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『監督・ばんざい!』この映画を見て!

第161回『監督・ばんざい!』
Kanntokubannzai  今回紹介する作品は北野武監督が恋愛映画、ホラー映画、人情ドラマ、SF映画と様々なジャンルを網羅したウルトラ・バラエティ・ムービー『監督・ばんざい!』です。
 前作『TAKESHIS'』で芸能界で成功した自らの内面をシニカルに描いた北野武。本作はその延長線上にある作品であり、前作を拡大発展したような内容となっています。

 脱暴力映画を宣言した監督が何とかヒット作品を作ろうと、さまざまなジャンルの映画に取り組み苦悩する姿を描く本作品。映画の前半は6つのジャンルのショートムービーが登場します。
 最初に北野監督お得意の暴力映画が登場。北野作品ではお馴染みのメンバーが登場して迫力ある芝居を見せてくれます。
 続いて登場するのが恋愛映画『追憶の扉』。監督は観客の涙を誘う作品を作ろうと悪戦奮闘します。記憶をなくした男と彼を支える女性の話や盲目の画家と彼を支える女性の話し、お嬢様に恋するお抱え運転手など、いかにも日本人が好きそうなベタな設定ばかりですが、シナリオや設定の破綻からあえなく挫折します。
 3つ目に登場するのが小津作品をパロディにした『定年』というタイトルの作品。定年を迎えた男性と妻のやり取りを描くというストーリーですが、今の観客にゆっくりとしたペースで展開でされる人情ドラマなど誰も見ないだろうという理由で敢え無くボツになります。この作品は小津作品に雰囲気は似ていますが、小津作品の特長であるローアングルな構図や長回しなどは使われていません。そこに北野監督の単なる模倣にはしないこだわりを感じました。このシークエンスでは松坂慶子や木村佳乃など北野作品らしくない役者が出演しており印象的でした。
 4つ目に登場するのが昭和30年代を舞台にした『コールタールの力道山』というタイトルの作品。『ALWAYS 三丁目の夕陽』など近年流行している昭和30年代を舞台にしたノスタルジックな映画。そんな映画に昭和30年代に幼少期を過ごした北野監督も挑戦するのですが、単なるノスタルジー漂う作品に終わらないところが面白いところです。昭和30年代の下町の貧困層の生活の厳しさを生々しく描き出します。また人間の良い面だけでなく愚かな面やずる賢い面もきちんと描いているところも好感が持てました。個人的にはこのエピソードを独立させて長編映画として見せて欲しいと思ってしまいました。このシークエンスでは
 この後もジャパニーズホラーのブームに便乗してホラー映画を撮ろうとしたり、忍者を主人公にした時代劇を撮ろうとしたりするのですが、どれも上手くいきません。
 そして、最後には隕石が地球に墜落するSF映画『約束の日』を撮ろうとするのですが、ここから話しの展開は大きく脱線していきます。

 映画の前半は北野監督の現在の日本映画に対する痛烈な皮肉が感じられました。北野監督は現在の日本映画の現状に苦言を呈するような発言を本作品の完成披露試写会でもしています。発言の内容は以下の通りです。
 「ここんとこ病気みたいに、感動します、泣けますって、そういうバカみたいな映画ばっかり。そういう時代になっちゃった。」(5月25日、完成披露試写会にて)
 
 映画の後半は前半と打って変わって、北野監督がかつて制作したお笑い映画『みんな~やってるか!』のような下らないギャグ満載のはちゃめちゃな展開になっていきます。財界の大物とその秘書に詐欺師の母娘が近づこうとする話なのですが、格闘家が経営?するラーメン屋が出てきたり、おかしな発明家が絡んくるなど不条理な世界が展開されていきます。後半の展開は好きな人はとても楽しめますが、嫌いな人や合わない人にとっては苦痛かつ退屈に感じるかと思います。私はこういうシュールな展開が好きなので笑って楽しめましたが、ダメな人は生理的にダメでしょうね。
 私が後半部分で特に印象的だったのが江守徹と井手らっきょの登場と農村のシーンです。江守徹は財界の大物を演じているのですが、そのぶっ飛んだ演技は笑わずにはいられません。あんな大物俳優がこんな役をよく引き受けたものだと思います。また変な発明家を演じる井出らっきょも、普段の芸風そのままに登場して、しょうもないギャグを次から次へと連発して見る者を不条理ギャグワールドに引き込みます。
 また北野扮する秘書の田舎である農村のシーンはつげ義春のマンガを彷彿させるようなノスタルジックかつシュールな展開となっており味わい深いものがありました。
 あと言い忘れましたが、詐欺師親子に扮する岸本加世子と鈴木杏の演技も面白かったです。特に鈴木杏が常に片手に持つアヒルパペットは個人的に笑いのツボでした。

映画のラストは構築したもの全てが破壊されて終わります。その破壊の潔さは見ていて清清しいほどです。
 この作品は監督が映画界で築き上げてきたものの破壊であり、新しい映画に向かうための地ならしだと思います。監督もこの映画に関して以下のようなコメントをしています。「総ざらえしたかな。キャンバスを白く塗り直して、これから新しい絵が描けるっていうかね。実は3部作の真ん中のつもり。前の『TAKESHIS’』で役者やタレント、これは監督を見直して自己批判してる。3作目では映画を壊す。頭を使う映画をやってみたいと思って」
 
 私はこの映画の後、一体北野武監督がどのような映画を撮るのか楽しみでなりません。

製作年度 2007年
製作国・地域 日本
上映時間 104分
監督 北野武 
脚本 北野武 
音楽 池辺晋一郎 
出演 ビートたけし 、江守徹 、岸本加世子 、鈴木杏 、吉行和子 、宝田明 、藤田弓子 、内田有紀 、木村佳乃 、松坂慶子 、大杉漣 、寺島進 、六平直政 、渡辺哲 、井手らっきょ 、モロ師岡 、菅田俊 、石橋保 、蝶野正洋 、天山広吉 

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