『悪い奴ほどよく眠る』この映画を見て!
第222回『悪い奴ほどよく眠る』 今回紹介する作品は黒澤監督が自ら設立した黒澤プロダクションで初めて製作した社会派サスペンスドラマ『悪い奴ほどよく眠る』です。
私は今までタイトルは知っていたものの作品自体は見たことありませんでした。昨日に偶然テレビで放映されているのを鑑賞して、その面白さと完成度の高さに正直驚きました。私の中では黒澤監督の作品のベスト3に入るほど気に入りました。
ストーリー:「日本未利用土地開発公団の副総裁である岩淵の娘佳子と秘書の西幸一の披露宴が盛大に行われようとしていた。ちょうどその時、公団の課長補佐である和田が刑事に連行される。
建設会社の不正を追及するために会場に押しかけた新聞記者たちは、5年前に課長補佐が自殺して幕を引いた新庁舎建築の不正入札事件に、現公団の副総裁岩淵と管理部長の守山、契約課長の白井が関係していたことを思いだした。
検察当局は開発公団と大竜建設の贈収賄事件を摘発しようとしていたが、逮捕した和田や建設会社の経理担当の三浦は何も自供しないまま拘留満期がきて釈放される。その後、三浦はトラックに飛び込み自殺、和田も火口から飛び降りて自殺しようとしていた。そんな和田の前に西が突然現れて自殺を止める。西は5年前新庁舎の建設に絡む不正入札疑惑で自殺した課長補佐の一人息子だった・・・。」
政財界の汚職事件を追求した本作品。その内容は今見ても全く古臭くなく、むしろ今も昔も変わらない権力の腐敗構造と闇の深さを改めて痛感させられます。
本作品の面白いところは主人公である西の復讐劇というサスペンスタッチで政財界の悪を暴いていくという点です。
映画の前半は一筋縄にいかない悪に対して西が淡々とゲームを楽しむかのようにあの手この手で揺さぶりをかけます。西の揺さぶりにうろたえる悪の姿は見ていて痛快ですし、どうやって悪を窮地に追い込んでいくのか手に汗握ります。
しかし、映画の後半、西の正体が悪にばれてからは、西の内面やヒロインとの愛情に焦点が当たり、前半の痛快さは鳴りを潜めます。
そしてラストは悪の巧妙さと冷酷さが描かれ、何とも後味のほろ苦い結末を迎えます。映画の最後には再度映画のタイトルが現れるのですが、その意味が痛いほど見る者に伝わってきます。
私は本作品を見た後、何ともいえないやるせなさとやり場のない怒りがこみ上げてきました。
本作品では本当の悪の親玉は一切姿を現しません。本作品に登場する一番の悪は副総裁である岩淵なのですが、そんな彼すら電話口で見えない巨悪にペコペコする。そこが何ともリアルであり、権力を牛耳る闇の奥深さを物語っていたと思います。
また印象的だったのが、岩淵が自宅でエプロンをつけて家族のために肉を焼くシーン。職場では権力にしがみつき悪に手を染めながら、家に戻ればよき父親に戻る。人間という生き物の多面性が見事に描かれていたと思います。
黒澤監督の様々な工夫を凝らした演出は本作品でも健在です。私が特に印象的だったのが冒頭の結婚披露宴のシーンと音楽の使い方。
結婚披露宴という大人数が集まる場で登場人物たちの複雑な関係を緊張感を持って、一気に分かりやすく説明するシーンは見事な演出だと思います。『ゴッドファーザー』の冒頭も結婚式で始まりますが、コッポラ監督も本作品が大好きなそうなので、きっと真似て作ったのでしょう。
佐藤勝の音楽も重苦しい内容と反した軽快で喜劇的なタッチで、映画にユーモラスな雰囲気を与えています。
役者の演技では岩淵を演じた森雅之の悪としての圧倒的な存在感が印象的です。もちろん、主人公の西を演じた三船敏郎の他の黒澤作品では見られない抑えた演技で、一見すると三船とは分からないほどです。
あと、若かりし頃の三橋達也、西村晃、加藤武の力のこもった演技も見ごたえがありました。
本作品は後味は良くありませんが、現代にも十分通ずる内容ですし、重厚な演技と演出は大変見ごたえがあります。黒澤監督の隠れた傑作をぜひ一度ご覧ください!
上映時間 150分
製作国 日本
製作年 1960年
監督: 黒澤明
脚本: 小国英雄、久板栄二郎、黒澤明、菊島隆三、橋本忍
撮影: 逢沢譲
美術: 村木与四郎
音楽: 佐藤勝
特殊技術: 東宝技術部
出演: 三船敏郎、森雅之、香川京子、三橋達也、志村喬、西村晃、加藤武
藤原釜足、笠智衆、宮口精二、三井弘次、三津田健、中村伸郎
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