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『復活の日』この映画を見て!

第155回『復活の日』
Virus  今回紹介する作品は小松左京の同名SF小説を原作にしたウィルスによる人間世界の終末を描くSFパニック映画の傑作『復活の日』です。
 ストーリー:「世界中の脊椎動物を死滅させる猛毒ウイルスMM-88がアメリカで開発される。しかし、スパイによってウィルスは盗まれた上、スパイの乗った飛行機がアルプス山中で墜落し、ウイルスが世界中に蔓延してしまう。その結果、南極にいたわずかな人類を除いて、地球上から人類が滅亡してしまう。南極で生き残った人類は何とか生き延びようとするが、更なる危機が彼らに訪れる・・・。」
 
 まさか日本でこのような完成度の高いSF映画が制作されていたとは凄いの一言です。80年代に大作映画を次々と発表していた角川春樹が製作費22億円、構想5年、製作期間3年を費やして撮っただけのことはあります。
 実際に南極に潜水艦を持っていて撮影したり、海外の中堅クラスのスターを起用したりと他の日本映画には見られないスケールの大きさが随所に感じられます。
 特に私が驚いたのが南極でのロケによる映像で、CGなどに頼らない生の映像の圧倒的な迫力に感動しました。南極に潜水艦が現れるシーンなどは鳥肌が立ったものでした。

 細菌兵器によって世界が滅亡するというストーリーは今見ても決して古臭くなく、むしろSARSや鳥インフルエンザなどが問題になった現代の方がよりリアリティを持って見ることが出来ます。
 映画の前半は人類が滅亡するまでの様子を淡々と描いていくのですが、その描き方がとてもリアルです。世界中でワクチンをめぐって暴動がおきたり、東京に戒厳令が敷かれて軍隊が出動したり、感染した死体を火炎放射器で焼いたりと、実際にこのような事態になったら起こりうる出来事が見事に映像化されています。
  
 また生き残った800人の男性と8人の女性が人類が種の生存のため、一対一の男女の関係を放棄して子どもを作るシーンも何とも生々しいものがありました。
 確かに女性蔑視のような描き方で問題もあるかと思いますが、実際に人類が滅亡しかけたときはこのような事態になるのではとも思ってしまいました。

 映画の後半は生き残った人類に核兵器という新たな危機が訪れます。ウィルスから逃れられた人類を襲う危機が核兵器とは何とも皮肉な展開です。何とか核の危機から逃れようと努力する人類。しかし、その結末は残酷にも人類をさらに苦難へと追い込んでいきます。人類を破滅させるのは結局人類であったという悲劇。ここまで絶望的な未来が描き出された映画はなかなか見ることができないと思います。

 唯一残念なのが、ラスト20分間の展開です。いきなりハードSFからメロドラマになってしまってガックリしてしまいました。大体、放射能にまみれた大地を歩いて横断するなど不可能であり、あまりにも非現実的な展開です。私は家族に被爆者がいるので、核に対する描き方は敏感なのですが、この映画の描き方は甘いです。放射能の恐ろしさは半端ではありません。実際なら主人公はたどり着く前に放射能にやられて死んでしまうはずです。ラストの詰めの甘さがなければ、映画史に名を残す傑作になったと思います。

 この映画は突っ込みどころも数多くありますし、ハリウッド映画などに比べるとセットなどショボイです。しかし、それを補って余りあるだけのパワーと緊張感がある作品です。最近の『アルマゲドン』や『日本沈没』などのCGの映像だけが見所の中身のないパニック映画とは違い、中身の大変詰まった映画です。人類が滅亡しかけたとき、生き残った人類はどういう行動を取るのか、この映画を見るといろいろ考えさせられます。ぜひ多くの方にこの傑作を見て欲しいです。 

製作国・地域 日本
上映時間 158分
監督 深作欣二 
原作 小松左京 
脚本 高田宏治 、グレゴリー・ナップ 、深作欣二 
音楽 羽田健太郎 、テオ・マセロ 
出演 草刈正雄 、渡瀬恒彦 、夏木勲 、千葉真一 、森田健作 、永島敏行 、ジョージ・ケネディ 、ステファニー・フォークナー 、オリヴィア・ハッセー 、グレン・フォード 、ロバート・ヴォーン 、チャック・コナーズ 、多岐川裕美 、緒形拳 、ボー・スヴェンソン 、エドワード・ジェームズ・オルモス 、丘みつ子 、中原早苗 、ヘンリー・シルヴァ 、セシル・リンダ 

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コメント

コメントありがとうございます。
ジャニス・イアンさんのテーマ曲は素晴らしいですよね~。
こんなスケールの作品がある程度の質を保って日本で制作されていたとは・・・。
最近の日本映画もがんばってほしいです。

投稿: とろとろ | 2007年5月22日 (火) 23時19分

はじめまして。復活の日… 私も大好きなので思わず反応してしまいました。ストーリーも、南極も、オリビア・ハッセーさんも、ジャニス・イアンさんのテーマ曲も…すべてとてもよかったです。私は、クリスマスパーティのときに、ある研究者が一人で歌を歌うシーンと、”ライフ・イズ・ワンダフル”…のせりふのところが忘れられません。
ほかのかたにもぜひおすすめしたいですね…。これからもまた楽しみによんせていただきます。

投稿: ぴょん | 2007年5月 6日 (日) 15時35分

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 個人的に今期一番のお楽しみ、金曜深夜のアニメ時間帯だというのに、それを後回しに [続きを読む]

受信: 2007年5月 6日 (日) 15時33分

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