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2007年6月10日 - 2007年6月16日

『大日本人』映画鑑賞日記

Dainippon  今回紹介する作品はダウンタウンの松本人志が企画・初監督・主演を務めた作品『大日本人』です。公開前から大変話題になっていた本作品。映画の内容に関する情報が公開直前までほとんど明らかにされなかったので、見るまではどんな内容か想像を膨らましたものでした。カンヌでは絶賛されたという報道もあれば、酷評されたという報道もあり、非常に賛否両論分かれる作りになっているのだろうと思ったものでした。
 北野監督の『監督・ばんざい!』と同じ日に公開されたので、芸人監督同士の対決とマスメディアでは大きく取り上げれてていました。私も同じ日に両作品とも鑑賞したのですが、個人的には北野監督の作品の方が面白かったです。
 ただ松本監督の作品も単に駄作と片付けるには勿体無い作品であり、非常に良い線まで言っているけど、後一歩が残念な出来の作品と言わざる得ません。

 
(ここから先はネタバレになるので、まだ見ていない人は注意してください!)
 
 ストーリー:「大佐藤大(だいさとうまさる)の日常生活を追うドキュメンタリースタッフ。彼は一見すると冴えないおじさんだが、高圧電流によって巨大化して、“獣(じゅう)”を倒していく大日本人の家系の末裔だった。かつては国民を守るヒーローとして敬われていた大日本人。しかし、時代に流れから、多くの国民の関心を失い、近隣住民からは疎まれる存在になっていた・・・。」
 
 本作品の大きな特長は全編ドキュメンタリータッチで描かれているところです。ストーリーはカメラマンが大佐藤大にインタビューする形で展開していくので、最初は彼が一体何者か全く分かりません。
 彼の正体が明らかになるのは映画が始まって30分以上経ってからなのですが、彼が巨大化するシーンは呆気にとられました。
 彼が巨大化して戦うシーンは思った以上にCGの出来がよく(もちろんハリウッドにはかないませんが・・・。)、迫力あるシーンとなっており、この作品が10億円も制作費をかけた理由も頷けました。獣のデザインも非常に気持ち悪くかつ個性的で、強烈なインパクトがありました。

 また現代の日本の家族関係の希薄さやマスメディア批判、日米関係の問題、アメリカ批判などの社会風刺が随所に見られたのも松本監督の日本人に対する思いが垣間見えれ興味深かったです。

あと俳優の使い方も予想外で、こんな形でこの人が登場するのかと驚き、そして笑ってしまいました。特に竹内力と神木隆之介の登場シーンは可笑しさの余り噴き出してしまいました。

 この作品は爆笑する作品と言うよりはクスクス笑う作品だと思います。獣と戦闘シーンや映画の随所に挿入される小ネタなども笑えます。しかし、それ以上にヒーローである主人公の情けなく哀愁漂う日常生活に共感しつつクスクス笑わせるのが監督の意図だと思いました。
 
 映画のラストは作品そのものを崩壊させるようなオチですが、ここは個人的には最後までドキュメンタリータッチで終わらせたほうが良かったと思います。何か映画でなくテレビのコントを見せられているかのようなラストは物足りませんでした。せっかく映画なのだから、テレビでは出来ないもっと予想外のオチをつけて欲しかったです。
 だらだらと続くエンドロールも面白いと言えば面白いですが、くどさも感じてしまいました。

 後、この作品で残念な点は編集です。松本監督の独特の間を尊重する編集自体は良いと思うのですが、このネタで2時間は少し長すぎました。インタビューのシーンもダラダラ過ぎて飽きてしまうところがあり、もう30分削ったほうが見やすかったと思います。
 
 ドキュメンタリータッチでヒーローの日常生活を描くという演出は面白いと思っただけに、もう少し編集やオチに工夫が欲しかったです。

製作国・地域 日本
上映時間 113分
監督 松本人志 
製作総指揮 白岩久弥 
脚本 松本人志 、高須光聖 
音楽 テイ・トウワ 
出演 松本人志 、竹内力 、UA 、神木隆之介 、海原はるか 、板尾創路 

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『監督・ばんざい!』この映画を見て!

第161回『監督・ばんざい!』
Kanntokubannzai  今回紹介する作品は北野武監督が恋愛映画、ホラー映画、人情ドラマ、SF映画と様々なジャンルを網羅したウルトラ・バラエティ・ムービー『監督・ばんざい!』です。
 前作『TAKESHIS'』で芸能界で成功した自らの内面をシニカルに描いた北野武。本作はその延長線上にある作品であり、前作を拡大発展したような内容となっています。

 脱暴力映画を宣言した監督が何とかヒット作品を作ろうと、さまざまなジャンルの映画に取り組み苦悩する姿を描く本作品。映画の前半は6つのジャンルのショートムービーが登場します。
 最初に北野監督お得意の暴力映画が登場。北野作品ではお馴染みのメンバーが登場して迫力ある芝居を見せてくれます。
 続いて登場するのが恋愛映画『追憶の扉』。監督は観客の涙を誘う作品を作ろうと悪戦奮闘します。記憶をなくした男と彼を支える女性の話や盲目の画家と彼を支える女性の話し、お嬢様に恋するお抱え運転手など、いかにも日本人が好きそうなベタな設定ばかりですが、シナリオや設定の破綻からあえなく挫折します。
 3つ目に登場するのが小津作品をパロディにした『定年』というタイトルの作品。定年を迎えた男性と妻のやり取りを描くというストーリーですが、今の観客にゆっくりとしたペースで展開でされる人情ドラマなど誰も見ないだろうという理由で敢え無くボツになります。この作品は小津作品に雰囲気は似ていますが、小津作品の特長であるローアングルな構図や長回しなどは使われていません。そこに北野監督の単なる模倣にはしないこだわりを感じました。このシークエンスでは松坂慶子や木村佳乃など北野作品らしくない役者が出演しており印象的でした。
 4つ目に登場するのが昭和30年代を舞台にした『コールタールの力道山』というタイトルの作品。『ALWAYS 三丁目の夕陽』など近年流行している昭和30年代を舞台にしたノスタルジックな映画。そんな映画に昭和30年代に幼少期を過ごした北野監督も挑戦するのですが、単なるノスタルジー漂う作品に終わらないところが面白いところです。昭和30年代の下町の貧困層の生活の厳しさを生々しく描き出します。また人間の良い面だけでなく愚かな面やずる賢い面もきちんと描いているところも好感が持てました。個人的にはこのエピソードを独立させて長編映画として見せて欲しいと思ってしまいました。このシークエンスでは
 この後もジャパニーズホラーのブームに便乗してホラー映画を撮ろうとしたり、忍者を主人公にした時代劇を撮ろうとしたりするのですが、どれも上手くいきません。
 そして、最後には隕石が地球に墜落するSF映画『約束の日』を撮ろうとするのですが、ここから話しの展開は大きく脱線していきます。

 映画の前半は北野監督の現在の日本映画に対する痛烈な皮肉が感じられました。北野監督は現在の日本映画の現状に苦言を呈するような発言を本作品の完成披露試写会でもしています。発言の内容は以下の通りです。
 「ここんとこ病気みたいに、感動します、泣けますって、そういうバカみたいな映画ばっかり。そういう時代になっちゃった。」(5月25日、完成披露試写会にて)
 
 映画の後半は前半と打って変わって、北野監督がかつて制作したお笑い映画『みんな~やってるか!』のような下らないギャグ満載のはちゃめちゃな展開になっていきます。財界の大物とその秘書に詐欺師の母娘が近づこうとする話なのですが、格闘家が経営?するラーメン屋が出てきたり、おかしな発明家が絡んくるなど不条理な世界が展開されていきます。後半の展開は好きな人はとても楽しめますが、嫌いな人や合わない人にとっては苦痛かつ退屈に感じるかと思います。私はこういうシュールな展開が好きなので笑って楽しめましたが、ダメな人は生理的にダメでしょうね。
 私が後半部分で特に印象的だったのが江守徹と井手らっきょの登場と農村のシーンです。江守徹は財界の大物を演じているのですが、そのぶっ飛んだ演技は笑わずにはいられません。あんな大物俳優がこんな役をよく引き受けたものだと思います。また変な発明家を演じる井出らっきょも、普段の芸風そのままに登場して、しょうもないギャグを次から次へと連発して見る者を不条理ギャグワールドに引き込みます。
 また北野扮する秘書の田舎である農村のシーンはつげ義春のマンガを彷彿させるようなノスタルジックかつシュールな展開となっており味わい深いものがありました。
 あと言い忘れましたが、詐欺師親子に扮する岸本加世子と鈴木杏の演技も面白かったです。特に鈴木杏が常に片手に持つアヒルパペットは個人的に笑いのツボでした。

映画のラストは構築したもの全てが破壊されて終わります。その破壊の潔さは見ていて清清しいほどです。
 この作品は監督が映画界で築き上げてきたものの破壊であり、新しい映画に向かうための地ならしだと思います。監督もこの映画に関して以下のようなコメントをしています。「総ざらえしたかな。キャンバスを白く塗り直して、これから新しい絵が描けるっていうかね。実は3部作の真ん中のつもり。前の『TAKESHIS’』で役者やタレント、これは監督を見直して自己批判してる。3作目では映画を壊す。頭を使う映画をやってみたいと思って」
 
 私はこの映画の後、一体北野武監督がどのような映画を撮るのか楽しみでなりません。

製作年度 2007年
製作国・地域 日本
上映時間 104分
監督 北野武 
脚本 北野武 
音楽 池辺晋一郎 
出演 ビートたけし 、江守徹 、岸本加世子 、鈴木杏 、吉行和子 、宝田明 、藤田弓子 、内田有紀 、木村佳乃 、松坂慶子 、大杉漣 、寺島進 、六平直政 、渡辺哲 、井手らっきょ 、モロ師岡 、菅田俊 、石橋保 、蝶野正洋 、天山広吉 

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