『日本沈没』この映画を見て!
第166回『日本沈没』(1973年版) 今回紹介する作品は小松左京の傑作SF小説を映画化した『日本沈没』です。2005年に『ローレライ』の橋口真嗣監督が草薙剛と柴崎コウを主演に迎えてリメイクもされましたが、今回紹介するのは1973年に制作された方です。
1973年版『日本沈没』は4ヶ月という短期間で制作されていますが、その完成度の高さは2005年のリメイク版を遥かに上回ります。特撮に関してはCGなどない時代だけあって、全てミニチュアで撮影されているのですが、意外にも迫力ある映像となっています。
特に中盤の東京を襲う大地震のシーンはこの映画最大の見せ場であり、見る者を圧倒します。もちろんミニチュア丸分かりのシーンもあるのですが、火災の中を逃げ惑う人々やビルのガラスが突き刺さった人々、洪水に押し流される人々等の迫真の演技がリアリティーを醸し出しており、地震の恐怖といったものを見る者に強く感じさせる仕上がりとなっています。
リメイク版はCGを多用して災害のスケールの大きさは表現できていたと思うのですが人間の演技が薄っぺらで逆に緊迫感があまり感じられませんでした。それに比べて、1973年版は映像こそ古臭さはあるものの、それを補って余りある重厚さと緊迫感がありました。
1973年版の素晴らしいところは役者たちの熱演により人間ドラマが非常にしっかりと描かれているところです。特に小林桂樹演じる田所博士の狂気迫る演技、丹波哲郎演じる山本総理の祖国滅亡に対する葛藤を滲ませる演技は映画に非常にリアリティを与えています。
私が印象的だったシーンが山本総理が日本が沈んだ場合の日本民族の将来をどうすべきか、渡老人と話し合う場面。渡老人が総理に『なにもせんほうがえぇ。このまま日本とともに海に沈むことが 日本及び日本民族にとって一番いいことじゃ。』と語り、首相が目頭を熱くして沈黙するシーン。日本国の首相である山本総理の絶望と哀しみ、そしてそれを認めたくない葛藤といったものが強く感じられ、私も涙が自然とあふれてきました。
映画の後半は一億人の日本国民をどうやって世界各国に避難させるかが描かれていきますが、世界各国の対応や国連での話し合いなど非常にリアリティのある展開で、日本国民がどうなっていくのか見ごたえがありました。
この作品は日本国民が祖国を失うことになったらどうなるかを映像面だけでなく、政治的、思想的に見事にシュミレーションした作品だと私は思います。
ただ残念なのは上映時間の関係からか全体的に駆け足の展開となってしまい、ストーリーのつながりが強引で違和感を感じたところです。噂によると最初は3時間半近い作品だったところを1時間近くカットしたそうです。できれば3時間半バージョンも見てみたいものです。
リメイク版を見て感動した人も、いまいちだった人もぜひ1973年版『日本沈没』を見てみてください!30年近く前にこのような重厚なパニック映画が制作されていたことに感動すると思います。
製作年度 1973年
製作国・地域 日本
上映時間 140分
監督 森谷司郎
原作 小松左京
脚本 橋本忍
音楽 佐藤勝
出演 藤岡弘 、いしだあゆみ 、小林桂樹 、滝田裕介 、二谷英明 、中丸忠雄 、村井国夫 、夏八木勲 、丹波哲郎 、伊東光一 、松下達雄 、河村弘二 、山本武[俳優] 、森幹太 、鈴木瑞穂 、垂水悟郎 、細川俊夫 、加藤和夫[俳優] 、中村伸郎 、島田正吾 、角ゆり子 、梶哲也 、稲垣昭二 、内田稔 、大木史朗 、吉永慶 、宮島誠 、大杉雄二 、神山繁 、高橋昌也 、近藤準 、竹内均 、石井宏明 、今井和雄 、早川雄三 、中條静夫 、名古屋章 、斉藤美和 、大久保正信 、アンドリュウ・ヒューズ 、ロジャー・ウッド 、大類正照 、小松左京
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コメント
皆さん、コメントありがとうございます。私がこの作品を見たのは小学生の時。その時は真剣に日本が沈没したらどうしたらいいのか考えたものでした。自分の国がなくなることを日本人はあまり考える機会がありませんが、世界の歴史を見れば、戦争や侵略でなくなった国も数多くありますよね。
国とそこで生きる民族のアイデンティティ。
この作品はいろいろと考えさせられます。
それにしてもカゴメさんが言うようにこの作品のような総理大臣が出てきて欲しいです。
投稿: とろとろ | 2007年7月17日 (火) 00時54分
こんにちわ、ご無沙汰でしたぁ♪♪♪
>2005年に『ローレライ』の橋口真嗣監督が草薙剛と柴崎コウを主演に迎えてリメイクもされましたが、
予想通りひどい作品でありました(怒)。
>1973年版は映像こそ古臭さはあるものの、それを補って余りある重厚さと緊迫感がありました。
まったくもって“然り”であります。
>日本国の首相である山本総理の絶望と哀しみ、そしてそれを認めたくない葛藤といったものが強く感じられ、私も涙が自然とあふれてきました。
ああいう人が政治家にいれば、
総理に就けてあげたいところですなぁ。
>できれば3時間半バージョンも見てみたいものです。
樋口某もくだらんリメイクなんぞ作ってる暇があったら、
復刻版実現に奔走してもらいたいもんです。
投稿: カゴメ | 2007年7月16日 (月) 16時30分
お久しぶりです。
33年前の作品は、ドラマ部分がしっかりと描かれていて、仰るとおり重厚さすら感じますね。
民族としての誇りなど渡老人と首相との会話だけでも十二分に感じられるほどでした。
薄っぺらなドラマが多い昨今、やはりこの時代はしっかりと人間を描いていることで迫力がありますね。
こちらからもTB返させていただきました。
投稿: chibisaru | 2007年7月16日 (月) 14時12分
TBありがとうございました!
私は昨年のリメイク版は、全然ダメでした。
で、オリジナルを見返すと、これがまた素晴らしいのですよねぇ。
作り手も、演じる側にも「職人気質」を感じました。
投稿: なぎさ | 2007年7月15日 (日) 17時47分