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2007年6月

中島みゆきとTOKIOが再タッグ『本日、未熟者』

 昨年大ヒットした『宙船』に続き、今年もTOKIOの新曲を中島みゆきが手がけることが発表されました。タイトルは『本日、未熟者』。『宙船』に引き続き、今回も歌詞・メロディー共に中島みゆきらしい骨太でスケールのある曲に仕上がっているそうです。ボーカルの長瀬智也のコメントによると「独特のメロディーには今回も驚かされました。レコーディング後に聴くと、TOKIOとの絶妙なコラボレーションが完成していてびっくりしました」とのことです。この曲は山口達也が主演で7月14日にスタートする日本テレビのドラマ「受験の神様」の主題歌として決定されています。
 TOKIOがどういう風に歌うかも楽しみですし、中島みゆきがアルバムでどうセルフカバーするかも今から楽しみです。

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『平成狸合戦ぽんぽこ』この映画を見て!

第163回『平成狸合戦ぽんぽこ』
Ponpoko  今回紹介する作品は『火垂るの墓』の高畑勲監督が、人間による自然破壊から自分たちの生活を守ろうとするタヌキたちの奮闘を描いた『平成狸合戦ぽんぽこ』です。
 ストーリー:「多摩ニュータウンの宅地開発で自然が失われて故郷を追われた狸たち。彼らはタヌキ連合軍を結成して化学(化け学)を駆使して人間に闘いを挑むが・・・。」
 この作品はスタジオジブリの数ある作品の中で一般的な評価は低いですが、個人的には大好きな作品です。

 個性的な狸の面々たちが化け学を一生懸命学んで、人間に挑んでいく姿はユーモア満点で見ていて楽しいですし、日本各地の民話をさりげなく取り入れたエピソードの数々は民俗学に興味のある私にはたまらない設定でした。特に中盤の見せ場である狸たちによる百鬼夜行のシーンは日本の妖怪のオンパレードで妖怪好きには見ごたえ満点でした。(さりげなく、パレードの中でトトロや紅の豚そしてキキも登場しています。気づかなかった人はぜひビデオでも借りて、どこにいたか探してみてください!)
 また高畑監督が好きな作家・宮沢賢治の『双子の星』のエピソードの挿入や、以前から映画化を希望している平家物語の名シーンの再現も見ていて監督の熱い思いが伝わってきました。
 
 所々に挿入されるシニカルなエピソードも印象的で、狸がマクドナルドのハンバーガーを食べるシーンやテレビの料理番組で天ぷらを揚げるところをじっと見つめるシーンなどは、狸も人間の文化の中で生きているという皮肉な現実を見事に象徴していたと思います。
 
 後半は中盤までのユーモラスな展開から打って変わり、悲壮感漂う展開になっていき、見ていて胸が締め付けられます。
 人間に闘いを挑んで玉砕する狸たち、死出の旅に向かう狸たち、人間社会に迎合していく狸たち。大きな力の前に屈していく狸たちの姿は涙なしでは見れませんでした。ラストシーンで生き残った仲間たちが人間社会の中で健気に生きる姿は何とも物悲しいものがありました。
 
 この作品は環境問題や自然保護を訴えた作品という感想が多いですが、私の中ではこの作品はそれらのテーマと合わせて、60年代の全共闘による学生運動の顛末を描いた作品だと思っています。
 なぜそう思うのかというと、私の知り合いに60年代に学生運動に身を投じていた人がおり、当時の状況についていろいろ教えてもらっていたからです。
 共産主義を目指して資本主義国家を倒すために、時にデモやストライキをして自らの意志をアピールし、時に国家権力の手先である警察や機動隊に向かっていく・・・。しかし、次第に権力の弾圧も強まり、次第に運動から離れる人も増え、残った人たちもセクト同士で内ゲバを始め自壊していく・・・。
 そんな当時の学生運動の顛末を知っていたので、この作品を見たとき、単なる自然保護の映画というより、自分たちの理想を目指して運動に投じた人間たち(狸たち)が権力の前に敗北していく姿を描いた作品として見たものでした。
 映画のラストの栄養ドリンクを飲みながら社会に溶け込もうとする狸の姿は、学生運動から身を離れ資本主義の中で必死に生きていこうとする元運動家の姿にダブって見え、切ないものがありました。

 あと、この映画の大きな魅力として声優がとてもはまっているところがあります。スタジオジブリは大物タレントや俳優を声優として起用することが多いですが、話題性だけで違和感のある場合があります。
 この作品でもたくさんの俳優やタレントが起用されているのですが、違和感が全くなくキャラクターにぴったりあっています。
 また桂米朝[3代目] 、桂文枝 、柳家小さんなどの有名落語家の起用も狸を主人公にしたユーモアと悲哀に満ちた今回の作品には抜群の効果があったと思います。

 この作品はスタジオジブリ作品の中ではあまりパッとしませんが、非常に完成度の高い作品だと思います。  

製作年度 1994年
製作国・地域 日本
上映時間 119分
監督 高畑勲 
原作 高畑勲 
脚本 高畑勲 
音楽 紅龍 、渡野辺マント 、猪野陽子 、後藤まさる 、上々颱風 、吉澤良治郎 
出演もしくは声の出演 野々村真 、石田ゆり子 、三木のり平 、清川虹子 、泉谷しげる 、芦屋雁之助 、村田雄浩 、林家こぶ平 、福澤朗 、山下容莉枝 、桂米朝[3代目] 、桂文枝 、柳家小さん 、神谷明 

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『フラガール』この映画を見て!

第162回『フラガール』
Hulagirl  今回紹介する作品は昨年度の日本の各映画賞を総なめにした話題作『フラガール』です。この作品は福島県の炭鉱町に誕生した常磐ハワイアンセンター(現:スパリゾートハワイアンズ)にまつわる実話を基に制作されています。
 ストーリー:「時代の波で閉鎖に追い込まれつつある東北の炭坑の村。次々と炭鉱が閉鎖される中、炭鉱会社が目をつけたのは東北にハワイを持ってくることをコンセプトにしたレジャー施設『常磐ハワイアンセンター』の開設だった。ハワイといえばフラダンスということで炭鉱の女性たちをフラダンサーにしようと考えるが、集まったのは盆踊りしか知らないような女性たち。そこで東京からプロのダンサーが呼ばれ、プロのダンサーになるべく特訓が始まる。」
 
 この作品、ストーリー自体はサクセスストーリーにありがちなとてもベタな内容です。親と子の軋轢と和解、主人公の挫折と成功、友人との別れ、先生に対する生徒の反発から信頼関係への発展、全てが観客の予想を裏切ることのない王道の展開です。イギリスで制作された炭坑夫の息子がバレーダンサーを目指す『リトル・ダンサー』や炭坑夫たちが男性ストリッパーを目指す『フル・モンティ』を観た事がある人なら、この作品がどんな展開になるかすぐに察しがつくと思います。
 
 ストーリーの展開だけ見るとありがちな作品に過ぎないのですが、役者の熱演と監督の演出の巧みさで観客の心を惹きつけ、深い感動を与えます。
 役者の演技で言えば蒼井優の演技がとても素晴らしく、彼女の魅力でこの映画は支えられていると言っても過言ではないと思います。炭鉱の素朴で勝気な女子高生が母の反対を押し切ってダンスに打ち込む姿は見ていて清清しいです。また肝心のダンスのシーン自体も特訓の甲斐もあって躍動感にあふれおり、見る者を虜にします。
 東京から来た訳ありのプロダンサーを演じる松雪泰子の熱演も素晴らしく、栄光も挫折も味わった女性の逞しさと不器用さといったものが感じられました。
 また他の脇役の方の演技も素晴らしいの一言でした。特に岸部一徳と富司純子の演技は味があり、この映画に奥行きを与えたと思います。

 あとこの作品で印象的だったのが昭和40年代の炭鉱の生活をノスタルジックかつリアルに描いたところでした。石油から石炭にエネルギー政策が変わり、どんどん斜陽になっていく石炭産業。その中で何とか生活と仕事を守ろうとする人々。この部分を丁寧に描いたことで、単なるサクセスストーリーとは違う奥行きが映画に加わったと思います。
 時代の流れに抗う人たちと、時代の流れの中で何とか生き延びようとする人たち。炭鉱で働いていた男たちの誇りと、その誇りを奪う時代の流れ・・・。そんな中で若い女性たちがたくましく生き延びようとする姿は時代の変化というものにどう立ち向かっていくべきかを見事に描いていたと思います。
 
 笑って泣けて、清清しい気持ちになれる『フラガール』。多くの人にぜひ見ていただきたい作品です。  

製作年度 2006年
製作国・地域 日本
上映時間 120分
監督 李相日 
脚本 李相日 、羽原大介 
音楽 ジェイク・シマブクロ 
出演 松雪泰子 、豊川悦司 、蒼井優 、山崎静代 、池津祥子 、徳永えり 、三宅弘城 、寺島進 、志賀勝 、高橋克実 、岸部一徳 、富司純子 

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『大日本人』映画鑑賞日記

Dainippon  今回紹介する作品はダウンタウンの松本人志が企画・初監督・主演を務めた作品『大日本人』です。公開前から大変話題になっていた本作品。映画の内容に関する情報が公開直前までほとんど明らかにされなかったので、見るまではどんな内容か想像を膨らましたものでした。カンヌでは絶賛されたという報道もあれば、酷評されたという報道もあり、非常に賛否両論分かれる作りになっているのだろうと思ったものでした。
 北野監督の『監督・ばんざい!』と同じ日に公開されたので、芸人監督同士の対決とマスメディアでは大きく取り上げれてていました。私も同じ日に両作品とも鑑賞したのですが、個人的には北野監督の作品の方が面白かったです。
 ただ松本監督の作品も単に駄作と片付けるには勿体無い作品であり、非常に良い線まで言っているけど、後一歩が残念な出来の作品と言わざる得ません。

 
(ここから先はネタバレになるので、まだ見ていない人は注意してください!)
 
 ストーリー:「大佐藤大(だいさとうまさる)の日常生活を追うドキュメンタリースタッフ。彼は一見すると冴えないおじさんだが、高圧電流によって巨大化して、“獣(じゅう)”を倒していく大日本人の家系の末裔だった。かつては国民を守るヒーローとして敬われていた大日本人。しかし、時代に流れから、多くの国民の関心を失い、近隣住民からは疎まれる存在になっていた・・・。」
 
 本作品の大きな特長は全編ドキュメンタリータッチで描かれているところです。ストーリーはカメラマンが大佐藤大にインタビューする形で展開していくので、最初は彼が一体何者か全く分かりません。
 彼の正体が明らかになるのは映画が始まって30分以上経ってからなのですが、彼が巨大化するシーンは呆気にとられました。
 彼が巨大化して戦うシーンは思った以上にCGの出来がよく(もちろんハリウッドにはかないませんが・・・。)、迫力あるシーンとなっており、この作品が10億円も制作費をかけた理由も頷けました。獣のデザインも非常に気持ち悪くかつ個性的で、強烈なインパクトがありました。

 また現代の日本の家族関係の希薄さやマスメディア批判、日米関係の問題、アメリカ批判などの社会風刺が随所に見られたのも松本監督の日本人に対する思いが垣間見えれ興味深かったです。

あと俳優の使い方も予想外で、こんな形でこの人が登場するのかと驚き、そして笑ってしまいました。特に竹内力と神木隆之介の登場シーンは可笑しさの余り噴き出してしまいました。

 この作品は爆笑する作品と言うよりはクスクス笑う作品だと思います。獣と戦闘シーンや映画の随所に挿入される小ネタなども笑えます。しかし、それ以上にヒーローである主人公の情けなく哀愁漂う日常生活に共感しつつクスクス笑わせるのが監督の意図だと思いました。
 
 映画のラストは作品そのものを崩壊させるようなオチですが、ここは個人的には最後までドキュメンタリータッチで終わらせたほうが良かったと思います。何か映画でなくテレビのコントを見せられているかのようなラストは物足りませんでした。せっかく映画なのだから、テレビでは出来ないもっと予想外のオチをつけて欲しかったです。
 だらだらと続くエンドロールも面白いと言えば面白いですが、くどさも感じてしまいました。

 後、この作品で残念な点は編集です。松本監督の独特の間を尊重する編集自体は良いと思うのですが、このネタで2時間は少し長すぎました。インタビューのシーンもダラダラ過ぎて飽きてしまうところがあり、もう30分削ったほうが見やすかったと思います。
 
 ドキュメンタリータッチでヒーローの日常生活を描くという演出は面白いと思っただけに、もう少し編集やオチに工夫が欲しかったです。

製作国・地域 日本
上映時間 113分
監督 松本人志 
製作総指揮 白岩久弥 
脚本 松本人志 、高須光聖 
音楽 テイ・トウワ 
出演 松本人志 、竹内力 、UA 、神木隆之介 、海原はるか 、板尾創路 

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『監督・ばんざい!』この映画を見て!

第161回『監督・ばんざい!』
Kanntokubannzai  今回紹介する作品は北野武監督が恋愛映画、ホラー映画、人情ドラマ、SF映画と様々なジャンルを網羅したウルトラ・バラエティ・ムービー『監督・ばんざい!』です。
 前作『TAKESHIS'』で芸能界で成功した自らの内面をシニカルに描いた北野武。本作はその延長線上にある作品であり、前作を拡大発展したような内容となっています。

 脱暴力映画を宣言した監督が何とかヒット作品を作ろうと、さまざまなジャンルの映画に取り組み苦悩する姿を描く本作品。映画の前半は6つのジャンルのショートムービーが登場します。
 最初に北野監督お得意の暴力映画が登場。北野作品ではお馴染みのメンバーが登場して迫力ある芝居を見せてくれます。
 続いて登場するのが恋愛映画『追憶の扉』。監督は観客の涙を誘う作品を作ろうと悪戦奮闘します。記憶をなくした男と彼を支える女性の話や盲目の画家と彼を支える女性の話し、お嬢様に恋するお抱え運転手など、いかにも日本人が好きそうなベタな設定ばかりですが、シナリオや設定の破綻からあえなく挫折します。
 3つ目に登場するのが小津作品をパロディにした『定年』というタイトルの作品。定年を迎えた男性と妻のやり取りを描くというストーリーですが、今の観客にゆっくりとしたペースで展開でされる人情ドラマなど誰も見ないだろうという理由で敢え無くボツになります。この作品は小津作品に雰囲気は似ていますが、小津作品の特長であるローアングルな構図や長回しなどは使われていません。そこに北野監督の単なる模倣にはしないこだわりを感じました。このシークエンスでは松坂慶子や木村佳乃など北野作品らしくない役者が出演しており印象的でした。
 4つ目に登場するのが昭和30年代を舞台にした『コールタールの力道山』というタイトルの作品。『ALWAYS 三丁目の夕陽』など近年流行している昭和30年代を舞台にしたノスタルジックな映画。そんな映画に昭和30年代に幼少期を過ごした北野監督も挑戦するのですが、単なるノスタルジー漂う作品に終わらないところが面白いところです。昭和30年代の下町の貧困層の生活の厳しさを生々しく描き出します。また人間の良い面だけでなく愚かな面やずる賢い面もきちんと描いているところも好感が持てました。個人的にはこのエピソードを独立させて長編映画として見せて欲しいと思ってしまいました。このシークエンスでは
 この後もジャパニーズホラーのブームに便乗してホラー映画を撮ろうとしたり、忍者を主人公にした時代劇を撮ろうとしたりするのですが、どれも上手くいきません。
 そして、最後には隕石が地球に墜落するSF映画『約束の日』を撮ろうとするのですが、ここから話しの展開は大きく脱線していきます。

 映画の前半は北野監督の現在の日本映画に対する痛烈な皮肉が感じられました。北野監督は現在の日本映画の現状に苦言を呈するような発言を本作品の完成披露試写会でもしています。発言の内容は以下の通りです。
 「ここんとこ病気みたいに、感動します、泣けますって、そういうバカみたいな映画ばっかり。そういう時代になっちゃった。」(5月25日、完成披露試写会にて)
 
 映画の後半は前半と打って変わって、北野監督がかつて制作したお笑い映画『みんな~やってるか!』のような下らないギャグ満載のはちゃめちゃな展開になっていきます。財界の大物とその秘書に詐欺師の母娘が近づこうとする話なのですが、格闘家が経営?するラーメン屋が出てきたり、おかしな発明家が絡んくるなど不条理な世界が展開されていきます。後半の展開は好きな人はとても楽しめますが、嫌いな人や合わない人にとっては苦痛かつ退屈に感じるかと思います。私はこういうシュールな展開が好きなので笑って楽しめましたが、ダメな人は生理的にダメでしょうね。
 私が後半部分で特に印象的だったのが江守徹と井手らっきょの登場と農村のシーンです。江守徹は財界の大物を演じているのですが、そのぶっ飛んだ演技は笑わずにはいられません。あんな大物俳優がこんな役をよく引き受けたものだと思います。また変な発明家を演じる井出らっきょも、普段の芸風そのままに登場して、しょうもないギャグを次から次へと連発して見る者を不条理ギャグワールドに引き込みます。
 また北野扮する秘書の田舎である農村のシーンはつげ義春のマンガを彷彿させるようなノスタルジックかつシュールな展開となっており味わい深いものがありました。
 あと言い忘れましたが、詐欺師親子に扮する岸本加世子と鈴木杏の演技も面白かったです。特に鈴木杏が常に片手に持つアヒルパペットは個人的に笑いのツボでした。

映画のラストは構築したもの全てが破壊されて終わります。その破壊の潔さは見ていて清清しいほどです。
 この作品は監督が映画界で築き上げてきたものの破壊であり、新しい映画に向かうための地ならしだと思います。監督もこの映画に関して以下のようなコメントをしています。「総ざらえしたかな。キャンバスを白く塗り直して、これから新しい絵が描けるっていうかね。実は3部作の真ん中のつもり。前の『TAKESHIS’』で役者やタレント、これは監督を見直して自己批判してる。3作目では映画を壊す。頭を使う映画をやってみたいと思って」
 
 私はこの映画の後、一体北野武監督がどのような映画を撮るのか楽しみでなりません。

製作年度 2007年
製作国・地域 日本
上映時間 104分
監督 北野武 
脚本 北野武 
音楽 池辺晋一郎 
出演 ビートたけし 、江守徹 、岸本加世子 、鈴木杏 、吉行和子 、宝田明 、藤田弓子 、内田有紀 、木村佳乃 、松坂慶子 、大杉漣 、寺島進 、六平直政 、渡辺哲 、井手らっきょ 、モロ師岡 、菅田俊 、石橋保 、蝶野正洋 、天山広吉 

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『殯の森』この映画を見て!

第160回『殯の森』
Mogari  今回紹介する作品は今年度カンヌ映画祭で邦画としては10年ぶりにグランプリ(審査員特別大賞)を受賞して話題になった『殯の森』を紹介します。この作品はまだ劇場公開されていないにも関わらず、NHKハイビジョンで先行してテレビ放映されました。私もテレビで見たのですが、劇場公開よりテレビで先に放映するなんて驚いてしまいました。先にテレビで公開してしまうと劇場に足を運ぶ人が少なくなるのではと思うのですが・・・。どうもNHKが製作協力していたため、放送権をすでに獲得していて、受賞を記念して放送されたとのことです。
 
 監督の認知症老人の介護や子育てなどの経験から生まれたこの作品。愛する者に先立たれた人たちの心の回復を描いていきます。
ストーリー:「緑豊かな奈良の山村にある軽度認知症の人のグループホーム。そこで暮らす老人しげきは、33年前に妻・真子を亡くしてから、彼女と暮らした日々を心の奥にしまい込み生きてきた。
 そこにわが子を亡くした哀しみにくれる介護士の女性・真千子がスタッフとしてやってくる。真千子はしげきの部屋を掃除しているときに妻の遺品を触り突き飛ばされる。
 一時自信をなくす真千子だが、次第にしげきと打ち解けあう。
 そしてしげきの妻の墓参りに真千子が付き添うことになるが、途中でしげきは森の中へと入り込む。森の中で妻の墓、そして妻の魂を探すしげき。それに付き合う真千子。二人が森の中で彷徨い見出したものは・・・」

 この作品のタイトルである「殯」(もがり)とは「古代日本の葬祭儀礼のことで高貴な人の本葬前に、棺に死体を納めて仮に祭ること、またはその場所」を指すそうです。古代の日本人は死者を生前と同様に扱って蘇生を願いつつ、死を確認するために死体をしばらく置いていたそうです。そこには死者の魂を畏れ敬い、慰める意味があったそうです。
 この作品ではエンドロールの前に「殯」について「敬う人の死を惜しみ、しのぶ時間や場所のことである」というテロップが出てきます。妻に先立たれた男、子どもに先立たれた女、それぞれの心にある愛する者の死に対する深い喪失感。死は死んだ者よりも生き残った者に大きな意味を問いかけます。愛するものはどこに消え、そして自分はなぜ生きているのかと・・・。
 
 死というものは生きている限り避けられないものだと分かっていても、生きている者にとっては非常に恐ろしく悲しいものです。自分が死ぬのも怖いし、愛する人が死ぬのはとても悲しいです。そんな死に対して、この映画は真正面から描こうとします。死とは何か?そして生き残ったものはどう死と向き合うべきか、この作品はセリフは最小限にして静謐な映像美でそれを描き出していきます。

 私がこの作品を見て印象的だったシーンは何といっても自然の美しさです。どこまでも広がる緑の茶畑や田圃、そして森。自然が持つ安らぎが生きている者を癒し慰める力といったものを改めて感じました。
 古代から日本人は森や山を聖なる場所(魂が還る場所)として崇めてきました。その名残は今も日本の各地で見られます。この作品を見て私は森や山が日本人とって如何に大切な場所であるかを思い出させてくれました。

 映画自体は誰が見ても分かりやすいハリウッド映画の対極にあるような作品です。台詞は少なく、テンポもゆったりしていますし、キャストも無名の人ばかりです。しかし、見た後にここまで深い余韻を与える作品はなかなか出会えないと思います。未見の方はぜひ劇場で見てください!

製作年度 2007年
製作国・地域 日本/フランス
上映時間 97分
監督 河瀬直美 
脚本 河瀬直美 
音楽 茂野雅道 
出演 うだしげき 、尾野真千子 、渡辺真起子 、ますだかなこ 




 

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