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2009年1月

『007/慰めの報酬』映画鑑賞日記!

Photo  前作『007/カジノ・ロワイヤル』のエンディング1時間後から話が始まるという007シリーズ初めて続編というスタイルを取った第22作目『007/慰めの報酬』。
 前作が最近の007シリーズでは大変完成度が高く面白い作品に仕上がっていたので、本作品も大変期待して劇場に足を運びました。

 映画は冒頭から激しいカーチェイスで始まり、体を張った生々しいアクションシーンが次から次へと矢継ぎ早に展開していきます。また、007シリーズらしく陸海空それぞれの乗り物を駆使したスリリングかつ迫力満点のシーンも数多くあり、最後まで飽きることなく見ることができます。
 ただ、手ぶれが多いカメラワークは臨場感はあるものの、正直誰が何をしているのか把握しにくかった点が残念でした。
 
 ジェームス・ボンドを演じるのは前作から起用されたダニエル・クレイグ。今までのダンディでスマートなボンドとは違うワイルドで硬派なボンドを演じています。自分でスタントもこなしたアクションシーンでの切れのある動きは歴代のボンドの中でも最高に素晴らしいです。ただ、今までのボンドにあった知性やユーモアがあまり感じられず、復讐に燃える殺人マシーンのように見えてしまうところがありました。
 
 敵のボスを演じたマチュー・アマルリックは悪役としての迫力やカリスマ性がないため、印象が薄いキャラクターでした。悪役にあまり魅力がなかったので、ラストの対決もいまいち盛り上がりに欠けていました
 ボンドガールのマチュー・アマルリックは見た目も美しく、家族を殺され復讐に燃える女性を見事に演じていたと思います。
 また、前作に引き続き登場したジャンカルロ・ジャンニーニの渋い演技も大変印象的でした。

 脚本には『クラッシュ』でアカデミー脚本賞を受賞したポール・ハギスが前作に続いて参加。復讐からの解放というテーマを前面に押し出したストーリーになっています。敵の組織の陰謀も現実を反映したリアルな設定となっています。
 また、監督には『チョコレート』や『ネバーランド』など人間ドラマをどちらかといえば得意とするマーク・フォスターが起用されており、ボンドの葛藤と成長に焦点を当て、それまでとは違う007シリーズを作り出そうとする意気込みが感じられました。
 
 ただ、上映時間が1時間46分と歴代の007シリーズの中でも一番短いため、敵の動きや主人公たちの葛藤がいまいち伝わりにくかったような気がします。
 その割りに中盤間延びしているところもあり2時間以上のある映画を見ているような感じも受けました。
 個人的にはもう少しメリハリをつけて、じっくり描くところは描いても良かったのではと思ったりもしました。
 
 あと、本作品には『007/ゴールドフィンガー』をオマージュしたシーンがあるのですが、007シリーズ好きにとってはニヤリとできるシーンでした。

 本作品を見ての個人的な感想は、退屈はしないけど、完成度や面白さでは前作に劣るかなと思います。また、007シリーズを変えようとする意気込みは分かるのですが、あまり変えすぎると007シリーズが持っていた特長や魅力が薄れてしまうのではとも思いました。ハードボイルドなボンドも悪くありませんが、もう少しユーモアやスマートさがあっても良いかと思います。

今作である程度ボンドもMI-6のスパイとして成長したと思うので、次回作でどのような活躍をするのかを楽しみにしたいと思います。


上映時間 106分
製作国 イギリス/アメリカ
製作年度 2008年
監督: マーク・フォースター 
原作: イアン・フレミング 
脚本: ニール・パーヴィス,ロバート・ウェイド,ポール・ハギス 
撮影: ロベルト・シェイファー 
プロダクションデザイン: デニス・ガスナー 
衣装デザイン: ルイーズ・フログリー 
編集: マット・チェシー,リチャード・ピアソン 
音楽: デヴィッド・アーノルド 
テーマ曲: モンティ・ノーマン(ジェームズ・ボンドのテーマ)
主題歌: アリシア・キーズ, ジャック・ホワイト 
出演:
ダニエル・クレイグ 
オルガ・キュリレンコ
マチュー・アマルリック
ジュディ・デンチ
ジェフリー・ライト
ジェマ・アータートン
イェスパー・クリステンセン
デヴィッド・ハーバー 
アナトール・トーブマン
ロシー・キニア
ジャンカルロ・ジャンニーニ

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『バロン』この映画を見て!

第241回『バロン』
Photo  今回紹介する作品は独特なヴィジュアルセンスを持つ鬼才テリー・ギリアムが「ほら吹き男爵の物語」を映画化した『バロン』です。
本作品は巨額の制作費をかけた割に興行的に失敗して、ギリアム監督はしばらく不遇の時代を迎えることになります。
 しかし、本作品で見せてくれるギリアム監督の独創的イマジネーションの数々はギリアムファンにはたまりません。特に月面のシーンとヴィーナスが登場するシーンはそのヴィジュアルセンスに圧倒されます。
 また、モンティ・パイソンで活躍していただけあって子供が見る甘いファンタジー映画にはなっておらず、ブラックユーモアや下ネタも満載です。

ストーリー:「18世紀、トルコ軍占領下にあり戦火の広がる町。そこで「ほら吹き男爵の冒険」の演劇が上演されていた。そこへ突然本物のほら吹き男爵(バロン)が現れ、自分のせいでトルコ軍と戦争になったと言う。しかし、誰も真剣に相手をしなかったが、劇団の少女サリーだけは彼が本物のバロンであることを見抜く。サリーはバロンにトルコ軍を倒すために協力してほしいと依頼され、一緒に闘う仲間を連れてくるために気球で旅に出る。」

 本作品の最大の見所は何と言っても完璧な童話の世界の映像化です。セットとローテクな特撮で作り上げられたファンタジーの世界は見た目はいかにも作り物といった感じです。しかし、その作り込みが徹底されているので逆にCGでは出せないおとぎ話の世界のリアリティが表現できていたと思います。ファンタジー映画では細部への気配りがないと観客が入り込めなくなることが、本作品を見ると良く分かります。 

 出演者も大変豪華です。特に注目は、若き日のユマ・サーマンやサラ・ポーリーの出演と、ロビン・ウィリアムズがコメディアンとしてはじけた演技です。ユマ・サーマンはヴィーナスの役をしていますが、その美しさはため息が出るほどです。また、サラ・ポーリーも歯が抜けて幼いですが、しっかりした女の子役を見事に演じています。
 また、ギリアム監督の盟友であるエリック・アイドル、 ジョナサン・プライスが出演しているところも嬉しい限りです。 プライスに関しては『未来世紀ブラジル』とは打って変わって、がちがちの官僚役を演じていて面白かったです。

 ストーリーに関して印象的だったのは、理性の時代に対する批判。理性的と思われる行動が人を抑圧し、一見非理性的な行動が人を解放する。理性に埋め尽くされた時代に対する監督の批判精神を感じました。
 
 本作品の独創的な映像と物語をぜひ皆さんも体験して、理性の時代に息抜きをしてください!

上映時間 125分
製作国 アメリカ
製作年度 1989年
監督: テリー・ギリアム 
原作: ゴットフリート・ビュルガー 
脚本: チャールズ・マッケオン ,テリー・ギリアム 
撮影: ジュゼッペ・ロトゥンノ 
音楽: マイケル・ケイメン 
出演:
 ジョン・ネヴィル
 サラ・ポーリー
エリック・アイドル
オリヴァー・リード
ジョナサン・プライス 
  ロビン・ウィリアムズ
ユマ・サーマン 
ヴァレンティナ・コルテーゼ 
アリソン・ステッドマン
ウィンストン・デニス 
チャールズ・マッケオン 
ジャック・パーヴィス 
ビル・パターソン 
ピーター・ジェフリー
レイ・クーパー

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『乱』この映画を見て!

第240回『乱』 
Photo_2 今回紹介する作品は黒澤監督が自分のライフワークと位置づけた時代劇『乱』です。本作品はシェークスピアの悲劇『リア王』を原作に、舞台を日本の戦国時代に置き換えてシナリオが書かれました。
 非常にスケールの大きな作品だけあって、フランスの映画会社からも資金援助を受けて、日仏合作映画として製作されました。
 撮影は当時の日本映画としては大変大規模で、エキストラを1000人雇った合戦シーンや数億円かけて城を建てて燃やすなど話題になりました。

ストーリー:『3つの城を治める一文字秀虎は3人の息子たちと狩りに出かけていた。そこで秀虎は突然息子たちに家督を3人の息子に継がせ自分は隠遁することを告げる。
 しかし、父親思いの三男・三郎は父親の提案に対して反論。怒った秀虎は三郎をその場で追放した。その場にいた客人の一人である隣の国の主・藤巻は三郎を気に入り、婿として迎え入れることを申し出る。
 秀虎は長男・太郎に本丸を譲り、二の丸で隠居生活を送り始める。しかし、隠居した身とはいえ城の中で未だに影響力を持つ父親に対し、太郎は危惧して「今後は自分が領主なのだから、一切の事は自分に従うように」と迫る。そんな太郎の薄情な態度に立腹した秀虎は家来を連れて次男・次郎の所に行く。だが次郎も「家来抜きでないと迎え入れない」とそっけなく断る。家来を見捨てることなど出来ない秀虎は、野をさまよう事態に陥ってしまう。
 その頃、太郎の奥方である楓の方は親兄弟を秀虎に殺された恨みを晴らすために太郎を巧みに動かして失墜の計画を立てていた。』

 私は黒澤監督のカラー作品の中で本作品が一番見応えがあり大好きです。前作の『影武者』より映像はさらにスケールが大きく重厚ですし、因果応報のストーリーは胸を打つものがあります。
 黒澤監督の演出は『影武者』よりも一段と能の舞台を意識したものとなっており、それに合わせてメイクや衣装も大変派手なものになっています。(ちなみに本作品のカラフルな衣装でワダエミはアカデミー賞最優秀衣装賞を受賞しました。)

 本作品は戦国時代を舞台にしていますが、現在にも通ずるテーマが数多く内包されています。財産をめぐり争う子どもたち、子どもに命を狙われる父親、肉親を殺された憎しみから復讐を狙う女。いつの世も変わらぬ人間の愚かさや醜さ、そして業の深さを見ていて痛感させられます。
 また、本作品では人間の愚かな行いと対比する形で自然の雄大な景色が映し出され、神の前では人間もちっぽけな生き物に過ぎないという印象を見る者に与えます。

 役者の演技に関して言うと、仲代達矢のオーバーリアクション気味の演技は見る人によってはくどく感じるかもしれませんが、個人的には作風にあっていたと思います。
 しかし、本作品では何と言っても原田美枝子の演技がすばらしく、復讐を誓う女性の恐ろしさやしたたかさを見事に表現していました。特に刃物を突きつけるシーンと泣きながら蛾を殺すシーンの演技は強烈でした。
 また、植木等や井川比佐志も良い演技をしていたと思います。
 ピーターの起用に関しては賛否両論あるところですが、飄々と本作品の狂言回しの役割を果たしていたと個人的には思います。

 乱れた世界の中で自らの罪から狂っていく主人公。狂うことで何とか生き延びようとしながら、最後に悲惨な現実を目の当たりにして世を去っていく悲劇。神や仏は罪深い人間を見捨てたわけでなく、救いきれない人間の愚かさに涙していることを示すラストシーン。黒澤監督の晩年の人間観が垣間見れた気がします。

 本作品は賛否両論ありますが、黒澤監督を語る上では外せない作品です。また日本映画としても、ここまでのスケールの作品はなかなかありません。ぜひ一度見ることをお勧めします。

上映時間 162分
製作国 日本/フランス
製作年度 1985年 
監督: 黒澤明 
原作: ウィリアム・シェイクスピア   『リア王』
脚本: 黒澤明 , 小國英雄, 井手雅人 
撮影: 斎藤孝雄 , 上田正治 
美術: 村木与四郎, 村木忍 
音楽: 武満徹 
演奏: 札幌交響楽団 
ネガ編集: 南とめ 
衣裳デザイナー: ワダエミ 
殺陣: 久世竜 , 久世浩 
助監督: 岡田文亮 
出演:
仲代達矢
寺尾聰 
根津甚八
隆大介
原田美枝子
宮崎美子 
植木等 
井川比佐志
ピーター 
油井昌由樹
伊藤敏八 
児玉謙次 
加藤和夫 
松井範雄
鈴木平八郎 
南條礼子
古知佐和子
東郷晴子 
神田時枝 
音羽久米子
加藤武 
田崎潤 
野村武司

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『影武者』この映画を見て!

第239回『影武者』
Photo  今回紹介する作品は黒澤監督が久しぶりに挑戦した時代劇『影武者』です。黒澤監督としては前作『デルス・ウラーザ』から約5年ぶりの作品に当たります。
 莫大な制作費を調達するためにジョージ・ルーカスとフランシス・フォード・コッポラが海外版プロデューサーとして名を連ね、役者の多くを一般公募から選出するなど、製作にあたっては数多くの話題がありました。
 また、主人公を演じる予定だった勝新太郎の撮影2日目にしての突然の降板、『どん底』からコンビを組んでいた音楽家である佐藤勝の黒澤監督との意見対立による降板など完成までにトラブルも数多くありました。
 そんな中、完成した作品はカンヌ国際映画祭で最高の賞であるパルム・ドールを受賞しました。

ストーリー:「織田信長との決戦を前に敵の銃弾で負傷した武田信玄は遺言として「3年間死亡した事を隠せ」と弟の武田信廉らに告げる。そしてついに信玄が亡くなり、遺言を聞いていた者たちは影武者を立てることにする。影武者として選ばれたのは、盗みの罪で処刑されるところを信廉に助けられた男だった。
 信玄そっくりの男は最初影武者に乗り気でなかったが、次第に影武者としての役割を受け入れる。そんな中、武田家を何とか追い込もうとする織田信長と徳永家康は信玄が死んだかどうか探りを入れていた。」

 個人的に本作品は芸術映画として超一級の作品ですが、娯楽映画としては正直いまいちです。
 重厚な絵画のような映像美と終始漲る緊張感あふれる演出は大変見応えがありますし、影武者を主人公とにして動乱の戦国時代を描くという内容も悪くはありません。
 しかし、面白いかといえばテンポが悪く、様式美にとらわれすぎて、退屈なところがあります。ストーリーも登場人物の複雑な心情があまり伝わってきません。

 本作品を始めてみた時、冒頭の武田信廉が信玄に影武者を紹介するシーンの重厚な舞台劇を見ているかのような演出に、これから始まる物語に対して大きな期待感を抱きました。
 映画の前半は映像の美しさは堪能できましたが、話の展開自体は正直ワンシーンワンシーンが長すぎて眠くなるところもありました。
 中盤に入り、盗賊の男が影武者となり、重臣たちが周囲にばれないように気を配るあたりから、段々面白く見ることができるようになりました。影武者であることがばれないように取り繕う主人公や重臣たちの振る舞いは見ていて手に汗握るものがありましたし、主人公が次第に信玄が乗り移ったかのように振舞っていく姿も見応えがありました。

 ただ、影武者が夢の中で信玄と出会うシーンはセットが安っぽくて浮いていたような気がします。また、夜の戦闘シーンも暗くて何が何だが正直良く分かりませんでした。

 後半は主人公が影武者であることがばれて追い出され、武田家が長篠の合戦で滅亡するまでが描かれますが、栄枯盛衰・諸行無常を感じさせる展開が印象的でした。主人公が追い出された後も武田家が気になり後を追っていくところが何とも哀れでした。
 クライマックスの長篠の合戦も直接的な戦闘シーンを避けて、敢えて合戦後の倒れた馬や死体を見せたのも戦いの空しさや悲壮感が見ていて伝わってきました。
 
 役者の演技に関して言うと、主役の仲代達矢の演技は難しい役を見事にこなしています。ただ、時折演技が少し硬いような気もしました。勝新太郎が演じたらどんな感じになったか分かりませんが、もう少し肩の力を抜いてコミカルに演じても良い場面もあったと思います。
 他の役者に関しては山崎努や大滝秀治は手堅い演技をしていますし、新人として起用された織田信長役の隆大介の若々しい演技も印象的でした。

 本作品はカリスマ的なリーダーを失った部下たちが何とか代役を立てて、組織を守ろうとするが守りきれない悲劇を重厚に描いています。リーダーが偉大すぎるのは組織にとっては必ずしも吉とは言えないのでしょうね。
 また、どんな強い組織でも未来永劫の繁栄は続かない。私は本作品を見て、人の世の儚さを強く思いました。

 本作品はモノクロ時代の黒澤作品に比べると面白さはいまいちですが、スケールの大きな映像と緊張感漲る演出は見応え十分です。一度は見てみる価値のある作品です。

上映時間 179分
製作国 日本
製作年度 1980年
監督: 黒澤明 
脚本: 黒澤明、井手雅人 
撮影: 斎藤孝雄、 上田正治 
美術: 村木与四郎 
編集: 黒澤明 
音楽: 池辺晋一郎 
演奏: 新日本フィルハーモニー交響楽団 
アドバイザー: 橋本忍 
監督助手: 岡田文亮 
監督部チーフ: 本多猪四郎 
撮影協力者: 中井朝一 、 宮川一夫 
出演:
仲代達矢
崎努
原健一
根津甚八
大滝秀治
隆大介 
油井昌由樹 
桃井かおり 
倍賞美津子
室田日出男
志浦隆之 
清水紘治 
清水のぼる
清水利比古
志村喬
藤原釜足 
浦田保利 

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『大脱走』この映画を見て!

第238回『大脱走』
Photo  今回紹介する作品は第二次大戦中にドイツの捕虜収容所から連合軍の捕虜が大量脱走したという実話をオールスターキャストで映画化した『大脱走』です。

ストーリー:「第2次大戦も末期を迎えた頃、ドイツ北部の第3捕虜収容所に、連合軍の捕虜が移送されてくる。彼らは過去に何度も脱走を試みた強者どもで、その処遇にドイツ軍は手を焼いていた。
 彼らは収容所に入るやいなや、脱走を企てようとする。しかし、ドイツ軍の強固な監視体制の前に敢えなく失敗してしまう。
 そんな中、過去に何度も脱走計画を指揮したビックXことバートレットが収監されてくる。パートレットはトンネルを掘って250人の脱走を図る計画を立て、脱走のプロたち共に準備を始める。」

 本作品は第2次大戦の捕虜収容所を舞台にした映画でありますが、重苦しくなく、誰が見ても楽しめる娯楽映画に仕上がっています。
 上映時間は3時間近くありますが、最後まで飽きることなく手に汗握って見ることができます。
 前半は捕虜たちが看守の目を盗んでトンネルを掘って脱走するまでの過程を時にユーモアを挟みながらスリリングに描いています。それぞれの捕虜が役割を担い一致団結して脱走に取り組む姿は、見ていてチームプレイのあり方の勉強になります。また要所要所で描かれる捕虜たちの人間ドラマも印象的でした。

 後半は収容所から脱走に成功した者たちがドイツから無事脱出できるかどうかが緊張感たっぷりに描かれますが、予想以上にシビアな展開が待ち受けており、成功した人間が3人という悲しい結末を迎えます。
 しかし、ラストはスティーヴ・マックィーンの力強いショットで終わるので、見終わって清々しい気持ちになれます。
 私は本作品を見るたびに、どんな状況におかれても不屈の精神で立ち向かっていこうという気持ちにさせられます。

 また、本作品はスティーヴ・マックィーンを始めとして、ジェームズ・ガーナー、リチャード・アッテンボロー、ジェームズ・コバーン、チャールズ・ブロンソンと当時の人気若手俳優を一堂に集めて撮影しており、一人一人に映画の中で見せ場があります。
 しかし、その中でもスティーヴ・マックィーンが断トツに光り輝いています。前半の何度失敗しても諦めずに逃亡を図るシーン、後半のバイクでの逃走シーン、彼が出るシーンは全て格好良く、同じ男として憧れます。

 あと、本作品はエルマー・バーンスタインが手がけた音楽が大変すばらしいです。マーチ調のテーマ曲は明るく軽快で聞いていて心地良く、つい口ずさみたくなってしまいます。このテーマ曲のおかげで映画の雰囲気がさわやかになったところが大きいと思います。

 本作品で描かれる自由を求めて闘う男たちの姿は何度見ても格好良く痛快です。本作品をまだ見たことない方は一度ご覧になってください。その面白さにはまると思います。 

上映時間 168分
製作国 アメリカ
制作年度 1963年
監督: ジョン・スタージェス 
製作: ジョン・スタージェス 
原作: ポール・ブリックヒル 
脚本: ジェームズ・クラヴェル 
W・R・バーネット 
撮影: ダニエル・ファップ 
編集: フェリス・ウェブスター 
音楽: エルマー・バーンスタイン 
出演:
 スティーヴ・マックィーン
  ジェームズ・ガーナー 
  リチャード・アッテンボロー 
  ジェームズ・コバーン
  チャールズ・ブロンソン
  デヴィッド・マッカラム 
  ハンネス・メッセマー 
  ドナルド・プレザンス 
  トム・アダムス 
  ジェームズ・ドナルド 
  ジョン・レイトン 
  ゴードン・ジャクソン 
  ナイジェル・ストック 
  アンガス・レニー 
  ロバート・グラフ 
  ジャド・テイラー

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『ブラック・レイン』この映画を見て!

第237回『ブラック・レイン』
Photo 今回紹介する作品は大阪ロケと松田優作の演技が大変話題となったハリウッド映画『ブラック・レイン』です。
 監督は『エイリアン』や『ブレード・ランナー』で独自の映像美を見せたリドリー・スコットが担当。撮影は後に『スピード』を監督したヤン・デ・ボン、音楽は『バックドラフト』等のアクション映画の音楽を数多く手がけるハンス・ジマーと大変豪華なスタッフが結集。
 俳優もハリウッドからはマイケル・ダグラス、アンディ・ガルシアと知名度の高い役者が起用さ。日本からは高倉健、松田優作、若山富三郎 と主役を張れる大物クラスの役者が数多く起用されています。

ストーリー:「ニューヨークの刑事ニックは白昼のレストランで日本人のヤクザである佐藤が殺害する現場に遭遇する。ニックは部下のチャーリーと共に犯人の佐藤を逮捕する。ニックとチャーリーは大阪に佐藤を護送するが、空港で罠にはめられ、佐藤を逃がしてしまう。ニックは佐藤を追うために日本にとどまり、大阪府警の松本警部補と行動を共にする。日本の警察の捜査方法や習慣の違いに苛立つニックは独自で動こうとするが、そんな中でチャーリーが佐藤に殺されてしまう。」

 私は本作品を初めてみたのは中学校の時だったと思いますが、普段見慣れた大阪の街がまるで近未来の街のように見えてしまうリドリー・スコットの映像マジックに驚きました。蒸気と煙が吹き出し、ネオンが煌々と輝く道頓堀も梅田はまるで『ブレード・ランナー』の舞台となった街のようです。
 また本作品は所々に『ブレード・ランナー』を彷彿させるシーンがありましたね。うどんを食べるところとか、スパンコールが手がかりになるところとか・・。
 
 ストーリーに関しては別にこれと言って目新しいものはありません。異国の地で現地の人間の協力を得て犯人を追いつめていくハリウッド映画にはありがちな展開です。
 ただ、好き勝手するマイケル・ダグラス扮するアメリカの刑事と規則にがんじがらめの高倉健扮する日本の刑事の対比が面白かったですし、最初反目しあっていた2人が友情を結ぶベタな展開も見ていて心が熱くなります。

 ラストのアクションシーンは良くも悪くもハリウッド映画らしい派手な見せ場となっていて、映画の全体的な雰囲気からは浮いているような気がします。(ちなみにラストのアクションシーンは日本ではなくハリウッドでロケされています。)

 あと、私が本作品で好感を持てたのは日本人の描き方がハリウッド映画にしては誇張や偏見が思ったより少ないところ。もちろん、それは違うだろうと日本人ならつっこんでしまうシーンはいくつかありましたが、他のハリウッドが日本をテーマに描いた映画に比べればまともです。

 そして、本作品を語るときに絶対に外せないのが松田優作の圧倒的な存在感。彼は本作品の後に惜しくもガンで亡くなりましたが、本作品での彼の狂気迫る演技はマイケル・ダグラスや高倉健の演技を完全に上回っています。彼の演技を見るだけでも本作品は見る価値があると言っても過言ではありません。特に冒頭のレストランでの殺害シーンと中盤のチャーリーを殺害するシーンの彼の演技は鳥肌が立つほど悪役としての魅力に満ちています。
 リドリー・スコット監督は本作品での彼の演技を高く評価して、当初予定していたラストーシーンを変更させたそうです。
 もし彼が生きていたらハリウッドに進出して活躍していたと思います。本当に彼が亡くなったのは残念な限りです。

上映時間 125分
製作国 アメリカ
制作年度 1989年
監督: リドリー・スコット 
脚本: クレイグ・ボロティン , ウォーレン・ルイス 
撮  ヤン・デ・ボン 
音楽: ハンス・ジマー 
出演:
マイケル・ダグラス
高倉健
アンディ・ガルシア 
松田優作 
ケイト・キャプショー 
若山富三郎
内田裕也
國村隼 
安岡力也
神山繁 
小野みゆき
島木譲二 
ガッツ石松

 

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久石譲とミニマル・ミュージック

   久石譲の音楽というと、多くの人は宮崎アニメで流れてくるような美しく心温めるメロディーが頭に浮かぶと思います。
 しかし、久石さんは元々ミニマル・ミュージックの音楽家として活動していました。ミニマル・ミュージックとは、音の動きを最小限に抑えてパターン化された音型を反復させる音楽で、音の微妙な変化を楽しみます。

 久石さんは宮崎駿監督や北野武監督の映画音楽でもミニマル・ミュージックの手法を良く使っており、美しい久石メロディーとは別に独特な印象を映画に与えています。映画の中で使用されたミニマル・ミュージックで代表的なものは、『となりのトトロ』でバス停でメイとサツキがトトロに出るときに流れる曲や『ソナチネ』のテーマ曲などがあります。

 また、初期のソロアルバムはミニマル・ミュージック路線であり、最近のオーケストラやピアノを中心とした最近のアルバムが好きな人が聞くと違和感があるかもしれません。

 そこで、今回は久石さんのミニマル・ミュージック関係のソロアルバムでお薦めのアルバムを5枚紹介します。

・『ムクワジュ』
Photo  本作品は高田みどりを中心とするパーカッション・トリオ“ムクワジュ・アンサンブル”に、YMOの松武秀樹、ラテンパーカッションの名手ペッカー、そして久石譲が参加して制作されたミニマルミュージックのアルバムです。作曲は久石さんが全て手がけており、久石さんのソロアルバムと言っても差し支えありません。アフリカの民族音楽にインスパイアされた繰り返される短いフレーズは聴いているといつの間にか何ともいえない高揚感に包まれます。

・『INFORMATION』
Information  久石さん初のソロアルバムであり、全8曲シンセによるミニマル・ミュージックです。ちななみに久石さんがボーカルを担当した曲も5つあります。
 感想としては軽快でポップな音とリズムがとても心地よく、何度聞いても飽きることがありません。
 ちなみに本作品を聞いて高畑勲と宮崎駿は『風の谷のナウシカ』の音楽に起用することを決めたそうです。

・『α・BET・CITY』
Alpha_bet_city  久石さん2枚目のソロアルバムであり、全曲シンセによるミニマル・ミュージックですが『INFORMATION』よりさらに刺激的で前衛的な曲が多いです。特にお薦めは6曲目と10曲目に就労されている「DA・MA・SHI・絵」です。
  好き嫌いは分かれると思いますが、テクノサウンドが好きな人にはお薦めです!

・『ヴィオリストを撃て』
Photo_3 久石さんが2000年に発売したソロアルバムですが、イギリスの弦楽四重奏団“バラネスク・カルテット”をゲストに迎え、一時期遠ざかっていたミニマル・ミュージックを中心とした作品が数多く収録されています。初期のアルバムに収録されていたミニマル・ミュージックの作品の他に、「DEAD Suite」というミニマル色の強い新作が収録されているのですが、この組曲は久石さんの曲の中でも大変聴き応えのある名曲です。


・『Asian X.T.C.』
Asian_xtc  アジアをテーマにした久石さんの一番新しいソロアルバムですが、ミニマル・ミュージックテイストの新曲がいくつか収録されています。ピアノと弦楽にサックスやマリンバ、さらにアジアの民族楽器によって奏でられるミニマルな旋律はアジアの悠久の時と大地を彷彿させます。
 ミニマルな曲としてお薦めは「Asian Crisis」です。

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『007/ロシアより愛をこめて』この映画を見て!

第236回『007/ロシアより愛をこめて』
Photo_2  今回紹介する作品は間もなくシリーズ21作目『007/慰めの報酬』が公開される人気スパイ映画007シリーズの2作目で最高傑作との評価が高い『007/ロシアより愛をこめて』です。

ストーリー:「犯罪組織“スペクター”はジェームズ・ボンド(ショーン・コネリー)への復讐とロシアが開発した暗号解読機を強奪するための計画を立案。スペクターの幹部であるソビエト情報局のクレッブ大佐が指揮を取り、真相を知らない部下の情報員タチアナ・ロマノヴァに暗号解読機を持ってイギリスに亡命して、ジェームス・ボンドに接触することを命令する。英国海外情報局のトルコ支局長・ケリムからタチアナの亡命要請を受けたボンドは罠の匂いを感じつつも、トルコのイスタンブールに出向く。」

 本作品はシリーズ2作目ということもあり、アクションや仕掛けは今見ると地味ですが、緊張感がありスパイ映画としての面白さにあふれています。
 特にオリエント急行内での格闘シーンは車内という限定された空間で繰り広げられる分手に汗握るものがありました。
 ラストのヘリからの襲撃からボートのチェイスシーンに至るアクションシーンも迫力満点です。
 また、本作品からQが開発したスパイグッズも登場。このグッズがどこでどう役に立つのか見ていてワクワクします。 

 ショーン・コネリー演じるジェームス・ボンドはセクシーかつダンディで歴代ボンドの中で一番かっこいいですし、ボンドガールも歴代で一番美人かつセクシーで個人的には一番お気に入りです。
 悪役を演じたロバート・ショーも渋くて強そうで、歴代の悪役の中でも印象に残りました。

 あと気になったのは中盤での女性同士のキャットファイト。映画の本編とは余り関係ないのに結構長い時間描かれ、妙にエロチックでした。サービスカットだとは思うのですが、変にインパクトがありました。

 本作品、ストーリーも無駄なくテンポよく展開していきますし、アクションとサスペンスの中にユーモアとロマンスが散りばめられ飽きることなく最後まで見ることができます。
 スパイ映画が好きな人、007好きで未見の方はぜひ一度ご覧になって下さい!

上映時間 115分
製作国 イギリス
監督: テレンス・ヤング 
原作: イアン・フレミング 
脚本: リチャード・メイボーム,ジョアンナ・ハーウッド 
撮影: テッド・ムーア 
音楽: ジョン・バリー 
テーマ曲: ライオネル・バート,モンティ・ノーマン 
主題歌: マット・モンロー 
出演:
ショーン・コネリー 
ダニエラ・ビアンキ 
ロバート・ショウ
ペドロ・アルメンダリス
ロッテ・レーニャ 
マルティーヌ・ベズウィック 
ヴラデク・シェイバル 
ウォルター・ゴテル 
バーナード・リー 
デスモンド・リュウェリン 
ロイス・マクスウェル

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『WALL・E/ウォーリー』この映画を見て!

第235回『WALL・E/ウォーリー』
Photo  今回紹介する作品はディズニー&ピクサー製作のSFラブロマンスCGアニメ『WALL・E/ウォーリー』です。ピクサーの長編CGアニメは本作品で9作目となりますが、今回は「ファインディング・ニモ」のアンドリュー・スタントンが監督を務めています。

ストーリー:「人類がゴミに埋もれた地球から宇宙へと去ってから700年間、一体のゴミ処理ロボット“ウォーリー”が人間たちの残したゴミを独り黙々と片付けていた。彼の唯一の友達はゴキブリのHAL。彼はゴミの中から宝物を見つけてはコレクションすること、そしてミュージカル映画『ハロー・ドーリー』を見ることを楽しみにしていた。
 そんなウォーリーの前にある日、ロケットに乗ってやって来た謎のロボット“イヴ”が現われる。彼はイヴに興味を持ち追いかける。そして彼はイブの気を惹こうとコレクションの1つである植物を見せる。その瞬間にイヴは動かなくなり、ロケットによってさらわれてしまう。
 ウォーリーはイヴを救うため、ロケットにしがみつき未知なる宇宙へ旅立つ。」

 私はピクサーのCGアニメはほとんど見ていますが、回を重ねるたびに映像が進化していて、本作品の近未来の荒廃した都市の描写など実写と見間違うほどリアルに作りこまれていて驚きました。 
 また、映画の前半はセリフがほとんどなく、ウォーリーやイヴの動きや表情だけで物語が展開していくところも斬新でした。ウォーリーのコミカルな姿を見て、チャップリンのサイレント映画を思い起こさせました。機械を主人公にして、ここまで感情を表現できるピクサーの手腕に感嘆します!

 映画ファンとしては『2001年宇宙の旅』をオマージュしたシーンが見られたことも嬉しかったです。それにしてもあそこであの曲が流れたのは笑ってしまいました。
 あと、MACがらみのシーンが見られたのも印象的でした。未来はマイクロソフトでなくMACが生きのこり主流になるんでしょうかね?

 肝心のストーリーに関してですが、前半のロボット同士が惹かれあっていくラブストーリーは大変面白かったのですが、後半の宇宙に出てからは文明批判及び環境保護めいた展開は正直微妙でした。伝えたいメッセージは良くわかるのですが、それを伝えるつもりならもう少し丁寧に中盤を描写しないといけないと思います。
 出来れば、最後までロボット同士のラブストーリーだけで展開してくれたら映画史に残る傑作になったと思うのですが残念です。

 エンドロールの映像は何かナウシカのオープニングロールを思い出しました。ただ、ナウシカと違って明るい未来を予感させる映像でしたが・・・。

 本作品はストーリーが個人的にはイマイチですが、それを差し引いても十分に楽しめる作品です。特に映像のリアルさと美しさはCGアニメの頂点だと思います。ぜひ劇場でごらんください。  

上映時間 103分
製作国 アメリカ
製作年度 2008年
監督: アンドリュー・スタントン 
原案: アンドリュー・スタントン,ピート・ドクター 
脚本: アンドリュー・スタントン,ジム・リアドン 
プロダクションデザイン: ラルフ・エグルストン 
音楽: トーマス・ニューマン 
サウンドデザイン: ベン・バート 
声の出演:
ベン・バート 
エリサ・ナイト
ジェフ・ガーリン 
フレッド・ウィラード 
ジョン・ラッツェンバーガー 
キャシー・ナジミー 
シガーニー・ウィーヴァー 

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『新幹線大爆破』この映画を見て!

第234回『新幹線大爆破』
Photo_6  今回紹介する作品は昨年に引退した新幹線0系を舞台にしたノンストップアクション映画『新幹線大爆破』です。
 ハリウッドでパニック映画が流行していた時代、東映が日本でもパニック映画を作ろうとオールキャストで作り上げた本作品。
 当時の国鉄が撮影協力を拒否したために、新幹線はセットとミニチュアを使用して撮影。総合指令所も写真を参考に美術スタッフが製作したそうです。
公開当時は日本では興行収入的にはパッとしませんでしたが、フランスにて短縮版が公開されて大ヒット。また日本でも80年以降にテレビ放映やレンタルビデオで人気が再燃。カルト的人気を誇るようになりました。
 また、80キロ以上速度化低下したら爆発するという設定はキアヌー・リーブス主演の『スピード』の元ネタとなったことでも有名です。

ストーリー:「東京発博多行き新幹線ひかり109号に爆弾が仕掛けられた爆弾は列車の速度が時速80キロ以下になると爆発するという。1,500人の乗客の命を乗せたまま止められない新幹線は終着駅の博多へと向かう。
 止まらない新幹線に乗客はパニックとなり、車内は混乱へと陥る。
 その頃、新幹線の総合指令室では列車の衝突や混乱を避けるために対応に追われていた。
 警察は必死になって犯人を追跡するが、それが裏目裏目に出てしまう始末。
 果たして新幹線は爆破を免れることができるのか、タイムリミットが刻一刻と迫る。」

 私は小学生のときに本作品をテレビ放映にて見て、夢中になったのを今も覚えています。その後も放映されるたびに繰り返し見たものでした。
 今日も偶然テレビにて放映されていたので見たのですが、2時間半全く飽きずに観ることができました。
 
 本作品、突っ込もうと思えば突っ込みどころ満載です。
 新幹線の映像は今見るとリアルさに欠けてちゃちいですし、ストーリーも無理に危機を生み出そうとご都合主義な展開が多すぎます。
 警察の捜査の仕方は何でそこでそんな対応するかなと疑問に思うことばかりで、何回犯人を取り逃せば気が済むのかと観ていてイライラします。ここまで無能な警察の描写は他の邦画では見られません。
 また喫茶店の火災シーンは「そんな展開があり?」と見ている側も呆然としてしまうほどご都合主義な展開です。
 爆弾の解体シーンもダイナマイト前にあんな火花散らして大丈夫かと見ている側がハラハラするほどです。

 完成度から言うと本作品はイマイチなのですが、それを補って余りあるほどの勢いとパワーがあります。
 高倉健、宇津井健、千葉真一等の濃い役者の迫真の演技と次から次へと起こる予測不可能なアクシデントは観客を画面に釘付けにします。 
 
 シナリオも展開が強引かつ無理がありますが、犯人側の人間ドラマをじっくり描いているところが好感が持てます。(人によってはテンポが落ちるという意見もあるかと思いますが・・・)高度経済成長期の日本の下層社会の悲しい現実を反映したストーリーは犯人たちを単なる極悪非道な悪人としてでなく、戦後の繁栄から取り残された人間たちとして描いており、ラストシーンは思わず犯人に同情さえしてしまいます。
 戦後の高度経済成長のシンボルであった新幹線を戦後日本の負け組が一発逆転を狙って襲うという展開が単なるパニック映画にはない深みを与えています。
 
 また、オールスターキャストだけあって、有名な俳優が次から次へと登場するのも大きな見せ場。個人的には若い頃の田中邦衛、北大路欣也 、小林稔侍が見られたのが嬉しかったです。 

 本作品は完成度はもう一つですが、何回見ても飽きることなく、いろいろな意味で楽しめます。是非ご覧になってください!

上映時間 153分
製作国 日本
製作年度 1975年
監督: 佐藤純弥 
原案: 加藤阿礼 
脚本: 小野竜之助,佐藤純弥 
撮影: 飯村雅彦 
美術: 中村修一郎 
編集: 田中修 
音楽: 青山八郎 
特殊撮影: 小西昌三, 成田亨 
助監督: 岡本明久 
出演:
高倉健
山本圭
田中邦衛
織田あきら 
郷えい治 
宇津井健
千葉真一 
小林稔侍 
志村喬 
永井智雄
中田博久
千葉治郎
志穂美悦子
渡辺文雄 
竜雷太 
丹波哲郎
鈴木瑞穂
青木義朗
黒部進 
北大路欣也

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久石譲と映画音楽

 昨年の紅白歌合戦では久石譲が登場し、宮崎アニメの曲や『私は貝になりたい』等を演奏し大活躍していましたね。小学校の時から約20年以上ずっと久石さんが好きだった私としては嬉しい限りです。
 
 さて、久石さんというと宮崎駿や北野武の映画音楽での活躍が有名ですが、他にも数多くの映画に素晴らしい楽曲を提供しています。(下記のリストを参考にしてください。)

 そこで、宮崎作品北野作品以外の映画音楽でお勧めのサウンドトラックを5つ紹介します。

・『トンマッコルへようこそ』
Photo  久石さんがアジアの映画音楽に進出するきっかけとなった韓国映画『トンマッコルへようこそ』。日本人として初となる第四回大韓民国映画大賞最優秀音楽賞を受賞したことでも話題になりました。朝鮮半島の南北分断の悲劇を幻想的に描いた作品ですが、久石メロディーの美しさが映画の質をさらに上げる役割を果たしています。

Photo_2 ・『おくりびと』
 昨年大ヒットした本木雅弘主演の映画『おくりびと』。主人公が元チェロ奏者ということもあって、チェロの音色と魅力を見事に引き出された音楽です。メロディーも優しく温かく聴いていて心が落ち着きます。

Photo_3 ・『ふたり』
 80年代後半~90年代前半にかけて久石さんは大林宣彦監督の映画音楽を数多く手がけていました。『ふたり』もその中の一つで、美しいメロディーがとても印象に残ります。また、本作品の貴重なところは久石さんと大林監督がデュエットした主題歌『草の想い』が収録されていることです。二人のおじ様の甘く渋い声が聞く者を虜にします!

Photo_4 ・『Quartet』
 久石譲が初監督を手がけた映画『Quartet』。弦楽四重奏団のメンバーを主人公にしているだけあって、弦楽四重奏による演奏曲が多く含まれています。クラシカルなナンバーが多いのが特長です。
 また、「となりのトトロ」や「HANA-BI」と彼の代表曲がメドレーで収録されているのもファンとしては嬉しい限りです。

Photo_5 ・『アリオン』
 ギリシャ神話をモチーフにした安彦良和原作・監督のアニメ映画『アリオン』。シンセを使ったエスニックな感じの曲が多いのが特長です。本作品の一番の聞き所は「レスフィーナ」という曲で、数ある久石メロディーの中でも屈指の完成度で一度聞いたら忘れることができないほど美しい曲です。



*久石譲が手がけた主な映画音楽一覧
・風の谷のナウシカ(1984年)
・Wの悲劇(1984年)
・早春物語(1985年)
・春の鐘(1985年)
・グリーン・レクイエム(1985年)
・天空の城ラピュタ(1986年)
・アリオン(1986年)
・熱海殺人事件(1986年)
・めぞん一刻(1986年、実写版)
・恋人たちの時刻(1986年)
・漂流教室(1987年)
・この愛の物語(1987年)
・ドン松五郎の大冒険(1987年)
・となりのトトロ(1988年)
・極道渡世の素敵な面々(1988年)
・魔女の宅急便(1989年)
・ヴイナス戦記(1989年)
・釣りバカ日誌2(1989年)
・カンバック(1990年)
・ペエスケ/ガタピシ物語(1990年)
・タスマニア物語(1990年)
・あの夏、いちばん静かな海。(1991年)
・仔鹿物語(1991年)
・ふたり(1991年)
・福沢諭吉(1991年)
・青春デンデケデケデケ(1992年)
・紅の豚(1992年)
・はるか、ノスタルジィ(1992年)
・ソナチネ(1993年)
・水の旅人 侍KIDS(1993年)
・女ざかり(1994年)
・みんな〜やってるか!(1995年)
・キッズ・リターン(1996年)
・もののけ姫(1997年)
・パラサイト・イヴ(1997年)
・HANA-BI(1998年)
・時雨の記(1998年)
・菊次郎の夏(1999年)
・川の流れのように(2000年)
・はつ恋(2000年)
・千と千尋の神隠し(2001年)
・BROTHER(2001年)
・Quartet(2001年)
・リトル・トム(2001年、仏)
・Dolls(2002年)
・壬生義士伝(2003年)
・ハウルの動く城(2004年)
・キートンの大列車追跡(The General)(2004年)
・男たちの大和/YAMATO(2005年)
・トンマッコルへようこそ(2005年、韓国)
・西遊記リローデッド(2005年、香港)
・おばさんのポストモダン生活(2006年、中国)
・マリと子犬の物語(2007年)
・日はまた昇る(2007年、中国)
・崖の上のポニョ(2008年)
・おくりびと(2008年)
・私は貝になりたい(2008年)

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