『天国と地獄』この映画を見て!
第226回『天国と地獄』
今回紹介する作品は黒澤明監督がエド・マクベインの原作を映画化した日本を代表するサスペンス映画の傑作『天国と地獄』です。
ストーリー:「ナショナル・シューズの専務である権藤は会社での権力争いをしている最中、「自分の息子を誘拐したので身代金3千万円を用意しろ」との電話が入る。しかし、実際に誘拐されたのは息子でなく、運転手の息子だった。権藤は苦悩の末に運転手のために全財産を投げ出して3千万円を用意する。」
本作品は2部構成となっています。
前半は主人公・権藤が犯人に身代金を払うまでの過程を密室劇の形式で描いていきます。会社での権力争いに勝つために主人公が用意した全財産。それがないと自分が会社の中で窮地に追い込まれる中、他人の子どものために支払うべきかどうか。主人公が子どもの命と自己保身の狭間で揺れ動く姿が緊張感たっぷりに描かれます。緻密なシナリオと三船敏郎の迫真の演技、そして長回しの演出が前半の見所です。
中盤は本作品最大の見せ場である特急第二こだま号での身代金の受け渡し。国鉄から実物の151系電車を借りて実際に東海道本線上を走らせて撮影した映像は臨場感にあふれており、何度見ても手に汗握ります。
後半は刑事たちが犯人を逮捕するまでの捜査過程を丹念に描いていきます。その描写はとてもリアルで、見ていて引き込まれます。また、モノクロの映像の一部を着色して見せるとても印象的な演出があります。この演出はその後の映画人にも影響を与え、スピルバーグはこの演出を「シンドラーのリスト」で使ったほどです。
終盤の黄金町で刑事が犯人を追跡する際に登場するヘロイン中毒者の描写はまるでゾンビかと見間違うほどおどろおどろしく不気味です。
ラストは犯人と権藤が刑務所にて対峙するシーンで終わりますが、犯人役を演じた山崎努が強烈な存在感を放っています。
最初は権藤相手に強がっていたにも関わらず、最後は自分の体の震えを抑えられなくなり絶叫してシャッターが降りるシーン。罪を犯した人間の悲哀が見る者に伝わってくる名シーンです。
私はこのラストを見るたびに『天国と地獄』というタイトルの意味を考えてしまいます。天国から地獄におちて、また這い上がろうとする主人公の権藤。権藤を天国から引きずりおろそうとして、地獄の底へと落ちていった犯人。結局、人生の天国と地獄とは貧富の差だけではなく、生き方によって決まるものだと見ていて痛感させられます。
45年以上前の古い作品ですか、ここまで重厚で面白いサスペンス映画はなかなかお目にかかれません。未見の方はぜひ一度ご覧ください!
上映時間 143分
製作国 日本
製作年度 1963年
監督: 黒澤明
原作: エド・マクベイン 『キングの身代金』
脚本: 小国英雄、菊島隆三、久板栄二郎、黒澤明
撮影: 中井朝一、斎藤孝雄
美術: 村木与四郎
音楽: 佐藤勝
記録: 野上照代
照明: 森弘充
出演: 三船敏郎、香川京子、江木俊夫、佐田豊、島津雅彦
仲代達矢、石山健二郎、木村功、加藤武、三橋達也
伊藤雄之助、中村伸郎、田崎潤、志村喬、藤田進 、山崎努
土屋嘉男、三井弘次、千秋実、北村和夫、東野英治郎、藤原釜足
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