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2007年6月3日 - 2007年6月9日

『殯の森』この映画を見て!

第160回『殯の森』
Mogari  今回紹介する作品は今年度カンヌ映画祭で邦画としては10年ぶりにグランプリ(審査員特別大賞)を受賞して話題になった『殯の森』を紹介します。この作品はまだ劇場公開されていないにも関わらず、NHKハイビジョンで先行してテレビ放映されました。私もテレビで見たのですが、劇場公開よりテレビで先に放映するなんて驚いてしまいました。先にテレビで公開してしまうと劇場に足を運ぶ人が少なくなるのではと思うのですが・・・。どうもNHKが製作協力していたため、放送権をすでに獲得していて、受賞を記念して放送されたとのことです。
 
 監督の認知症老人の介護や子育てなどの経験から生まれたこの作品。愛する者に先立たれた人たちの心の回復を描いていきます。
ストーリー:「緑豊かな奈良の山村にある軽度認知症の人のグループホーム。そこで暮らす老人しげきは、33年前に妻・真子を亡くしてから、彼女と暮らした日々を心の奥にしまい込み生きてきた。
 そこにわが子を亡くした哀しみにくれる介護士の女性・真千子がスタッフとしてやってくる。真千子はしげきの部屋を掃除しているときに妻の遺品を触り突き飛ばされる。
 一時自信をなくす真千子だが、次第にしげきと打ち解けあう。
 そしてしげきの妻の墓参りに真千子が付き添うことになるが、途中でしげきは森の中へと入り込む。森の中で妻の墓、そして妻の魂を探すしげき。それに付き合う真千子。二人が森の中で彷徨い見出したものは・・・」

 この作品のタイトルである「殯」(もがり)とは「古代日本の葬祭儀礼のことで高貴な人の本葬前に、棺に死体を納めて仮に祭ること、またはその場所」を指すそうです。古代の日本人は死者を生前と同様に扱って蘇生を願いつつ、死を確認するために死体をしばらく置いていたそうです。そこには死者の魂を畏れ敬い、慰める意味があったそうです。
 この作品ではエンドロールの前に「殯」について「敬う人の死を惜しみ、しのぶ時間や場所のことである」というテロップが出てきます。妻に先立たれた男、子どもに先立たれた女、それぞれの心にある愛する者の死に対する深い喪失感。死は死んだ者よりも生き残った者に大きな意味を問いかけます。愛するものはどこに消え、そして自分はなぜ生きているのかと・・・。
 
 死というものは生きている限り避けられないものだと分かっていても、生きている者にとっては非常に恐ろしく悲しいものです。自分が死ぬのも怖いし、愛する人が死ぬのはとても悲しいです。そんな死に対して、この映画は真正面から描こうとします。死とは何か?そして生き残ったものはどう死と向き合うべきか、この作品はセリフは最小限にして静謐な映像美でそれを描き出していきます。

 私がこの作品を見て印象的だったシーンは何といっても自然の美しさです。どこまでも広がる緑の茶畑や田圃、そして森。自然が持つ安らぎが生きている者を癒し慰める力といったものを改めて感じました。
 古代から日本人は森や山を聖なる場所(魂が還る場所)として崇めてきました。その名残は今も日本の各地で見られます。この作品を見て私は森や山が日本人とって如何に大切な場所であるかを思い出させてくれました。

 映画自体は誰が見ても分かりやすいハリウッド映画の対極にあるような作品です。台詞は少なく、テンポもゆったりしていますし、キャストも無名の人ばかりです。しかし、見た後にここまで深い余韻を与える作品はなかなか出会えないと思います。未見の方はぜひ劇場で見てください!

製作年度 2007年
製作国・地域 日本/フランス
上映時間 97分
監督 河瀬直美 
脚本 河瀬直美 
音楽 茂野雅道 
出演 うだしげき 、尾野真千子 、渡辺真起子 、ますだかなこ 




 

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