『パンズ・ラビリンス』この映画を見て!
第189回『パンズ・ラビリンス』
今回紹介する作品は今年公開された映画の中で私が一番お薦めの映画『パンズ・ラビリンス』です。
本作品は1944年のスペイン内戦下を舞台に過酷な現実を生き抜くために架空の世界に身を置く少女の姿をシビアかつファンタジックに描いていきます。監督は『ヘルボーイ』や『ミミック』等のダークな世界観のホラー映画を撮ってきたギレルモ・デル・トロが担当しており、本作品でも彼のダークなイマジネーションが炸裂しています。昨年アメリカやヨーロッパで公開されるや否や大変話題を呼び、第79回アカデミー賞では6部門ノミネートされ、見事3部門(撮影・美術・メーキャップ)受賞しました。
私が本作品を知ったのは今年のアカデミー賞の授賞式をテレビで見ていた時でした。本作品の紹介で洞窟内で大きな蛙と少女が向き合っているシーンが放映されたのですが、そのダークかつ個性的な雰囲気の映像にとても惹かれ、日本での公開をとても楽しみに待っていました。今年の秋にやっと日本でも公開され、私も劇場に足を運んで鑑賞してきました。
ストーリー:「1944年、独裁政権とレジスタンスが内戦状態のスペイン。戦争で父を亡くしたオフェリアは独裁政権の大尉の子を身ごもり再婚した母と独裁政権の基地がある森の中で暮らすことになる。大尉である義父は潔癖症の冷血な男で、母のお腹にいる子どもばかりを気にしていた。義父が嫌いで何とか現実から逃れたいと願う少女の前にある日、彼女は妖精に導かれ、森の迷宮の番人パンに出会う。 」
私は本作品を実際見るまで、『千と千尋の物語』や『ナルニア国物語』みたいな異世界に迷い込んだ少女の冒険とロマンが描かれるファンタジー映画をイメージしていました。しかし実際に見てみると予想以上にシリアスかつダークな展開に驚いてしまいました。本作品はファンタジー映画というより、戦争に巻き込まれた子どもの悲劇を描いた作品として見た方が良いかもしれません。
本作品はファンタジー世界の描写時間は少なく、多くの時間が独裁政権下の少女を取り巻く厳しい現実を描くことに費やされています。その描き方も非常に生々しく残酷で、独裁政権に仕える大尉がレジスタンスを殺戮したり拷問したりするショッキングなシーンは、見ていて目を背けたくなるほどです。
少女を取り巻く過酷な現実をきちんと描いている分、少女がファンタジーの世界に傾倒していく姿も説得力があります。
ファンタジーの世界の描写も過酷な現実を反映してかゴシックホラー調でダークかつグロテスクです。洞窟に住む大蛙、目が手についている人食い男、ヤギのような角を持つ番人パン、ナナフシみたいな虫に化けている妖精と出てくるクリーチャーたちはお世辞にかわいいと呼べるものではなく、子どもが見たらトラウマになるほど気持ち悪く怖いです。現実から逃れるために少女が作り出した世界が決して明るく楽しい世界でないというところが個人的には非常に印象に残りました。ファンタジーは決して俗に言われるような現実逃避なのではなく、現実と子どもが向き合うための工夫であり知恵であると本作品を見て思いました。
映画のラストは哀しみに満ちたハッピーエンドといった感じで、見終わって切ない気持ちになりました。
本作品は決して楽しく心癒されるファンタジー映画ではありません。子どもが戦争という過酷な現実の中で生き延びていく姿を描いたサバイバル映画です。
私の中では本年度一番完成度が高く、見ごたえのある作品だと思います。ぜひ皆様も一度見てください。
製作年 2006年
製作国 メキシコ、スペイン、アメリカ
時間 119分
監督 ギレルモ・デル・トロ
脚本 ギレルモ・デル・トロ
音楽 ハビエル・ナバレテ
出演 イバナ・バケロ 、 セルジ・ロペス 、 マリベル・ベルドゥ 、 ダグ・ジョーンズ 、 アリアドナ・ヒル
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コメント
コメントありがとうございます。本作品はファンタジーとは何かを見事に描いていたと思います。ダークなファンタジー世界とシリアスな現実が見事にリンクした作品でしたね。
投稿: とろとろ | 2007年12月 9日 (日) 18時42分
ご無沙汰しています。
移転後初めてのご挨拶になりましょうか。
「ファンタジーは決して俗に言われるような現実逃避なのではなく、現実と子どもが向き合うための工夫であり知恵」
「子どもが戦争という過酷な現実の中で生き延びていく姿を描いたサバイバル映画」
全くそのとおりでしたね……。
投稿: 紫式子 | 2007年12月 4日 (火) 12時28分