『七人の侍』この映画を見て!
第221回『七人の侍』
今回紹介する作品は世界中の映画関係者に多大な影響を与えた日本映画の最高傑作の一つ『七人の侍』です。
本作品は当時としては破格の費用(当時で2億円、現在の価格で約30億円)と約1年という長い期間をかけて製作されました。当初は3ヶ月で製作される予定がセットや天候の関係、そして黒澤監督の完璧主義で大幅に延びてしまったそうです。
なかなか完成しないので会社から文句も出たそうですが、その時は会社の役員向けに野武士が山の斜面を駆け下り場面まで試写をしたそうです。試写を見た役員たちは「これの続きは?」と黒澤監督に尋ねて、「ここから先はひとコマも撮っていません」と言って、早く続きの見たい役員たちに追加予算を認めてもらったそうです。
本作品はリアリティを追求して、農村のオープンセットを作り、衣装もわざと汚くしたり、国宝級の兜を使用したりとあれこれ工夫したそうです。
シナリオも黒澤監督を始めとして3人でシーンごとにアイデアを出し合って書いています。その為、無駄なシーンが一切なく、全ての登場人物たちにスポットが当てられているので、3時間半という長い上映時間飽きることなく見ることができます。
ストーリー:「戦国時代のとある農村。麦の収穫を控えた農民たちは野武士たちの愁ゲ毛に脅えていた。百姓たちは麦と村を守るため侍を雇うことを決断する。そして農村から4人の男が代表として侍を探しに街に繰り出す。しかし、腹いっぱいご飯を食べられるという報酬では侍はなかなか見つからなかった。
そんな中、子どもを人質にとった盗人を退治した勘兵衛の姿を見て、助けてほしいと頼み込む。最初は困惑していた勘兵衛だが彼らのために人肌脱ごうと決心する。そして、村を守るためには7人侍が必要だと考えて、村人と侍探しを始める。
そして勘兵衛の人柄に惚れた参謀格の五郎衛、陽気な平八、弟子入り志願の新人・勝四郎、勘兵衛の古女房の七郎次、剣の達人の久蔵、野生児の菊千代が勘兵衛の下に集まる。村に入った七人の侍は野武士との決戦に向けて農民たちと準備を開始する。」
本作品のストーリーは七人の侍が集まるまでの前半、野武士との戦いに向けて侍と農民が準備する中盤、そして野武士との戦いを描く後半と大きく分けて3部構成となっています。話し自体はとてもシンプルで、戦闘シーンも思っているほど多くはありません。有名なラストの雨の中での決闘シーンも実は5分くらいしかありません。
本作品が面白いのは戦闘シーンももちろんですが、それ以上に登場する人間たちの個性やドラマがきちんと描かれていることです。戦う者たちのドラマや個性が描かれているからこそ戦闘シーンにも観客は感情移入ができる。本作品はその良いお手本だと思います。
私は本作品の侍が集まるまでの前半のエピソードが大好きです。それぞれの侍の戦い方や生き方が上手に描き分けされているので、何度見てもワクワクします。特に宮口精二
演じる剣の達人である久蔵が初めて登場するシーン。その無駄のない剣さばきは何回見ても惚れ惚れします。
映画の中盤は侍たちが農村に入り村人と戦に向けての準備をするのですが、この下りで印象的だったのが農民たちの生き方です。最初はただ怯えているだけの弱いに見えた農民たちの意外なしたたかさが垣間見えるシーンがいくつかあるのですが、それを見るたびに人が懸命に生きるということは美しいことばかりではないという現実を実感させられます。
武士階級と農民階級という生き方も生活も全く違う人間たちの違いや三船敏郎演じる菊千代がこの2つの階級の人間たちを上手く結び付けていたところが印象的でした。
また、戦に備えて状況を判断して的確に周囲に指示・指揮する勘兵衛の姿は見ていて、リーダーとはどういう存在であるべきか何度見ても非常に勉強になります。
映画の後半は戦闘シーンがメインとなりますが、とてもリアルで迫力があります。CGも何もない時代、生身の人間たちがこなすアクションの数々は今見ても非常に手に汗握ります。
特にクライマックスの土砂降りの中での戦いは凄い迫力です。真冬に撮影されたということですが、キャスト・スタッフの熱意というものが見ていてひしひしと伝わってきます。
映画では4人の侍が戦いの末に命を落とすのですが、4人とも刀でなく鉄砲で殺されるところもとても印象的でした。
映画のラストは勘兵衛が農民たちの田植えを見つめながら「勝ったのは百姓たちだ」というセリフを言って立ち去るシーンで幕を閉めます。私はそのシーンを見る度にこの国を根底で支えてきたのは米を粘り強く作ってきた百姓たちであるという当たり前といえば当たり前のことを再認識させられます。
また、生きるとはこの映画に登場する農民たちのように決して美しいことばかりでなく醜さやずる賢さも必要であり泥臭い故にこそ、七人の侍のカッコよさや潔さが光り輝き、見る人の心をつかんで離さないのだと思います。
本作品は日本人なら一度は見て損はない傑作です。古いし、長いしと敬遠なさらず、ぜひ見てください!
上映時間 207分
製作国 日本
製作年 1954年
監督: 黒澤明
製作: 本木荘二郎
脚本: 黒澤明、橋本忍、小国英雄
撮影: 中井朝一
美術: 松山崇
音楽: 早坂文雄
監督助手: 堀川弘通、田実泰良
照明: 森茂
録音: 矢野口文雄
出演: 三船敏郎、志村喬、津島恵子、藤原釜足、加東大介、木村功
千秋実、宮口精二、小杉義男、左卜全、稲葉義男、土屋嘉男、高堂国典
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