第163回『平成狸合戦ぽんぽこ』
今回紹介する作品は『火垂るの墓』の高畑勲監督が、人間による自然破壊から自分たちの生活を守ろうとするタヌキたちの奮闘を描いた『平成狸合戦ぽんぽこ』です。
ストーリー:「多摩ニュータウンの宅地開発で自然が失われて故郷を追われた狸たち。彼らはタヌキ連合軍を結成して化学(化け学)を駆使して人間に闘いを挑むが・・・。」
この作品はスタジオジブリの数ある作品の中で一般的な評価は低いですが、個人的には大好きな作品です。
個性的な狸の面々たちが化け学を一生懸命学んで、人間に挑んでいく姿はユーモア満点で見ていて楽しいですし、日本各地の民話をさりげなく取り入れたエピソードの数々は民俗学に興味のある私にはたまらない設定でした。特に中盤の見せ場である狸たちによる百鬼夜行のシーンは日本の妖怪のオンパレードで妖怪好きには見ごたえ満点でした。(さりげなく、パレードの中でトトロや紅の豚そしてキキも登場しています。気づかなかった人はぜひビデオでも借りて、どこにいたか探してみてください!)
また高畑監督が好きな作家・宮沢賢治の『双子の星』のエピソードの挿入や、以前から映画化を希望している平家物語の名シーンの再現も見ていて監督の熱い思いが伝わってきました。
所々に挿入されるシニカルなエピソードも印象的で、狸がマクドナルドのハンバーガーを食べるシーンやテレビの料理番組で天ぷらを揚げるところをじっと見つめるシーンなどは、狸も人間の文化の中で生きているという皮肉な現実を見事に象徴していたと思います。
後半は中盤までのユーモラスな展開から打って変わり、悲壮感漂う展開になっていき、見ていて胸が締め付けられます。
人間に闘いを挑んで玉砕する狸たち、死出の旅に向かう狸たち、人間社会に迎合していく狸たち。大きな力の前に屈していく狸たちの姿は涙なしでは見れませんでした。ラストシーンで生き残った仲間たちが人間社会の中で健気に生きる姿は何とも物悲しいものがありました。
この作品は環境問題や自然保護を訴えた作品という感想が多いですが、私の中ではこの作品はそれらのテーマと合わせて、60年代の全共闘による学生運動の顛末を描いた作品だと思っています。
なぜそう思うのかというと、私の知り合いに60年代に学生運動に身を投じていた人がおり、当時の状況についていろいろ教えてもらっていたからです。
共産主義を目指して資本主義国家を倒すために、時にデモやストライキをして自らの意志をアピールし、時に国家権力の手先である警察や機動隊に向かっていく・・・。しかし、次第に権力の弾圧も強まり、次第に運動から離れる人も増え、残った人たちもセクト同士で内ゲバを始め自壊していく・・・。
そんな当時の学生運動の顛末を知っていたので、この作品を見たとき、単なる自然保護の映画というより、自分たちの理想を目指して運動に投じた人間たち(狸たち)が権力の前に敗北していく姿を描いた作品として見たものでした。
映画のラストの栄養ドリンクを飲みながら社会に溶け込もうとする狸の姿は、学生運動から身を離れ資本主義の中で必死に生きていこうとする元運動家の姿にダブって見え、切ないものがありました。
あと、この映画の大きな魅力として声優がとてもはまっているところがあります。スタジオジブリは大物タレントや俳優を声優として起用することが多いですが、話題性だけで違和感のある場合があります。
この作品でもたくさんの俳優やタレントが起用されているのですが、違和感が全くなくキャラクターにぴったりあっています。
また桂米朝[3代目] 、桂文枝 、柳家小さんなどの有名落語家の起用も狸を主人公にしたユーモアと悲哀に満ちた今回の作品には抜群の効果があったと思います。
この作品はスタジオジブリ作品の中ではあまりパッとしませんが、非常に完成度の高い作品だと思います。
製作年度 1994年
製作国・地域 日本
上映時間 119分
監督 高畑勲
原作 高畑勲
脚本 高畑勲
音楽 紅龍 、渡野辺マント 、猪野陽子 、後藤まさる 、上々颱風 、吉澤良治郎
出演もしくは声の出演 野々村真 、石田ゆり子 、三木のり平 、清川虹子 、泉谷しげる 、芦屋雁之助 、村田雄浩 、林家こぶ平 、福澤朗 、山下容莉枝 、桂米朝[3代目] 、桂文枝 、柳家小さん 、神谷明
最近のコメント