『ブラックホーク・ダウン』この映画を見て!
第184回『ブラックホーク・ダウン』 今回紹介する作品は1993年10月3日の米軍によるソマリア侵攻の失敗を描いた『ブラックホーク・ダウン』です。
ソマリアはアフリカ大陸の東北端に位置し、「アフリカの角」と呼ばれる国で、イタリアとイギリスの植民地だったが、1960年に独立しました。ソマリアは6つの氏族、16の準氏族に分かれていて、独立後から権力争いが続いていました。そして90年代、ソマリア最大の武力を誇るアイディード将軍率いるUSC(統一ソマリア会議)が、大統領を追放して首都のモガディシオを制圧。しかし、USC内部でアイディード将軍派とマハディ暫定大統領派との抗争が起こり、ソマリアは無政府状態に突入。餓死者や難民が多数出てきて、国連は人道支援を行うが、武装勢力による援助物資の強盗・略奪、NGOへの襲撃・殺害によって、援助活動は停滞。国連はこのような状況に対して米国が主力となる国連平和維持軍(PKF)をソマリアに派遣することとなります。しかし、PKFによる武装解除は上手くいかず、PKFと武装勢力の間で泥沼の戦いが展開されるようになります。本作品はそんな泥沼状態の1993年に実際に起こったアメリカ軍の敵対するアディード政権の本拠地への奇襲作戦の悲惨な顛末を描いています。
ストーリー:「1993年、泥沼化する内戦を鎮圧するためソマリアに兵士を派遣したアメリカ。なかなか収束しない内戦に焦り始めたクリントン政権は、10月3日、アディード政権の本拠地への奇襲作戦を決行する。作戦は当初は1時間足らずで終了するはずだったが、敵の攻撃により、大型輸送ヘリ“ブラックホーク”が撃墜されてしまう。敵の最前線で孤立する兵士たち。やがて、救助に向かった2機目も撃墜されてしまう。兵士たちは必死に応戦するが、敵に取り囲まれて苦戦を強いられることになる。」
本作品を始めて見た時は上映時間の3分の2以上が生々しい戦闘シーンだったので、見終わって大変疲れたのを覚えています。スピルバーグが監督した『プライベート・ライアン』は戦闘シーンをリアルに描き、その後の戦争映画に大きな影響を与えましたが、本作品は『プライベート・ライアン』の戦闘シーンを拡大強化して延々と見せ続けるような仕上がりとなっています。『プライベートライアン』ですら兵士同士の友情など何らかのドラマが描かれていたのですが本作品はそのようなシーンはほとんどなく、ひたすら地獄のような戦場で何とか生き延びようとする兵士たちの姿のみが描かれます。
本作品はアメリカ国防総省の全面協力下で撮影されており、役者に対する兵士としての指導や本物のブラックホーク等の軍用ヘリコプターを撮影のために貸与するなどしています。その為、公開答辞は好戦的な米軍のプロパガンダ映画となっているという辛辣な批評が多かったのですが、私は本作品を単なるアメリカ万歳の好戦的な映画だとは思いませんでした。
確かにソマリア兵士をゾンビかエイリアンのように非人間的な存在として描いているところやアメリカ軍の圧倒的な軍事力を見せつけるようなところもあり、好戦的でアメリカ中心主義の映画だと一見思えてしまいます。
しかし、本作品はソマリア紛争の実態を描くことをテーマにしているのではなく、異国の戦争に理不尽に巻き込まれたアメリカ兵の悲惨な実態を描くことをテーマにしていると思ってみれば印象がだいぶ変わってきます。平和のためという理由で派遣されたと思っている兵士たちを襲うソマリアの国民。一体自分たちは何のためにやって来たのか理由を見失い、ただひたすら敵に襲撃された仲間を助けることに理由を見出すしかない兵士たち。本作品でソマリアの兵士を非人間的に描いているのは、アメリカの兵士にとって彼らの平和に自分たちが介入している意味が見出せないことを表しているのだと思いました。
また、本作品を好戦的だから駄目だと評価する人もいるようですが、私は本作品を見て戦争はカッコよくて面白そうなど全く思いませんでした。むしろ、あれだけの武器を持っていたアメリカ軍がソマリアの民兵にあんなに苦戦するとは驚きました。結局武力だけで平和を作ることも維持することも出来ないことをまざまざと痛感させられました。
ラストに「米兵19人 ソマリア人1000人以上が死亡」というテロップが表示がされます。アメリカ兵とソマリア人の死者の数の違いをどう受け止めるかで本作品の評価は分かれると思います。アメリカ万歳の映画ならあえてソマリア人の死亡者数まで表示しなかったと思います。りドリー・スコット監督はあえて両者の死者数を表示して、アメリカ軍の武力介入の空しさを伝えたかったのだと思います。
製作年度 2001年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 145分
監督 リドリー・スコット
製作総指揮 ブランコ・ラスティグ 、チャド・オマン 、マイク・ステンソン 、サイモン・ウェスト
原作 マーク・ボウデン
脚本 ケン・ノーラン 、スティーヴン・ザイリアン
音楽 リサ・ジェラード 、ハンス・ジマー
出演 ジョシュ・ハートネット 、ユアン・マクレガー 、トム・サイズモア 、サム・シェパード 、エリック・バナ 、ジェイソン・アイザックス 、ジョニー・ストロング 、ウィリアム・フィクトナー 、ロン・エルダード 、ジェレミー・ピヴェン 、ヒュー・ダンシー 、ユエン・ブレムナー
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