回しの役割を果たしていたと個人的には思います。
乱れた世界の中で自らの罪から狂っていく主人公。狂うことで何とか生き延びようとしながら、最後に悲惨な現実を目の当たりにして世を去っていく悲劇。神や仏は罪深い人間を見捨てたわけでなく、救いきれない人間の愚かさに涙していることを示すラストシーン。黒澤監督の晩年の人間観が垣間見れた気がします。
本作品は賛否両論ありますが、黒澤監督を語る上では外せない作品です。また日本映画としても、ここまでのスケールの作品はなかなかありません。ぜひ一度見ることをお勧めします。
上映時間 162分
製作国 日本/フランス
製作年度 1985年
監督: 黒澤明
原作: ウィリアム・シェイクスピア 『リア王』
脚本: 黒澤明 , 小國英雄, 井手雅人
撮影: 斎藤孝雄 , 上田正治
美術: 村木与四郎, 村木忍
音楽: 武満徹
演奏: 札幌交響楽団
ネガ編集: 南とめ
衣裳デザイナー: ワダエミ
殺陣: 久世竜 , 久世浩
助監督: 岡田文亮
出演:
仲代達矢
寺尾聰
根津甚八
隆大介
原田美枝子
宮崎美子
植木等
井川比佐志
ピーター
油井昌由樹
伊藤敏八
児玉謙次
加藤和夫
松井範雄
鈴木平八郎
南條礼子
古知佐和子
東郷晴子
神田時枝
音羽久米子
加藤武
田崎潤
野村武司
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