『菊次郎の夏』この映画を見て!
第218回『菊次郎の夏』 今回紹介する作品は北野武監督による一夏のロードムービー『菊次郎の夏』です。
本作品はそれまでの北野映画の特長であった「死」や「暴力」を排して、『母を訪ねて三千里』のような古典的な人間ドラマとなっています。
ストーリー:「祖母と2人で暮らす小学3年生の正男は今日から夏休み。友達は親に宿題を見てもらったり、良好に連れて行ってもらう中、正男は1人でさびしく過ごしていた。そこで写真でしか見たことのない母に会いにゆく事を決意。豊橋で仕事をしているという母の元に1人で向かおうとする。そんな正男を心配した近所のおばちゃんは無職でブラブラしている自分の連れの菊次郎を同行させる。渋々引き受けた菊次郎は出発するなり競輪場で旅費を使い果たしてしまう。こうして2人の一夏の旅が始まるのだった。」
私は本作品を劇場で公開されている時に見たのですが、その時の評価は今一つでした。緑を基調にした映像と透明感溢れる久石譲の音楽の美しさは素敵なのですが、映画の後半の主人公たちが野外で遊ぶシーンが延々と続くところが当時の私には退屈に感じました。
しかし、最近になって深夜にテレビで放映されていたので、劇場以来久しぶりに見直したのですが、後半のまったりとした展開こそが本作品の核である事に気づきました。
映画の中盤に正男が一生心の傷になるようなショックを受ける出来事があります。その出来事を機に二人の距離感は縮まり始めます。傷ついた正男に対して菊次郎は何とか励まし慰めようと、野外で大人たちを巻き込んで延々馬鹿騒ぎをする。そんな菊次郎の不器用な優しさが映画の後半で描かれていたのだと気づいた時、本作品の私の中での評価が変わりました。傷ついた心なんて簡単に癒せるものではない。それだったら気晴らしに馬鹿騒ぎして笑っていたほうが幾分か救われるだろうという北野監督らしいメッセージが後半のシーンには込められているような気がしました。
主人公の菊次郎は一見すると破天荒で無責任でどうしようもない男ですが、そんな男がふと見せる優しさや寂しさ。不器用さと照れからストレートには表現できないところが何とも意地らしく切なくて、見ていてほろりとさせられます。
特に老人ホームで生活している自分の母を遠くからそっと眺める場面は菊次郎の近づきたいけど近づけられない不器用さが見ていて伝わってくる切ないシーンです。
旅を終えて2人が地元に戻ってくる映画のラスト。そこでの二人のやり取りは旅を通してお互いがお互いを理解して堅く結ばれた絆が強く感じられて、自然と涙が出てきます。
本作品は北野作品の中では一番爽やかな仕上がりとなっており、北野映画はちょっと苦手という人でも安心して楽しめると思います。
あと、本作品は久石譲の音楽がとても素晴らしいです。一時期トヨタカローラのCMでも使われていたので聞いたことある方も多いと思いますが、音楽が映像ととてもマッチしており、見ている人間の感情を揺さぶります。はっきり言って本作品は久石譲の音楽がなければ魅力は半減していたと思います。それくらい音楽が映画を支えています。ぜひ映画を見られた方は久石さんのサントラも購入してください。聞いていて心が落ち着く名盤です。
上映時間 121分
製作国 日本
製作年度 1999年
監督: 北野武
脚本: 北野武
撮影: 柳島克己
美術: 磯田典宏
編集: 北野武
音楽: 久石譲
照明: 高屋齋
出演: ビートたけし、関口雄介、岸本加世子、吉行和子
細川ふみえ、大家由祐子、麿赤兒、グレート義太夫 、井手らっきょ
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コメント
あめさんコメントありがとうございます。『あの夏の一番静かな海』は実は私が北野作品の中で一番好きな作品で繰り返し何回も見ています。あの静けさが心地よく、切ないラストは何回見ても涙がこみあげてきます。
映画は言葉で語らなくても映像で思いが伝わるという北野監督の信念が感じられる作品ですよね。
投稿: とろとろ | 2009年2月24日 (火) 00時31分
北野監督の あの夏の一番静かな海 もいいですよ。主人公達のセリフはほとんどなく 本当に静かな映画だけど ある場面で強い思いを感じます。 そして淡々としたラストがあります。まさに現実 でも私にはそれが動かせない現実という感じで良かった 気になったら見て下さい。
投稿: あめ | 2009年2月22日 (日) 00時57分