『旅立ちの時』この映画を見て!
第168回『旅立ちの時』
今回紹介する作品は『セルピコ』などの社会派作品で知られる名匠シドニー・ルメットと若くして亡くなったリバー・フェニックスが組んだ青春ドラマの傑作『旅立ちの時』です。
ストーリー:「ベトナム戦争当時に反戦活動家としてナパーム工場を爆破した罪でFBIに指名手配中の両親を持つ17歳の青年ダニー。彼は2歳のときからアメリカ各地を転々としていた。彼は家族と共に新しい生活の場としてニュージャージーに引っ越してくる。そこでダニーは高校の音楽教師にピアノの才能を見出され、有名な音楽大学への進学を薦められる。また音楽教師の娘ローナに恋もするようになるが、両親のことを考えて進学も恋も躊躇していた。」
私がこの作品に出会ったのは高校生の時でした。自分の親からの自立や将来について悶々と考えていた時期だったので、この作品を見た時は大変共感したものでした。
この作品の主人公のダニーは家族を大切にしたいという思いと自分の人生を歩みたいという思いの中での激しい葛藤に苛まされます。その葛藤が当時高校生だった私には痛いほど伝わってきたものでした。
映画のラスト、ダニーは家族から旅立つのですが、子の旅立ちに際して両親が贈るメッセージが大変素晴らしく、自然と涙が溢れたものでした。子どもの自立に対してあのようなメッセージを贈れる両親に深い感銘を受けたものでした。(どのようなメッセージかは皆さんも映画を見て確認してください。)
私はこの映画に出会ってから、大学受験や就職、一人暮らしなど人生の岐路に立った時には必ず見返して、ラストシーンの両親のメッセージを聞いて自分を奮い立たせたものでした。
最近久しぶりにこの作品を見返す機会があったですが、やはりラストは泣いてしまいました。ただ、高校の時と違って主人公のダニーの自立よりも、ダニーを温かく見守ろうとする両親の姿に共感してしまいました。子が親元を離れて別の道を歩む時、それは親にとって嬉しくもあり、切なくもあり、不安でもあるでしょう。そんな親の複雑な気持ちが痛いほど伝わってきました。
子どもとずっといることを望む父親。そんな父親の子どもを手放すことに対する激しい葛藤。そんな父親が最後の最後に子どもの自立を後押しする。高校生の時は主人公が親から旅立つ作品だと思っていたのですが、それだけではなくて、親が子どもから旅立つ子離れの作品でもあったことに今回気づきました。
また今回久しぶりに見返して、主役のダニーを演じたリヴァー・フェニックスが若くして亡くなった事が返す返す残念に思いました。当時は『スタンド・バイ・ミー』や『インディー・ジョーンズ最後の聖戦』などに出演して大変人気があったものでした。この作品ではアカデミー主演男優賞にもノミネートされ、役者としての将来を期待されていたものでした。彼が今生きていたらどんな役者になっていたのか想像してしまいました。
それにしても本作品のリヴァーの抑えた演技は素晴らしく、思春期の複雑な心境を見事に表現していたと思います。リヴァーの境遇自体も親がカルト教団に入っていたこともあり各地を転々としていたそうで、映画の主人公と境遇が被っていたようです。そんなこともあり、主人公にすっと感情移入して演技が出来たんだろうなと思います。
監督のシドニー・ポラックの演出は地味で淡々としていますが、その静かで抑えた演出方法が登場人物たちの微妙な心情の揺れを捉えるにあたって成功しています。
また映画の中の挿入歌であるジェームズ・テイラーの「FIRE AND RAIN」が映画の内容とマッチしており、観客の耳と心に深い印象を与えます。
この作品はとても地味な青春映画でありますが、涙なしでは見られない傑作です。ぜひ皆さんもご覧ください!
製作年度 1988年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 116分
監督 シドニー・ルメット
原作 ナオミ・フォナー
脚本 ナオミ・フォナー
音楽 トニー・モットーラ
出演 リヴァー・フェニックス 、クリスティーン・ラーチ 、マーサ・プリンプトン 、ジャド・ハーシュ 、アリス・ドラモンド
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