『ありがとう』街を捨て書を読もう!
『ありがとう』 著:山本直樹 小学館 家族とは何かを真正面から描いた傑作マンガ『ありがとう』を今回は紹介します。
この作品の原作者である山本直樹は成人向け漫画でデビューして、一躍人気が出ました。山本作品の大きな特徴として露骨な性描写と人間の弱さや脆さに焦点をあてたストーリー展開があります。彼の作品は居場所を見失った人間たちが居場所を探し彷徨う展開の作品が多いです。
彼の作品は完成度の高さの割りに、過激な描写が多いために有害指定を受けている作品も多く、認知度や売り上げは今ひとつです。
そんな彼の代表作である『ありがとう』はイジメ・ドラッグ・新興宗教・監禁・若者たちの非行など現代日本社会を取り巻く問題を上手く取り込みながら、「父親の役割とは?」、「家族の役割とは?」を読者に問いかけます。
私がこの作品をはじめて読んだときは、前半部分のあまりにも過激な性描写と暴力描写に圧倒されてしまいました。しかし、読み進めば進むほど、この作品が単なる過激な描写を売りにしている作品でなく、現代の家族の問題について真面目に考察した作品であることが分かり、ラストにいたっては爽やかな感動させ覚えました。
崩壊した家庭を何とか立て直そうと孤立奮闘する父親。しかし、父親が頑張れば頑張るほど崩壊していく家族。その描写には近代家族の家父長制の敗北が感じ取れました。
また家族と言う集団が所詮他人の集まりであり、そんな集団を家族の絆や愛と言う幻想で何とかつなぎとめようとして限界があることをシニカルに描きます。家庭は家族にとって安住の居場所になるとは限らず、むしろ苦痛すら与えてしまう場所であることをこの作品は訴えます。
家族について考えたい人、家族に嫌気がさしている人、家族に幻想を抱いている人はぜひこの作品を読んでみてください。価値観が変わると思いますよ。
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