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『クラッシュ』この映画を見て!

第146回『クラッシュ』
Crash  今回紹介する映画は昨年のアカデミー賞で作品賞を始め3部門を受賞した群像ドラマ『クラッシュ』です。
 この映画の監督と脚本を手がけたのは『ミリオンダラー・ベイビー』や『父親たちの星条旗』などイーストウッド監督の最近の映画の脚本を手がけたポール・ハギス。彼は今アメリカで一番注目されている脚本家です。彼の脚本の特長してアメリカの社会の闇やマイノリティの哀しみを真正面から描く点と、人間の多面的な部分や人生の陰影といったものを巧みに描く点が挙げられます。そんな彼が始めてメガホンを取った『クラッシュ』。この映画も彼の特長がよく表れています。
 クリスマス間近のロスのハイウェイで起きた交通事故。それをきっかけに、さまざまな人種、階層、職業の人々が織り成す2日間の人間ドラマが描かれます。
 一見何のつながりもない7組14人の登場人物たち。白人の地方検事とその妻、黒人刑事と同僚でスペイン系の恋人、黒人のTVディレクター夫妻、自動車強盗の黒人の若者2人、雑貨店を営むアラブ系の家族、黒人の鍵の修理屋、差別主義者の警官とそんな彼の態度に反感を持つ若い白人の警官。それぞれの人物が持つ憎悪や哀しみ、そして苦悩。そんな彼らがふとしたことをきっかけに結ぶつき、ぶつかり合い、お互いの抑えていた感情をむき出しにしていきます。
 この映画はアメリカという様々な人種の人たちが生活していく中でどうしてもおきてくる摩擦や差別の生々しい実態を描くと同時に、そんな中でも人と人が結びつきあうことの大切さや温かさといったもののを描きます。

 私がこの作品を見て一番印象に残ったのは登場人物に悪人がいないと言うことです。この映画は黒人を蔑視する嫌な白人にも抱えている苦悩があったり、人間らしい一面があったりすることを描くことで、アメリカが抱えている差別の根深さや哀しみといったものを浮き彫りにしていたと思います。
 差別とは悪い人間がする行為でなく、誰もが差別の被害者にも加害者にもなりうる存在であるというところが悲しく恐ろしいところだとこの映画を見て改めて思いました。
 
 差別は人間がいる限りなくならないかもしれません。でも差別があったとしても、この世界は生きるに値しますし、人と人はぶつかりあいながらもつながりあうこともできる。映画のラストはかすかな希望を見る者に与えます。それは過酷な現実の中にも生きていく人々に対する監督からのエールなのだと思います。
 
 差別はいけない、そう分かっていても差別してしまう私たち。そんな私たちがどう生きていくべきか、そんなことを考えさせてくれる傑作です。
 
制作年度 2004年 
製作国・地域 アメリカ
上映時間 112分
監督 ポール・ハギス 
脚本 ポール・ハギス 、ボビー・モレスコ 
音楽 マーク・アイシャム 
出演 サンドラ・ブロック 、ドン・チードル 、マット・ディロン 、ジェニファー・エスポジート 、ウィリアム・フィクトナー 、ブレンダン・フレイザー 、テレンス・ハワード 、クリス・“リュダクリス”・ブリッジス 、タンディ・ニュートン 、ライアン・フィリップ 

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コメント

TBありがとうございました。
「クラッシュ」は、映画館で見た時より、DVDを買って何度も見直してから、好きになった映画でした。
何度も見返したくなる映画です。
新しい発見も多いので。

投稿: 映画好きなK | 2007年2月28日 (水) 00時35分

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