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2008年1月

『ラストエンペラー』この映画を見て!

第197回『ラストエンペラー』
Photo_2  今回紹介する作品は清朝最後の皇帝・溥儀の人生を描いた歴史大作『ラストエンペラー』です。
 本作品は溥儀の自伝「わが半生」に感銘を受けたイタリアの映画監督・ベルナルド・ベルトルッチが映画化。中国でのオールロケを敢行し、世界初となる紫禁城での撮影を行い大変話題を呼びました。完成された映画は高い評価を受けてアカデミー賞では9部門を獲得しました。

 ストーリー:「わずか3歳で清朝皇帝の地位に就いた溥儀。まだ自分の立場など何も分らない子どもながら、周囲の者からは皇帝として手厚く敬われていた。しかし、紫禁城から出ることを一切許されず孤独な少年時代を過ごす。大人になり皇帝として周囲に権力を振るおうとするが、辛亥革命が起こり彼は紫禁城から追い出される。そして彼は日本軍が統治していた満州国の皇帝となるが、そこでも彼は日本軍の手先として利用されるだけの見せかけの皇帝だった。そして日本軍が降伏した1945年、彼は戦犯として逮捕され収容所に入れられる。」
 
 本作品の最大の見所は何といっても撮影監督・ヴィットリオ・ストラーロの手による華麗な映像美です。特に紫禁城のシーンはスケールの大きさと色彩の豊かさに見とれてしまいます。
 そんな美しい映像に負けず劣らず音楽も大変美しく印象的です。特に坂本龍一が手がけた部分が素晴らしく、第二皇妃が雨の降る中を去るシーンで流れる「RAIN」やラストに流れる「ラストエンペラーテーマ」のメロディラインの切ない美しさはため息が出るほどです。

ストーリーに関して言うと、権力に翻弄された1人の人間の孤独や悲哀に非常に胸が打たれます。3歳のときから皇帝として見た目はチヤホヤ扱われながらも、実質的な権力は周囲が持っており、それに振り回され従わされるだけの人生。物質的な欲望は満たされても、自分の人生を思い通りにできない主人公の歯がゆさや空しさみたいなものが全編を通して伝わってきました。
 また後半の権力も奪われ一市民に転落していく姿は時の無常さといったものを改めて感じました。
 年老いた溥儀が紫禁城で幼い頃に隠したコオロギの入った容器を再び見つけ、中からコオロギが出てくるラストシーン。何ともいえない切ない終わり方で印象に残りました。時代と権力に翻弄された溥儀が最後に見つめた幼い頃のコオロギ。人生の儚さを感じる素晴らしいラストシーンでした。

上映時間 163分
製作国 イタリア/イギリス/中国
製作年度 1987年
監督: ベルナルド・ベルトルッチ 
製作: ジェレミー・トーマス 
脚本: ベルナルド・ベルトルッチ、マーク・ペプロー、エンツォ・ウンガリ 
撮影: ヴィットリオ・ストラーロ 
音楽: 坂本龍一、デヴィッド・バーン、スー・ソン 
出演: ジョン・ローン、ジョアン・チェン、ピーター・オトゥール、坂本龍一 
デニス・ダン、ヴィクター・ウォン、高松英郎、 マギー・ハン 、リック・ヤン 
ヴィヴィアン・ウー、ケイリー=ヒロユキ・タガワ 

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『サイレントヒル』映画鑑賞日記

Photo  世界中で大ヒットした日本発の人気ホラーゲーム『サイレントヒル』を完全映画化した同名タイトルの本作品。ゲームを映画化した作品は『バイオハザード』シリーズを始め数多くありますが、本作品はその中でもかなり成功した部類に入ると思います。

ストーリー:「ローズとクリストファーの夫婦は、9歳になる養女のシャロンの奇妙な言動に悩んでいた。彼女を救う手掛かりを探しているうちに、サイレントヒルという街の存在を知るローズ。そこは、30年前に大火災に見舞われ誰も近づかないゴーストタウンだった。
 ローズとシャロンはクリストファーの制止を振り切りサイレントヒルへと向う。しかし、サイレントヒルへと続く狭い道の途中で事故に遭い、ローズは気を失ってしまう。彼女が意識を取り戻したとき、シャロンの姿は見えなかった。ローズはシャロンの行方を追って、サイレントヒルの奥深くへと彷徨い込んでいくのだが…。」

 本作品の素晴らしいところは何といってもゲームの世界観を忠実に映像化したところにあります。絶えず白い灰が降り続け視界の悪いゴーストタウンの何ともいえない不気味な雰囲気。そんな街がサイレンの音と共に魑魅魍魎が蠢く地獄へと変化するシーンの張り詰めた緊張感。そして、闇の中から出現するクリーチャーたちの目を背けたくなるほどおぞましい姿。特に頭が三角形のレッド・ピラミッドや顔のないナース集団はおぞましさの中に淫靡なエロティシズムが感じられ強烈なインパクトを放っていました。
 またスプラッターシーンも結構過激で、体が引き裂かれたり粉砕されたりとR指定にならなかったのが不思議なくらいです。
 ビジュアル面に関しては細部までこだわりぬかれており、見所満載です。

 ストーリーに関して言うと家族愛やカルト集団の狂気等をテーマにしており、単なる見世物ホラー映画にはない重厚さがあります。しかし、ゲームをしていない人には説明不足なところがあったり、主人公の行動に首を傾げるところがありました。もう少しサイレントヒルの世界観の説明や主人公の恐怖への葛藤などの心理描写を丁寧に描いてもよかったような気がします。

 本作品で私が好感をもてたのは、ハリウッドのホラー映画にありがちな背後からワッと脅かすようなコケオドシの演出がないところです。観客をじっくりと恐怖に満ちた世界に引きずり込む演出は覚めない悪夢を見ているかのようで緊張感を持って最後まで見ることができました。 
  
上映時間 126分
製作国 アメリカ/日本/カナダ/フランス
製作年度 2006年
監督: クリストフ・ガンズ 
脚本: ロジャー・エイヴァリー 
撮影: ダン・ローストセン 
編集: セバスチャン・プランジェール 
音楽: ジェフ・ダナ 
出演: ラダ・ミッチェル 、ショーン・ビーン、 ローリー・ホールデン、デボラ・カーラ・アンガー、キム・コーツ
 

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『ブラックブック』この映画を見て!

第196回『ブラックブック』
Photo_2  今回紹介する作品は第2次世界大戦下のナチスに支配されたオランダを舞台にユダヤ人女性が必死に生き延びる姿を描いた作品『ブラックブック』です。
 本作品はハリウッドで『ロボコップ』や『氷の微笑』などの過激な作品を次々と発表したポール・ヴァーホーヴェンが母国オランダに戻って脚本と監督を担当しています。ヴァーホーヴェンはハリウッドでは過激な暴力描写と性描写ばかりが話題になっていましたが、人間の悪意やドロドロした欲望をサスペンスたっぷりに描くことに長けた監督です。そんな監督の持ち味が本作品では最大限活かされています。

ストーリー:「1944年、ナチス・ドイツ占領下のオランダ。美しいユダヤ人女性歌手・ラヘルは、ナチスから逃れるため一家で南部へ向かう。しかし、ドイツ軍の追跡により彼女を除く家族全員が射殺されてしまう。その後、ラヘルはレジスタンスに救われる。ラヘルはユダヤ人であることを隠し、名前をエリスと変えてレジスタンス活動に参加する。そしてナチス内部の情報を探るため、ナチス将校ムンツェに接近して、彼の愛人となることに成功するのだが…。」

 ナチスに追われるユダヤ人を描いた戦争映画というと『シンドラーのリスト』や『戦場のピアニスト』などユダヤ人迫害の苦難を重苦しく描いた作品が多いのですが、本作品は主人公が裏切り者を探すというサスペンスタッチで物語が展開していくので娯楽作品として手に汗握りながら楽しく見ることができます。
 
 また本作品の素晴らしいところはナチスを悪、レジスタンスやユダヤ人を善として単純に分けて描いていないところです。欲望のためにナチに協力するユダヤ人やレジスタンスがいたり、ナチの中にも主人公に協力する良い将校がいたりと人間の愚かさや弱さを人種や国籍で分けることなく冷徹に描いています。
 特に印象的だったのが敗戦後にオランダの民衆がナチ協力者を虐待するシーンです。ナチに虐げられた民衆が戦後ナチと同じような愚かな行為をする姿は人間という生き物の愚かさや弱さを見事に抉り出しています。ヴァーホーヴェン監督は下品な描写をする癖がありますが、本作品はそんな下品な描写が作品のテーマである戦争や人間の下品さを描くことと上手く結びついていたと思います。
 
 あと本作品を見て凄いと思ったのは主人公の女性を演じたカリス・ファン・ハウテンの体当たりの演技です。主人公は次から次へと屈辱を受けるのですが、それに屈することなく逞しく生き延びる姿は女性のしたたかさや力強さといったものを感じました。特に印象的だったのが主人公がブロンドに陰毛を染めるシーンと後半の糞尿を浴びるシーン。何が何でも生き延びようとする人間の気迫を感じました。

 もちろんヴァーホーヴェンらしくエロ・グロな描写も健在です。しかし、以前の作品に比べると少し控えめだったような気がします。
 
 本作品は久しぶりの戦争映画の傑作であり、ヴァーホーヴェンの傑作です。ぜひ一度見てください! 

上映時間 144分
製作国 オランダ/ドイツ/イギリス/ベルギー
製作年度 2006年
監督 ポール・ヴァーホーヴェン 
脚本 ジェラルド・ソエトマン  ポール・ヴァーホーヴェン 
撮影:カール・ウォルター・リンデンローブ 
音楽:アン・ダッドリー 
出演:カリス・ファン・ハウテン、トム・ホフマン、セバスチャン・コッホ、デレク・デ・リント
ハリナ・ライン、ワルデマー・コブス、ミヒル・ホイスマン、ドルフ・デ・ヴリーズ

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『東京物語』この映画を見て!

第195回『東京物語』
Photo  今回紹介する作品は日本映画の最高傑作の一つであり、小津安二郎監督の代表作である『東京物語』です。

 私は今回初めて本作品を鑑賞したのですが、映画としての完成度の高さと小津監督の人間を見つめる視点の厳しさと優しさに圧倒されました。
 ローアングルの固定したカメラによって捉えられた映像の凛とした美しさと小津監督独特の間合いを取った編集が生み出す侘び寂び。笠智衆を始めとして、東山千栄子、原節子、杉村春子など芸達者な役者たちの絶妙な演技。淡々としたテンポで描かれる親子関係の隔たりや老いて時代から取り残されていく悲哀や諦観、そして生きていくことの孤独。

 戦後間もない日本でこのような素晴らしい作品が製作されていたとは驚きました。ラストの妻に先立たれた主人公がひとり佇むシーンは生きていくことの無常さが感じられ、自然と涙がこぼれてきました。

 ストーリー:「東京で独立して住む子どもたちに出会うために尾道から上京してきた老夫婦。しかし、子どもたちはそれぞれの生活に追われており、老夫婦の相手をしてくれない。そんな中で親身になって相手してくれるのは戦死した息子の未亡人だけだった。子どもにも会い、東京観光もした老夫婦は故郷に帰っていくのだが・・・。 」

 本作品は子どもが独立して生活を営む中で、親子の絆が薄れていく無常さが描かれていますが、老いた両親から離れて生活している私としては見ていて胸が痛むシーンが数多くありました。
 東京で仕事を営み生活をしている子どもたちが忙しくて田舎から出てきた両親の相手がゆっくりできない場面は見ていて切ないものがありました。また親を嫌いではないけど疎ましく思う子どもたちの心情も痛いほど分かりました。杉村春子演じる次女が老夫婦を冷たくあしらう場面を最初見た時は何て嫌な娘だなと思いながら見ていたのですが、何度か見返すうちにこの女性も決して心底悪い女性ではなく、慌しい時代の中で生きていく中であのような態度を取っているだけなのだと思うようになりました。
 子育てや仕事を終え余生を過ごす親と子育てや仕事の真っ最中にいる子ども、今という時代の真っ只中で生きる者と今という時代から一歩離れた中で生きる者の生きるテンポの差が生み出す悲しみや孤独というものを見ていて感じました。

 また本作品を語る上で外せないのが、原節子演じる戦死した次男の妻の存在です。彼女は血の繋がった子どもたちよりもはるかに優しく老夫婦に接します。血縁の人間よりもそれ以外の人間の方が血の通ったもてなしをしてくれるという皮肉と悲哀。
 そんな心優しい次男の妻がラスト近くに主人公に向かって告白するシーンは人間の複雑な心の内を見事に描いており、見ていて心が震えました。老夫婦を通して何とか亡くなった夫とのつながりを見出そうとする妻、しかし時が経つにつれて次第に夫のことを忘れていく無常という名の哀しみ。

 私は本作品はこの世の無常の悲しみを受け入れて生きていこうとする主人公の孤高な姿を描いた作品ではないかと思っています。

 本作品は時代を超えた輝きを持つ作品です。見たことのない人はぜひ一度ご覧ください。 

上映時間 136分
製作国 日本
製作年度 1953年
監督 小津安二郎 
製作 山本武 
脚本 野田高梧小津安二郎 
撮影 厚田雄春 
美術 浜田辰雄 
音楽 斎藤高順 
出演 笠智衆、東山千栄子、原節子、杉村春子、山村聡、三宅邦子、香川京子、東野英治郎、中村伸郎 
大坂志郎、十朱久雄、 長岡輝子 

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