『影武者』この映画を見て!
第239回『影武者』 今回紹介する作品は黒澤監督が久しぶりに挑戦した時代劇『影武者』です。黒澤監督としては前作『デルス・ウラーザ』から約5年ぶりの作品に当たります。
莫大な制作費を調達するためにジョージ・ルーカスとフランシス・フォード・コッポラが海外版プロデューサーとして名を連ね、役者の多くを一般公募から選出するなど、製作にあたっては数多くの話題がありました。
また、主人公を演じる予定だった勝新太郎の撮影2日目にしての突然の降板、『どん底』からコンビを組んでいた音楽家である佐藤勝の黒澤監督との意見対立による降板など完成までにトラブルも数多くありました。
そんな中、完成した作品はカンヌ国際映画祭で最高の賞であるパルム・ドールを受賞しました。
ストーリー:「織田信長との決戦を前に敵の銃弾で負傷した武田信玄は遺言として「3年間死亡した事を隠せ」と弟の武田信廉らに告げる。そしてついに信玄が亡くなり、遺言を聞いていた者たちは影武者を立てることにする。影武者として選ばれたのは、盗みの罪で処刑されるところを信廉に助けられた男だった。
信玄そっくりの男は最初影武者に乗り気でなかったが、次第に影武者としての役割を受け入れる。そんな中、武田家を何とか追い込もうとする織田信長と徳永家康は信玄が死んだかどうか探りを入れていた。」
個人的に本作品は芸術映画として超一級の作品ですが、娯楽映画としては正直いまいちです。
重厚な絵画のような映像美と終始漲る緊張感あふれる演出は大変見応えがありますし、影武者を主人公とにして動乱の戦国時代を描くという内容も悪くはありません。
しかし、面白いかといえばテンポが悪く、様式美にとらわれすぎて、退屈なところがあります。ストーリーも登場人物の複雑な心情があまり伝わってきません。
本作品を始めてみた時、冒頭の武田信廉が信玄に影武者を紹介するシーンの重厚な舞台劇を見ているかのような演出に、これから始まる物語に対して大きな期待感を抱きました。
映画の前半は映像の美しさは堪能できましたが、話の展開自体は正直ワンシーンワンシーンが長すぎて眠くなるところもありました。
中盤に入り、盗賊の男が影武者となり、重臣たちが周囲にばれないように気を配るあたりから、段々面白く見ることができるようになりました。影武者であることがばれないように取り繕う主人公や重臣たちの振る舞いは見ていて手に汗握るものがありましたし、主人公が次第に信玄が乗り移ったかのように振舞っていく姿も見応えがありました。
ただ、影武者が夢の中で信玄と出会うシーンはセットが安っぽくて浮いていたような気がします。また、夜の戦闘シーンも暗くて何が何だが正直良く分かりませんでした。
後半は主人公が影武者であることがばれて追い出され、武田家が長篠の合戦で滅亡するまでが描かれますが、栄枯盛衰・諸行無常を感じさせる展開が印象的でした。主人公が追い出された後も武田家が気になり後を追っていくところが何とも哀れでした。
クライマックスの長篠の合戦も直接的な戦闘シーンを避けて、敢えて合戦後の倒れた馬や死体を見せたのも戦いの空しさや悲壮感が見ていて伝わってきました。
役者の演技に関して言うと、主役の仲代達矢の演技は難しい役を見事にこなしています。ただ、時折演技が少し硬いような気もしました。勝新太郎が演じたらどんな感じになったか分かりませんが、もう少し肩の力を抜いてコミカルに演じても良い場面もあったと思います。
他の役者に関しては山崎努や大滝秀治は手堅い演技をしていますし、新人として起用された織田信長役の隆大介の若々しい演技も印象的でした。
本作品はカリスマ的なリーダーを失った部下たちが何とか代役を立てて、組織を守ろうとするが守りきれない悲劇を重厚に描いています。リーダーが偉大すぎるのは組織にとっては必ずしも吉とは言えないのでしょうね。
また、どんな強い組織でも未来永劫の繁栄は続かない。私は本作品を見て、人の世の儚さを強く思いました。
本作品はモノクロ時代の黒澤作品に比べると面白さはいまいちですが、スケールの大きな映像と緊張感漲る演出は見応え十分です。一度は見てみる価値のある作品です。
上映時間 179分
製作国 日本
製作年度 1980年
監督: 黒澤明
脚本: 黒澤明、井手雅人
撮影: 斎藤孝雄、 上田正治
美術: 村木与四郎
編集: 黒澤明
音楽: 池辺晋一郎
演奏: 新日本フィルハーモニー交響楽団
アドバイザー: 橋本忍
監督助手: 岡田文亮
監督部チーフ: 本多猪四郎
撮影協力者: 中井朝一 、 宮川一夫
出演:
仲代達矢
崎努
原健一
根津甚八
大滝秀治
隆大介
油井昌由樹
桃井かおり
倍賞美津子
室田日出男
志浦隆之
清水紘治
清水のぼる
清水利比古
志村喬
藤原釜足
浦田保利
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コメント
オカピーさんのブログいつも拝見させてもらっています。
映画に関しては、見た年代によって感想って変わってきますよね。
若いときに退屈な作品が年を重ねるに連れて感動したり、その逆のこともあったり。
本作品も10年後に見たら、新たな発見があり、きっと感想違うのかもしれませんね。
投稿: とろとろ | 2009年2月 4日 (水) 17時55分
いつもトラックバック有難うございます。
こちらにコメントするのは初めてと思います。忙しくてなかなかコメントを残す余裕がないのですが、TBされる記事の的を射た評価は僕はいつも頷いておりました。
本作は2週間ほど前にTB戴いたのですが、当方が忘れたか、若しくは何らかの形で前回のTBが反映されなかった模様で、今頃になってしまいました。どうもすみません。
僕はとろとろさんよりはこの作品を買っているかもしれません。
モノクロ時代の作品とは確かに受ける印象が違うのですが、娯楽映画としてもなかなかいけると思っているんです。
尤も若い頃初めて観た時には同じようなコメントをしていたのですけどね。(笑)
今後とも宜しくお願い致します。
投稿: オカピー(プロフェッサー) | 2009年1月31日 (土) 03時41分