『どですかでん』この映画を見て!
第233回『どですかでん』 今回紹介する作品は山本周五郎の原作『季節のない街』を黒澤明監督が自身初のカラー映画として製作した作品『どですかでん』です。
黒澤監督は『赤ひげ』以降、ハリウッドで『暴走機関車』の製作頓挫や『トラ・トラ・トラ!』の監督降板などトラブルが続いていました。その為、黒澤監督は5年近く映画が撮れず、精神的にかなり追い込まれていました。
そんな時期に製作された本作品には黒澤監督の鬱積した心情が色濃く反映されています。また作風も今までのドラマチックで重厚な娯楽作品とは打って変わって、こじんまりとしたアート調の文芸作品となっています。
ストーリーは主人公というべき人物が存在しない群像劇で、貧民街を舞台に8つのエピソードが交錯する形で綴られていきます。
本作品で語られるエピソードはどれも貧民街の住人たちの救いようのないどん底の日常生活の一コマであり、美しく感動的な展開や結末はあまりありません。その為、見終わっても爽快感はなく、むしろ切なくやりきれない感情が湧き上がります。
特に飲んだくれの義理の父親から性的虐待を受ける女性のエピソードと、家を建てる妄想に逃げ込むホームレスの父親を養う健気な子のエピソードは見ていてつらくて、胸が苦しくなります。
黒澤監督は本作品において醜くく愚かで無力な人間たちのささやかな人生を肯定もしなければ否定もせず淡々とあるがままに描いていきます。そこには黒澤監督の人間という生き物に対する絶望と諦観、そして愛情すら感じられます。
私は本作品を始めてみたのは大学生の時ですが、赤や黄の原色を大胆に取り入れた鮮やかな色彩に目を奪われてしまいました。過酷な現実を描いているにも関わらず、色の効果がどこか非現実的な雰囲気を映画に与えています。
また、武満徹の音楽もほのぼのとした温かみのあるメロディーで、重いテーマを扱った映画に対する一服の清涼剤としての役割を見事に果たしています。
登場する人物は皆強烈なキャラクターばかりなので、出演している役者も個性派揃い。特に印象的だったのがコミカルな伴淳三郎と不気味な三谷昇の演技です。
本作品は万人に薦められるような映画ではありませんが、黒澤ファンやアート映画好きな人、そして人生について考えたい人は是非見てみる価値のある作品だと思います。
上映時間 140分
製作国 日本
製作年度 1970年
監督: 黒澤明
原作: 山本周五郎
脚本: 黒澤明 、小国英雄、橋本忍
撮影: 斎藤孝雄、福沢康道
美術: 村木与四郎、村木忍
編集: 兼子玲子
音楽: 武満徹
出演: 頭師佳孝
菅井きん
殿村敏之
三波伸介
橘侑子
伴淳三郎
丹下キヨ子
田中邦衛
吉村実子
井川比佐志
沖山秀子
松村達雄
辻伊万里
山崎知子
亀谷雅彦
芥川比呂志
奈良岡朋子
三谷昇
川瀬裕之
根岸明美
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