『ヒストリー・オブ・バイオレンス』この映画を見て!
第152回 『ヒストリー・オブ・バイオレンス』
今回紹介する映画は鬼才デヴィッド・クローネンバーグ監督がグラフィック・ノベルを原作に人間の暴力への衝動性を描くバイオレンス映画『ヒストリー・オブ・バイオレンス』です。
ストーリー:「アメリカの田舎町で飲食店を経営するトムは、自分の店に押し入った強盗を倒し、人々の命を救う。しかし、その勇敢な行動がマスメディアに取り上げられたことで、謎の男ボブが町にやってきてトムを脅しはじめる。ボブの出現により、妻と2人の子どもと幸せに暮らしていたトムの過去が、ゆっくり明らかになっていく・・・。」
私の中でデヴィッド・クローネンバーグ 監督というと『ザ・フライ』や『ビデオ・ドローム』のようなドロドログチャグチャした感覚の映画か『裸のランチ』や『クラッシュ』のような難解な映画を撮る人という認識がありました。しかし、この作品は他の作品に比べるとすっきりとした作品に仕上がっています。しかし、彼らしいグロい演出も随所に健在で、主人公が暴力を振る場面の生々しい描写の数々は目を覆いたくなるほどです。
この作品は過去の罪や暴力への衝動性から人は逃れることができるかという重いテーマを扱っています。過去を忘れ、新たな人生を歩もうとする主人公の前に現れる過去の自分。平和に生きたいにも関わらず、暴力を振るってしまう己の性。ヴィゴ・モーテンセンの抑えた演技が主人公の悲しみや葛藤を見事に表現していました。
また主人公が突然激しい暴力を振るう姿は迫力満点でした。平凡な田舎の男が突然豹変して敵をなぎ倒していく場面は恐ろしくもあり、かっこよくもあり、見ている者に複雑な印象を与えます。
暴力はいけないと分っていながらも、暴力の持つ効果に惹かれてしまう人間という生き物の本質がこの映画では描かれています。
また私が印象的だったのが夫婦のセックスのリアルな描き方です。この作品では2回夫婦のセックスが描かれるのですが、主人公が暴力を振るう前と後とでのセックスの仕方の違いがとても印象に残りました。特に2回目の階段での激しいセックスシーンは主人公の暴力的な性衝動と妻に見捨てられたくないという思いが交錯した秀逸なシーンでした。
ラストシーンも静謐でありながらとても印象的です。家族が夕食を取っているときに帰ってくる主人公。その時の家族の複雑な表情や仕草。父の2面性を知ってしまった家族の苦悩。この後、家族がどうなっていくのか深い余韻を残して終わります。
日常性の中に突如現れる暴力という非日常性の恐怖とカタルシス。この作品は非日常的な世界に足を踏み込んだ人間たちの日常への憧れと戸惑いを描いた傑作です。
この作品は1時間半という短い作品でありますが、密度のとても濃い作品です。万人受けはしないかもしれませんが、噛めば噛むほど味わえるスルメのような作品です。暴力に興味のある人はぜひ一度ご覧ください。
製作年度 2005年
製作国・地域 アメリカ/カナダ
上映時間 96分
監督 デヴィッド・クローネンバーグ
原作 ジョン・ワグナー 、ヴィンス・ロック
脚本 ジョシュ・オルソン
音楽 ハワード・ショア
出演 ヴィゴ・モーテンセン 、マリア・ベロ 、エド・ハリス 、ウィリアム・ハート 、アシュトン・ホームズ 、ハイディ・ヘイズ 、ピーター・マクニール 、スティーヴン・マクハティ 、グレッグ・ブリック
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コメント
クロネンバーグと言うと初期のドロドロぐちゃぐちゃというイメージが強かったのですが、最近は落ち着いた映画を作るようになりましたよね。
カゴメさんのいうように地に足がついたというか。
ただ、この作品は何度も見直すと、今までのクロネンバーグの作品と共通するテーマ、変容する人間が感じ取れる作品ですよね
投稿: とろとろ | 2007年5月22日 (火) 23時23分
TB、感謝であります♪♪♪
ずっと黒念ちゃんは、変容する人間とか、
メタモルフォーゼをキーワードにして映画を作ってたですが、
最近は、足が地に着いたというか(苦笑)、
有り勝ちな状況設定の中で、突如変容する人間像、
または、本源的な存在へと先祖帰りするような人間を描き始めた感じがしますね。
一般的には受けやすい風味になって来たので、
これからはファン層も広がるんじゃないかと(笑)。
次の作品に益々期待大、でありますね。
投稿: カゴメ | 2007年4月30日 (月) 15時05分
TB、感謝であります♪♪♪
ずっと黒念ちゃんは、変容する人間とか、
メタモルフォーゼをキーワードにして映画を作ってたですが、
最近は、足が地に着いたというか(苦笑)、
有り勝ちな状況設定の中で、突如変容する人間像、
または、本源的な存在へと先祖帰りするような人間を描き始めた感じがしますね。
一般的には受けやすい風味になって来たので、
これからはファン層も広がるんじゃないかと(笑)。
次の作品に益々期待大、でありますね。
投稿: カゴメ | 2007年4月30日 (月) 15時05分
暴力を断ち切る為の暴力、みたいな感じで深みのある骨太な作品になってましたね。
やはり一般受けはしそうにないですけど、私は暴力に興味の無い人にも是非観てほしいと思います。だって私も暴力に興味の無い平和主義者ですから(笑)
投稿: GMN(TRUTH?ブログエリア) | 2007年4月15日 (日) 18時44分
TBありがとうございました。
こちらからもTBさせていただきますね。
ヴィゴ・モーテンセンの演技は
この手の映画にありがちな
「狂気をはらんでいる」と表現されるような
安易なものではなく、
身のこなしはクールながらも
その表情は最後まで静かで悲しげなのが
印象的でした。
投稿: べれ | 2007年4月14日 (土) 06時08分