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2008年9月

『七人の侍』この映画を見て!

第221回『七人の侍』
Photo  今回紹介する作品は世界中の映画関係者に多大な影響を与えた日本映画の最高傑作の一つ『七人の侍』です。
 本作品は当時としては破格の費用(当時で2億円、現在の価格で約30億円)と約1年という長い期間をかけて製作されました。当初は3ヶ月で製作される予定がセットや天候の関係、そして黒澤監督の完璧主義で大幅に延びてしまったそうです。
 なかなか完成しないので会社から文句も出たそうですが、その時は会社の役員向けに野武士が山の斜面を駆け下り場面まで試写をしたそうです。試写を見た役員たちは「これの続きは?」と黒澤監督に尋ねて、「ここから先はひとコマも撮っていません」と言って、早く続きの見たい役員たちに追加予算を認めてもらったそうです。
 本作品はリアリティを追求して、農村のオープンセットを作り、衣装もわざと汚くしたり、国宝級の兜を使用したりとあれこれ工夫したそうです。  
 シナリオも黒澤監督を始めとして3人でシーンごとにアイデアを出し合って書いています。その為、無駄なシーンが一切なく、全ての登場人物たちにスポットが当てられているので、3時間半という長い上映時間飽きることなく見ることができます。

ストーリー:「戦国時代のとある農村。麦の収穫を控えた農民たちは野武士たちの愁ゲ毛に脅えていた。百姓たちは麦と村を守るため侍を雇うことを決断する。そして農村から4人の男が代表として侍を探しに街に繰り出す。しかし、腹いっぱいご飯を食べられるという報酬では侍はなかなか見つからなかった。
 そんな中、子どもを人質にとった盗人を退治した勘兵衛の姿を見て、助けてほしいと頼み込む。最初は困惑していた勘兵衛だが彼らのために人肌脱ごうと決心する。そして、村を守るためには7人侍が必要だと考えて、村人と侍探しを始める。
そして勘兵衛の人柄に惚れた参謀格の五郎衛、陽気な平八、弟子入り志願の新人・勝四郎、勘兵衛の古女房の七郎次、剣の達人の久蔵、野生児の菊千代が勘兵衛の下に集まる。村に入った七人の侍は野武士との決戦に向けて農民たちと準備を開始する。」
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 本作品のストーリーは七人の侍が集まるまでの前半、野武士との戦いに向けて侍と農民が準備する中盤、そして野武士との戦いを描く後半と大きく分けて3部構成となっています。話し自体はとてもシンプルで、戦闘シーンも思っているほど多くはありません。有名なラストの雨の中での決闘シーンも実は5分くらいしかありません。
 本作品が面白いのは戦闘シーンももちろんですが、それ以上に登場する人間たちの個性やドラマがきちんと描かれていることです。戦う者たちのドラマや個性が描かれているからこそ戦闘シーンにも観客は感情移入ができる。本作品はその良いお手本だと思います。

 私は本作品の侍が集まるまでの前半のエピソードが大好きです。それぞれの侍の戦い方や生き方が上手に描き分けされているので、何度見てもワクワクします。特に宮口精二
演じる剣の達人である久蔵が初めて登場するシーン。その無駄のない剣さばきは何回見ても惚れ惚れします。

 映画の中盤は侍たちが農村に入り村人と戦に向けての準備をするのですが、この下りで印象的だったのが農民たちの生き方です。最初はただ怯えているだけの弱いに見えた農民たちの意外なしたたかさが垣間見えるシーンがいくつかあるのですが、それを見るたびに人が懸命に生きるということは美しいことばかりではないという現実を実感させられます。
 武士階級と農民階級という生き方も生活も全く違う人間たちの違いや三船敏郎演じる菊千代がこの2つの階級の人間たちを上手く結び付けていたところが印象的でした。
 また、戦に備えて状況を判断して的確に周囲に指示・指揮する勘兵衛の姿は見ていて、リーダーとはどういう存在であるべきか何度見ても非常に勉強になります。

 映画の後半は戦闘シーンがメインとなりますが、とてもリアルで迫力があります。CGも何もない時代、生身の人間たちがこなすアクションの数々は今見ても非常に手に汗握ります。
 特にクライマックスの土砂降りの中での戦いは凄い迫力です。真冬に撮影されたということですが、キャスト・スタッフの熱意というものが見ていてひしひしと伝わってきます。
 映画では4人の侍が戦いの末に命を落とすのですが、4人とも刀でなく鉄砲で殺されるところもとても印象的でした。

 映画のラストは勘兵衛が農民たちの田植えを見つめながら「勝ったのは百姓たちだ」というセリフを言って立ち去るシーンで幕を閉めます。私はそのシーンを見る度にこの国を根底で支えてきたのは米を粘り強く作ってきた百姓たちであるという当たり前といえば当たり前のことを再認識させられます。
 また、生きるとはこの映画に登場する農民たちのように決して美しいことばかりでなく醜さやずる賢さも必要であり泥臭い故にこそ、七人の侍のカッコよさや潔さが光り輝き、見る人の心をつかんで離さないのだと思います。

 本作品は日本人なら一度は見て損はない傑作です。古いし、長いしと敬遠なさらず、ぜひ見てください! 

上映時間 207分
製作国 日本
製作年 1954年
監督: 黒澤明 
製作: 本木荘二郎 
脚本: 黒澤明、橋本忍、小国英雄 
撮影: 中井朝一 
美術: 松山崇 
音楽: 早坂文雄 
監督助手: 堀川弘通、田実泰良 
照明: 森茂 
録音: 矢野口文雄 
出演: 三船敏郎、志村喬、津島恵子、藤原釜足、加東大介、木村功 
千秋実、宮口精二、小杉義男、左卜全、稲葉義男、土屋嘉男、高堂国典

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『隠し砦の三悪人』この映画を見て!

第220回『隠し砦の三悪人』
Photo_2  今回紹介する作品は黒澤明監督が戦国時代を舞台に描く痛快娯楽時代劇『隠し砦の三悪人』です。

 ストーリー:「戦国時代、百姓の太平と又七は、一攫千金を夢見て戦に参加したが、何も出来ず全てを失って途方に暮れていた。そんな時、偶然に砦近くの川辺で木の棒に挟まっていた金を発見する。金を見つけて大喜びする二人。そんな前に謎の男が現れる。
 男は秋月家の武将・真壁六郎太で、山名家に敗れた秋月家の雪姫を擁して、お家再興のための軍資金の黄金と共に隠し砦にこもっていたのだった。

 六郎太は太平と又七に金のことについて問い詰めた時、彼らが苦し紛れに話したことをヒントに敵地を通って、友好国の早川領へ抜ける作戦を思いつく。そして六郎太は、二人の欲に付け入って黄金を背負わせ、雪姫の身を守りながら敵陣を突破する旅に出る。」
 
 本作品は黒澤作品の中では娯楽色が強く分かりやすい話しなので、黒澤作品初心者でも楽しんで見ることが出来ます。
 
 黒澤監督含めて4人の脚本家によって練られたシナリオは大変緻密で、主人公たちがどうやって危機を乗り切るのか最後まで手に汗握る展開です。
 特に敵の関所を通り抜ける場面はそういう方法で切り抜けるのかと見ていて感心しました。
 また、ラストの絶体絶命の状況において思わぬ味方の登場で危機を脱するシーンも「裏切り御免!」という名セリフと共に思わず拍手喝采してしまう清々しい展開です。

 キャラクターの配置も巧みで、無骨な侍と気丈な姫の逃避行に農民2人を対置させることで物語りに奥行きを与えています。映画の冒頭から登場する農民2人は小心者で狡賢く欲望丸出しで時には逃避行の足を引っ張るのですが、彼らの人間臭さは見ていて非常に微笑ましいです。農民たちの人間臭さに笑い共感しながら、武士階級に生きる人間たちのカッコ良さに憧れる。それが本作品の面白さであり魅力です。

映像も黒澤監督としてはシネマスコープを初めて採用してダイナミックな仕上がりとなっています。特に群集シーンや馬が駆け回るシーンは横長の映像の魅力が最大限活かされています。
 アクションシーンでは三船敏郎が馬を走らせながら敵兵をばっさりと斬るシーンが本作品最大の見せ場。複数のカメラを使い一気に撮影しただけあって、そのスピード感と迫力は鳥肌が立ちます。このシーンをスタントなしで演じた三船敏郎は本当に凄い役者です。
 また、主人公の三船敏郎と敵方の侍大将が槍で一騎打ちをする場面も終始緊張感が漲っており、見ている側にも闘う人間の気迫が伝わってきます。

 あと私が本作品で特に印象的だったのが火祭りのシーン。北野武監督の『座頭市』のラストはこのシーンに影響を受けたのではないかと思いました。

 今年の5月には『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』というタイトルで樋口真嗣が監督、松本潤と長澤まさみが主演でリメイクもされました。ただ、その仕上がりはオリジナルの足元にも及びませんが・・・・。
 また有名な話ですが、ジョージ・ルーカスも本作品が大好きで、『スター・ウォーズ』にも随所にその影響が感じられます。C3POとR2-D2のタトゥーン星での登場シーンは本作品の冒頭の農民二人の掛け合いシーンと展開が似ていますし、レイア姫のキャラクターは本作品のヒロイン・雪姫にそっくりです。

 ジョージ・ルーカスにも影響を与えた本作品。50年前の古い作品ですが、今見てもスケールが大きく、話しも起伏に富んで大変面白いです。是非一度ご覧ください!

上映時間 139分
製作国 日本
製作年 1958年
監督: 黒澤明 
脚本: 黒澤明、菊島隆三、小国英雄、橋本忍 
撮影:山崎市雄 
美術:村木与四郎 
音楽:佐藤勝 
特殊技術:東宝技術部 
助監督:野長瀬三摩地 
出演:三船敏郎、千秋実、藤原釜足、藤田進、志村喬、上原美佐
三好栄子、樋口年子、藤木悠、笈川武夫、土屋嘉男

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『粘土でにゃにゅにょ―土が命のかたまりになった! 』街を捨て書を読もう!

『粘土でにゃにゅにょ―土が命のかたまりになった!  』 著:田中敬三 岩波ジュニア新書
Photo  今回紹介する本は滋賀県にある「第二びわこ学園」という施設(現在は、びわこ学園医療福祉センター野洲に改称)で生活されている心身に重い障がいのある方たちが粘土を通して自分を表現していく姿を記した『粘土でにゃにゅにょ―土が命のかたまりになった!  』です。
 著者の田中敬三さんは第2びわこ学園の職員として約40年前から粘土活動に取り組み始めます。障害ゆえに粘土という素材に戸惑いのあった方たちが、如何にして粘土に親しみ、粘土に自分の思いをこめるようになってきたのか?その過程でのドラマが本書では丹念に描かれています。

 上手く自分のことを周囲に表現できないが故に自らの思いやエネルギーを粘土に注ぎ込む姿は、人間という生き物が持つ自己表現力の素晴らしさや可能性を再認識させられました。

 また本書を読んで、重い障がいのある方たちの支援をする際に支援者側が急いで結果を求めず、じっくりと腰を据えて工夫しながら関わることの大切さを改めて痛感しました。 

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『パコと魔法の絵本』この映画を見て!

第219回『パコと魔法の絵本』
Photo_2  今回紹介する作品は『下妻物語』や『嫌われ松子の一生』での独特な映像表現とテンポの良い演出で高い評価を受けている中島哲也監督の最新作『パコと魔法の絵本』です。
 本作品は2004年に全国8都市で公演された後藤ひろひと原作の舞台『MIDSUMMER CAROL ガマ王子vsザリガニ魔人』をCGを大胆に取り入れて映像化しています。

ストーリー:「とある時代のとある場所に患者も医者も看護師も変な人ばかりが集まる病院があった。
 特に偏屈なクソジジイの大貫は病院内での嫌われ者だった。大貫はある日病院の庭で入院しているパコという少女と出会う。彼女にも意地悪にしか接することができない大貫は、ある日パコが自分の大切なライターを盗んだと勘違いして頬っぺたを殴ってしまう。しかし、パコは1日しか記憶を保てない病気のために昨日拾ったライターのことを忘れていたのだった。
 大貫はパコの病気を知り、ひどく後悔する。パコは翌日も何事もなかったようにケロっとして大貫に近づく。さすがに反省した大貫はパコに謝ろうとほっぺに触れた瞬間、「おじさん、昨日もパコのほっぺに触ったよね?」と昨日のことを覚えていた。大貫はパコのために何かをしてあげたいと思い始め、病院の皆に一緒にパコの愛読する絵本「ガマ王子vsザリガニ魔人」を演劇として演じてくれと懇願する。」

 今年の秋は日本映画が秀作ぞろいです。先日見た『おくりびと』も素晴らしかったですが、本作品も負ける劣らず素晴らしい作品でした。

 本作品は日本映画としては珍しいファンタジー映画ですが、個性的な登場人物が色彩豊かな映像の中で繰り広げる物語は見ていて飽きることがなく、前半は大いに笑って後半は涙を抑えることができませんでした。

 中島哲也監督というとCGやセットを巧みに駆使した独自の映像表現が有名ですが、本作品では日本映画では初となる3D-CGと実写の合成した映像が後半登場します。その出来栄えは大変素晴らしく、まさしく飛び出す絵本!映画のクライマックスを見事に盛り上げてくれます。CG以外にもセットや衣装そしてメイクもカラフルかつ奇抜で見ていて楽しいです。
 
 また、登場人物たちの舞台を見ているかのような大げさな演技も本作品の作風にはとてもマッチしていると思いました。
役所広司はさすがベテランだけあって大貫という偏屈なおじいさんを悠々と演じていましたし、パコを演じるアヤカ・ウィルソンは見ていて本当に愛くるしく可愛いです。脇役の山内圭哉や國村隼のあくの強い演技も見ていて楽しいです。
 また、上川隆也と小池栄子に関しては普段テレビで見慣れている雰囲気とは全く違う強烈なキャラクターとして登場するので正直驚きましたし、妻夫木聡にいたっては途中まで演じているのが妻夫木聡と分からないほどの怪演でした。
 ただ、阿部サダヲの演技は終始ハイテンション過ぎて、見ていて時折少しうっとうしくなることがありましたが・・・。

ただ、本作品で唯一惜しかったのが、大貫がなぜパコに思い入れをするようになったのか心情の変化の描写が薄かったこと。大貫の心理描写をもう少し丹念にしたら、より素晴らしい作品になったと思います。

 映画のラストは予想していた展開と違っていたので少々驚き、そして涙しました。てっきりあの人がああなると思ったもので。

 本作品は今までの日本映画にはないタイプの作品ですが、見て損はしない仕上がりとなっていますよ! 

公式サイト:http://www.paco-magic.com/index.html

上映時間 105分
製作国 日本
製作年度 2008年
監督: 中島哲也 
原作: 後藤ひろひと 
脚本: 中島哲也、門間宣裕 
撮影: 阿藤正一、尾澤篤史 
美術: 桑島十和子 
編集: 小池義幸 
音楽: ガブリエル・ロベルト 
主題歌: 木村カエラ 
『memories』
出演: 役所広司、アヤカ・ウィルソン、妻夫木聡、土屋アンナ、 上川隆也
阿部サダヲ、加瀬亮、小池栄子、 劇団ひとり、山内圭哉、國村隼

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『菊次郎の夏』この映画を見て!

第218回『菊次郎の夏』
Photo  今回紹介する作品は北野武監督による一夏のロードムービー『菊次郎の夏』です。
 本作品はそれまでの北野映画の特長であった「死」や「暴力」を排して、『母を訪ねて三千里』のような古典的な人間ドラマとなっています。

ストーリー:「祖母と2人で暮らす小学3年生の正男は今日から夏休み。友達は親に宿題を見てもらったり、良好に連れて行ってもらう中、正男は1人でさびしく過ごしていた。そこで写真でしか見たことのない母に会いにゆく事を決意。豊橋で仕事をしているという母の元に1人で向かおうとする。そんな正男を心配した近所のおばちゃんは無職でブラブラしている自分の連れの菊次郎を同行させる。渋々引き受けた菊次郎は出発するなり競輪場で旅費を使い果たしてしまう。こうして2人の一夏の旅が始まるのだった。」

 私は本作品を劇場で公開されている時に見たのですが、その時の評価は今一つでした。緑を基調にした映像と透明感溢れる久石譲の音楽の美しさは素敵なのですが、映画の後半の主人公たちが野外で遊ぶシーンが延々と続くところが当時の私には退屈に感じました。

 しかし、最近になって深夜にテレビで放映されていたので、劇場以来久しぶりに見直したのですが、後半のまったりとした展開こそが本作品の核である事に気づきました。
 映画の中盤に正男が一生心の傷になるようなショックを受ける出来事があります。その出来事を機に二人の距離感は縮まり始めます。傷ついた正男に対して菊次郎は何とか励まし慰めようと、野外で大人たちを巻き込んで延々馬鹿騒ぎをする。そんな菊次郎の不器用な優しさが映画の後半で描かれていたのだと気づいた時、本作品の私の中での評価が変わりました。傷ついた心なんて簡単に癒せるものではない。それだったら気晴らしに馬鹿騒ぎして笑っていたほうが幾分か救われるだろうという北野監督らしいメッセージが後半のシーンには込められているような気がしました。

 主人公の菊次郎は一見すると破天荒で無責任でどうしようもない男ですが、そんな男がふと見せる優しさや寂しさ。不器用さと照れからストレートには表現できないところが何とも意地らしく切なくて、見ていてほろりとさせられます。
 特に老人ホームで生活している自分の母を遠くからそっと眺める場面は菊次郎の近づきたいけど近づけられない不器用さが見ていて伝わってくる切ないシーンです。

 旅を終えて2人が地元に戻ってくる映画のラスト。そこでの二人のやり取りは旅を通してお互いがお互いを理解して堅く結ばれた絆が強く感じられて、自然と涙が出てきます。

 本作品は北野作品の中では一番爽やかな仕上がりとなっており、北野映画はちょっと苦手という人でも安心して楽しめると思います。

 あと、本作品は久石譲の音楽がとても素晴らしいです。一時期トヨタカローラのCMでも使われていたので聞いたことある方も多いと思いますが、音楽が映像ととてもマッチしており、見ている人間の感情を揺さぶります。はっきり言って本作品は久石譲の音楽がなければ魅力は半減していたと思います。それくらい音楽が映画を支えています。ぜひ映画を見られた方は久石さんのサントラも購入してください。聞いていて心が落ち着く名盤です。

上映時間 121分
製作国 日本
製作年度 1999年
監督: 北野武 
脚本: 北野武 
撮影: 柳島克己 
美術: 磯田典宏 
編集: 北野武 
音楽: 久石譲 
照明: 高屋齋 
出演: ビートたけし、関口雄介、岸本加世子、吉行和子
細川ふみえ、大家由祐子、麿赤兒、グレート義太夫 、井手らっきょ

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『おくりびと』この映画を見て!

Photo 第217回『おくりびと』
 今回紹介する作品は遺体を清め棺に納める“納棺師”を主人公にした人間ドラマ『おくりびと』です。本作品はモントリオール映画祭でもグランプリンを受賞し、今年のアカデミー賞外国映画賞日本代表に選ばれるなど大変高い評価を得ています。
 私も劇場に足を運び鑑賞して来たのですが、この手の映画にしては珍しく満員御礼でした。観客層は比較的中高年の人が多かったのですが、劇場内は観客の笑い声とすすり泣きが絶えませんでした。私も2時間近い上映時間の間、大いに笑って大いに泣いて、見終わって久しぶりに良い邦画を見られたなと大変満足しました。私の中では今年度見た映画の中でベスト3以内に入る出来だと思います。

ストーリー:「チェロ奏者の小林大悟は所属していた楽団が突然解散してしまう。大悟はチェロ奏者を諦め、妻と故郷の山形へ帰ることに。職探しを始めた大悟は“旅のお手伝い”という求人広告を見てN・Kエージェントという会社に面接へと向かう。しかし、旅行代理店だと思って行った会社は、“旅立ち”をお手伝いする“納棺師”を生業としていた。大悟は社長の佐々木の面接で即採用されて、納棺師の見習いとして働き始める。しかし、大悟は世間の目も気になり、妻にも言い出せないままだった。」

 遺体を清め棺に納める納棺師という余り知られていない職業にスポットを当てた本作品。オープニングに納棺師の一連の仕事を紹介するシーンがあるのですが、故人の尊厳を保ちながら鮮やかな手際で遺体を清め納める納棺師の振る舞いに見入ってしまいました。
 映画の中では様々な境遇のお別れが描かれていくのですが、故人を前にした遺族たちの様々な反応が見ていて涙を誘います。死とは誰もが生きている限り出会い経験するものですが、普段はなかなか意識していません。そんな死に関して本作品はいろいろと考えさせられるきっかけを与えてくれます。

また本作品の良いところは死という暗く重い題材を扱いながら、随所にユーモアがあり笑えるところです。前半は笑わせるシーンが多く、後半になるにつれて泣かせるシーンが多くなるというストーリー構成が巧みです。

 あと印象的だったのが食べ物のシーン。本作品はいろいろな食べ物が登場するのですが、どれも大変美味しそうに撮ってあります。死と対照である生を象徴するものとして食べ物が見事に描かれています。

 音楽は宮崎アニメや北野映画で有名な久石譲さんが担当。主人公が元チェロ奏者という設定であるために、チェロを中心とした音楽となっています。チェロの優しい音色が奏でる美しいメロディは聞いていて心落ち着きます。

 役者の演技に関しては広末涼子以外は申し分ないです。広末が登場するシーンは何となく浮いていて違和感を感じてしまいました。特に本作品は山崎努、笹野高史、吉行和子の演技が素晴らしく、映画に奥行きを与えています。もちろんモックンの時にコミカル、時にシリアスな演技は主人公が納棺師として成長していく姿を見事に表現していたと思います。

 本作品は死という重い題材を扱っていますが、変に堅苦しかったり重苦しくなく、明るく優しく温かく最後まで見ることが出来ます。

 私としては本年度一押しの作品です。ぜひ、皆さん劇場に足を運んでください!

公式サイト:http://www.okuribito.jp/

製作国:日本
上映時間:131分
製作年:2008年
監督: 滝田洋二郎 
脚本: 小山薫堂 
撮影: 浜田毅 
美術: 小川富美夫 
編集: 川島章正 
音楽: 久石譲 
衣裳監修: 北村勝彦 
企画協力: 小口健二 
照明: 高屋齋 
装飾: 小池直実 
録音: 尾崎聡 
助監督: 長濱英高 
出演: 本木雅弘、広末涼子、山崎努、余貴美子、吉行和子 
笹野高史、杉本哲太、峰岸徹、山田辰夫、橘ユキコ 

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『椿三十郎』この映画を見て!

第216回『椿三十郎』
Photo_2  今回紹介する作品は『用心棒』の大ヒットを受けて、黒澤監督が三船敏郎を主役に据えて製作した凄腕の浪人・三十郎が活躍する時代劇『椿三十郎』です。本作品は昨年に森田芳光監督・織田裕二主演でリメイクされ大変話題になりました。

ストーリー:「真夜中の森の中の朽ちた社の中、9人の若侍たち人目を避けるように集まり次席家老の汚職の問題を話していた。家老の不正を何とか暴こうと気勢を上げる若者たち。
そんな前に奥の部屋からアクビをしながら三十郎が現れ、若者たちの脇の甘い作戦に注意をする。そして、三十郎は若者たちに手を貸すことにする。」

 本作品は上映時間も98分と短く、オープニングからテンポ良く話しが進ます。前作は三十郎が知恵を絞りながら1人で悪に颯爽と立ち向かう姿をハードボイルドタッチで描いていましたが、本作は三十郎が9人の若侍と協力して悪に立ち向かっていく姿をユーモアを織り交ぜながら勧善懲悪なスタイルでスカッと描いていきます。
 
 本作品でも三船敏郎演じる三十郎の飄々としたカッコ良さは健在です。私が本作品で特に印象的だったのが、敵に捕まった若侍を助けるために殺生をした後、若侍の身勝手な行動にビンタするシーン。生と死が隣り合わせの世界で生きてきた三十郎の姿が垣間見えるシーンでした。

 また、本作品にコミカルな場面が多いのも特長です。特に脇役である入江たか子演じる奥方と団令子演じる姫君、そして小林桂樹演じる人質役の3人が笑いを誘います。

 悪役に関して言うと、前作に引き続いて仲代達矢が登場。本作品では前作のニヒルな悪役とは打って変わり、三十郎と裏表の関係にある武士として迫力のある演技を見せてくれます。

 もちろん、前作同様に三十郎の迫力ある殺陣シーンも健在です。特にラストの仲代達矢演じる敵との一対一の対決シーンは映画史に残る伝説的な殺陣シーンです。2人が向き合い牽制している時のただならぬ緊張感。そして次の瞬間、目にも止まらぬ速さで三十郎の刀が舞い、敵の胸から血が激しく噴出す。その迫力は見ていて度肝を抜かれます。

上映時間 98分
製作国 日本
製作年度1962年
監督: 黒澤明 
原作: 山本周五郎『日々平安』
脚本: 菊島隆三  小国英雄 黒澤明 
撮影: 小泉福造   斎藤孝雄 
美術: 村木与四郎 
音楽: 佐藤勝 
出演: 三船敏郎、仲代達矢、小林桂樹、加山雄三、団令子
志村喬 、藤原釜足、入江たか子、清水将夫、伊藤雄之助 
久保明 、太刀川寛、土屋嘉男、田中邦衛、、江原達怡吾
平田昭彦 、小川虎之助

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『ゴッドファーザー PART III』この映画を見て!

Photo 第215回『ゴッドファーザー PART III』
 今回紹介する作品は前作から15年ぶりに製作されたシリーズ最終章『ゴッドファーザー PART III』です。 

ストーリー:「1979年。マイケル・コルレオーネは慈善事業の実績によってバチカンから聖セバスチャン勲章を授与される。しかし、その一方で自分がこれまでに犯してきた数々の罪と糖尿病に苦しんでいた。マイケルはバチカンの加護を得て一切の犯罪から手を引くことを宣言したが後継者に長兄ソニーの息子である気性の荒いヴィンセントを立てたことから内部抗争に火がついてしまう。
 またマイケルは大司教と手を組み、バチカンの銀行を利用してヨーロッパのコングロマリットを手に入れようとする計画を立てていたが、敵が立ちふさがり、命を狙われることになる。」

 本作品は1作目・2作目に比べると完成度は落ちます。その理由として、監督の配役ミスがあります。
 まずロバート・デュバルがギャラの関係で降板して、1作目から重要な脇役だった弁護士トムが登場しないこと。彼が登場すれば本作品は完結編としてもっと面白くなったと思います。
 また本来ウィノナ・ライダーが演じる予定だったマイケルの娘役を体調不良による降板から、監督の娘であるソフィア・コッポラが急遽代役として立てたことも大きな失敗だったと思います。頑張って演技していたとは思いますが、やはり他の役者と比較すると演技が浮いています。

 あと、映像やストーリー展開もキレや重厚さがありません。ヘリコプターからの銃撃シーンはこのシリーズには相応しくないようなアクションシーンですし、バチカンの銀行をめぐる駆け引きも説明不足で緊張感に欠けていました。

 最初にあれやこれやと本作品への不満を書いてしまいましたが、決して退屈な駄作というわけではありません。
 私は本作品を見た時、最後のマイケルを襲う悲劇に思わず泣いてしまいましたし、ラストの切ない終わり方も本作品の締めくくりに相応しいと思いました。
 本作品はファミリーを守り発展させるために数々の罪を重ねたマイケルの老いてからの後悔と苦悩を描いており、1作目・2作目の頃のクールなマイケルの姿を求める人からみると違和感があるかもしれません。私は本作品のマイケルの弱々しく痛々しい姿に老いからくる孤独と哀愁を感じました。
 
 本作品は単体で見るとイマイチかもしれませんが、1作目から3作目まで通してみると、人生の因果応報や栄枯盛衰がドラマチックに描かれた映画史に残る傑作です。ぜひ3作通して見てください!

上映時間 162分
製作国 アメリカ
製作年度 1991年
監督: フランシス・フォード・コッポラ 
脚本: フランシス・フォード・コッポラ,マリオ・プーゾ 
撮影: ゴードン・ウィリス 
作詞: ジョン・ベティス 
音楽: カーマイン・コッポラ, ニーノ・ロータ 
出演: アル・パチーノ、ダイアン・キートン、アンディ・ガルシア、タリア・シャイア 
ソフィア・コッポラ 、フランク・ダンブロシオ、リチャード・ブライト ジョン・サヴェージ 
ジョージ・ハミルトン 、ブリジット・フォンダ、イーライ・ウォラック 
ジョー・マンテーニャ

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夜会VOL.15ポスター公開!

15  今年の冬に東京と大阪で公演される中島みゆきの15回目となる夜会、~夜物語~「元祖・今晩屋」。そのポスターが公開されました。
 
 みゆきさんが夜会制作発表の際に「和の要素を盛り込みながらの不思議ワールド」とコメントしたように、和服姿の中島みゆきの横顔が印象的なポスターとなっています。
 
 
Photo夜会の公式サイトには今回の夜会で歌われる歌詞の一部分が掲載されているのですが、それがまた意味深な内容です。
 「涙の輪廻」、「来世」、「垣衣」、「萱草」、「誓いを戻せ除夜の鐘」とみゆきさんらしい難解な言葉を取り込んだ独特な言い回しが印象に残ります 最近の夜会は輪廻転生をテーマにして生きているので、今回もその延長の作品になるのかなと勝手に思ったりするのですが「裏切り前の1日へ誓いを戻せ除夜の鐘」というフレーズがとても気になります。今回の夜会が一体どういう物語で何をテーマにして伝えようとしているのか今から興味津々です。

 私も大阪公演のファンクラブによるチケット優先販売の抽選に申し込みをしたのですが、ぜひチケットを当てて行きたいものです。



 

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『用心棒』この映画を見て!

第214回『用心棒』
Photo  今回紹介する作品は黒澤明監督による痛快娯楽時代劇『用心棒』です。今までの舞台で繰り広げられる様式美でなく、リアルな殺陣を目指した本作品は、それ以降の時代劇に大きな影響を与えました。
 また西部劇のような時代劇を目指して製作された本作品は海外でも人気を博して、イタリアで『荒野の用心棒』として、アメリカで『ラストマン・スタンディング』としてリメイクされました。

ストーリー:「二つのやくざ勢力が対立する荒涼とした宿場町に、自称“桑畑三十郎”と名乗る腕利きの浪人が現れた。居酒屋の主人から町の事情を聞いた三十郎は同士討ちを仕組もうと、両方の勢力に用心棒として売り込み始める。しかし、そこに拳銃片手に首にスカーフを巻いたキザな男“新田卯之助”が帰郷する。」

 本作品の魅力は何といっても三船敏郎演じる三十郎というキャラクターのカッコよさです!
 三十郎のくいっくいっと肩をいからせて歩く気迫に満ちた姿、粋なセリフを言い回す渋い声、目にも止まらぬ速さの殺陣。三十郎の立ち振る舞いの一つ一つが見ていて惚れ惚れとします。
 また、一見飄々としてクールな男のように見えながら、実は悪を憎み正義に燃える優しい男というところも見ていて好感が持てます。

 脇役の演技も素晴らしいです!ニヒルでしぶとい拳銃使いを演じた仲代達也、口の悪い居酒屋の主人を演じた東野栄治郎、女郎屋の憎々しい女将を演じた山田五十鈴、調子ばかり良い間抜けなヤクザを演じた加東大介と、登場する役者一人一人が個性的で見た後に印象が残ります。

 本作品の面白いところは剣の達人が主人公だからと言って、むやみやたらに剣を振り回さず、知恵と度胸で敵を壊滅させようとするところです。三十郎がどうやって敵を欺くのか、どうやって敵を追い込むのか、見ていてワクワクしました。

 黒澤監督の演出は日本の時代劇よりアメリカの西部劇を意識していると感じました。街の中での対立するヤクザ同士の抗争という舞台設定や、仲代達矢がピストルを持って現れたり、クライマックスの決闘シーンで砂嵐が吹いているところなど西部劇を見ているような感じです。黒澤監督はジョン・フォードの映画が好きだったので、きっと本作品を制作するとき、三船敏郎にジョン・ウェインを重ね合わせたんじゃないかなあと見ていて思いました。
 また、コミカルな演出が多いのも特長で。火の見櫓の上や棺桶の中から主人公がヤクザ同士の抗争を見物したり、敵に主人公が隠れている棺桶を担がせるなど、見ていて笑えるシーンが随所にあります。

 もちろん殺陣シーンも工夫が凝らされており、三十郎が敵の腕を切り落とすショッキングなシーンや、他の映画みたいに敵が主人公に向かうのでなく、主人公が敵の方に自ら斬り込んでいき、一瞬の間に敵が倒れていくリアルかつスピード感溢れる演出は強烈なインパクトがあります。

 映画のラストも主人公が居酒屋の親父に「あばよ」と言って颯爽と去っていくという清々しい演出で見ていて気持ちよい終わり方になっています。

 本作品は古い作品ではありますが、今見ても大変面白い作品です。ぜひ未見の方は一度見ることをお勧めします! 

上映時間 110分
製作国 日本
製作年 1961年
監督: 黒澤明 
脚本: 黒澤明   菊島隆三 
撮影: 宮川一夫 
美術: 村木与四郎 
振付: 金須宏 
音楽: 佐藤勝 
記録: 野上照代 
照明: 石井長四郎 
出演: 三船敏郎、 仲代達矢、 司葉子、 山田五十鈴、 加東大介 
河津清三郎 、 志村喬、 太刀川寛、 夏木陽介、 東野英治郎、 藤原釜足
 

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