『ホテル・ルワンダ』この映画を見て!
第159回『ホテル・ルワンダ』 今回紹介する作品は1994年にアフリカのルワンダで起こった大量虐殺事件を題材にした『ホテル・ルワンダ』です。
アフリカ中央部に位置するルワンダ共和国。遊牧民族であった少数派のツチ族と農耕民族であった多数派のフツ族という二つの民族によって構成されています。1962年に独立するまではベルギーの植民地でした。独立後は少数民族のツチ族を中心とした政権が樹立します。それに反発した多数派のフツ族がクーデターを起こし、逆にフツ族による政権が樹立。しかし、それに反発したツチ族がルワンダ愛国戦線を組織して反政府運動を展開。1990年には内戦状態に陥ります。そして1993年にフツ族の大統領が乗っていた飛行機が何者かに撃墜され、フツ族のツチ族に対する怒りが爆発。フツ族によるツチ族への大量虐殺が始まり、推定で50万人以上のツチ族が殺されたとされています。
本作品はそんな大量虐殺が起こっている中で1200人の命を救った高級ホテル支配人の実話を基にルワンダの悲劇を描いています。
この作品はアメリカでは主演のドン・チードルがアカデミー主演男優賞にノミネートされるなど大変話題になっていました。しかし、日本では興行的に採算が合わないということで配給会社の買い手がつかず、しばらく未公開のままでした。
そんな中、本作品の国際的な評判を聞いた人たちが「『ホテル・ルワンダ』日本公開を求める会」を結成して、上映運動活動を展開。そして、ついに配給元が決まり、日本でも公開になりました。
私はこの作品を見るまでルワンダの大量虐殺など知らなかったので、見た後に大変なショックを受けました。20世紀末にこのような悲劇が起こっていたことを知らなかった自分を大変恥ずかしく思いました。同じ言葉をしゃべり、同じ場所に一緒に生活していた人間同士が民族が違うと言うことだけで、突然殺しあうという地獄のような世界。映画の中では直接的な殺戮の描写はかなり抑えられていますが、それでも道端にゴミのように横たわる多くの死体の描写には哀しくて涙がこみあげてきました。
人間は時として自分たちの敵とみなした人間を物のように簡単に殺してしまうところがあります。肌の色が違うから、言葉が違うから、文化が違うから・・・、自分たちとの違いを探して人を区別して、差別して、時に殺していく。人間は時として相手が同じ人間であることを見失ってしまうことがあるという恐ろしさと悲しみをこの作品は教えてくれます。
また、この作品では先進国にとって価値がない国は見捨てられるという過酷な現実も描かれており、先進国の差別意識や冷たさを厳しく糾弾しています。作品の中で白人ジャーナリストが主人公に「先進国の人間達は、虐殺の映像を見ても“怖いね”と言って、ディナーを食べるだけさ」と言うシーンがあるのですが、その言葉が私の胸に深く突き刺さりました。テレビに映し出される映像を見ながら「怖いね」「かわいそうね」と他人事で済ませてしまう自分。この作品は先進国と呼ばれる国で生きている人間たちの傲慢さに気づかせてくれます。
ちなみにフツ族とツチ族の対立自体が先進国の植民地政策がもたらしたものです。自分たちの利益の為に同じ国に住む者同士を分断して争わせる政策を行い、その結果が虐殺へとつながっています。先進国はこの虐殺に間接的に手を貸しているのです。その事実を先進国に生きる私たちは考える必要があると思います。
この作品は政治的な要素も非常に多く含んでいますが、あくまで虐殺現場の渦中にいたホテル支配人の視点から描いています。彼が愛する家族を守ろうと奮闘した結果、最終的に1200人もの命を救うに至ったまでの経過がドラマチックかつサスペンスタッチで描かれています。その為、映画の題材の割にはスッとみることが出来ます。
特に武器も力もない主人公が自分が置かれた立場を何とか利用して、家族やホテルに逃げた人々を守ろうとする姿は見ていてハラハラドキドキの連続です。決して英雄などでなく、無力な人間に過ぎない主人公が奮闘する姿は単なる正義や勇気といったもので言い表せない、生き延びようとする人間の力といったものが感じられました。
ルワンダの虐殺は終わりましたが、世界中で民族や宗教の名の下で虐殺は今も行われています。そんな現実に気づくためにも、この作品はぜひ多くの人に見て欲しい作品です。
製作年度 2004年
製作国・地域 イギリス/イタリア/南アフリカ
上映時間 122分
監督 テリー・ジョージ
製作総指揮 ハル・サドフ 、マーティン・カッツ
脚本 テリー・ジョージ 、ケア・ピアソン
音楽 ルパート・グレグソン=ウィリアムズ 、アンドレア・グエラ
出演 ドン・チードル 、ソフィー・オコネドー 、ホアキン・フェニックス 、ニック・ノルティ 、デズモンド・デュベ 、デヴィッド・オハラ 、カーラ・セイモア 、ファナ・モコエナ 、ハキーム・ケイ=カジーム 、トニー・キゴロギ 、ジャン・レノ
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コメント
こんばんわ
コメントありがとうございます。
エンターテイメントのハリウッド作品も良いですが、
このような社会派の作品も映画の大きな役割ですよね。
『ルワンダの涙』見てみます。
投稿: とろとろ | 2007年5月22日 (火) 23時16分
こんにちわ♪
TBありがとうございます。
この作品は観るべき映画、という物があるとするなら
その中でも必須の作品ではないでしょうか。
機会があれば、この作品とは違ったアプローチをしている
【ルワンダの涙】もお奨めします。
投稿: 耕作 | 2007年5月20日 (日) 17時24分