『街の灯』この映画を見て!
第143回『街の灯』
今回紹介する作品はチャップリンの映画の中で最もロマンティックかつ深い余韻を残す恋愛映画『街の灯』です。
盲目の花売りの少女に恋をした浮浪者の主人公。何とか彼女を救おうと一人奮闘する姿をユーモラスに描きます。
私がこの作品を始めてみた時、ラストシーンはハッピーエンドだと思っていましたが、何回か見るたびにラストシーンは決してハッピーエンドだとは言えず、むしろとても残酷なラストであるのではないかと思うようになりました。
ラストは主人公のおかげで目が治った女性が、初めて恩人である主人公の姿を始めて見るのですが、その時の女性の表情。そこには恩人に対する感謝と言うより失望が感じ取れます。自分を救ってくれた恩人は金持ちの紳士だと思っていたのに、目の前に現れたのは小汚い浮浪者だったという真実。チャップリン演じる主人公も女性のリアクションを見て何とも困惑した笑顔を見せて映画は終わります。
私はこのラストシーンを見るたびに現実の残酷さに胸が締め付けられます。別に女性がひどい人間というわけではありません。女性が恩人に対して理想を抱くことは仕方のないことです。人間は決して外見だけで判断できるものではありません、しかし人間は理想を抱く時どうしても外見をも美化してしまうところがります。この映画はそんな人間の悲しい業を真正面から描いています。だからこそラストシーンは単なる感動を超えた深い余韻を見る者に与えます。
またこの作品は貧富の問題に対するチャップリンの怒りや悲しみといったものが強く感じられます。映画の冒頭の除幕式のシーンの痛烈な皮肉、酔っ払っているときといないときで態度を豹変させる身勝手な金持ちの男。貧困層の富裕層に対する憧れ。この作品は富める者の愚かさと貧しい者の哀しみが見事に描かれています。
チャップリンのコメディアンとしてのセンスも冴え渡っており、中盤のボクシングシーンはその計算されつくした演技に腹を抱えて笑ってしまいます。
サイレント映画はトーキー映画と違い動きと表情だけで全てを表現するので、役者の演技力が問われます。この映画を見るとチャップリンを始めとする登場人物たちの演技の上手さに改めて感心します。
映画史に残るこの傑作をぜひ多くの人に見て欲しいです。
製作年度 1931年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 86分
監督 チャールズ・チャップリン
脚本 チャールズ・チャップリン
音楽 アルフレッド・ニューマン
出演 チャールズ・チャップリン 、ヴァージニア・チェリル 、フローレンス・リー 、ハリー・マイアーズ 、アラン・ガルシア 、ハンク・マン 、ジョン・ランド 、ヘンリー・バーグマン 、アルバート・オースチン
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