『空中庭園』この映画を見て!
第141回『空中庭園』 今回紹介する作品は小泉今日子の熱演が大変話題になった角田光代の同名小説の映画化『空中庭園』です。
ストーリー:「家族の間で秘密は作らないというルールを定め、一見幸せに暮らす京橋家。しかし、家族それぞれが誰にも言えない秘密を抱えていた。理想的な家庭を築くことを夢見ていた主人公の絵里子は何とか幸せな家庭を保とうとする。しかし、家族の歪みは徐々に広がっていく。」
この作品を見て、久しぶりに素晴らしい日本映画に出会えたと私は思いました。美しくも切ない映像と音楽。役者の演技の上手さ、そして家族の闇を抉り出す脚本と演出。全てにおいて完成度の高い作品です。
この作品を見て、まず印象に残るのは独特なカメラワークです。ふわふわと不安定に揺れたり、ぐるぐると回転するカメラワークが頻繁に使われているのですが、この映画の不安定で出口のない家族関係というテーマや雰囲気を見事に表現しています。(ただ酔いやすい人は注意してください。)
また色彩的感覚も素晴らしく、空の透き通った青さやラブホテルの毒々しい赤、そしてラストシーンの白と赤のコントラストがとても印象に残ります。
映画の前半はブラックユーモアを交えながら、幸せな家族を演じる息苦しさと、家族と言えども他人であり言いたくない秘密を持ってしまうものであるという当たり前の事実を鋭く描きだします。映画の中盤で、幸せな家庭を懸命に演じる家族の姿に「これは学芸会だ」と家庭教師の女性が言うのですが、現代家族の本質を見事に突いたセリフだと感心しました。
映画の後半は主人公の過去のトラウマに焦点が当たっていきます。子どものときに母に愛されなかったという思い込みから、幸せな家庭を築くことを誓う主人公。しかし、幸せな家庭を築かないといけないという思い込みが、逆に彼女の精神を追い詰めていきます。主人公と母親がバースデイケーキをはさんで向き合うシーンは張り詰めた緊張感が漂い息が詰まりそうでした。
私はこの映画を初めて見たときは中盤まできっと後味の悪いラストになると思い込んでいたのですが、予想外にもほっと心温まる終わり方に仕上がっています。崩壊寸前の家族の再生。思い込みが生み出す呪縛からの解放。
たとえ秘密を抱えていたとしても、たとえ幸せが虚構の上で成り立っているとしても、家族は保っていくことができる。ある種の諦めと希望が入り交ざった見事な終わり方です。
映画のラストに夫が子どもたちに語るセリフは家族と言うものを考えさせられました。「幸せな家族を演じるということは、家族を大切にしている事であり、嫌だったら演じることも出来ないだろう。」
役者の演技に関しては、小泉今日子さんの予想外に上手い演技に感心するものの、やはり主人公の母親を演じる大楠道代の演技に圧倒されました。死を目前に自由奔放に生きる母親。娘から「死ね」と言われても動じない母親。それでいて、娘のことを気にかけて電話する母親。時に笑わせ、時に緊張感を漂わせ、そしてほろりと泣かせる彼女の演技がこの作品を見事に締めています。
「くりかえし、やりなおし、くりかえし、やりなおし、・・・・」
家庭を築くとは、生きるとは、何度も過ちを繰り返し、そしてやり直しつづけるということ。
人は絶えず生まれ変わる存在であることをこの映画は教えてくれます。
制作年度 2005年
製作国・地域 日本
上映時間 114分
監督 豊田利晃
原作 角田光代
脚本 豊田利晃
出演 小泉今日子 、鈴木杏 、板尾創路 、広田雅裕 、國村隼 、瑛太 、今宿麻美 、勝地涼 、ソニン 、永作博美 、大楠道代
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コメント
こちらこそコメントありがとうございます。日本映画は大作よりも、地味な作品の方が質の高いものを作れますよね。「幸福の食卓」はまだ未見ですが、近いうちに見たいと思います。
投稿: とろとろ | 2007年2月11日 (日) 19時54分
TB有難うございます。
そうですよね、カメラワークや演出方法など
独自のものが出てました。
やはり邦画はアクション大作より、こういう
地味ですが、家族のあり方を描く方が
ぐっときますね。
最近の「幸福の食卓」もそうですが。
また、宜しくお願いします。
投稿: やまさん | 2007年2月 7日 (水) 01時09分