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2008年1月20日 - 2008年1月26日

『ブラックブック』この映画を見て!

第196回『ブラックブック』
Photo_2  今回紹介する作品は第2次世界大戦下のナチスに支配されたオランダを舞台にユダヤ人女性が必死に生き延びる姿を描いた作品『ブラックブック』です。
 本作品はハリウッドで『ロボコップ』や『氷の微笑』などの過激な作品を次々と発表したポール・ヴァーホーヴェンが母国オランダに戻って脚本と監督を担当しています。ヴァーホーヴェンはハリウッドでは過激な暴力描写と性描写ばかりが話題になっていましたが、人間の悪意やドロドロした欲望をサスペンスたっぷりに描くことに長けた監督です。そんな監督の持ち味が本作品では最大限活かされています。

ストーリー:「1944年、ナチス・ドイツ占領下のオランダ。美しいユダヤ人女性歌手・ラヘルは、ナチスから逃れるため一家で南部へ向かう。しかし、ドイツ軍の追跡により彼女を除く家族全員が射殺されてしまう。その後、ラヘルはレジスタンスに救われる。ラヘルはユダヤ人であることを隠し、名前をエリスと変えてレジスタンス活動に参加する。そしてナチス内部の情報を探るため、ナチス将校ムンツェに接近して、彼の愛人となることに成功するのだが…。」

 ナチスに追われるユダヤ人を描いた戦争映画というと『シンドラーのリスト』や『戦場のピアニスト』などユダヤ人迫害の苦難を重苦しく描いた作品が多いのですが、本作品は主人公が裏切り者を探すというサスペンスタッチで物語が展開していくので娯楽作品として手に汗握りながら楽しく見ることができます。
 
 また本作品の素晴らしいところはナチスを悪、レジスタンスやユダヤ人を善として単純に分けて描いていないところです。欲望のためにナチに協力するユダヤ人やレジスタンスがいたり、ナチの中にも主人公に協力する良い将校がいたりと人間の愚かさや弱さを人種や国籍で分けることなく冷徹に描いています。
 特に印象的だったのが敗戦後にオランダの民衆がナチ協力者を虐待するシーンです。ナチに虐げられた民衆が戦後ナチと同じような愚かな行為をする姿は人間という生き物の愚かさや弱さを見事に抉り出しています。ヴァーホーヴェン監督は下品な描写をする癖がありますが、本作品はそんな下品な描写が作品のテーマである戦争や人間の下品さを描くことと上手く結びついていたと思います。
 
 あと本作品を見て凄いと思ったのは主人公の女性を演じたカリス・ファン・ハウテンの体当たりの演技です。主人公は次から次へと屈辱を受けるのですが、それに屈することなく逞しく生き延びる姿は女性のしたたかさや力強さといったものを感じました。特に印象的だったのが主人公がブロンドに陰毛を染めるシーンと後半の糞尿を浴びるシーン。何が何でも生き延びようとする人間の気迫を感じました。

 もちろんヴァーホーヴェンらしくエロ・グロな描写も健在です。しかし、以前の作品に比べると少し控えめだったような気がします。
 
 本作品は久しぶりの戦争映画の傑作であり、ヴァーホーヴェンの傑作です。ぜひ一度見てください! 

上映時間 144分
製作国 オランダ/ドイツ/イギリス/ベルギー
製作年度 2006年
監督 ポール・ヴァーホーヴェン 
脚本 ジェラルド・ソエトマン  ポール・ヴァーホーヴェン 
撮影:カール・ウォルター・リンデンローブ 
音楽:アン・ダッドリー 
出演:カリス・ファン・ハウテン、トム・ホフマン、セバスチャン・コッホ、デレク・デ・リント
ハリナ・ライン、ワルデマー・コブス、ミヒル・ホイスマン、ドルフ・デ・ヴリーズ

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『東京物語』この映画を見て!

第195回『東京物語』
Photo  今回紹介する作品は日本映画の最高傑作の一つであり、小津安二郎監督の代表作である『東京物語』です。

 私は今回初めて本作品を鑑賞したのですが、映画としての完成度の高さと小津監督の人間を見つめる視点の厳しさと優しさに圧倒されました。
 ローアングルの固定したカメラによって捉えられた映像の凛とした美しさと小津監督独特の間合いを取った編集が生み出す侘び寂び。笠智衆を始めとして、東山千栄子、原節子、杉村春子など芸達者な役者たちの絶妙な演技。淡々としたテンポで描かれる親子関係の隔たりや老いて時代から取り残されていく悲哀や諦観、そして生きていくことの孤独。

 戦後間もない日本でこのような素晴らしい作品が製作されていたとは驚きました。ラストの妻に先立たれた主人公がひとり佇むシーンは生きていくことの無常さが感じられ、自然と涙がこぼれてきました。

 ストーリー:「東京で独立して住む子どもたちに出会うために尾道から上京してきた老夫婦。しかし、子どもたちはそれぞれの生活に追われており、老夫婦の相手をしてくれない。そんな中で親身になって相手してくれるのは戦死した息子の未亡人だけだった。子どもにも会い、東京観光もした老夫婦は故郷に帰っていくのだが・・・。 」

 本作品は子どもが独立して生活を営む中で、親子の絆が薄れていく無常さが描かれていますが、老いた両親から離れて生活している私としては見ていて胸が痛むシーンが数多くありました。
 東京で仕事を営み生活をしている子どもたちが忙しくて田舎から出てきた両親の相手がゆっくりできない場面は見ていて切ないものがありました。また親を嫌いではないけど疎ましく思う子どもたちの心情も痛いほど分かりました。杉村春子演じる次女が老夫婦を冷たくあしらう場面を最初見た時は何て嫌な娘だなと思いながら見ていたのですが、何度か見返すうちにこの女性も決して心底悪い女性ではなく、慌しい時代の中で生きていく中であのような態度を取っているだけなのだと思うようになりました。
 子育てや仕事を終え余生を過ごす親と子育てや仕事の真っ最中にいる子ども、今という時代の真っ只中で生きる者と今という時代から一歩離れた中で生きる者の生きるテンポの差が生み出す悲しみや孤独というものを見ていて感じました。

 また本作品を語る上で外せないのが、原節子演じる戦死した次男の妻の存在です。彼女は血の繋がった子どもたちよりもはるかに優しく老夫婦に接します。血縁の人間よりもそれ以外の人間の方が血の通ったもてなしをしてくれるという皮肉と悲哀。
 そんな心優しい次男の妻がラスト近くに主人公に向かって告白するシーンは人間の複雑な心の内を見事に描いており、見ていて心が震えました。老夫婦を通して何とか亡くなった夫とのつながりを見出そうとする妻、しかし時が経つにつれて次第に夫のことを忘れていく無常という名の哀しみ。

 私は本作品はこの世の無常の悲しみを受け入れて生きていこうとする主人公の孤高な姿を描いた作品ではないかと思っています。

 本作品は時代を超えた輝きを持つ作品です。見たことのない人はぜひ一度ご覧ください。 

上映時間 136分
製作国 日本
製作年度 1953年
監督 小津安二郎 
製作 山本武 
脚本 野田高梧小津安二郎 
撮影 厚田雄春 
美術 浜田辰雄 
音楽 斎藤高順 
出演 笠智衆、東山千栄子、原節子、杉村春子、山村聡、三宅邦子、香川京子、東野英治郎、中村伸郎 
大坂志郎、十朱久雄、 長岡輝子 

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