『赤ひげ』この映画を見て!
第228回『赤ひげ』
今回紹介する作品は山本周五郎の小説『赤ひげ診療譚』を黒澤明監督が映画化した『赤ひげ』です。
本作品はオープンセットを建て2年という長い歳月をかけて制作され、上映時間も3時間以上ある大作です。
陰影に富んだ映像の重厚な美しさ、役者たちの熱演、そしてヒューマニズム溢れる物語。3時間という長い上映時間もあっという間に過ぎてしまう完成度の高い作品です。
また、本作品は黒澤監督にとって最後のモノクロ映画であり、三船敏郎にとっても黒澤映画最後の出演作となります。これ以降、黒澤監督の映画は大きな変化を良くも悪くも迎えます。
ストーリー:「江戸時代の小石川養生所を訪れた若き医師・保本登は通称赤ひげと呼ばれる所長・新出去定から医師見習いとして住み込むことを命じられる。医師としてエリートコースを歩む予定をしていた保本は養生所へ入れられてしまった不満で鬱屈する。
しかし、保本は赤ひげの診断と医療技術の確かさを知り、また彼を頼る貧乏な人々の姿に次第に心を動かされていくのだった……。」
私は昔から山本周五郎のファンで、特に本作品の原作である『赤ひげ診療譚』は私のお気に入りでした。それだけに初めて本作品を見た時は黒澤監督がどう映画化したのか興味深く見させてもらいました。
大体原作のあるものを映画化すると、イマイチなものが多いのですが、さすが黒澤監督だけあって全く文句のつけようがない完璧な仕上がりでした。
三船敏郎演じる赤ひげや養生所のセットは原作のイメージどおりですし、ストーリーも原作を上手にまとめています。
本作品は前半と後半と2部に分かれています。前半は貧しき患者たちの生と死の重厚なドラマが繰り広げられ、後半は保本が患者の看病を通じて、一人前の医者として成長していく姿が爽やかに描かれます。
語られるエピソード全てが感動的で印象に残ります。どんな人生であってもかけがえがなく美しく、どんな境遇にあっても人は人によって変わることができる。本作品は救われない哀しいエピソードもあれば、希望にみちたエピソードもあります。様々なエピソードを通して描かれるのは人間の生と死の尊厳です。
また、師弟の物語としても本作品は秀逸です。寡黙で強引だが、弱者への優しさと正義感に満ちた赤ひげ。そんな彼の姿を通して、変わってゆく保本。三船敏郎演じる赤ひげは決して派手に動き回ったりしませんが、その安定した存在感は師として仰ぎたくなるものがあります。
なお、映画の中盤に一箇所だけ赤ひげがチンピラ相手に大立ち回りをするシーンがあります。時間にして1分ちょっとですが、その機敏で鮮やか立ち回りはさすが三船敏郎、何回見ても惚れ惚れするほど格好良いです。
三船敏郎以外の役者では前半の香川京子演じる狂った女と後半の二木てるみ演じる心を閉ざした少女の演技が印象的でした。
映像も黒澤監督らしく大変凝っており、土砂降りの雨が降る長屋や井戸の中から人の姿を捉えた映像など印象的な場面が数多くありました。
あと、私は黒澤作品の中でも本作品の音楽が一番好きで、随所に流れるテーマ曲のメロディの美しさにいつも心打たれます。
生きることに迷ったり、悩んだりしたときは本作品を是非ご覧ください。生きる力が湧いてきます。
上映時間 185分
製作国 日本
製作年度 1965年
監督: 黒澤明
原作: 山本周五郎『赤ひげ診療譚』
脚本: 井手雅人,小国英雄, 菊島隆三, 黒澤明
撮影: 中井朝一, 斎藤孝雄
美術: 村木与四郎
音楽: 佐藤勝
記録: 野上照代
擬闘: 久世竜
照明: 森弘充
出演: 三船敏郎,加山雄三,山崎努, 団令子,桑野みゆき
香川京子, 江原達怡,二木てるみ ,根岸明美, 頭師佳孝
土屋嘉男, 東野英治郎, 志村喬,笠智衆,杉村春子
田中絹代, 柳永二郎, 三井弘次, 西村晃
千葉信男, 藤原釜足, 三津田健
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